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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『玉響詞(タマユラノウタ) 5』

次で終わるはず……多分。

クロムハーツ伯爵はあっけなく敗退。
クロイツ君の家出も陛下の出番もなくなっちゃった……。

クロイツくん、悶々の旅。がんばれ~。


 ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ *****

「先生、疲れませんか?」
 スオミとクロイツはシュアラの街道筋を歩いていた。
「大丈夫よ。さっき茶店で休んだばかりじゃない。それに緑の中を歩くのは気持ちいいわ」
 クロイツは安心できなかった。生死をさまようほどの目に遭ってから10日余り。まだ本調子ではないというのに、どうしてこんな旅をしなくてはならないんだ? 

『かねてよりご依頼の品、ようやく完成せり。お引渡しできれば幸いに候』
 シュアラの五つ瀬の地から、キジローの死後半年経って届いたキジローあての手紙。いったい何を依頼していたというのだろう。

「先生にはまだ旅行はムリですよ。俺が代わりに受け取りに行きます」
 クロイツが申し出た。
「”貴重な品なので、キジロー本人かキジローの家族にしかお渡しできない”と言うんだよ」
「じゃあ、エクルーに頼めば……? それか、春になってから行けばいいじゃないですか」
 メドゥーラは珍しく頑固だった。
「春じゃあ間に合わないんだよ。次の早春に必要なんだ」
「次の早春に……?」
「多分ね。あんた、一緒に行ってやっておくれよ。それにいい療養になるんじゃないか? 診療所に戻ったら、どうせスオミが大人しくしてないだろうからね」


 というわけで、2人旅である。シュアラまでは泉を通って近道できたが、内裏にほど近いくくりの泉から五つ瀬までは、徒歩で数日かかる。
「ごめんね、クロイツくん。こんなことまでつき合わせちゃって」
「いえ、俺は楽しいですけど。こんなふうに普通に旅行することってなかったですから」
 エイロネイアにいた頃の、クロイツの仕事についてはぽつぽつ聞いていた。いろんな国に潜入していたから、見識が広い。なのに、一般人の暮らしにあこがれている節がある。イドラでの田舎暮らしも、存外に楽しそうに馴染んでいる。
「この辺りは来たことある?」
「いいえ。もっと南の海峡付近には何度か行ったんすけど」
「私もここは初めて」
 もし、完成がもっと早かったら。もし、もっとキジローが長生きしたら。キジローとの2人旅だったかもしれない。昔のように。キジローもスオミと2人の時は旅を急がなかった。土地の名物を食べたり、神社に参ったり。一刻も早くボニーに会いたかっただろうに。そんなことを洩らすと、クロイツは笑った。
「情報を拾うには、急げばいいってもんじゃないんすよ?」
「そうなの?」
「それに、俺はキジローさんは先生と旅して、うれしかったと思います。キジローさんに会ったことないけど、わかります」
「どうして? どうしてわかる?」
「俺もうれしいから」
 スオミは赤くなった。
「キジローさんは、行方不明の娘さんと過ごすはずだった時間を、先生と取り戻してたんじゃないすか? そんな気がします」
 クロイツくんは? 私と2人で旅をしながら、何を取り戻そうとしているんだろう。

「もう、日が傾き始めましたね。宿を探しましょう」
「まだ歩けるわ。もう少し進みましょうよ」
「今からじゃ、峠の真ん中で夜になります。もう少し行ったら川に出るから、きっと宿場町があるでしょう」
 スオミはぽかんとした。
「ここは初めてなのよね?」
「何となくわかるんすよ。土地の相っていうんすかね? 匂いっていうか、表情というか」
「……父さんも、そういうの、うまかったわ」
「へえ。俺、話が合ったかも」
「ええ、きっと。そう思うわ」
 旅に出てから、ごく自然にいつもキジローのことが話題に上る。3人で歩いているようだ。


