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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『玉響詞(タマユラノウタ) 1』   (ヴァル)

すおみろい、”珠の海”編です。
クリスマスまでに海に行けるのか?
いい年こいて、ちっとも進展しないが、本当に来年双子を生めるのか?

とりあえず、やっとスオミ先生も意識したようなので、これからですね。


 ===== ▽ ===== ▽ ===== ▽ ===== ▽ =====

 額にザリザリと慣れない感触がある。寝返りをうとうとして、スオミは身体が重くて身動きができないことに気がついた。腕が固定されている? 薄く目を開けると、目の前に男ののどぼとけがあった。

「!」
 思わず両腕をつっぱると、頭上から声がした。
「先生、目が覚めたんすか?」
「ク……クロイツくん!?」
「ちょっと失礼」
 パニックになっているスオミを尻目に、クロイツは額や手首に手を当てて診察している。
「うーん。脈拍が速いなあ」
「それは驚いたからです!」
「ああ…そっか……ちょっと失礼」
 クロイツがひょい、と上掛けをはいで足を触ったので、スオミは声にならない悲鳴を上げた。
「うん、爪先も温かいすね。先生、すぐ火を起こしますから、部屋が暖まるまで布団に入っていて下さいよ」
「クロイツくん、あの……」
「質問は後!」
 有無を言わさぬ迫力に負けて、スオミは大人しく寝床に丸まった。どういうこと? どうして私、クロイツくんと同じベッドに寝ていたの?

 クリークにはまったスイを助け出したのは覚えてる。息の戻らないスイを追いかけて……川を渡ろうとした。父に会えると思ったのに……声しか聞けなかった。そうして……。その後の記憶はあいまいだ。でも、ずっとクロイツくんが側にいた気がする。いつも声が聞こえた。いつもぬくもりを感じていた。

『俺、先生のこと好きです』
 唐突に記憶の断片が蘇った。そう言って、クロイツくんは私を抱きしめて……キスした。あれは本当のこと? それとも夢? でも私、覚えてる。クロイツくんの胸の厚みを。腕の力強さを。ネズの木のような爽やかな匂いを。背中に腕を回されたとき、何だかとても安心できたの……もう悲しいことは何もない、と思えるほどに。


 クロイツが両手いっぱい薪を抱えて、裏口から入ってきた。暖炉の前にずるずるとソファをひきずっていき、その上にクッションを3つ載せる。
「よし、先生、移動です」
 抗議の声に構わず、クロイツはスオミを毛布でぐるぐる巻きにして抱き上げた。そしてソファの上にばふっと下ろすと、厳しく言い渡した。
「今、スープを温めますから。火の側にいてください。用があったら、呼んでください。いいすか?」
 スオミは思わずうなずいた。
 クロイツはもともとスオミに対して過保護なところがあったが、加熱している。スオミが怖気づくほどに。
「具無しのコンソメ・スープです。3日ぶりの食事っすからね」
 3日? 私、あれから3日も眠っていたの? 
 スープ・ボウルを持ったクロイツの顔がすぐ間近に来た。彼の体温を感じた途端、スオミの機能はストップした。
「先生? 顔が赤いですよ?」
 口はぱくぱく動くけれども、言葉が出てこない。
「熱が出たかな? スープよりお茶にしましょうか。吐き気はないすか?」
 ぱくぱく。
「薬師の婆さまが朝のうちに来ると言っていたから、診てもらいましょう。とりあえずひとくちでも水分を摂らないと」
 ぱくぱく。
「先生?」
「……なぜ」
 声が裏返ってしまった。
「なぜ、今朝……一緒のベッドに?」
「スープをひとくち飲んでくれたら答えます」
 口にスープを含んだけれど、味がわからなかった。
「の……飲んだわ」
 クロイツは厳しい顔で、スオミを見張っている。
「先生を温めるためです」
「あた……温める?」
「あっち側に行った後、魂のしっぽが向こう側に残ってて、身体が冷えるんだそうです」
「ああ……」
「フロに入れたり、薬酒を飲ませたりしたんすけど、油断するとすぐ氷のように冷えて、危険な状態になったので」
「お酒? 私、お酒を飲んだの?」
「朝夕に分けて……4回飲ませました」
「……覚えてないわ……私、ヘンなことしなかった?」
 酒癖の悪さは自覚している。最悪なのは酔っ払っている間の自分の所業を覚えていないことだ。
「……いえ、別に」
 答える前に沈黙があった。きっと何かやったのね。スオミはますます赤面した。

 いたたまれなく思っていると、薬師の婆さまがやって来た。
「おや、先生。やっと目を覚ましたね」
 あっという間にひんむかれて、身体中診察されてしまった。
「あの、でも、クロイツくんが……」
「何だろうね、先生まで。あの兄ちゃんは医者の見習いなんだろう? 先生の裸なんか大根と同じだよ」
「でも、あの……」
「いいから。仰向けに寝て」
 ごんごん、乱暴に背中を叩いた挙句、婆さまは宣言した。
「今日まで休み。ここで温かくしてお粥食べてなさい」
「そんな。診療所をもう3日も休んでしまったもの。今日は開けなきゃ」
「診療所はわしが見てるから、大人しく言うことを聞きなさい。来週の薬狩りに連れて行かないよ。いいのかい?」
 秋の薬狩りは、一番採集項目が多いのだ。休むわけにいかない。
「……わかりました」
 スオミが来るまでは、婆さまが60年、この集落地の面倒を見ていたのだ。これ以上安心して任せられる存在はない。
「いい子だ。……兄ちゃん、先生にだまされるんじゃないよ? うちから出さないように」
「了解っす」

