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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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 『忍ぶれど』      (ヴァル)

クーデターの年の1月末頃のおはなし。
めずらしく優柔不断なるーちゃです。

賢くん、えらい。
君の春も近いぞ、たぶん。


 ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ =====



「春祭りの時、水神の巫女に求婚するのはかまわないのかな?」

 相変わらずふらっと薬師のテントに入って来て、何のあいさつもなく囲炉裏の向こう側にどかっとあぐらをかいたエクルーは世間話のように切り出した。
 メドゥーラは噴き出したいのをこらえて、何気ない顔を作って答えた。
「かまわんよ。別にタブーじゃない。儀式が終わって月が上るまでの間なら、春の乙女や侍女と同じように求婚していい」
「ふうん」

 今年の水神の巫女はイズミだ。毎年、特に力の強い少女が選ばれる。春祭りは、イドラ中の集落で同じ日に行われる。すべての集落で、巫女に踊らせゲートを開く。これによって、イドリアンの捧げる歌や祈りが地底湖やすべての水脈に届き、イドラ全体を活性化するカンフルとなるのだ。
 スオミも12歳の時、巫女を務めた。巫女は幼い少女が行うことが多いので、巫女を務めた女性が成長して今度は春の乙女を舞うことも珍しくない。今年はアカネとアヤメが春の乙女だが、スオミも乙女の後見役で一緒に祭壇に登る。
 これでイズミまで今年結婚してしまったら、来年の春の乙女がいないのではないか。エクルーとしては、そこのところの算段をメドゥーラに聞きたかったのである。

「じゃあ、お前は申し込みさえすれば、断られないと思っているんだね?」
 急に切り込まれて、エクルーは目をぱちくりした。イズミに断られる? その可能性は考えていなかった。
「お前の行状を考えれば、断られても仕方ないんじゃないのかね? お前は知らないかもしれないが、イズミはあれで人気があるんだ。ドクターのとこの賢も、子供の頃からイズミと仲が良かった」

 賢は今年14歳。求婚の資格がある。でも、賢が? イズミの口から賢の話を聞いたことあったっけ?
 イリスに言付かって、季節の衣類やイドラの食品をシュアラに届けに行ったりしているのは知ってた。修学院の見学に行ったときも、3つ子が案内してくれた、と言っていたっけ。でも3つ子がセットで、特に賢の名前を聞いたことはなかった気がする。賢のことを気にしてないから言わなかったのか? それとも……?

「聞いてくる」
 がばっと立ち上がったエクルーが、慌ててテントを出て行った後、メドゥーラはひとしきりくつくつ笑っていた。


 今日はラボが休みだから、イズミは家で機を織りながら、単語とかアミノ酸の名前を覚えているはずだ。手を動かしながらだと、よく頭に入るらしい。
 でも、何て聞く?

 イズミとは何度となくデートして、2人で時間を過ごした。キスしたのだって、一度や二度じゃない。でも、言葉に出して気持ちを確かめ合ったこと、あったっけ? 抱きしめると、腕の中でうわごとのように、”好き”と言ってくれるけど……。あれはうわごとだったんだろうか?

 テントの外で機の音を聞きながら、エクルーはどうしても聞きに入る勇気が出なかった。うろうろしながら髪の毛をかきむしった挙句、ため息をついた。
「あーっ、くそっ。俺、考え事は苦手なんだよ」
 そう言うと、パッと消えてしまった。



 シン、リン、ケンは、シャリス先生の研究室で昨日書庫から引っ張り出してきた古地図を広げていた。元号から見て600年ぐらい前のものらしい。

「ほら、ここ。分住(わけずみ)ってあるだろ? こっちは分田(わけた)」
「こっちは桂清水ってのがある」
「ゆるやかな弧を描いて並んでるな」
「つまりこれが……」
「600年前の扇状地の端っこってわけか」
「けっこう堆積が進むもんだねえ」
「じゃ、この真ん中を伏流水が流れてるわけね」
「で、そのすそ野に泉がいくつか湧いてるはずだな」
「昼飯喰ったら行ってみようぜ」

 3つ子は休みをほとんど資料漁りとフィールド調査にあてていたので、長期休暇でもめったにイドラに帰ってこない。しょっちゅう、メドゥーラやイリスやイズミが来てイドラの様子を知らせてくれるし、3人いるので里心がつく暇もなかった。くくりの泉が出来て行き来が楽になってからは、エクルーや姉たちも遊びに来るし寂しくない。里帰りするよりは、第2、第3のゲートを作る方が優先事項のように思えるのだ。
 とはいえ、今年の春祭りには帰るつもりだった。姉が2人そろって結婚するのに出席しないわけにいくまい。アヤメのお腹には3つ子が入っているらしい。初夏には叔父さんになってしまう。そしてアカネの相手は、何とエイロネイアの皇帝で、あのムーちゃん、フーちゃんの飼い主。まったく、俺たちが留守してる間にイドラはどうなっちゃったんだろう。


 3人が古地図を囲んで焼きおにぎりをパクついていると、研究室にぱっと現れた人影があった。
「あれっ、エクルー?」
「どしたの、ひとり?」
「きりちゃん、元気?」

 3人の問いには答えず、エクルーはずいっと賢に詰め寄った。初めて出会った時から、エクルーは3人を見間違えたことがない。その点も、3つ子がエクルーを気に入ってる点だった。
「賢、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ここじゃダメ? シンやリンがいたら困る?」
「……いや、大丈夫だ。シンもリンも聞いてて」

