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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『玉響詞(タマユラノウタ) 4』

何だか、だんだん何を目指しているのかわからなくなってきました。
でも、とりあえずカシスが楽しそうです。

クリスマスに間に合うのか?

 ===== ○ ===== ○ ===== ○ ===== ○ =====

 クロムハーツ伯爵の朝は一杯のカフェオレで始まる。
 窓にかけた紗を通した柔らかい光が、寝台の天蓋の中にも差し込む頃、金の台をからから押してカフェオレが届けられる。
「じい。今朝は軽くトーストしたマフィンにしてくれ。それとポーチド・エッグ。マフィンにはバターといちごのジャムを」

「ポーチド・エッグって何?」
 薄目を開けたシモンの顔をガラス玉のような大きな目玉が複数のぞき込んでいる。金色、緑、紫、水色。右肩が重いと思ったら、猫のように小さな子供が丸くなっている。シロクマの毛皮のシーツだと思っていたものは、この子供のしっぽだったらしい。
「キール、お寝坊さん。起きなさい。パンケーキが無くなっちゃうわよ?」
 まん丸だった塊が、しなやかに伸びた。バネのようにベッドに起き直る。
「パンケーキ!」
「まだ食べてないのは、伯爵とキールだけよ。顔を洗って早くいらっしゃい」
 5歳くらいの少女がおしゃまな口を利く。

 まだ状況を把握できないまま、伯爵は子供達にずるずると沢に連れて行かれた。キールは石に足をかけて、しゃぶしゃぶ気持ち良さそうに顔を洗っている。
「私にこんな不衛生なところで顔を洗えというのか? 第一、冷たいだろうっ?」
 毎朝、お湯でしぼったタオルで顔をふいてもらうのに。それからぱりっとしたシャツに袖を通すのが習慣だった。着のみ着のままシャワーも浴びずに寝たので、まるで浮浪者になった気分だ。しかし予想に反して、ぐっすり眠ってしまったらしい。
 しぶしぶ指先を沢につけたら、きりっと冷たい水が気持ちよかった。伯爵は顔を洗うより前に、両手ですくって水を飲んでみた。昨日からほとんどろくなものを口にしていないので、のどが渇いていた。土に触れた水も、その水で洗った食器にも、ましてやケモノ臭いヤギの恐ろしげな目玉や脳みその入った煮物には口をつけられなかったのだ。我慢できずに口に含んだ沢の水は……甘い。気がつくと夢中で飲んでいた。それから、水を顔に浴びせかける。爽快だった。

「パンケーキ、焼けましたよー」
 石の上で焼いたものなど不衛生な気がして、昨日は手を出さなかった。だが、ほかほか湯気を立てて甘い匂いのするケーキを差し出されると、伯爵は空腹に負けて食べてしまった。両手でつかんで、夢中でかぶりつく。
「コケモモのジャムもあるよ?」
 たっぷりケーキに乗せてもらう。端っこから垂れたジャムを、ぺろりと舐める。
「おいしいでしょー? 昨日、みんなで摘んだコケモモよ?」
 不本意だが美味だった。都で毎朝、金のスプーンで食べていたものより。


「思ったより順応が早かったみたいだねえ、伯爵さまは」
 メドゥーラは今朝カラス便で届いた手紙を読みながら、遠目に伯爵を観察した。手紙はシャーウッド卿からの、新総監に対する推薦状だった。メドゥーラは、何かの陰謀で総監の座を下ろされたのでは、と心配して手紙を出したのだ。その返事だった。
『急な交替で心配をかけたことと思う。実は夏の暑さが堪えて、軽い心臓発作を起こしてしまい、医者に実務を止められたのだ。クロムハーツ卿は最近爵位を継いだばかりで、確かに経験が足りないが、悪い人間ではないし、何より有能で熱心だ。よく指導して、彼の見識を広げてやってくれ。きっと、昔君に出会ったときの僕のように、彼も生まれ変わるような経験をすることだろう。ところで、まだ君は再婚する気にならないのかね? 私は引退したことだし、療養を兼ねてイドラに別荘を構えようかと考えている。そうすれば、毎朝、君の顔が見られるからね。じっくりアプローチすることにした。返事は慌てないよ。 愛をこめて。 ロビン』

 まったく、エイロネイアの貴族というのは、どいつもこいつも……。メドゥーラはため息をついた。そうして、もう一通の手紙を取り出す。シュアラから転送されてきたものだ。手渡したかっただろうに、形見になってしまったねえ、キジロー。でもあんたの娘は、これを受け取る準備ができているのやら。


 キジローの娘も、子供達と竃でパンケーキにかぶりつく伯爵を遠目に見ていた。
 ちゃんと伯爵と向かい合ってみよう。考えたら、学生時代、自分が何を望んでいるかちゃんと伝えたことがなかった。とんちんかんなプレゼントが来たからといって、シモンを責めることはできない。
『きちんと要望を伝えればいいんですよ』
 そう、クロイツくんは言った。その通りだ。きちんと伝えよう。私が何を望んでいるのか。……私、何が欲しいんだろう。ちゃんと考えなくっちゃ……。

