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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『夜の瞳 3』       (ヴァル)

オパール編、続きです。
やっぱり無敵なのは、エルザよりもアヤメよりもイリス……でした。

パールのイドラ体験です。


  ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ =====








 イズミが毛布と布袋を持って来た。
「ツバメ、ちょっとこの子を借りるわよ? お医者さんに見てもらうの」
 狼の子をルパのおっぱいから離して、毛布でぐるぐる巻きにした。それから布袋に入れるとパールの肩にかけた。
「まだ毛が薄いから、風に当てないようにしてやってね」
「ありがとう。でも……お医者さま?」
「俺の同僚が、医者で科学者で……まあ、何にでも詳しいヤツなんだけど、野生生物にも詳しくてね」
 アルが説明した。
「何だか……すごい方なのね」
「うん。ちょっと気難しいけどね」

 全員手をつないで、ジンのドームまで飛んだ。
「あら、けっこう大勢で来たのね」
 アヤメがみんなを迎え入れた。
「エルザ姫、パールさん、お久しぶり」
「アヤメ、お久しぶり」
 エルザがアヤメに抱きついた。生まれも育ちも違う、この2人の少女は妙な連帯感で結ばれているらしい。アルの見るところ、その共通する趣味は”人間観察”のようだ。恐ろしい。
「カシスとルナは、ラボの方にいるわ」

 カシスはかなり長い間、黙ってオパールを診察していた。その間、パールは両手をもみしぼって見守っていた。
「生まれてどのくらいだ?」
「5日です」
「その間、何を食わせてた?」
「リィンとこのルパに乳をもらってた」
「ふうん、じゃ、母乳を飲んでるのか。しかし、ルパと狼では母乳の成分が違うからな。おい」
「はいはい」
 ルナが褐色の小瓶を持って来た。
「いくつかの栄養素の混合液だ。ルパの乳に5ml混ぜて、朝晩与えるように」
「これ、哺乳瓶ね」
「ありがとう」
 アルはルナから小瓶と哺乳瓶を受け取った。
「生後二週間くらいで離乳食の訓練を始めた方がいい。それと同時にしつけも始める」
「はい」
 パールは注意深く、カシスの説明を聞いていた。

「この子がある程度大きくなったら、森に帰すこともできるんでしょうか?」
 パールの質問にアルはびっくりした。
「猟犬係りのヨハンソンさんに聞いたんです。彼はこれまで2匹、狼の子を育てたことがあったって。1匹は今も城にいて、猟犬との間に子供を作ったそうなんですけど、もう1匹は発情期に相手を見つけて森に帰ったって……もし、この子が森を選んだとき、ちゃんと帰れるように育ててやりたいんです」
 カシスもいささか、虚をつかれたようだった。それから、口を大きく横にひいてゆがんだ笑いを作った。
「おい、アル。このお嬢さんは、おめえよりよっぽど覚悟が座ってるみたいだぜ?」
「そう言ったろ? 不測の事態に、男はおたおたするばかり。 でもおかあさんはどっしりしてるんだ」
「マザコンめ」
 カシスは鼻で笑った。それからパールの方に向き直った。
「発情期にどうなるかは、こいつ次第だがな、野生の狼と同じしつけを人間がするのはほとんど不可能だ。こいつらは子供の頃から、群れの中での遊びを通して狩の仕方を覚え、社会生活を学んでいく。それでも狼は犬にくらべて野生の本能が強いから、大人になってから野生に戻る場合もあるかもしれない。あんたにできるのは一生こいつをひきうける覚悟でいながら、同時にこいつがいつ森に帰ってもがっかりしない覚悟も持っていることだ」
 パールはまっすぐカシスを見つめ返した。
「ありがとうございます。そうします」


「とうしゃー、狼はー?」
 2歳くらいの幼女が2人、とたとた駆け寄ったきた。
「アルのととしゃー、狼はー?」
「これだ。まだ柔らかいから落とすなよ?」
 パールは冷徹な魔道技師の目が柔らかくなったので、こっそり微笑んだ。
「カシスさんのお嬢さん?」
「そう。うちの子。アルテミス、2歳よ」
 代わりにルナが紹介した。
「小さいアルね。初めまして。パールです」
「知ってる。アルの”おかあさん”ね」
 2歳の女の子らしからぬ大人びたセリフに、パールはあっけに取られた。
「ちがうよ。あるの”こいびと”だよ。ねー?」
 もうひとりの少女が訂正する。パールは気を取り直してあいさつした。
「桐花ちゃんね、初めまして」
「はじえあして。きりちゃです」
「とうしゃー、こいつ、でっかくなる?」
「ああ。すぐ、お前よりでかくなる」
「やったあ、そしたら乗って走れるね」


