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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『夜の瞳 4』          (ヴァル)

カシスを書くのが楽しくて……
いずみるなの会話も書いてみました。どうでしょう、こんな感じで?

しかし……ジーラッハの運命やいかに。


 ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ ===== ♪ =====


 クリスマスも過ぎて、新年まであと3日という日。エイロネイアにもシュアラにも不穏な空気が流れ、カルミノもざわついている。女官長さまに、あなたまで浮き足立って姫さまを不安にさせないように、と釘を差されたパールは努めて笑顔を絶やさないようにしていた。エルザも健気なのか天然なのか、『異国の香木のオイルなの。これでブラッシングしたら髪が早く伸びるんですってよ』とはしゃいで、パールの髪にいい香りのオイルをすりこんでくれた。
 10時。姫さまを寝室にお送りして、家に帰る時間だ。いつもなら、そろそろアルが窓から降って来るころだけど。
「お待たせ」
「毎日ごめんなさいね。アル、何だか疲れた顔よ? オパールは? お留守番させているの?」
「いや、それが……」
 アルが表情を曇らせた。
「どうしたの? オパールがどうかしたの?」


 その日の午後、イズミとリィンはジンのうちで狼1匹、人間2匹のベビーシッターをしながら受験勉強をしていた。イドラには初等学校しかないので、8年生以上の教科内容は自力で勉強するしかない。放牧地が暇なときに、2人ともシュアラに短期講習を受けに行ったりしてみたが、そんな付け焼刃で大学受験は難しい。というわけで来年秋の進学に向けて、イドラで一番教えてくれる人間が多いこの場所で勉強しているわけである。

「何だよ、この代数幾何って。こんなもの、将来何か役に立つのかなあ」
 数学が苦手なリィンがぼやいた。
「兄さん。そんなこと言ってると、エルザ姫にロマンス講習されるわよ?」
「うわっ、そっちのがイヤだ」
 イズミの脅しに、リィンは教科書に顔を戻す。エルザとは”幾何学とロマンス小説、どっちが有益か”という不毛な議論をしたばかりなのだ。
「みーちゃー、おーちゃーがー」
 キリカの泣きそうな声が聞こえた。
「狼が、吐いちゃった!」
 アルテミスも悲鳴を上げる。イズミとリィンが慌てて駆けつけると、オパールが四肢を苦しそうにのばして痙攣していた。
「オパール!?」
 リィンが抱き上げて、目や舌を調べる。口から泡を吹いている。万が一、舌を噛まないようにハンカチを口に噛ませて、耳の後ろで縛る。
「アルちゃん、お父さん呼んできて! オパールが熱を出して痙攣してるって!」
「わかった!」

 ラボのメンバーが全員どやどや、回廊を渡って居住部分にやって来た。白髪の魔道技師は、面倒くさそうにアルにひきずられている。
「おいおい。どうして俺まで……」
「とうしゃ! 狼が死んでもいいの?」
「俺ぁ、別に構わねえが……」
「構う! 私の馬にするの!」
 父親の利己的な反応に、娘も極めて利己的な主張をするが、これで心底オパールを気に入っているのである。
「ちっ、吐いて痙攣したって? 他に変わったことは? ヘンなものでも舐めなかったか?」
 舌打ちしながらも、カシスが狼の赤ん坊を診察し始める。
「さっきまで、ちょっと元気すぎるくらいに騒いでいたの。栄養剤入りミルクと挽いた鳥肉しか食べさせてないわ」
「昨日、カルミノで猟犬の子犬に噛まれたところをちょっとひきずっていたけど……」
「ああ、それだな。傷口が化膿してる。菌に感染したんだろう。痙攣は熱のせいだ」
 カシスはアルやエクルーに指示して、ナイフや焼き鏝を用意させた。
「さて。これからは女子供向きじゃないぜ?」
「平気! 見てる!」
「おーちゃも赤ちゃんだもん。きりちゃがたすけるもん」
「わかった、わかった。勝手にしろ。ただし、騒ぐなよ? 手元が狂っても知らんぞ」

