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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『玉響詞(タマユラノウタ) 6』

……まだ終わりませんでした。
いつになったら、できるんだろうねえ? クロイツくん。

 珠の海の地理や伝説などを捏造してしまいました。
 ヘンな生き物も作っちゃった。”珠虫”といいます。クリオネにくらげの傘をつけたイメージ。


 ===== ☆ ===== ☆ ===== ☆ ===== ☆ =====


 五つ瀬へと向かう峠は、予想以上に厳しかった。少し遠回りになってでも峠を迂回する方法を探そうとしたが、地図を見て絶望した。五つ瀬の聖地は、360度、険しい崖に守られていた。その中央に位置する”珠の海”は太古に火口だったカルデラ湖なのだ。大陸一の深さ、大陸一の透明度、特殊な生物しか棲まない伝説に彩られた湖。エイロネイアの”ウルズの泉”に並ぶ異界への入り口だと怖れられている。
 黄色く染まったミズナラの森の中を、渓流を辿りながら街道を歩く。険しい山道にも関わらず、旅人が多い。しかも若い女性や夫婦連れが多いのだ。不思議に思ってクロイツは茶店で、店主に聞いてみた。

「何だ。そんなことも知らずにここに来たのかい? 女の人が、馬にも乗らずにこの峠を越えて五つ瀬に下り、珠の海の水を浴びれば、珠のような子供を授かるっていう伝説があるのさ」
「ああ、それで……」
「私ゃてっきり、あんたらも子宝祈願の巡礼者かと思ってたに」
 スオミは真っ赤になってしまった。
「奥さん、身体が悪そうだな。少し休んでいくにいいべ」

 気のいい店主が名物のだんごを勧めてくれたが、スオミはどうしても口に入れられなかった。疲労が激しくて、朝食も全部もどしてしまったのだ。
「すみません。ちょっと台所を借りてもいいすか?」
「いいけど、どうするんだい?」
 クロイツは荷の中から小さな包みをいくつか出して、店主に借りた小さな鍋で液体を沸かした。
「先生。これなら飲めるでしょ? ゆっくり飲んで」
 黒砂糖としょうがを効かせたくず湯だった。
「ゆるめに作ってますから。少し腹に入れておかないと、低血糖で倒れちゃいますよ?」
「ありがとう。おいしい……」
 くず湯をすするスオミを、クロイツはうれしそうに見つめていた。
「どっちが医者か、わからないわね」
 スオミがやっと笑顔を見せた。
「なかなか使えるようになってきたでしょ?」
「あなたは最初から頼りになる人だったわよ? 私はお世話になってばかり」
「俺はうれしいですよ? 言ったでしょ? もっと頼ってください」

 夏に、レアシスとアルに連れられて診療所にやってきた青年。あの時は、これほどとは思わなかった。短期研修に預かっただけ、のつもりだったのに。短い間にこれほど、かけがいのない存在になるなんて。

「あなたはいつか……」
 スオミが言いかけた。
「え?」
「ううん、何でもないわ。出発しましょう」

 まだふらつくスオミに、クロイツが手を差し出した。足場の悪い山道を、少しずつ休みながら登る。スオミを気遣って、クロイツはこまめに沢水や黒砂糖の欠片を補給させていた。
「風が変わりました。もうすぐっすよ」
「本当だ。ブナが増えてきた」
 突然、視界が開けた。青い青い湖。スオミは額の汗をぬぐうのも忘れて、湖面の深い藍色に見入ってしまった。手をつないだまま、峠を渡る風に吹かれていた。
「信じられない……何てきれい……」
「すごい……何か、水じゃないみたいっすね」
 美しい風景を分かち合いたいと思う存在が傍らにいる。2人は微笑み合った。
「行きましょう」
「ええ」
 2人はごく自然に、手をつないだまま歩き出した。


 五つ瀬の宿場町に着いた時には、もう日が落ちかけていた。手紙の主を訪ねるのは明日にして、宿を探さなくてはいけなかった。しかし思いのほか、この山の中の名勝は盛況だった。3軒めの宿でやっと部屋が見つかった。
「何でこんなに混んでいるんですか?」
 クロイツの問いに、宿の主人は当然、という顔で簡単に答えた。
「今夜は満月だからね」
「……満月だと何があるんですか?」
 恥を承知でさらに訊ねた。
「満月の夜には、湖が歌って真珠が生まれるからさ」
 ちょっと待ってみたが、寡黙な主人はそれ以上語ろうとしなかった。まあ、夜になればわかるだろうと思って、クロイツもそれ以上追求しなかった。

 峠越えの疲れが出て、スオミは夕食もそこそこに床に入ってしまった。クロイツは宿を出て、湖畔の道を少し歩いてみた。巡礼者らしいカップルが、月の出を待ちながらそぞろ歩いている。薄い湯浴み着で、晩秋の冷たい湖水に足を浸している女性もいた。
(冷えるとよけい、子供ができにくいんじゃないのか?)
 信仰全般に懐疑的なクロイツは、冷めた目で観察してしまった。
(そんなに子供が欲しいもんなのか? その子供を絶対幸せに育てる自信があるってのか?)
 クロイツの母親は、再婚がしたくて幼いエノとクロイツを捨てた。そんな無責任で残酷なことをするくらいなら、子供を生まなければいいんだ。先生は、実の父親にも、キジローにも愛されたと言っていた。でも、だからこそ失った苦しみは深い。やっぱり無責任じゃないか。こんな過酷な世の中に、子供を勝手に放り出して。

