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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『アイルキスユー』                (香月)

『天雲の』外伝、コノハナノサクヤヒメから月の女神へ。

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 巡り合せがあるという予言はあった。
 でも、最初に会ったときの印象の強さと言ったらなかったわ。
 だって彼女ったら、カルミノから帰ってきて、ずっと私を抱き締めているエクルーをいきなり殴りつけたんだもの。しかも平手でも拳骨でもなかった。たぶん、上背があまりなかったせいなんだろうけど、自分の銃を逆手に握ったと思ったら、グリップで思い切りがつん、よ? エクルーは「さっさと客の紹介にいかんか!」と怒鳴りつけられていた。
 唖然としちゃったけど、何だか笑っちゃった。
 それから彼女を紹介された。シュアラから来たという彼女の名前はルナ、と言った。神話の女神さまの名前ね、と言ったらあんたの名前もね、と返ってきた。相当な勉強家らしかった。

 エクルーが言うには、彼女は3年前の戦争で枯れてしまったシュアラの森を再生させた経験があるのだという。それだけでエクルーが何故、彼女を私に紹介してくれたのかわかった。思った以上の巡り合わせだったわ。
 イドラに残り時間は少なくなっていた。それ以上に私の残り時間も少なくなっていた。イドラは10年、私はあと2年。

 縁があって、彼女はイドラに移り住むことになった。そして私の緑化の研究を継いでくれると言った。
 彼女はイドラで暮らすためにシュアラという国での地位を放り投げてきたらしい。それはほとんど同時期に出会った、今の彼女の夫と添い遂げる意味もあったのかもしれないけれど、何とも大胆な決断に思えた。
 「国が恋しくないの?」と聞くと、彼女はけろりと笑って「帰ろうと思えばいつでも帰れるし、ここにはお誂え向きな移動装置もあるでしょ?」とホタルのつるんとした頭を撫でた。彼女がシュアラに置いてきたものは、地位でも名誉でもなく、たくさんの血の繋がらない弟や妹たちだった。彼女はいい加減、姉離れも必要でしょ、とからからと笑った。そこには一抹の寂しさも悲壮感もなかった。

 やがて私も彼女も子供を身籠った。賢者の石の効果なのかしらね。イドラには一時期的に生命が生えるようになった。緑も多くなったけど、それは一時的なもので、絶対的に根付いたものじゃなかった。
 子育ての合間を縫って彼女はよく、私の家に資料を見に来てくれた。この許された2年の間に、私は出来る限りのものを彼女に残していかなきゃいけない。彼女が頼りだと思っていた。
 やがて、全部の資料を渡し終えて、彼女の所見を聞いて。結局、解ったことは時間が足りない、ということだった。
私はひたすら緑と水を与えることだけを考えていた。でも彼女は大地のバランスを整えなくては駄目だ、と言った。
今までのことは無駄どころか、悪化させてしまっただけなのかしら? 残り時間は少なかった。

 私はエクルーとキリカを産んだこと。この残りの命をキジローのために使うと誓ったことを後悔していなかった。
 でも、10年先もこのイドラで、この大地をみんなで守って、変わらずに暮らして生きたかった。
 どちらも本当の想いだった。

 私は自分の残り時間と、イドラの命の時間を彼女に告げた。
 私は「10年しかない」と言った。でも彼女は「あと10年ある」と言った。
 私は「あと1年しか生きられない」と言った。でも彼女は「じゃあ、あと1年あんたと暮らせるってわけだ」と言った。
 そこには悲壮感も寂寥感もなかった。同時に突き放すような冷たさとも無縁だった。


 エクルーや、彼の父親のことを話すと彼女は「男の子が母親を大事にするのは割と普通の感情よ。あいつはただ単に甘えん坊だからスキンシップが過ぎるだけで」と言った。
 キジローのことを話すと、「幸せな男じゃない。嫁と息子と娘に恵まれて、幸せなまま死ねるんだから」とあっさり言った。
 最後に「私に答えられることがあれば、何でも答えるわ」と言うと、彼女は少し考えてこう聞いた。
「成長したエクルーと、でかくなったキリカになんて伝えたい?」
 「…生き抜いて、ただそれだけ」と答えると、彼女は「死ぬ気で生きろ、って伝えとく」と答えてくれた。


 1年間、もちろん、緑化の話もたくさんしたけれど。他愛もない話もたくさん出来た。もう少し、早く会えればよかったのにね、と言うとチョコレートスティックをかじりながら「まあ、会えた運命を大事にしよう」と言った。私はいつものように笑いが込み上げてしまった。
 やがてキジローがシュアラで入退院を繰り返すようになった。私もそれに付き添っていく。
 エクルーやリィン、アヤメやアカネがキリカを連れてたまに見舞いに来てくれた。サクラちゃんも暇があれば来てくれた。彼女はそんなときを狙うようにして見舞いに来て、キジローではなく、私と話をして帰っていった。エクルーたちがキジローについている間に、私をリラックスさせようとして来てくれていることは明白だった。
もちろん、キジローとも話はしていたけど。……聞いてて恥ずかしくなるような話を。もう、20を出たくらいの歳なのに、何故彼女はキジローをあんな話が出来るのかしら?
 あと、キジローの冗談に乗っかるのよね。彼女は。キジローが「バーボンが飲みたい」と言うと彼女は「じゃあ、今度の手土産はワイルドターキーね」と飛ばす。揃ってエクルーに叱られてるものだから笑っちゃうわ。ちなみに彼女の次の手土産は赤ワインの香りがするアロマキャンドルだった。
 事実、彼女と話しているときは色んなことを考えなくて済んだ。イドラの未来を託す方と託される側だっていうのに、ふふ、呑気なものだわ。悲壮感も寂寥感もない。あと何日、なんて話をしてもまったく悲しくも寂しくもなかった。でもけして冷たい会話なんかじゃない。不思議な感じ。