 エクルーは研究室の大きなテーブルに両手をついて、しばらく落とした両肩の間に頭を垂れていた。それから勢い込んで顔を上げると、きっと賢を見据えた。

「賢、今度の春祭りに出るつもり?」
「うん。その予定だけど」
 あくまで軽い調子の答えに、エクルーはがっくり肩を落とした。
……やっぱり……賢はイズミにプロポーズする気なんだ……。

 3つ子は顔を見合わせた。エクルーが春祭りのことで聞きたがるなら、それはイズミのことに決まっている。3つ子を含めて、イドリアンでエクルーとイズミのことを知らないものはいない。だが当人たちはその状況を把握していないらしい。

「賢はイズミに申し込むんだよな?」
 そう言いながら、凛はテーブルの下の賢の足を軽く蹴った。慎もすぐ調子を合わせた。
「イズミ、この間、泣いてたもんな。誰か知らないけど、今付き合ってる男が不実ばかり働くって」
「絶対、賢と結婚した方が幸せだよ。浮気しないのは、親父を見てたら保障付きだもんな」
「でも……」
 言いかけた賢の足を、慎が踏ん付けた。
「だいたい、どうしてイズミがそのふらふらした男と付き合ってるかっていうと、親兄弟以外で初めてしっぽを触られたのがそいつらしいんだ」
「しかも、寝ぼけて他の女と間違えて触られたっていうんだから、イズミもかわいそうだよな」

 確かにこうして客観的に聞くと、イズミがあまりにも不憫だ。エクルーはこれ以上、他人事のように聞いていられなくなった。ばっと手のひらを
3人の前に差し出した。

「すまん、俺なんだ」
「へ?」
「そのイズミと付き合ってる不実な男って、俺のことなんだ」
「ええーっ、そうなの? 全然、知らなかった」

 慎と凛が大げさに驚くのが白々しくて、賢は赤面してしまった。

「でも、エクルーってそんなに浮気性だったっけ?」
「昔はお母さん一筋じゃなかった?」
 
 今度はエクルーが赤面する番だ。

「あ、じゃあ、寝ぼけて見てた夢の女って、サクヤのことか」
 凛に言われて、エクルーはうなだれたまま反論した。
「”女”だなんて言わないでくれよ。サクヤはただの”女”とちがうんだから」

 これには、今まで黙って聞いていた賢もカチンと来て、思わずエクルーの胸ぐらをつかんでしまった。
「じゃあ、イズミはなんだ? ただの女か? アカネもアヤメも、ただの女だからないがしらにしていいっていうのか? 桜も? レアシスも? 親友だなんて言って、どうせサクヤの代わりなんだろう!」
「ちがう! 俺は……!」
「じゃあ、どうしてイズミなんだ? サクヤじゃなきゃ誰だって同じくせに!」
「ちがう! ちがう……!」


 なぜイズミなんだろう。

 イズミ自身にも聞かれた。あの時も答えられなかった。何とかひねり出した答えに、イズミは泣きながら俺の頬をひっぱたいた。
 どうしてイズミじゃなきゃいけないんだろう。どうしてイズミだけで満足できないで、レアシスが気になってしまうんだろう。

 イズミは……温かい。イズミは……柔らかい。イズミは……やさしい。どこもサクヤに似てない。
 サクヤはやさしくなかった。やせてて、骨ばってて、いつも指先も髪もひんやり冷たかった。いつもひとりで冷たい星の夢を見てた。その間、俺はずっと取り残されて寂しかった。

 イズミといると……寂しくないんだ。俺の中にある深い暗い底無しの穴を忘れられるんだ。イズミじゃなきゃダメだ。イズミは黙って俺を抱きしめてくれた。イズミじゃなきゃ……俺はサクヤが見ていた星の時間の海に、ひとりで取り残されてしまう。

「イズミじゃなきゃダメなんだ……」
 そうつぶやいたエクルーが涙を流していることに驚いて、賢は胸ぐらをつかんでいた手を離した。
「それは俺じゃなくてイズミに言えよ」
「うん……」
「イズミに会う前に顔、洗えよ?」
 そう言われて初めて、エクルーは自分の頬が濡れていることに気がついた。

「まったく。こんなとこまで飛んで来ちゃうぐらい好きなくせに」
「誰にでも平気でキスしたりじゃれついたりするくせに、肝心な相手に出し惜しみしてどうする」
「グズグズしてたら、また賢をけしかけるからな」

 3つ子に蹴飛ばされて、エクルーはイドラに帰って来た。

 ちゃんとイズミに言わなくちゃ。自分の気持ちを。イズミが大事だって。ずっと傍にいたいって。イズミじゃなきゃダメだって。


 テントの側でぼおっと突っ立ってるエクルーを、イズミとメルが垂れ幕の間からのぞいていた。
「もう、かれこれ1時間はああやってるよ。寒いのに。かわいそうだから、呼んでおあげよ、イズミ」
「だめよ、甘やかしちゃ。ふんばり所なんだから見守ってあげなくちゃ」
「余裕だこと」
「余裕なんかないけど、ああいうバカなところがかわいくて好きなんだもの」
「やれやれ」
 メルは肩をすくめて、くるんと丸まった娘のしっぽを見た。そうして、憐れな娘婿(予定)のために、甘酒を温め始めたのだった。
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*COMMENT-コメント-
▽東京から愛を込めて
堪えていたのに 娘婿(予定) でついに噴きました(笑)。
るーちゃ、頑張ってイズミちゃんを泣き落としてね。……そして気になる比較対象はやっぱりれーくんなのか(笑)。
いや、かわいーけどさ……。
▽ねらい通り…くっくっく
噴いてくれましたか。くっくっく。
いや、笑い話ですから、笑ってやってください。
次はプロポーズ(泣き落とし)編。
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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