忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.071 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

『玉響詞(タマユラノウタ) 2』     (ヴァル)

噂のクロムハーツ君、登場。
うぷぷ……困ったクン書くの楽しかったです。

クロイツくん、負けるな!


 ===== ○ ===== ○ ===== ○ ===== ○ =====

 ようやく薬師の婆さまから許可が下りて、スオミが診療所を開いた初日、思わぬ客が爆弾を届けに来た。
「少佐!? どうなさったんですか?」
 クロイツが素っ頓狂な声を出した。
「そこまで驚くこたあないだろう。俺も驚きだがな。朝っぱらからメッセンジャー・ボーイやるほど親切に生まれたつもりはなかったからな」
 スオミとクロイツは顔を見合わせた。
「まったく、おえらい連中の気まぐれな思し召しには困ったもんだぜ」
 いつものくっくっくという笑い声をこぼしながら、白髪の魔道技師は仰々しい押韻のついた封筒を差し出した。
「これは……?」
「有難迷惑な善意の押し売りだろうな。あのボンボンの考えることだから」
「ボンボン?」
「というわけで、俺も薬狩りに付き合うことになっちまった。まあ、そちらもご苦労さんだぜ。じゃ、来週な」

 カシスが帰った後、2人は顔をつき合わせて封を切った。
「何ですって?」
「薬狩りの視察に、緑十字財団の新しい総監がいらっしゃるんですって」
「視察?」
「その総監というのが……シモン・クロムハーツ伯爵なの」
「誰です、それ?」


 シモン・クロムハーツは、当時まだ子爵だったが、スオミのエイロネイア留学時代の先輩である。2学年上で、スオミが入学した年、シモンは学生舎監留学生係という役職についた。そもそも教務にも留学生担当の専用事務官がいるし、それとは別に留学生相談室なんていうものも設けられている。だから学生の留学生係の実務など、はっきり言って半年に1枚型通りの報告書を出すだけなのだ。だというのに。

「クロムハーツ卿ってねえ、何というかとてもマジメで熱心で優秀な方なのよ」
 スオミは、”人の悪口は言いたくないんだけど”という顔で打ち明けた。
「いい人じゃないですか」
 クロイツは何だかいらいらした。スオミの学生時代の友人が、わざわざ会いに来る。何のために?
「1000年は遡れる名家の御曹司でね、それをとても誇りに思っていらして、でも誰にでも親切なのよ」
 スオミは困りきった顔で片手を額に当てて、大きくため息をついている。
「……何が問題なんですか?」
「並外れて熱心で親切で、そんなご自分の行動に何の疑問も持たないところが問題なの」

 
 真相はこうだ。
 スオミはクロムハーツ卿のおかげで、3年間の留学期間、友人がほとんどいなかったのだ。もともと6年から7年かかる医学院のプログラムを3年で修了したのだから遊ぶ暇など無かったのだが、それでも行く先々で陰口を叩かれ、実習のパートナーも見つからず、優秀な成績さえクロムハーツの権威で嵩上げされたもの、などと言われては、居心地がいいはずなかった。良かったことといえば、解剖実習のパートナーがいなかったせいで、すみずみまで自分で執刀できたことぐらいだろうか。それでも、4人組のグループより手際がよく、最高点を取ったレポートは未だに手本として学生の間で参考にされている。

「私の入った年に”辺境教育向上制度”とかいうものができて、私はその特別枠で入った第一号の学生だったの。しかもイドラからの最初の留学生。それで、クロムハーツ卿もとてもはりきってしまったみたいなのよ」

 入学式の後、スオミは学生舎監室に呼び出された。
 特別枠で、しかも学費全額免除の特待生として入学できたのは有り難いことだと思っていた。そうでなければ、お金のかかる医学院など進学できなかっただろう。でも、それは別にクロムハーツ卿のおかげではない。
 シモンは大学代表とでもいうように、大様に大仰にスオミを励ました。
「君には期待しているよ。がんばってくれたまえ」
 スオミは神妙に御礼を言って辞した。

 学生舎監との面会など、これで卒業までないだろうと思っていたら……3日後にまた呼び出しがかかった。翌週にも。その次の週にも。
 最初の面談で、世間知らずのスオミにもわかっていた。それでいつも、必要最低限の言葉だけを非礼にならないように話すようにしていた。それでもどうしても騒動をさけられなかった。
「何か困ったことはないかね?」
 シモンは整った鼻梁に洗練されたしぐさで人差し指を当てて、鷹揚に聞く。
「いえ、このような設備と制度の整った大学で教育の機会を与えていただいて、本当に恵まれていると感謝しております」
 スオミは型通りに答える。でも、シモンはあきらめなかった。クロムハーツ家の威光を示したくて仕方ないのである。