 周り中に心配そうな観衆が見守る中、カシスは危なげない手つきで腫れた狼の左足にセッケン水を塗って毛を刈った。それから、あっという間もなく傷口にナイフを入れて、膿を搾り出した。
「とうちゃ? それ血? ヘンな色」
 アルテミスはさすが医者の娘というべきか。目をそらすことなく、患部を見つめている。キリカも気丈に手を握り合わせて、じっと見ている。
「膿だ。病原菌だな。触るなよ?」
「菌を出したら元気になる?」
「ちゃんと消毒すればな」
 傷口の周りを焼き鏝で焼いて、薬をすり込む。それからカラーを作って、狼の首に巻いた。
「これ何? ピエロの服?」
「傷口を舐めさせないためだ。はずさないように、気をつけてろ」
「わかった! とうしゃ、ありがとー!」
 さすがに娘の質問には、マメに答えている。
「アルのととしゃー、ありあとー」
「カシス、恩に着る!」
 アルにばふっと抱きつかれたカシスは、渋面を作った。
「おい、てめえのベタ甘芝居には反吐が出てるんだ。これ以上、俺を巻き込むな!」
 カシスの毒舌など耳タコのアルは、まったく聞いていない。
「パールにはオパールは子供と一緒なんだよ。結婚の危機だった。あんたは恩人だ。ありがとう!」
「あー、もう。何でもいいからベタベタするな! 気持ち悪い! 熱はすぐ下がると思うが、今日はもう連れ回すな。ここで温かくしとけ。泉に連れ込んだりすんじゃねえぞ?」
「わかった」
 
 というわけで、イズミとリィンとエクルーは、オパールの看病をしながらジンの家で勉強合宿をすることになった。自動的にキリカとアルテミスも一緒に武藤家のサンルームで寝て、ルナもちょくちょくのぞきに来る事になった。


「だから、オパールは今日は所長のうちで入院」
 パールは泣きそうな顔になった。
「もう熱は下がっているんだよ? 痙攣もすぐ止まったし、夕方にはちゃんとミルク入りの鳥スープを食べた。さっきも機嫌良さそうにぷーぷー寝てた。ただ、身体を冷やさないために預かってもらったんだ」
「やっぱり、昨日子犬と遊ばせたりしなければ……」
「そんなことないよ。大事なことだ。子供は遊んで社会勉強するんだから。オパールだって喜んでたろ?」
「でも、こんなケガをして……」
「噛み傷自体は全然、大したことなかったんだって。ただ、子犬の牙は細いから深くなっちゃっただけで。たまたま傷口に菌が入っただけだよ。カシスが言ってたぜ? 子供はこういうことを通して、抵抗力をつけるんだってさ」
「……そうよね。ロードもしょっちゅう大怪我をしていたわ。でもちっとも大人しくしていなくって……男の子ってしょうがないわね」
「そうそう。おかあさんは、どーんと構えていなよ」
 パールの顔に笑みが戻ったので、アルは安心した。
「それでね、今日は、もうひとつ騒ぎがあったんだ」
「もうひとつ?」


 オパールの熱が下がって、ジャマっ気なカラーも気にせずくぷーくぷーと寝入ったころ、リィンの妹のミイケがルパでジンの家にやって来た。
「少佐に伝言です」
「ああ? 今度は何だ」
 伝言は、シモン・クロムハーツからだった。再三の要請に従って、エイロネイアに帰る。世話になった。郵便物の転送は止めるが、間違ってこっちに来たらよろしく、とあった。
「……」
 カシスが珍しく絶句している。
「伯爵なんだって?」
「しっぽの兄ちゃんの叔父さんとやらを、エイロネイアに連れて帰ったらしい」
「えええええええええええー!?」
 イリスとミイケ以外の全員が声を上げた。ミイケがため息をついた。
「伯爵は、ジーラッハ叔父さんと一緒じゃなきゃ帰りたくないって言ってたのね? それで、メドゥーラお婆さんが”エイロネイアは暖かいから、ジーラッハの肺にもいいんじゃないか”って言い出して……叔父さんも、イドラから出たことないから面白いかもって……一緒に泉に入って行っちゃったの」
「でも何で今頃? エイロネイアの仕事だって、新年はお休みじゃないの?」
 イズミが質問した。イドラの暦の新年は立春前後の新月の日で、その日も静かに泉に祈りの歌を捧げるだけで騒いだりしない。だが、カルミノやエイロネイアの新年の習慣は知っていた。
「秘書という名目で連れ帰ったらしいが、年末から新年のパーティーで奴さんを見せびらかすつもりじゃねえか?」
「……女装させて?」
「……」
「確かにジーラッハは、中性的な魅力があるけどね」
「もともとイドリアンの服装はユニセックスだけどね」
「……」
 一同、黙り込んでしまった。
「お婆さんは、暖かくなったら連れて帰ってくればいいって言ってたけど……そんな見世物みたいな扱いを受けて、叔父さんは幸せかしら?」
 ミイケは涙ぐんでしまった。
「大丈夫だよ。叔父さんだって、身体はちょっと弱いけど一人前の男なんだし。イヤなら泉を通って帰ってくるって」
 リィンがなぐさめた。
「本当?」
「まあ、あの変態侯爵でも、監禁したうえ夜な夜な襲うようなマネなしないだろう」
 ミイケが悲鳴を上げたので、ルナがカシスの頭をすぱんと叩いた。
「ムダに不安がらせるんじゃないの。シモンはジーラッハに会って、悔い改めたんでしょ? けっこう2人で清く正しく、本読んだり観光するつもりかもしれないじゃない。いいコンビかもよ?」
「独身の中年男2人組……?」
「ホームズとワトソン?」
「ポアロとヘイスティング?」
「ええい、怪しい例ばかり挙げるな! そんなに心配なら、そのうち誰か見に行けばいいでしょう?」
 ルナがいらいらして啖呵を切った。
「あ、じゃあ俺……大学の下見を兼ねて行ってみるよ」
 リィンが申し出た。
「じゃ、俺、付き添います」
 エクルーも立候補した。
「愛しい陛下の顔を見にか?」
 せっかくミイケが胸を撫で下ろしたのに、カシスの突っ込みでまた混乱してしまった。
「姉さん、この人たちの冗談を真に受けちゃだめよ? おたおたしてると、暇つぶしの餌食になるだけよ?」
 イズミは姉をなだめて、集落地に帰した。


