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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『山笑う』  (ヴァル)

アルス兄やん……もしや、弟をダシに使った”ナンパ”?

何だか、アビーがかわいくなっちゃった。
第一印象は良かったらしいんですよねえ。


 ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ #####



 アルスが国境近いその町に行ったとき、大して期待があったわけではなかった。行方不明の弟が自分に会いたがっているのか定かじゃない。もし見つけても、自分の顔を見て駆け寄ってきてくれるとは思わない。むしろ、自分から隠れるかも知れない。それでも、ただじっと待っていられなかった。少なくとも、自分は彼の帰りを待っている、会いたいと思っていると伝えたかった。弟が大それたことをするとは思わないが……今、例えば敵と対峙した彼が真剣に自分を守ると信じることができない。彼は、死に場所を求めて彷徨っているんじゃないだろうか。

 そこは関所に続く街道沿いの宿場町で、異邦人が多く市場も賑わっていた。国内の心当たりは探し尽くした。ここで手がかりが無ければ国外に行くしかない。許可証を持ったカルミアンの出店もあって、町には独特の匂いが漂っていた。いろんな言葉にいろんな音楽。シュアリアン、カルミアン、トラキアも混じっているか……。見たこともない食品。見たこともない衣装。このまま何もかも忘れて、世界の果てに漂って行けそうだ。


 その時響いていた声が、アルスの郷愁とも憧憬ともつかない心もとなさを吹き飛ばした。少しハスキーなアルト。だが、凛とよく通る。自分の背を越す荷物を積んだ背負子を肩にかけているが、その重さを感じさせない姿勢の良さと身軽さ。風変わりなマントと頭巾を被っていて、顔がよく見えない。長身に長い手足。男にも女にも見える。三角を2つつなげたような頭巾から、ピンクがかった明るい色の髪がこぼれていた。音楽的な独特のなまりがある。

「そのレートはおかしい。昨日の公定歩合は2.85だったぞ」
「お若いの、あんたは何もわかっとらん。歩合など刻々変わるもんだ。ましてこのご時世だ」
「どういう事変があったか知らんが、いきなり倍に上がってたまるものか」
「これでもサービスしているんだよ? 政情不安で異国の行商人が困らないように、保護策を取っているからな」
「しかし……」

 アルスは両替商と旅人の会話に割って入った。
「主税寮のものですけどー。何か問題ですかあー?」
 間の抜けた声に、両替商の男が胡散臭げに眉を上げる。
「主税寮?」
 アルスは左腕に巻いた萌黄色の絹の肩章を指差す。
「ええ。ここ数年関税収入が減ってるもんで、ここの受領さまがちょっと困ってらしてですねえ。お上から私が視察に遣わされたというわけでして」
「細川様が?」
「いや、このご時世ですからねえ。行商人が減ってることはお上もご承知なんですけどね。商人の関税を下げようか、なんて話も出ているぐらいで。まあ、とりあえず私が現状を報告させていただくってことで」

 アルスの見ている前で、両替商は公正なレートで旅人に通貨を渡した。旅人は頭巾の影からちらっとアルスを見上げると、ぺこ、と頭を下げて街道に戻って行った。その瞳は明るい若草色だった。
「ねえ、待って待って。旅人の話も聞きたいんだ。ちょっといいかな」
 肩をつかんだアルスを、若草色の双眸がじろっとにらみ返す。
「あっ、調査に協力してもらうわけだからさ、もちろんごちそうするよ。昼飯どう? もう喰った?」