「話は一段落したか?」
 ラボの主と、その妻がコーヒーを持って入ってきた。
「エクルーお手製のバーム・クーヘンだ」
 パールは、アルの雇い主の細君に見とれてしまった。
「アヤメのお母様? でも、アヤメと変わらないように見えるわ。すごくお若いのね」
「みんな、そう言うの。私の方が年上に見えるくらいだって」
 アヤメはため息をついた。
「年を取るような暮らし方をしてないからな」
 イリスはにっと笑ってコーヒーを配っている。
「それもどうかと思うけど……」
 アルは苦笑いした。未だにイリスと話す度にたじたじになるのだ。
 オパールをひざに乗せてなでているジンに、アルは聞いてみた。
「離乳が始まったら、昼間、こっちに連れてきていいですか?」
「いいよ。うちのルパの乳をやればいいし、アルちゃんとキリちゃんのいい遊び相手になるだろう」
 所長ののんびりした許可に、カシスは目を剥いた。
「おいおい。危ない薬品だってあるんだぜ」
「そうか。そしたら、俺のうちの方に置いてたらいい。いいよな? イリス」
「いいぞ。アルもうちで遊べばいい。噛み付いたら、噛み返してしつけてやる」
「……よろしくお願いします」
 アルとパールは美女の口から出た野性的な一言に圧倒されつつ、そろって頭を下げた。この人なら狼を任せても大丈夫にちがいない。


「あ、カシスさん、少佐ってあなたのことですよね?」
 リィンがふいに言い出した。
「あ? ああ、そうだが?」
「あの、侯爵……シモンさん、先週からうちにいるんですけど」
「ああ? エイロネイアに帰ったんじゃなかったのか?」
「それがね、先週、シモンさんがうちのジーラッハにプロポーズして……」
 ジンとアルとエクルーがコーヒーを噴出した。
「ジーラッハって……グレンの末の弟の……?」
「リィンの叔父さん……?」
「男だよな……?」
 確かにイドリアンの老若男女は、よその人間にはわかりにくいかもしれない。そして、ジーラッハは腰まで届く柔らかい灰色の髪とやさしい灰色の瞳、細面で優雅な面差しをしていた。
「プロポーズは断ったものの、叔父さん、何だかシモンさんが可哀相になっちゃったらしくて……話を聞いてるうちに……友達になっちゃったみたいなんです」
「で、お前のうちにいるってか?」
「叔父さんと話しているうちに、シモンさん、何だか悔い改めちゃって……お妾さんをみんな手放すとか、これからは清貧な生活をするとか言い出したんです。で、とりあえず、自分宛ての郵便物を全部、この駐屯所に転送するように手配してください、との伝言です」
「また、面倒なことを……」
 カシスが頭をかきむしった。
「いや、いいことじゃないのか?」
「あ、でもお妾さんは困るのかな?」
「しかし、これからずっとエイロネイアに暮らすのか?」
 リィンは肩をすくめた。
「うちもちょっと困っているんですけど。シャーウッド卿も居座ってるし」
 アルはまじめな顔でカシスに聞いた。
「エイロネイアの貴族にはそういう属性があるのか? イドリアンに惚れ込んで、生まれ変わるぐらい入れ込むって」
「知るか。俺はエイロネイアの貴族になったことないからな。そんな前例は3つしか知らねえし」
「3つあれば十分じゃない?」
「これ以上、増殖されたらとんでもないぜ」
「うちもこれ以上は困ります」
 しっぽと耳をへたり、と下げているリィンに、パールはぺこりと頭を下げた。
「すみません。うちのオパールまで」
「いいんだよ。この子はかわいいから」
「目が開いて、帰っちゃったら寂しくなるわ」
 イズミがため息をついた。
「ここに来ればいいじゃない」
 ルナが言い出した。
「そうだ。うちでベビーシッターをしてくれ。狼と子供を2人」
 イリスも同意した。
「子供はすぐに増殖するんじゃない?」
「まったくだ。にぎやかになるぞ」

 パールはアルの職場を見て安心した。同僚もその家族も、みんな温かい雰囲気だ。何よりアルが楽しそうだ。この人たちがアルの家族。そして、今から私もその一員になる。ほんの少し前まで、家族はロードと2人きりだと思っていたのに。この個性豊かな人々のコミュニティーに迎え入れてもらえるなんて。
「イドラのご感想は?」
 アルが少し屈んで、パールに聞いた。
「素敵。私、イドラが大好きになったわ」
「良かった」
 アルが額にキスをしてくれた。

「わあ、チュウだー」
「およめさんだー」
 2人の少女が手をぱちぱち叩いた。
「パールも春祭りに来るのか?」
 イリスが聞いた。
「春祭り?」
「わああ、イリス。内緒で連れてくるつもりだったのに」
 アルが慌てた。
「何を言ってる。パールはまず、髪を伸ばさなきゃいけないだろう?」
「あ、そうか」
 パールの亜麻色の髪は、耳の下できれいにカールを描いた清楚なボブになっていた。肩に届くまで、3ヶ月ではぎりぎりといったところだ。
「まったく男ときたら」
 ルナがあきれて言葉を付け加える。ルナとイリスがタッグを組んだら、アルはもう完全に太刀打ちできない。
「髪?」
 それ以来、パールはてんてこ舞いに巻き込まれることになったのだった。







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*COMMENT-コメント-
▽噛み付き返す(笑)
イリスさん大好きだ。
でも一番初めにアルの「ちょっと気難しいけどね」に突っ込んでしまった。『ちょっと』?(笑)
まともに医者してるじゃないか。びっくりだ(オイ)。
▽カシス、親切だよ
パール相手だと、カシスが良識的に見える。
イリスにくらべると、ルナも普通のお母さんのようだ。
シモンもロビン爺さんも押しかけちゃって、どうなるイドラ?

とりあえず、髪を伸ばしてね、パール。
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
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