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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『はじめの一歩』       (ヴァル)

いずみるーの秋のお話。

アル、大活躍です。口八丁の物理学者。
3者3様ののろけが面白い。


 ***** ♪ ***** ♪ ***** ♪ ***** ♪ *****

 朝、研究室に入ってきたエクルーはあいさつ代わりに宣言した。
「質問は受付けません」
 その顔には、両頬にくっきりと赤い手形がついていた。

「へえ。これはこれは……」
「その手形は……イドリアンだな。くっくっく…」
「……ってことは、イズミだな……」
 説明するまでもなく、同僚たちにはバレバレなのである。エクルーはため息をついた。

「……で、何やらかした?」
 自称兄の遠慮ない質問に、エクルーはぶすっとして答えた。
「やらなかったから、ぶたれたの」
「どうせ据え膳を喰ってやらなかったんだろう。くっくっく」
 据え膳どころか、隣のうちの釜の飯まで喰いそうな人でなしに言い当てられた。
 エクルーががっくりと首をうなだれたので、職場の所長がさらに追求した。
「ビンゴか。イズミちゃんもそういうお年頃になったか。15だっけ?」
「ジン! 俺の恋愛問題以外の課題はないの? 春にエイロネイアで発表する論文は?」
「それが、俺監修だけど実質スオミとアカネの研究だからな。楽なもんだ。従って目下、クリスマスの電飾のデザインくらいしか考えるべき課題はない」
 そもそもこの研究所は、4人4様好き勝手なペースで研究しているので、朝のミーティングは単なるお茶の時間なのである。
 エクルーはあきらめた。話すまで、このおせっかいな保護者たちの追及は逃げられないだろう。

「俺達、けっこう付き合い長いだろ? でも、一応、イズミが15になるまでは手を出さないって約束してたわけ。それで……イズミが……『私、もう15になったのよ?』と言い出して……」
「催促されたわけか。くっくっく」
「黙って聞いててくれない?」
 エクルーが白子の魔道技師をじろっとにらむ。
「でもイズミは、来年の春祭りで水神の巫女を勤めるものだから、それまでは手を出さないようにメドゥーラに釘刺されてたわけ。そう言ったら……」
「それで、ぶたれたのか?」
 アルが釈然としない、という顔をした。
「そういう事情なら、未練がましく胸を触るな、って……」
 同僚3人は爆笑した。

「そりゃ仕方ないな。つまみ食いした罰だ」
「でも、それで両頬、ぶたれたのか?」
「それが……ぶった後、イズミがしくしく泣き出して……自信が持てない。自分はレアシスにも勝てる気がしないって……」
 同僚3人がさらに爆笑したので、エクルーは正直に打ち明けたことをつくづく後悔した。
「そりゃあ、イズミちゃんに同情するなあー。お前のレアシスへののめり込み方は、実際やばいよ。友情の域を超えてるって」
「俺は最初から気づいてたぜ。こいつぁ、そのスジのやつだろうって」
「まあまあ、レアシスくんにはその気はないんだから。一応、プラトニックなんだろう?」
 まったく容赦がない。まあいい。早く終わらせてしまおう。
「それで、『私のどこが好きなの?』っていう話になって……俺、即答できなくて、ちょっと詰まっちゃったんだよね」
「ふうん。まあ、そうかもなあ」
「そういう風に聞かれたら、何て答える?」
 エクルーは逆に聞いてみた。3人とも配偶者か恋人がいるので、質問対象ではある。
「そうだなあ……眼かなあ。あの強い光が好きだ。あ、でも髪も好きだ。瑞々しい手触りで……あの口調も、実は好きなんだ。外見とのギャップがまた……」
「ジン、もういいよ。十分だ」
「姉さんぽいとこかなあ。内気なくせに、時々、そのシャイなところがふっとんで、しかりつけてくれるとこが……」
「アル、ごちそうさま」
「そんなもん、態度で示せ。黙って押し倒す」
「参考にならない意見、ありがとう。カシス」

「で、お前は何て答えたんだ?」
「ええと……『イズミは何もかも……サクヤのことも、アカネやアヤメとの件も、レアシスのことも、全部わかった上で側にいてくれるから……だから好きなんだ』と言ったら、反対側もぶたれた」
 思いやりのない同僚3人は、3度爆笑した。
「そりゃ、おまえ、”都合のいい女”呼ばわりしたのと同じだぜ」
「そうかなあ。それが、正直な気持ちなんだけど……」
 ジンが手をパンパンと叩いた。
「”青春相談室”はこのくらいにしよう。朝のうちに半導体回路の実験をしてしまいたいんだ。大分、チップを小さくできたからね」
「こんな砂漠の真ん中じゃあ、限度があるぜ」
「ジン、やっぱりクリーン・ルーム作りましょうよ」
「まあ、それは来年の課題。とりあえず、カシスくんの魔法に頼ろう」
 白状だけさせられて、何の解決策ももらえないまま、通常の研究室の仕事が始まった。