「すみません。うちの人間がお騒がせして」
 冷静なイズミの言葉に、ルナは笑ってしまった。
「それ、本当は私が言わなきゃいけないセリフなのかもね。まったく男って」
「本当に……」
 2人は顔を見合わせて、ぶっと噴出してしまった。
「お陰で退屈しないけどね」
「まったくこの研究所は……イドラの頭脳かと思っていたのに、大きな子供が集まって何をやってるのやら」
「遊んでるのよ。研究と称して一日中、いい大人が」
「そうみたいですね。まあ、楽しそうでいいことだわ」
「そうね。勝手に遊んでてくれて、手がかからないわ」
 2人の女は声を立てて笑った。狼の子はみんなの笑い声を聞きながら、くぷーくぷーと眠りこけていた。









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*COMMENT-コメント-
▽くろむはーつっ!!
あ、まだいたんだとおもった無礼者です。
ごめんなさい大好きだよシモンさん。こんど泉に落とされてシュアラに来てね(←)

もうもうもうーっヴァルさん私をどこまで骨抜きにすれば気が済むのですか!!
アルのパールを想う気持ちが…とっても強くて、パールはとろけるように幸せだろうなあとおもわずにはいられません…っ。いいなあいいなあアル素敵っ!
本気で、パールになりたいです(…)

ふふふ。カシスがなんやかんやでしっかり面倒見がよくて、ぐっじょぶw
▽1610…
カウンターのまわりすごいですねっ。
もしかしたら隠れファンができてるのかもしれない…///←
▽シュアラ行き……
ええと、ジーラッハと一緒に行ってもいいですか? 建築とか意匠に興味があるらしいので、シュアラの街も見せてやりたいんですが……ただ、彼が身体が弱いので、遊びに行くのは春以降にしますね。
(更生したらしいシモンより)
▽ぷぷぷ
「リィン。代数幾何学は『多項式=0が作る図形を研究する学問』。
 幾何学論と複素多様体論にわけられるけどね、自然界には綺麗な放物線を描いているものだけじゃないだろう? 海岸線やゴムのわっかなんかを見て。複雑な曲線にまつわる事象にははずせないよ。
 イドラの自然を他国に伝えたりしたいんだろう?」
…とか言いつつ親の私が代数学程度しかやってないので、的外れだったらごめんねリィン(笑)。
以上、王立研究院所長からのお言葉でした。

カシス、アル…お前ら親子だなあ(笑)
ぽっと出のリクエストに答えてくださってありがとうございます。腹抱えて笑いました。次世代のイドラの魔女たち、って感じですねえ。たくましい。
ジーラッハっ! 無事に帰ってきてね(笑)。それとも一緒に大学見学でもしていく?
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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