 木の芽丼をかっこむ間、旅人は一言も話さなかった。アルスがいろいろ話題を振っても一切無視。
「あの……肉うどんも食べる?」
「きつねにしてくれ」
「あ……うん。じゃあ、きつねうどん追加」
 仕方ないので、アルスはお茶をすすりながら旅人を観察していた。きれいな目の色だ。髪の色も変わっているよな。ピンクのようなオレンジのような。ストロベリー・ブロンドってこういう色をいうのかな。まつ毛長い……。眉毛も長いんだな。銀色でぴんと立ってる。大きな目だ。明るい緑色で……ペリドットの宝玉のよう。太陽を連想させるエネルギーにあふれた黄緑色。独特な顔つきだよな。こう……鼻先が突き出て、あごがひっこんで……リスか猫のよう。こんなにまじまじ見てても、男か女かわからない。どっちにしろ……きれいな顔だ。食事中なのに、背負子を下ろそうとしない。よっぽど貴重な荷を積んでいるのか。荷のせいか、重心の位置というか姿勢も独特なんだよな。普通の人間より後ろの方に重心がある感じがする。いずれにしろ、ムダのない、美しい動きだ。どこの国の人間なんだろう。 

 うどんのつゆの最後の一滴を飲み干した旅人は、箸を置くときちんと両手を合わせた。
「馳走になった。礼を言う」
 そう言い残して立ち去ろうとするのを、手をつかんで引き止めた。
 細い指だ。思いがけないほど強く、アルスの胸が高鳴った。こいつ、女だ。アルスをにらむ目に怯えの色がある。しかも、まだ少女といってもいい年じゃないか。
「ごめん。もう一度座ってよ。君の話が聞きたいんだ」
 手を放すと、自分を守るようにつかまれていた手を胸に押し付けて腕で囲い込んでいる。どうして男か女かわからない、なんて思ったんだろう。こんなに可憐な女性だったのに。

 手を解放されたことに少し安心したのか、風変わりな女性は再びそば屋の椅子に腰を落ち着けた。しかしまだ、目は警戒の色を浮かべて重心をつま先に置いている。
「あんた、役人じゃないんだろう。何が望みだ?」
 潜めた声で聞いてくる。
「うん、役人じゃない。僕はここで弟を探しているんだ」
 アルスはあっさり認めた。
「弟?」
「行方不明になってもう丸2年になる。彼の恋人が死んで……彼も姿を消してしまった。シュアラ国内の心当たりは探しつくした」
「一人前の男なんだろう? 気持ちが落ち着いたら自分で帰ってくるんじゃないのか?」
 旅人は眉を顰めたまま、低い声で意見を述べた。
「自分のうちにならね。彼は養子なんだ。でも僕は帰って来て欲しい。彼にまた会いたい。でも、彼がまた僕に会いたいと思ってくれているか、自信がないんだ」
「……」
「君は外国人らしいし、旅慣れて見えたから。何か弟の消息を聞けるかもと思ったんだ」
 正直な言葉に、旅人はようやく重心を落ち着けた。
「どんな男だ?」

 アルスの説明を注意深く聞いた末に、旅人は首を横に振った。
「残念ながら、そんな男は見たことがない。それほどの剣の使い手でそんな容姿なら多分目立つだろうし、噂にも立ちそうなものだが」
「そうか……でも、これから君の行く先で何か聞いたら……」
「わかった。気をつけておこう。もし何か見つけた場合、どうやってあんたに知らせればいい?」
 アルスは修学院の自分の研究室の住所を渡した。
「ここで教諭をしてるんだ。自宅よりこっちにいることが多いし、確実だから」
「わかった」
 旅人は書付けを丁寧に外套の内ポケットにしまった。
「私はアビゲイル。アビゲイル・イネスだ」
「初めて聞く名前だ。でもきれいな響きだね。どこの国か聞いていい?」
 少女は困惑した表情で首をひねっている。
「あ、ごめん。ムリに言わなくていいよ」
「いや、そういうわけじゃない。私達の土地には、王様も政府もない。だから”国”という言葉が当てはまらないと思うんだ」
「へええ」
 王家も政府もない土地。それは何て魅力的な響きだろう。
「じゃあ、もめごとなんかあった時、どうやって解決するの?」
「話し合いで……かな。集落地ごとにまとめ役がいるし、長老や薬師に意見を聞いて……いよいよ判断に困ればミヅチに・・・・・・」
「ミヅチ?」
 旅人はしまった、という顔をした。つい口をすべらせてしまったらしい。アルスは首を屈めて声を落とした。
「それでわかった。君はイドリアンだね」
 警戒の色を強めた少女を安心させるように、アルスは言葉を重ねた。
「心配しないで。僕の生徒にイドラからの留学生がいるんだ。彼らの話を聞いてるうちにすっかり惹きつけられて……実際に、彼らと一緒にイドラを旅する計画まで立ててたんだ。その矢先に弟のことがあって……」
 アビーがまだ信用しかねる顔をしているので、アルスは流暢なイドリアンで言った。
「場所を変えよう。空と風の下で話そう?」