 西日に傾く頃、アルが脊梁山脈のまばらな木立の間をうろうろしていると、谷のほとりでイズミを見つけた。
「イズミ! いい所で会った。パールがサルナシを食べたことないって言うから、探していたんだ。どこにあるか知らない?」
「サルナシ……あれは人気があるから、こんな人のよく入るところのは、もう取り尽されているわよ?」
「やっぱりそうかあ……どんなところを探せばいいかな?」
「日当たりが良くて、水はけのいい斜面で……できれば沢沿いのところ」
「とすると……」
「秘密の場所、教えてあげるわ。こっち」
 根が親切なイズミは、アルを案内して歩き出した。何気なく歩きながら、イズミは魔法のようにヤマブドウやマタタビを見つけては、腰の籠に入れていく。イドラに住むようになって、アルもかなり野山の恵みを覚えたが、イドリアンにはどうしてもかなわない。

「エクルーとケンカしたんだって?」
 アルが聞くと、先を歩いていたイズミの肩がぴく、と震えた。
「ケンカじゃないわ」
「そうなの?」
「私が勝手に怒っているだけ。エクルーはどうせ、何が問題なのかわかっていないんでしょう」
 さすが、エクルーとつきあってるだけのことはある、とアルは感心した。なかなか冷静だな。
「俺は、君に期待しているんだけど?」
「アルに期待されてもね」
 そっけない答えが返ってくる。
「まあ、そういうなよ。君も知ってるだろ? エクルーは”黒髪コンプレックス”があるんだ」
「そうよね。エクルーは黒髪に弱い。でも私は黒髪じゃない。アルの期待に応えられないわ」
 イズミはヤマイモのむかごをつみながら、つんつん答える。
「まさに、そこだよ。俺が君に期待しているところは」
「そこってどこ?」
「あいつの”黒髪フェチ”は根が深いんだ。あいつは、父親の記憶を継いでいるだろ? で、その父親はその前生の記憶を持っていた。聞いたことある?」
「”もうない星”でのこと?」
「そうそう。もう3万年くらい前の話。あいつはどういうわけか、サクヤの前生の初恋の相手は黒髪の王子様だと思いこんでてさ」
「それで、とうとう自分の髪まで黒くしちゃったってことかしら?」
「さあ、それはどうかわからないけど、あいつ、宿命的に黒髪に弱いだろ? サクヤ、サクラ、レアシス……」
「サクラって桜ちゃんのこと? エクルーは桜ちゃんも口説いてたの?」
 アルは思わず、自分の口を押さえた。弟のフォローをするつもりが、過去の悪行を暴露してしまった。
「いや、あのカルミノの園遊会のとき、ちょっとね。でも、速攻振られたらしいよ。あの姫さまは、ちゃんと騎士がいるから」
 イズミはため息をついた。しっぽがだらりと地面に落ちている。
「やっぱり私……自信ないわ。私が勝手に追いかけてるだけで……エクルーは私のこと、どうでもいいのよ。私とレアシスとキリカちゃんと、3人並べてひとり選べと言ったら、私はきっと3番目だわ」

 これはなかなか深刻だ、とアルは眉根を寄せた。『そんなことないよ』と断言できないのが問題である。
 アルがイズミの肩にぽんと手を置くと、振り向いた眼に涙がにじんでいた。
「あいつを、宿命から解放してやって欲しいんだ」
「解放……?」
 アルはイズミの手を取って、柱状に割れた玄武岩の群れまで導くと向かい合って座った。イズミは手を口に当てて、一生懸命、泣くのを我慢している。
「あいつの父親、死ぬまで18歳の外見だったんだ。知ってた?」
 イズミは黙って首を横に振った。
「サクヤもずっと若いままだったろ? 2人とも宿命に捕らえられた人間だったんだよ。”もうない星”の願いを叶えるために、閉じられた長い時間を生きていた。サクヤの願いは、エクルーを解放することだった」
「星の願い……それは叶えられたの?」
「うん。そのはずなんだけど……エクルーが解放されるかどうかは定かじゃない」
「どうして?」
「あいつ自身が、本気で解放されたいと思っているのか、俺は不安なんだ」
「……」
「人間、そうそう簡単に変われないもんだ。生まれ変わっても、慣れた習慣につい戻ってしまう」
「エクルーが黒髪の人を好きになるのは、単に”習慣”だって言うの?」
「持って生まれた”性質”って言ってもいいけどね」
「じゃあ、どうしようもないんじゃない?」
 イズミは悲しげに首をかしげている。