 婆さまが帰ると、2人で残された。
 今まで2人きりでいて、居心地悪く思ったことないのに。呼吸の仕方を忘れたみたい。心臓が耳のすぐ横までせり上がった気がする。
 クロイツの手が額に触れた。
「やっぱり熱があるみたいっすね。もう少し寝ますか?」
「ううん。スープをちょうだい。体力を戻さなくちゃ」
 味がよくわからないまま、何とかボウル一杯スープを飲んだ。クロイツは満足気にうなずいた。

 それだけのことで、丸一日立ち働いたようにぐったり疲れてしまった。がんばってソファに座っていたものの、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 気がつくと、寝台に寝ていた。お腹のところにクロイツが突っ伏して寝ている。スオミの右手を逃がさない、というようにしっかり握っている。目の下に隈ができている。3日分の無精ひげの生えた、疲れた顔。ずっとついていてくれたんだわ。



 どうしてこんなに一生懸命にしてくれるのかしら?
『俺、先生が好きです』
 クロイツの言葉がよみがえって、また顔が熱くなった。でも、それだけじゃない。クロイツの保護意識には何か特別なもの……精神病理じみたものを感じる。

 幼い弟と2人、親に捨てられた、と言っていた。弟を保護して世話することで、不安や絶望に負けないように、自分を支えていたんじゃないかしら。その後もレアシスを支えて、守ろうと思う余り、命を落としかけた。この危うい自己犠牲……なぜこれほどまでに、人の世話に打ち込むのかしら。

 人は自分のして欲しいことを、人にもするものだ。クロイツは、本当はそんな風に誰かに守られたかったのじゃないだろうか。無条件に自分を犠牲にして守ってくれる存在……親の愛情をずっと取り戻そうとしていたんじゃないだろうか。

 スオミの眼に涙がにじんだ。自分が何の疑問も持たずに今まで受けてきた愛情は、こんなに貴重なものだったんだ。5歳で父を失って以来、ミヅチやメドゥーラや、サクヤ、エクルー、アル、キジロー……何の血のつながりもない人々が、無条件に自分を受け入れてくれた。私は自分の存在に疑問を持ったことなどなかった。
 クロイツは、人の世話のために自分を犠牲にすることで、存在意義を確かめてきたんじゃないだろうか。誰かに必要とされなければ、自分には存在する価値がないとでもいうように。


 スオミはそっと左手を伸ばして、クロイツの暖炉の火のような暖かい色の髪をすいた。
 子守唄のように、呪文のように、耳元にささやく。

 クロイツくん。あなたはやさしい人。強い人。暖かい人。
 あなたが好きよ。あなたがあなたでいるだけで、そこにいてくれるだけで、私はとても安心できるの。
 あなたにもそう思って欲しい。無条件で、ここにいていいんだと思って欲しい。
 家族といるように、安心して欲しいの。
 あなたがあなたでいるだけで、大切なの。ずっとそばにいてくれて、ありがとう。


 ほとんど声に出さずにつぶやいていたのに、スオミが『ありがとう』と言うと同時にクロイツが目を開いた。お互いの顔が20センチも離れていない。スオミはまた真っ赤になってしまった。
「先生?」
 声に出して言わなくっちゃ。クロイツくんが信じてくれるまで。
「ありがとう」
「え?」
「ずっと看病してくれてありがとう」
 クロイツはかなり長い間、じっとスオミの顔を見つめていた。
「……そんなこと言っても、外には出しませんからね」
 スオミはため息をついた。私って信用ないのね。
「わかってます。マジメに養生するわ。薬狩りに留守番くらったら困るもの」
「そうっすよ。まずは固形食喰えるようになってください」
「はい、がんばります」

 とりあえず、強くなろう。クロイツくんが安心できるくらい。クロイツくんを守れるくらい。まだ2人でいると心臓がばくばく言うけれど、同時にほっとする気もするの。どっちかががんばって守るんじゃなくて、2人とも安心できるといいな。
 あ、また眠くなってきた。でも次に目を覚ましたら、私はもっと元気になっているはず。そうして、また一歩近付いているはず。理想の家族ごっこに。みなしご同士、おままごとをすればいいのよ。クロイツくんはおとうさん、私はおかあさん、エノはこども。こんやはしちゅーですよ。とんとんとん。にんじんきって、じゃがいもきって、ことことこと。おかえりなさい。ごはんですよう。いただきます。おいしいね。






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*COMMENT-コメント-
▽ちょっと泣きそう
最近、涙腺弱くなって駄目ですね。
クロイツ、良かったね。こっちで生き延びて正解だったね。
うちのキャラクターでは絶対に与えられなかったものを彼に与えてくれたスオミ先生に感謝。
本当にありがとう。不出来で不器用な息子をどうかよろしく。
▽おままごと
この甘々モードのまま、騒動に突入します。
砂吐かないでくださいねー。
”おとうさんとおかあさん”って意味わかってるのかねー、スオミ先生?
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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