「この間、エクルーがお見舞いに来てね……」
「ん?」
 久々に故郷の桜の香りがする茶を口にしながら、彼女が顔を上げる。歳の差はざっと2978歳? でも妙に彼女は大人びている気がする。顔はあどけないけれど。
「怒られちゃった」
「何て?」
「遺言みたいなこと言うな、って」
「あんた、何言ったの?」
「うーん……心残りのある幽霊はなかなか成仏しないものよ、って」
 すると彼女は目を瞬かせて、次の瞬間にはからからと笑った。
「そりゃあ、困る。いつまでもあんたとキジローが成仏してくれなかったら、シュアラから退魔師を呼ばないとね」
「あら、失礼ね。そんな悪い霊じゃないわよ」
「だって、いつまでも経ってもエクルーが親離れしないわよ?」
「うーん……それは困るけど」
 こういう会話は前向きというのかしら? それとも後ろ向き? よくわからないわね。
 私は彼女に私の理想を押し付けているのかもしれない。昔、エクルーの父親を縛ってしまった、あのときのように。彼女はもともとイドラの住人でも何でもない。ただ、縁があっただけなのに。
 最初から、最後まで、私は誰かにずっと甘えていたのかもしれない。
「ごめんなさいね、ルナ」
「何が?」
「あなたはイドラの人間じゃないのに、私は大変な役目を押し付けてしまったかもしれないわ。カシスもあなたもアルテミスも、別のところで暮らすのはそう難しいことじゃないでしょう」
 言うと彼女はいつものように嘆息した。
「サクヤ。あたしは正義感を持ってイドラの面倒をみようとしてるんじゃないわ。生憎ながら、みんな幸せに暮らせればいいな、なんて世界と無縁なのよね、私。
私は巫女じゃない、魔女だから」
「……」
「いいじゃないの。イドラの緑化に巫女の運命、隕石の大運命。大いに結構。みんな生き残ればみんな生き残る。みんな死ねばみんな死ぬ。
でも生憎ながら、魔女は快楽主義者なのよ。せっかくの遊び道具と格好の遊び場を見つけたのに、手入れもしないで10年ほったらかし、なんて愚行極まりない」
 言っていることはとんでもないのに、何だか笑ってしまったわ。私、とんだ人にイドラを託してしまったのかしら?

 7000人の命を懸けた決死の研究が、彼女の前ではまるでゲームみたい。楽しむためにそこにあるゲーム。ただリセットボタンが欠けているだけ。
 不謹慎だと怒る人もいるでしょうね。でも私は笑ってしまった。


 彼女は運命に逆らわない。流れに逆らったりしない。
 大らかに運命を受け入れる。ありのままを受け止める。でも運命を嘆かない。
 そこには覚悟も決意も存在しない。悲壮感もあるはずがない。だって彼女は運命を楽しんでいるだけだから。


 そんな生き方もあったのね。
 私は予言と星の夢に囚われてばかりの人生だった。それにエクルーもキジローも巻き込んでしまった。エクルーの手を離すのに3000年もかかってしまった。
 もっと早く、彼女に会えていたら何か変わったかしら。……ううん、変わらなかったかもしれないわ。
 私は星詠みなだけで、どこからどこまでが運命かなんてわからないもの。それに彼女だったらこの運命も楽しんでしまうのではないかしら。ふふっ。


 刻々と時間は迫っているのに。何とも大らかな気分。
 後悔はないけど未練も少しある、と言ったら彼女は「少しくらいの未練があった方が人間、幸せに死ねるんじゃない?」と言った。そうね、そうなのかも。確かにエクルーもキリカもイドラもなかったら、こんな幸せな気分にはならなかったわ。
 薄目を開けると天上に三日月が見える。何だったかしら。そう、Lunaは馬車に乗った女神さまなのよね。黄金の冠で夜空を照らす、月の女神。あの三日月はこれから夜毎に欠けていく三日月ね。でも、彼女だったらきっとそれすらも嘆かずに夜酒を楽しむんでしょう。
 ああ、だんだん眠くなってきたわ。とても心地良い。
 ありがとう、ルナ。あなたと、この2年を楽しめてよかったわ。これから面倒をかけるけれど、存分に楽しんで来てね。また会えるのをキジローと楽しみにしてるから。
 そうね、今度のお土産はエクルーとキリカの思い出話がいいわ。よろしくね。

 それじゃあ、またいつか、ね?

『dear.Queen of night Luna 木花咲耶姫』






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「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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