 苔むした道祖神の石像が立つ町外れの木立まで来ると、2人は会話を再開した。アビーは、まるで弱みを握られたような神妙な表情で無言のまま、アルスについて来ていた。
「彼らの父親がシュアラからイドラに移住した人らしんだけどね、彼らはイドラ生まれなんだって。いろいろ聞いたよ。ルパの野駆け競争、ホタルで飛ぶ話、ペヨの実、コケモモ、サルナシ……僕は専門が人文学なもんだから、イドリアンの生活が見てみたくなって……春祭りを見に行く計画だったんだけどね」
 思い出をたどるうちにアルスの口元に微笑が浮かんできた。まだ何もかも明るかった時代のことだ。
 
「ルパの毛で織った肩掛けをもらったんだ。強くて賢くてかわいい動物だって。君も見たことある?」
「もちろんだ。うちでも飼っていた。イドリアンの子供の朝は、ルパの乳絞りで始まるんだ」
「へええー」
 話をしているうちにアビーの気持ちもほぐれてきたようだ。形の良いくちびるに微笑みがこぼれるようになった。その笑みに力を得て、アルスは思い切って聞いてみた。
「あの……頼みがあるんだけど」
「何だ?」
「……耳としっぽを見せてもらえないか?」

 大陸ではイドリアンのことはあまり知られていない。アビーは人目につくことを怖れて、長い耳としっぽを頭巾と背負子に隠していた。若葉が萌え始めた柳の木陰で、アビーはそっとその姿を曝した。温かみのあるオレンジがかったキツネ色のつややかな毛に包まれた耳としっぽ。
「触ってもいい?」
「……うん」
 絹のような手触り。朴訥な言葉以上に感情を豊かに表すその動き。イドリアンとは何て美しい生き物なんだろう。
「いつか……弟が見つかって、時代が落ち着いたら……イドラに行きたいな」
「うん、来たらいい。いいところだ。お前には面白いだろう」
「そのとき、案内してくれる?」
「私がそのとき、イドラにいたらな」

 いつともつかない、淡い約束をして2人は別れた。アビーは知らなかった。このときのアルスが、本来のアルスでなかったことを。弟を探し疲れた感傷で、活性値が半減したためにまるで普通の人のように見えていただけだということを。
 数年後、再会しなければ美しい思い出のまま想っていられたかもしれない。しかし、もちろん彼らは再会するのである。 
 

 
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*COMMENT-コメント-
▽アビーさん…
感傷に浸ってる阿呆に騙されちゃあかんよ…ほんとに(笑)。
しっかり惚れとりますね、兄やん。
それでいいのか、兄やん。

アビーさん、かっこいいなあ。兄やんにはもったいないかも(オイ)。

記事詳細ページの次のリンクのところ、gt;gt;とかいう文字になっていたのを修正しました。gt;gt;というのは&amp文字表記というんですが、意味は今の表示と一緒です。本当はこういう表示になるはずなんですが、上手く読み込まれないのかな?
▽猫にまたたび……
イドリアンに弱いのは、エイロネイア貴族だけじゃないんですね。
そうそう、そのナゾの呪文、よく現れるんですよー。ゆっきーの呪いだと思っていました。ごめん、ゆっきー。
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目次(ヴァル)
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織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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