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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『玉響詞(タマユラノウタ) 3』     (ヴァル)

うーん、手ぬるい。
私が書くと、伯爵がイマイチ悪いヤツにならない。ただのオモシロイヤツになってしまう。

カシスが活躍しています。
メーちゃんと息が合っています。

まあ、伯爵は所詮、当て馬ですから……。
しかし、このままじゃ、れーくんに出てきてもらうまでもないような。


 ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ *****



 夏と同じように、薬狩りは野営地の設営から始まった。今回は勝手がわかっているので、クロイツも最初から活躍することができた。スオミはまだ時々ふらつくので、ムリをするなら送り返すよ、と婆さまに脅されている。しぶしぶ風の当たらないように天幕の内側で、火の側に座りながらリスト・チェックの係りをしていた。
「3日ここにいるつもりなら、大人しくすんだよ」
と脅しながら、苦い薬湯を飲ませている。

 そこへ、メドゥーラが入ってきた。
「メーちゃん!」
「リーちゃん!」
 クロイツは目をまん丸にして、2人のイドリアンの長老が女子高生のように再会を喜ぶのを見ていた。
「……リーちゃん……?」
「この人はアイリーンというんだよ。いい年して10年もイドラを留守にしてあちこちうろうろして来て……あんまり長いこと音信不通だから、
てっきり旅先で土に戻ったかと思ってたよ」 
「わっはっは。なかなか面白い旅だったもんでね。何十年も診療所の番をしてたのが、この姉さんのお陰で解放されたもんだから、つい羽を伸ばしてしまった」
「でも、ちょうどスオミがひっくり返ったときに、リーちゃんが居合わせてくれてよかったよ」
「たまたまじゃない。その程度の遠見ならできる」
「よかったよ。まったくこの子はいつもムチャをしてくれて……」
「さすがメーちゃんの孫だね」

 クロイツは迫力のありすぎる会話に圧倒されてしまった。でも婆さまがいたお陰で助かったのは確かだ。婆さまはスイが水に落ちる3日前にふらりと集落地に現れたのだ。10年ぶりなので、祭りのような大騒ぎになった。それが治まったと思ったら、スイの騒ぎがあったのだ。

 スオミが意識を失って、どんどん冷たくなっていった時、婆さまはクロイツをどやしつけたのだ。
「生きてる人間ってのはエネルギーがあるんだよ。しっかりお嬢ちゃんを捕まえて、あっち側にひきずられないようにがんばりな。さらわれたくないんだろ? ぶったたいてでも、突付いても、押し倒しても何してもいいから、こっち側に引き止めるんだよ。この子は、まだこの土地に必要なんだからね」
 3日間スオミに付き添いながら、クロイツはずっと考えていた。……自分も必要な人間だと思われたい。周りの人にも。先生にも。3年行方不明だったままの、幽霊のような存在でいたくない。かけがいのない存在になりたい……誰かの。

 先生は帰って来てくれた。俺の腕の中で目覚めて、俺に”ありがとう”と言ってくれた。それで十分だったはずなのに……俺はどんどん欲張りになっている。先生を独占したいと思っている。今は、先生と旧友との再会を喜ぶことができない。”花嫁”……あの言葉は社交辞令? それとも本気なのか…?


 イドリアンの子供達は、けったいな服装で何にでも大げさに驚くクロムハーツ伯爵がすっかり気に入ってしまった。代わる代わるイドラ特有の生き物を見せたり、ひっぱり回してリアクションを面白がっている。
 
 そもそも、緑十字財団の民族薬物学研究部門イドラ支部長としてメドゥーラがあいさつしたとき、シモンは目をまん丸にして思わずもらしたのだ。
「……喋った……」
 みんな怒るよりもあきれてしまった。よほどの田舎者ならいざ知らず、イドリアンの音楽と織物の素晴らしさ、独特の文化はエイロネイアやカルミノの都でも評判で、一時期はちょっとしたブームにさえなっていたというのに。
「そう。喋るし、書くし、こうして服も着ていますよ、新総監。それにしても急な交替でしたね。先の総監、シャーウッド卿とは50年近いおつきあいで、春にもお会いしたばかりですが、退任のご意思などないように見受けられましたのに」
 メドゥーラが珍しく慇懃なしゃべり方をしている。
「いえ、シャーウッド卿もお年を召して、激務が堪えるともらしていらっしゃったので……この若輩者が肩代わりを申し出たというわけですよ。はっはっは」
「それにしても、ご熱心なことだねえ。総監自ら現地視察なんて18年ぶりのことらしいじゃないですか」
 カシスが独特な圧力で探りを入れる。
「はっはっは。私も引き受けたものの、辺境の事情に無知なもので……こうして勉強に来たというわけです。こんな西の果てで……人が何を食べて生きているかも想像がつかないですよ」
「それはぜひ、いろいろ体験していただこうじゃないか」
「そうだね。せっかくの機会だから何でも体験していただこう」
 カシスとメドゥーラの間に妙な連帯感が生まれているのに、伯爵はまったく気付いていないようだ。
「いえいえ、おかまいなく。いつも通りの生活をしてください。来客用の特別なことなど必要ありません。みなと同じ体験を分かち合いたいのです」
「殊勝な心がけだ。せいぜい分かち合ってもらおうじゃねえか」