 何となくささくれ立った気分で、クロイツは部屋に戻った。灯りを落としておいたので、目が暗闇に慣れるのを待ってから、そっと寝室に入った。スオミの布団は空っぽだった。
「先生?」
 元より広い部屋ではない。床の間にも、手水を置いた洗面にもいない。慌てて見回したクロイツは、湖に張り出した露台に座っているスオミを見つけた。
「先生、こんな薄着で! また熱が出ますよ!」
 肩に毛布をかけようとするクロイツを、スオミはぼんやり振り返った。
「月が出る……」
 何だか目が空ろだ。
「先生?」
「歌ってる……」
 まるで、酒に酔ったときのようだ。夕食では酒など飲まなかったはずだが。
「呼び合っている……命を結ぶために。命を生み出すために……」
 スオミはゆらりと立ち上がって、手を差し出した。クロイツは思わず、その手を取った。
「歌いましょう。踊りましょう。命を生み出すために……」
 ふわりと身体が浮かんだ。


「先生、しっかりしてください!」
 クロイツの声は耳に届いていないようだ。スオミはクロイツの腕をつかんて、湖面を飛んでいた。岸がどんどん遠ざかる。
 一度、スイが溺れたとき、診療所からクリークまで飛んだことがあった。でも、あれは一瞬で移動したのだ。こんな風に鳥のように飛んだわけじゃない。クロイツの体重など問題にならないようだ。上昇気流に乗った鷹のように、身体が浮き上がるのを感じる。これもスオミの力なのか?

 スオミは、湖のほぼ真ん中にある樹の生い茂った小島に降り立った。さざれ石を波が洗う湖岸でクロイツの手を離すと、ひとりで水に入っていった。
「先生! 水が冷たい。やめてください!」
 慌てて追いかけて、腕を掴む。
「聞こえない……? 歌っているでしょう……?」
「聞こえません! 先生、死にたいんですか!」
 振り返った顔はぞっとするほど白かった。
「あなたは死にたくないの……?」
 引き止めなければ。先生はひとりで川を渡ってしまう。ひとりで彼岸に行ってしまう。
「先生が死ぬのはいやだ! 俺は、先生に死んで欲しくありません!」
 スオミはこのうえなくやさしい顔で微笑んだ。残酷なほどやさしい笑み。
「死にたくなければ……生まなくてはいけないのよ……生き続けるために……命をつなぐために……」
 女のものと思えない力で引きずられて、クロイツは腰まで水に浸かってしまった。思ったほど水が冷たくない。湖面がさざ波立っている。風だけじゃない。何かが…湖面でさざめいている。

 しゃらしゃらしゃら……ぽちゃぽちゃ、しゃららら……

 クロイツにもそれが聞こえて来た。何か白いものが水面を泳いでいる。手ですくうと、それは半透明の花のような、くらげのような生き物だった。小さな丸い頭の下に、半透明の傘をふわふわ広げて泳いでいる。胡桃の実ほどの小さな虫が、次から次に深みから上がってきて湖面で歌っているのだ。お互いに絡み合うように泳いでいる。まるで踊っているようだ。

 しゃららら、しゃらら、しゃらしゃらら……

 生き物たちの興奮が次第に高まっていくのがわかる。

「踊りましょう……結び、つなぐために……」
 スオミが薄い湯浴み着を脱ぎ捨てた。その時、カルデラの向うに月が上った。







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*COMMENT-コメント-
▽ぬ、ぬぎすてたーっ
美しいスオミさんの肢体が月明かりの下に………っドキドキ最高潮ですっ。
クロイツ、どうするのっ?どうなるのっ?(落ち着け)

ひゃ~っ///素敵ですーっ。私も〝珠の海〟行きたい(まごうことなき少女漫画の瞳できらきらきらきら)
▽無題
クロイツの過去描写ありがとうございます。こういう奴なんですよね、子供好きの親嫌い。
飄々といい人で実はあれこれ考えてる。
クロイツ頑張れ。原作で幸せにしてあげられずにごめんね。どうか良い結末を。

ふと昨日のチャットに触発されてれんかのの珠の海編を考えてみたけど……
……とおとお手を出さなかったよ、あの男。
その代わりに一年くらい、どっかに二人旅してくるそうです。
何か読者にさえカノンの柔肌を見せたくはないようです。
ゆっくり行こう、明確な名前が付かなくても、絆が切れることはもうないからだそうです。
……こんのど天然バカップルぁ!

…もうそういうふうに作ったお母さんが悪かったよ、あんたたち。
▽へえ…。
クロイツは、子供好きの、親嫌いなんですね。
九重とちょっと似てるかも。
そっか…、うん身勝手だよね。産んだのに捨てるなんて。最低なこと。しちゃいけないことだ。責任持てないなら、生むな。
クロイツ…ぐしぐし。本当に幸せになってね。
クロ兄、もしよかったら九重と漫才組んでくんないかな(なんの勧誘だやめろ)



そしてレンカノはやはりもうそういうかんじですか(笑)
弟子の初夜は終わりましたよw(終わったってお前…)
年内に終わって、よかったです。でへ。
▽いろいろ勝手に捏造してしまいましたが…
受け入れていただけてよかったです。
カルデラの中の湖は、十和田湖のイメージです。
ミズナラとブナの森を越えると、青い湖。そこから奥入瀬渓流が流れています。
ハネムーンにぴったりですね♪

クロイツの心理描写も、勝手に作ってしまってドキドキだったんですが……。
スオミと2人して、ダブル捨て子な感じですね。
おままごとして、夫婦ごっこしなさい。
▽きゅんきゅんします
おままごと!(笑)
もうーどきどき超特急ですよっ(>_<)!(古い言い回し)
続きが待ち遠しくて仕方がないです。
クロイツーっどうなるのおおっ
そしてスオミさん………ナイスバディを想像して鼻血吹きそうになりました。ぐっじょぶ。
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織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
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『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
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