「君はいいの? あいつが星の時間に捕らえられても」
「星の時間……」
「あいつ、今、18だろ? 今度のイブで19。運命の変わり目だ」
「……」
「ここで乗り損ねたら、あいつはひとり、取り残される。今度は一緒に生きていくサクヤもいない」
「……」
「俺はあいつがオジサンになるのを見たいんだ」
「私に……何ができるって言うの?」
「君が”希望”だ。君は黒髪じゃないのに、エクルーに口説かれた。あいつが新しい人生を生きたいと思っている証拠だ」
 イズミは首をひねった。
「そう……なのかしら?」
「そうだよ! 頼むよ。あいつと一緒に年取ってやってくれよ」
「……ヘンな説得ねえ。あ、サルナシ」
「うわっ、鈴生りだ」
 座ったときには気づかなかった。玄武岩の岩棚に沿って、サルナシの蔓が密生していたのだ。しばらく、2人は収穫に忙しかった。いくつか味見して、最高の熟し加減だ、と結論付けた。

 泉の側で、サルナシを山分けした。パールに持っていく分、ジンのうち、カシスのうち、リィンのうち。
「それから、これが温室の分。持って行ってやってくれるだろ?」
「私が?」
「俺はこれからカルミノに飛ぶもん」
「……ずるいのね」
「俺は弟の味方だからね。ということは、君の味方ってことさ」
 イズミは思わず笑ってしまった。
「弟思いの兄さんに免じて、もういちどチャンスを上げることにするわ」
「ありがとう。君は最高の妹だよ」
 アルがイズミの頬にキスしたので、さらに笑いがこぼれた。
「調子がいいのは、アル譲りなのね」
「教育がいいからね」
「もう、早くパールのところに行きなさい!」
「はははっ。出来の悪い弟をよろしくね」
 そう笑いながら、アルは泉に続く斜面を駆け上がって行った。イズミはやれやれ、とため息ついた。

 やれやれ、天才物理学者にしては非科学的な理論だこと。恋人に誰を選ぶかで、運命が変わるの? 今が運命の変わり目? それって私次第なの? 今、私がこのサルナシを温室に持っていくか持って行かないかで、エクルーの運命が別れる? そんなバカな話……。
 まあ、いいわ。アルバート・ナンブ博士の説に乗ってみましょう。”サルナシ理論”とでも名付けてやるわ。でも検証は難しいわよね。2、3年経って、エクルーが確かに年を取っているとわかったとき、それが私のせいなのか、もともとそういう運命なのか判断できない。温室に行かずに、エクルーの変化を観察するという選択もあるけど……”サルナシ理論”の検証のために、そんな犠牲を払うことないわ。とにかく、アルのヘンな話のせいで、怒ってるのがバカらしくなっちゃった。温室でキリちゃんと一緒にサルナシを食べよう。残りはエクルーがパイに焼いてくれるだろう。

 イズミは温室に続くゆるやかな斜面を、歌を歌いながら下りていった。








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*COMMENT-コメント-
▽隣のうちの釜の飯ー!(笑)
駄目っぷりが何ともカシスらしい(笑)
とは言ってもルナちんに同じ質問をしたら首を傾げて返ってくる。「相性?」

るーちゃ、しっかりしないと…陛下にうつつを抜かしてないで(笑)
イズミちゃんがやっぱり大好き。幸せになってください。
▽やっぱりるーちゃって乙女の敵だわ
とうとうイズミちゃんの胸ももんじゃったるーちゃ。まったく……。
職場というより、悪ガキ共の溜まり場ですね。でも楽しそうだ。
▽のろけ(笑)
アルーvパールのことのろけてくれてさんきゅー(笑)v
でもるーちゃ、未練がましく胸をもむのはいけないことだよ……。
▽というか…
「隣のうちの釜の飯をつまみ食いしてんのはむしろてめーの方じゃねぇのか?」と心中で突っ込んで来てる野郎がいるのですが、気のせいでしょうか?(笑)
▽真に遺憾であります。
『俺は愛の探求者なんだ』
鍋の底で殴っておきました。
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
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エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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