 それ以来、伯爵は子供達のいいおもちゃになってしまった。伯爵の『信じられない!』という感嘆が面白くて、みんな大喜びで、マネをした。コケモモを沢で洗って食べても、甘いカミキリムシの幼虫を生きたまま口に放り込んでも、『信じられない!』と卒倒しそうに驚くのだ。悪ガキたちは伯爵のポケットにイモリを入れたり、衿口からドジョウを入れたりしてからかった。お陰で、実務には思ったほど支障は出なくて済んだ。全員が共謀して伯爵からスオミを遠ざけていたので、スオミはてきぱきと”在庫が少ない薬草””秋にしか採れないもの””絶滅が危惧される要調査種”などをリスト・アップして指示を出していた。本当は自分がフィールドに出たくてうずうずしているのだが、婆さまに見張られている。
「ちゃんと、フウチョウソウが見つかったら呼んであげるから大人しくしてて」
「そうそう。ドードーカグラも、ちゃんと見つけてあげるから」
「ホント? ホントに呼んでね? お願いよ?」
 アカネとルナは、わざとにやにやしてスオミをからかった。

 
 そういうわけで、馬車から降り立った時のあいさつ以来、クロムハーツ伯爵は一切スオミに会えなかった。午後になって、ようやく我に返った伯爵はここに来た目的を思い出すと、ずかずかと本部の天幕に向かった。

「クロムハーツ卿!」
 スオミはいささか伯爵が気の毒になった。乗馬ズボンは最早白くないし、エナメルのブーツは泥まみれ。絹のマントはかぎがぎだらけで、行き倒れ寸前という風体なのである。そして、腰の周りに子供が7人ぶら下がっていた。
「スオミ嬢! 何てことだ! 今子供達から、あなたがつい先週倒れて命も危ないほどの容態になったと聞いたのです。なのに、もうこんな過酷な野営地に出て!お労しい!」
 伯爵はスオミの両手を握って、まくし立てた。もちろん天幕には、2人きりではない。子供が7人。クロイツ、メドゥーラ、婆さま。隅には日光に弱いカシスが寝っ転がっている。しかし、丸っきり目に入っていないようである。
「あなたの美しさを、こんな荒れ果てた辺境の地で損なうべきではありません! あなたの白い指は、私の庭園でバラを切っていてこそふさわしい。あるいは、私のサロンでハープを奏でていてこそ……!」
 カシスはメドゥーラにこっそり聞いた。
「あのお姉さんは、ハープなんか弾くのか?」
「いや。エクルーと違ってあの子は楽器が全然ダメでねえ」
 スオミはあっけに取られて、言葉が出てこない。
「あなたをぜひ、我が家に迎えたいのです。心配することはありません。この土地のことは、私が面倒みて差し上げます…! 立派な病院、設備の整った薬草園と研究所、原住民のための教育施設……! この辺境が文明開化を迎えるのです!」
 ノイシュヴァンスタイン城のような壮麗で装飾過多な病院が頭に浮かんで、スオミは少し眩暈がした。
「答えは急ぎません。ゆっくり考えてください! でも、この薬狩りが終わるまでに、あなたを口説き落として見せますよ……!」
 伯爵は華麗なポーズを決めると、腰の周りに子供を7人ぶら下げたまま、天幕を出て行った。

 呆然としたままのスオミに、婆さまは聞いてみた。
「ご感想は?」
「……もう、笑っていいでしょうか?」
「どうぞ?」
 スオミは発作を起こしたように、ひとしきり大笑いをした。笑いすぎて、涙が出たほどだ。しかし、クロイツには笑えなかった。
「お嬢さん、笑ってていいのかい?」
 カシスが聞いた。
「だって……とても本気とは思えないわ。あんな申し出……」
「いや、本気も本気。大マジメなんだと思うぜ?」
「どういうことだい?」
 メドゥーラは聞いた。
「ヤツは早急に結婚しなくちゃいけない事情があるんだ。正妻に逃げられたんでね。その理由というのが……屋敷に別館を3棟作って、それぞれに妾を住まわせたから、というもんらしい。今から年末にかけて、大きな行事がいくつもあるが……夫婦参加が原則だ。一人じゃ格好がつかない。社会的信用もガタ落ちだ。ヤツは大急ぎで婚約者を仕立て上げて、体裁を立て直したいというわけ」
「そんな……そんな理由で!」
 ずっと黙っていたクロイツが大きな声を出した。
「今、エイロネイアではヤツの一大ロマンスが評判だぜ? もちろん、ヤツ自身が広めてるんだが」
「ロマンス?」
「身分違いを理由に結婚を反対されていた恋人と、最近再会した。僻地医療に献身するかつての恋人を迎えたくて父親を説得し、父も今際の際でやっと2人の中を認めてくれた。正妻と離縁して準備も整った。10年越しの大恋愛がやっと成就するってな筋書きらしい」
「……」
「しかも、ヤツは今緑十字財団の総監。ここの診療所の運営費も、医学生の留学枠もヤツ次第なんじゃないのかい? お嬢さんが求婚を断ったら、援助打ち切りなんて言い出さないとも限らないぜ?」
「そんなバカな。クロムハーツ卿は確かにはた迷惑な人だけど、そんな公私混同は……」
「しないってか? お家の威信をひけらかすゴリ押しは得意技じゃねえのか?」

 スオミは医学院の中庭を思い出した。庭の隅で卵を孵したオシドリが、雛を水場に誘導するのをスオミは手伝っていた。その現場をたまたま、シモンに目撃されてしまったのだ。すぐさま大工事が始まって、中庭は生垣と噴水と水路で描かれた幾何学模様に整えられてしまった。もちろん、翌年からオシドリは繁殖しなくなってしまった。
たとえクロムハーツ卿に悪意はなかったとしても、彼にはスオミの大事にしているものが理解できないのである。あの権力、財力と熱心さを持ってすれば、スオミの生活のすべてであるこのイドラの診療所も、簡単にひねりつぶされてしまうかもしれない。あのオシドリの巣のように。
 だからって、クロムハーツ卿と結婚するなんて考えられない。スオミは思わず、クロイツを見上げた。クロイツもスオミを見つめていた。これは私の問題だ。私が自分で決めなくちゃいけない。でも……私はクロイツくんに何て言って欲しいんだろう。私はどうしたいんだろう。

 スオミの顔色が悪いので、婆さまは火の側で横になるように言いつけた。
「お兄ちゃん、リストの見かたはわかるんだろう。先生と交替しな。他の人間はみんな出た出た。先生は安静だよ」
 天幕にスオミとクロイツだけが残された。お互いに背を向けて、会話もなく、でもお互いのことだけを考えていた。お互いのこれからのことだけを。  






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*COMMENT-コメント-
▽わっはっは
とりあえず「リーちゃん」「メーちゃん」にまず噴き出しました。婆さま、マジっすか(笑)。
阿呆がいる、阿呆が(笑)。
確かにリーサルウェポンが出るまでもないかもなあ(笑)。

って、少佐、身体が弱いのはわかるが少しは手伝え。
▽華麗なポーズに吹き出しました。
エルザ「萎えー」
パール「王女、新聞は投げ捨てるものじゃありませんよ」
エルザ「だって、見てよパール。エイロネイアのこの一大ロマンスってでかでかと書いてあるから意気込んでみてみたら……ただのおっさんの過剰妄想じゃない。伯爵じゃなくてばかしゃくよ。馬鹿爵。こんなだったらアルとパールの関係の方がよっぽど大ロマンスだわっ!!」
パール「まあ、王女ったら//////」
アル「照れるなあ」(なぜかいる)

きっとエルザは噂を聞きつけるだろうと思いまして。〝ロマンス〟に敏感ですから(笑)
▽ちなみに…
シャーウッド卿は、メドゥーラが聴講生としてエイロネイアに短期留学したときの同級生で、熱心なファン。メドゥーラがムーアと結婚してからもあきらめず、寡婦となったメドゥーラに求婚し続けた。今や盟友……。
▽通りで…
メーちゃんの対応がこなれているわけだ(笑)
エイロネイア貴族はイドラ住民に弱いのか?
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目次(ヴァル)
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織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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