 天幕の中からクロイツが出てきた。ルパの毛の軽い毛布をスオミの肩にかける。
「先生。また熱が出ます。フィールドに出るなら午後にしろって婆さまが言ってましたよ」
「ええ」
 スオミは上の空で答えながら、じっとクロイツの顔を見上げていた。クロイツもスオミを見つめている。言いたいことも、聞きたいことも、たくさんあるのに。どんな言葉も思いに足りない。何と言っていいかわからない。
 毛布をかけたまま、スオミの肩に置いていたクロイツの手に力がこもる。このまま抱きしめてしまいたい。このまま抱きしめられたい。でも、2人とも動くことができなかった。
「はいはい。ごめんなさいよ」
 婆さまが2人の間を通って、天幕から出てきた。
「これ以上外にいるつもりなら、診療所に送り返すよ?」
「はい。火の側に戻ります」
「いい子だ。お兄ちゃん、見張ってるんだよ?」
「はい」

 2人を天幕に押し込んで、婆さまはため息をついた。まったく何をぐずぐずしてんだろうね?


 伯爵はその午後、初めて自分でブルーベリーを見つけて、子供たちに誉めてもらった。
「ふむ。緑十字の総監としては、植物くらい見分けられなくてはな」
「じゃ、コケモモはどれかわかる?」
「む」
「これこれ」

 その一群を見下ろしながら、ルナはため息をついた。
「あの人、何しに来たんだろうね」
「田舎の体験学習じゃないですか?」
 アカネはあっさり言った。
「……なるほどね。あんた、ちょっと性格変わったんじゃない?」
「そうですか?」
 もう少しで肩に届きそうな青銀の髪をなびかせながら、アカネは小首をかしげる。
「うわっ。あんた、やばいわよ。さっきの批評の仕方から今のしぐさまで、取り付かれてるんじゃない?」
「取り付かれる…?」
「あの腹黒皇帝に似てきたわよ?」
 アカネは真っ赤になった。
「髪がのびて来たなあと思ったら、服も何だか女の子っぽいし……」
「いいですよ、もう」
 ルナはつつくネタが見つかったとばかりに、にやにやしている。
「いいわね、若い人たちは。楽しそうで……スオミも青春真っ盛りって感じ」
「ルナ……スオミより10くらい若いんでしょ?」

 その時、アカネがふいに野営地の方を振り向いた。
「あら、母さんが来た」
「へ? イリスが?」
 それからたっぷり10秒経って、ルパに横向きに座ったイリスがぽくぽくと野営地に入ってきた。
「……あんた、何だか鋭くなってない?」
「そうでしょうか?」
「でも、どうしてイリスが?」

 トクサで染めた薄緑のドレスのすそをなびかせて、緑がかった銀の髪をゆらす姿は女神のように美しかった。秋の午後の光が髪に透けて、天使の翼のようだ。
 結婚19年にもなるジンが、自分の妻にうっとりと見とれて言葉を失っている。
「エイロネイアから通信だ。学会関係らしいから、急ぎだといけないと思って持ってきた」
「……ああ、わざわざありがとう」
「おっさん、情けねえなー。いい年して、何照れてんだ、自分の妻に」
 カシスが遠慮のない突っ込みを入れる。
「あ……いや……まいったな」
 ジンは本気で赤面している。

 イリスの美しさにショックを受けたのは、その配偶者だけではなかった。
 腰の周りに子供を10人引き連れたシモン・クロムハーツ伯爵は、雷に撃たれたように身体中がしびれた。何も目に入らなくなった。
……イリスの他は。
 まっすぐに駆け寄ると、イリスの両手を取った。
「私はクロムハーツ伯爵。あなたに求婚する機会を与えてください」
 イリスは何の感慨も浮かべず、シモンをにらみ返した。
「残念ながら、俺は既婚者だ。夫はこの男だ」
 そう言ってシモンの手を振り払うと、ジンのうなじに両手を回した。そして爪先だって、ジンにキスをした。
 ジンは最初、両目をひんむいてジタバタしていたものの、結局目を閉じて、イリスを抱き寄せた。

 地面にへたり込んだ伯爵を、子供達がなぐさめた。カシスが容赦ない判定を下した。
「クロムハーツ、あんたの敗因はその気の多さだな」






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*COMMENT-コメント-
▽キールのお母さんと説?
伯爵すっかりいい玩具ですねぇ(苦笑い)。
何かこのまま丸く収まってしまいそうにも。
しかし本当に…エイロネイアの貴族はどいつもこいつも…こんな国柄だったけか?(笑)

ルナちん、まだいいとこ22だったね。お母さん忘れてたよ(オイ)。
▽うわあ…
クリスマスを待たずにカウンタ1000越してるよ……すげえ。
▽うわああ…
すごいやっちまった感が…1000…
▽ああ…
みれにあむ…すごすぎる…
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
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