「校内に女子トイレが少ないのが、不便といえば不便かもしれない、とつい言ってしまったらね」
 スオミが頭を抱えている。
「理事室の隣に、ロココ調のバス・ルームができちゃったの。もちろんタイルにクロムハーツの紋章入り」
「はああ」
 クロイツにもちょっとわかってきた。
「シャワーの他にローマ風呂。もちろん壁画はギリシャ神話。誰も利用するわけないじゃない。そんな施設。そのくらいなら、普通のトイレを10ヶ所作って欲しかったわ」

 一事が万事、そんな調子であった。スオミが追求を交わし切れずに口を滑らせる度に、校内にはた迷惑な仰々しい施設が増えていくのである。
「次はメリー・ゴーラウンドでも作ってもらえよ」
「食べ放題のソーダ・ファウンテンがいいな」
「そんなに勉強してどうするんだ? 卒業したらクロムハーツ家の妾になるんだろ?」
 陰口のタネはつきなかった。

「3年で縁が切れてほっとしていたのに……どうして今頃になって」
「”視察”というのは毎年来るわけじゃないんすか?」
「まさか。こんな辺境の土地に。この10年初めてよ」
「はああ。熱心なんすねえ」
「それが問題なの」

 スオミは困りきっているようだ。クロイツのいらいらは治まって、代わりに楽しくなってきた。
「お金に困ってない人なんでしょ? じゃあ、うまく誘導して役に立ってもらいましょうよ」
「役に……?」
「例えば図書館を作ってもらえばどうすか? 高校は? 最新型の織機を備えた絹織物工房は?」
 スオミは顔を上げた。
「そうか……そういう風も考えればいいのよね」
「図書館に何のマークがついてたって、子供には関係ないでしょ? ちゃんとこっちの要望を伝えればいいんですよ。ここにはもう、先生の陰口を言う人もいないんだし。学生時代の苦労を取り返してやればいいじゃないすか」
「……ありがとう。気持ちが軽くなった」
 それから薬狩りの日まで、2人は何を作ってもらったらイドラに一番役に立つか楽しく検討していた。


 しかしもちろん、現実はそんなに甘くないのである。

 舗装されていない荒地の街道には不向きな、装飾過多の馬車から仰々しいしぐさで降り立ったシモン・クロムハーツ伯爵を一目見て、クロイツは軽くショックを受けた。何となく頭の弱そうなボンボンを想像していたのだ。
 実際のクロムハーツ卿は、目の覚めるような美男子だった。長身で姿勢よく、腰まで伸びた黒髪はきれいなロールに整えられ、エメラルドの瞳に低い声。少女が夢想する王子様そのものだった。爪にはマニキュア、エナメルのブーツ。裾ひく絹のマント。……とてもフィールドワークに向いているように見えない。

 馬車の傍で、カシスが妙に楽しそうに見物している。薬草を研究しているメドゥーラ、ルナ、アカネ、イズミの他に、来年の研究発表に備えて、ジンも参加している。そうすると、ラボが開店休業になるものだから、アルやエクルーまで手伝いに来ていた。

 そんな並居るメンバーが迎える中で、クロムハーツ卿は純白の乗馬ズボンの膝を赤い砂地につけ、絹のマントを地面にひきずって恭しくスオミに頭を下げた。
「10年ぶりですね。美しくなられた。この再会をイドラの水神に感謝します。スオミよ。我が花嫁よ」
 そう言って、スオミの手の甲にキスを落とした。

 こうして、秋の嵐は青天の霹靂から始まったのである。





PR
*COMMENT-コメント-
▽うぷぷ…w
まづい…伯爵楽しすぎる…。こういう阿呆大好きだ。
花嫁、花嫁…!(だんだんだんっ(爆笑))
すごいわ…貴重だわ、こういう人材。エイロネイアの口達者な白黒コンビが何を言い放つか楽しそう(オイ)。
▽オペラで行きます。
シモン君の周りだけ、宝塚か田中芳樹なのです。
イドラの質朴剛健な世界で異彩を放ってもらいます。まだまだこれからだぜ~っ。シモンGO!
▽ぶっwwww
なにこにひと面白い…っあほがいるあほがいるっ(指さす町人A)シモンGO!(大爆笑)
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
2 3 4 5 6 7 8
9 11 12 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター