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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

『玉響詞(タマユラノウタ) 7』

ようやく終結。
あっさりめで逃げてしまいました。すみません。


 ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ ***** ☆ *****

 しゃらしゃらしゃらら……

 歌がこぼれている……声がこぼれる……つなぎとめて……ひきとめて……

 孤独と絶望の岸辺で、それぞれひとり、ずっと立っていた……彼岸にあこがれながら……でも、こうして出会ってしまった……だから、私達は……生き続ける……。

 離さないで。捕まえて。手をつないで、手を絡めて。くちびるで、腕で、お互いを引き寄せあう。
 月光に照らされて、まばゆい水が、うなじを、背中を、足をすべり落ちる。もう、どこまでが自分の身体か、どこまでが相手の身体かわからない。もう、私達はひとつになってしまった。

 しゃらららららら……

 身体が震える。湖面が震える。湖全体が、五つ瀬の谷全体が、身震いして月に吠えた……ああ……今、今、結びつく…掬びつく……生まれ出づる……

 しゃらしゃらと音を立てて、数百万、数千万の月光色の虫たちが口を開けた。声にならない声を漏らしながら、湖面を月光色に染める。卵と精と身体に貯めた真珠を放ちながら。

 クロイツとスオミも一緒に達した。口を大きく開けて、声にならない叫びを放って。
 長い間、息をするのを忘れていた。身じろぎもせず、水の中でじっと待っていた。身体の熱が引いて、息ができるようになるのを。再び、お互いの目をのぞき込んで、微笑んで引き寄せあうのを。

 今ならわかる。岸辺でひとり、淋しさに耐えながら、私達は生きてきた……今、この時のために。こうして出会うために。そうして、命をつなぐために……。

 もう、言葉も要らない。お互いの胸に身体を投げ出して、確かめ合う。私達、生きている……生きていてよかった……。




 翌朝、岸辺は乳白色に染まっていた。虫たちの放った卵と真珠が波で打ち上げられているのだ。もちろん、卵の大半は湖底に沈んで、孵る日を待つ。そして大きな真珠も湖底に沈む。波打ち際で揺れているのは、粟粒ほどの小さな真珠だけだ。取り込んだ砂粒や貝の殻から身体を守るために、虫たちは真珠色の膜で包んでなめらかな珠を作る。そして、卵と一緒に放出するのだ。
 湖岸には、力尽きた虫たちの死骸も揺れていた。命を残すために、地底の裂け目の深淵から上がってきて、一夜限りの祝宴で歌い踊ったのだ。命とは、何と一途なものだろう。俺もいつか……そうして命を残すんだろうか。クロイツは、スオミを振り返った。黙って、手をつないで微笑み合う。その手は温かかった。もう大丈夫。先生は、ひとりで川岸に立つことはない。俺も……胸に抱えた苦い味が、少し薄れたような気がする。

 2人で早朝の五つ瀬の参道を歩いた。きれいに梳かれた白砂を踏んで、五色の宝珠を頂く社に参る。ごく自然に頭を垂れて、祈る気持ちになった自分に驚いた。
”ここに来て良かった。ありがとう”
 隣で目を閉じている、静かな横顔をそっと見やる。朝日に透けてきれいだった。でも、旅の前のように、光に溶けてしまいそうな弱々しさは消えていた。自分で光を放っている。

 社から宿に戻りながら、クロイツはスオミがときどき自分のお腹に手を当てるのに気がついた。
「あの…痛いですか? 身体、きつくありませんか?」
 スオミは質問の意味がわかって、少し頬を染めた。2人とも初心者なのに、加減も考えず夢中で抱き合ってしまったのだ。珠虫たちの饗宴にシンクロしてしまったのだと思う。
「ええと……大丈夫。クロイツくん、やさしかったもの」
 2人して照れてしまった。
「でも、何だかさっきから腹を触ってるでしょ?」
「あ、ええ。あの……何だか違和感が……」
「慣れないと、そういうこともあるらしいですよ?」
「そういうことじゃなくって……」
 スオミはますます赤面した。
「多分……いえ、絶対……できているんだと思う」
 クロイツはすぐには意味がわからなかった。
「できたって……え、何が?」
「赤ちゃん」
「赤ちゃん?」
「それも、2人」
「2人……双子?」
「だって、声が2つ聞こえるんだもの。ここで。しゃらしゃらって」
 スオミはまた、やさしくお腹をなでた。


 宿場町のみやげ店が開く時間を待って、2人で手紙の主を訪ねた。クロイツは、いささか、まだ呆然としていた。俺が親になる? いきなり2人の子供の? でも、お腹をなでながらやさしく微笑むスオミを見ていると、素直にうれしい気持ちが湧き上がってくる。こうなったら、思う存分かわいがってやろう。自分とエノの分も。

 差出人の住所を見せて聞くと、そば屋の主人はすぐわかったようだった。
「ああ、珠洲工房ね。鈴宮さんち」
「遠いですか?」
「いや、この先に水門があるから。そこから疎水に沿って社の方に歩けばすぐわかるよ」

 工房は参道町の裏小路にあった。ガラリ戸を開けて薄暗い店内に入ると、チリンチリンと鐘が鳴った。奥から、小柄な眼鏡をかけた初老の男が出てきた。
「いらっしゃい」
「こんにちは。あの……私、南部麒次郎の娘です。この手紙をいただいて……」
 男は、老眼鏡の奥からじっと見つめ返した。
「すると、あなたがスオミさん…?」
「そうです」
「南部さんは……?」
「春に亡くなりました。胃癌で……」
「そうですか」

 鈴宮は工房の奥の居室に招いて、2人にお茶を出してくれた。
「私と南部さんは、長いつき合いなんですよ」
「そうなんですか……」
「最初にこの店にいらしたとき、南部さんはまだ学生さんでしたね……」

 幼馴染の女性に子供ができた。身体が弱い人なので、最初で最後の子供かも知れない。精一杯の結婚の贈り物をしたいと言って、相談に来たのだ。鈴宮はその年、連合いを亡くしたばかりだったので、この若い男の熱意に感動してしまった。
「湖で、真珠を自分で採って来なさい、と奨めました。台座の貴金属の代金は、お金ができた時でいいから、と」
 キジローが採って来た真珠を見て、鈴宮は驚いた。10ミリを越すピンクがかった大粒の真珠。巻きの分厚い最高級品だった。
「若いのに、何て目の肥えた男だ、と感銘を受けましたね。それにあれほどの大きなものは、かなりの深さに潜らなければ拾えないはずです」
 白金台の代金を待ってもらう代わりに、とキジローは1週間真珠採りをして、採れたものをすべて鈴宮に提供してから辞した。
「次にいらしたのは、その1年後でした」
 
 代金と一緒に、真珠の指輪を鈴宮に預けた。
「生まれたのは女の子だったので、奥さんが結婚指輪の真珠を最初の一粒にして、首飾りを作って娘の結婚式の贈り物にしよう、とおっしゃったんだそうです」
 その妻は、そう語った翌日に息を引き取った。キジローはまた1週間湖に潜った。ようやく1粒だけ、最初の真珠と同じ大きさで色の揃うものを見つけることができ、残りの真珠は全て鈴宮に渡して帰った。
「その後、ほぼ毎年、秋にいらしては1週間、湖に潜って真珠を採ってらっしゃったのですが……」
 娘が5歳になった年、怪しげな秘密教団に攫われてしまった。
「それでも、毎年お金を送って来て、最初の真珠とそろう品を見つけたら、買っておいて欲しいと頼まれました」
 娘を探す傍ら、数年に一度、五つ瀬を訪れて自分で真珠を探す一方、鈴宮にも頼んでいたのだ。

「ようやく桐子さんと再会を果たしたものの……一緒に暮らすことは叶わず……だから、この首飾りはあなたの結婚のお祝いに贈りたい、と承っていました。完成が遅れて南部さんにお見せできなかったのが残念です」
 そう言って、鈴宮はビロードの箱を開けた。ピンクがかった温かい色の大粒の真珠が、秋の陽射しを受けて静かに光っていた。
「最初の一粒を細工してから、30年以上が過ぎました。もう、私はこの首飾りが自分の娘のように思えて、手放すのが寂しいほどです。でも同時に、南部さんが自慢されるスオミさんのことも、失礼ながら娘のように思っておりました。お会いできて良かった」

 クロイツがそっと留め金をはずして、首飾りをかけてくれた。鈴宮が鏡を見せてくれたけれど、スオミは涙があふれて何も見えなかった。首筋を守る、やわらかい手触りだけを指でたどっていた。
「父さん。父さん……ありがとう。鈴宮さん、ありがとうございました」
「あなたは、南部さんが自慢されていた通りの良いお嬢さんだ。長年、自分の娘を探しながら、あなたが傍にいてくれて本当に救われたとおっしゃっていました。本当の娘のように思っている、と。どうぞお幸せに」


 工房を出た後も、スオミはなかなか涙が止まらなかった。境内の松林の中で、クロイツはスオミが落ち着くのを待って、ずっと抱きしめていた。
「クロイツくん……」
「大丈夫ですか?」
「お願いがあるの……」
「俺もです」
 2人は顔を見合わせた。そうして同時にその言葉を口にした。

 それから、クロイツはちょっと笑って付け加えた。
「何だかちょっと悔しいすね」
「どうして?」
「メドゥーラさんにはお見通しだったんだと思うと」
「メドゥーラに適うわけないじゃない」
「リー婆さんにもね」



 峠を下りた街道筋で、行きに台所を借りた茶店にあいさつに寄った。手をつないだ2人を見て、主人はにこにこした。
「首尾は上々だったようだに」
 茶店には2色の幟が立っていて、”夫婦くず湯”と謳っていた。
「これ、前にはなかったっすよね」
「ああ、それ。評判なんだよ、兄さんのお陰で」
 黒砂糖としょうがを入れた、クロイツのレシピだった。
「これを飲んで、五つ瀬を参れば夫婦円満」
「確かに」
「子宝にも効いたべ?」
「ええ」
 2人は微笑んだ。
「無事生まれたら、今度は子供を連れて、お礼参りに来るといいに」
「そうします。ありがとう」
 茶店の主人は、2人の顔をじっと見つめた。
「ご両人とも、生まれ変わったように元気だの」
 スオミとクロイツは顔を見合わせた。
「ええ、そうかも」
「本当に生まれ変わったんすよ、きっと」
「さすが五つ瀬の神様、霊験あらたか」
 茶店の主人は、2人を見送りながら自慢げにつぶやいた。







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*COMMENT-コメント-
▽おめでとうございますっ
ご懐妊おめでとうございますっスオミさん、クロイツくんっv
それからヴァルさん、私がぼんやりとしたイメージしか持っていなかった珠の海をリアルなものに、そして幻想的な場所にしてくださって、ありがとうございます。とてもとても、素敵な場所ですね。真珠が生まれる描写も歌う描写も、とても斬新で、清らかで、ああヴァルさんの文章だ。誰にも書けないヴァルさんならではの表現だって思いました。すごいです…っ///
あらためて、ご両人おめでとうございますっ!
いやーっめでたい!♪
どうぞ、お幸せに^^v
▽おめでとうクロイツ
クロイツは元々、DeathPlayerHunterカノンの外伝『BlackMemorize』(黒歴史)の中で誕生したキャラでした。
といっても本人が直接言葉を口にしているのは、序章の一章だけ。その後すぐに陰謀によって殺されてしまったキャラです。その直後にレアシス=レベルトの狂気の日々が始まります。

最初はたったそれだけのキャラだった。
それがこんな形で繋がってくれて、本当に嬉しく思います。
クロイツ、それから私に敵役として生み出されてしまったエイロネイアのみんな――レアシス、アリッシュ、エリシア、エノ、リーゼリアことリーシャ=フィレ=ソルト、カシス、シャル。ごめんね。おめでとう、そしてありがとう。

君らは誰もが一人、一人、私の中で生きてるよ。
今度こそ、物語の真円を描こう。
みんなで幸せになろう。
カノンたちが幸せになれたように、君らも同じように幸せになれる。私はそう信じてる。



……あ、駄目だ、泣けてきた。
▽ご両人、お疲れさま。
本当は倍くらいのボリュームで、じっくり書いて上げられたら良かったのですが、長編苦手で、これが精一杯でした。
かなり端折ってしまったので、こぼれたエピソードはまた他のところで拾っていければ、と思います。
2人がトラウマを克服して親になるまで、の物語を重点に書いたので、ラブラブ度が薄かったかも。
ご声援、ありがとうございました。
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目次(香月)
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