 クロイツはいささか疲れ気味だった。イドラに来てから寝不足には慣れっこになったものの、この旅に出てからほとんど一睡もしていないのは堪える。シュアラの宿には、個室という概念がないらしい。2人連れで2部屋欲しいと言っても、手配してくれない。まだ体調が万全じゃないスオミと別々の部屋なのも心配だが、ひとつの部屋で背中合わせに寝ているのもつらかった。抱いて看病した時の記憶が生々しく蘇って、眠るどころではない。息遣いや、体温や、匂い……。触れたくてたまらないのに、触れない。朝日が昇る頃には、爪を立てた手のひらから血が出ていた。

(俺、何やってるんだろう……)
 先生を守りたいはずなのに、先生を引き裂いてしまいそうだ。俺と2人でいるのは、先生にとって安全なんだろうか? 先生にとって一番危険なのは俺なんじゃないだろうか?


 昼間、歩いているときはいい。しかし、宿に入って2人きりになると、会話も途切れがちになる。
「先生、本当に良かったんですか?」
「良かったって?」
「クロムハーツ伯爵の申し出を断って」
 スオミは笑い出してしまった。
「クロイツくんだって見てたでしょう? 伯爵がイリスに求婚するのを。私には本気じゃなかったのよ」
「……」
「それに、私にエイロネイアの伯爵夫人なんか務まるわけないじゃない」
「……」
 また、会話が途切れた。
「ごめんなさい。クロイツくん、あんまり眠れないんでしょう?」
「いえ……」
「でも私は……ひとりで眠るのが怖いの。夜、気がつくと川のほとりに立っているの……」
「川の?」
「スイを追いかけて行ったときは、サクヤや父さんや応援の叔父さんたちで賑やかだったのに……今はひっそりしていて……ひとりで川の向うに歩いて行ってしまいそうになるの」
「……」
「川の夢を見ると、身体が冷たくなってしまって……そんな時に、目覚めてクロイツ君の寝息を聞くと、すごく安心できるの」
「……」

 この人がこんな危うい心を持っていたなんて……。薬狩りの時に、メドゥーラに聞いた話を思い出した。5歳で本当の父親を目の前で亡くした時、スオミはやっぱり川の向うまで追っていったらしい。その時は、1年以上、昏睡から覚めなかった。覚めた後も、生き残った自分を責めて、食事もしようとしなかった。明るく笑うようになるまで、何年もかかったらしい。それが、またキジローを失って……。
 身近な人間を失うのはつらい。俺が行方不明で死んだと思われていた間、エノや陛下はどんな気持ちでいたんだろう。

 クロイツは、何となくメドゥーラやアイリーン婆さまが、スオミをこの旅に送り出した理由がわかったような気がした。多分、スオミの病はただ安静にしただけでは治らないものなのだろう。こうして、キジローの思い出をたどって、キジローの形見を受け取ることが、スオミには必要なことなのかもしれない。

「明日には珠の海に着きます。きれいな湖らしいですよ?」
「楽しみね」
「早めに出発しましょう。峠はなかなか険しいそうっすから」
「そう。じゃあ、もう休みましょうか」

 真ん中に衝立を置いて、部屋の端と端に布団を敷く。それでも、狭い部屋だ。お互いが身じろぎするのも、ため息も、手に取るようにわかってしまう。

 また、長い夜が始まる……。   








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*COMMENT-コメント-
▽わーひ珠の海編だあv
湖の傍はさむいので、気を付けてくださいねv
そして夜は(寒いけど)真珠のうたをきくことをおすすめします。最高のムードの中、見つめ合う瞳と瞳。近づく顔と顔……//
クロイツ、ちゃんと寝ておくんだよ! あしたのために☆(おーい)
▽予想以上の…
予想以上のあっけない敗退でした(笑)。うん、シモンくん、面白かったよ。安心して灰になってくれ(ひどすぎる)

相変わらずお預け食らってるなあ(にたにた)。
それも今回までと聞くと何だか残念(鬼)。
れ「君、本当に母親?」
▽ロイ兄…愛されてるねえ…
果たして、小春姫のご期待に沿うようなロマンチックな展開になるのだろうか……。
トランス姉さんのうふふふ…攻撃になりそうな気がする。
……かくして、ロイくんの苦悩は続く…?
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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