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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『赤い涙 前編』 (香月)

長すぎた。
裏に入るまで長すぎる。
えーと、この時点で微エロだったりする? いや、最近の傾向見てればそんなでもないよね☆

とりあえず、舞踏会後のお話です。

==========================================
「あー、面白かったわー。まったく、希少[レア]ものよねぇ♪」
「? 何が、ですか?」
 着替えたドレスを片腕にかけながら、アカネはソファに寝そべったまま楽しそうに鼻歌を歌うエリシアに首を傾げる。何だか消耗した顔で入ってきたリィンも同じ動作をする。対してエクルーとアヤメは苦笑する。
 とりあえず、着ていた衣装はエリシアのクローゼットに預かってもらうことにした。そのため、エリシアの側付きである3人の少女に教えてもらいながら、ドレスを皺にならないよう、たたんでいる最中にこの一言。
 カラフルな色合いの服を着た3人娘は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、
「へーかさまかわいいのー♪」
「のー♪」
「ねー♪」
「?」
 飛び跳ねる三人を見ながら、アヤメがくすくすと笑う。
「アカネが心配だから来たんでしょう? あとエクルーが信用できなかったからかしら?」
「……」
「ようするにそっちの道化くんに嫉妬してたわけね。あー、もう今日はそれを見れただけで満足ねー」
「嫉妬、って……」
 アカネは目をぱちくりさせる。舞踏会でエリシアが言っていたのは冗談だとばかり思っていたのに。本当に?
「まあ、それよりあの伯爵さまねえ。イドラの顔として、またあなたたちを招きかねないと思うわ。完全な善意のつもりで」
「うっ……俺はちょっとやだな……」
 即座にリィンが素直な感想を述べた。
「あら、私はいいと思うわ。楽しかったし。そうすると、また"ラ・マスケーラ"の団員として招待されるのかしら? アカネも?」
「ええと……」
 アカネが少し困ったような顔をして、エクルーの顔がまともに引きつる。どうやら帰りの馬車の中で明確に言葉にはしないものの、終始言葉に秘められたレアシスの毒の棘が、多少は堪えているようだった。
 エリシアはくつくつと、エイロネイアから住み着いたどこかの誰かと似通った笑みを浮かべている。
「私とリィンのペアと、アカネとエクルーのペアになるわね、そうすると」
「……」
 アヤメとエリシア以外の全員が、ちょっとだけ押し黙った。気まずいというか、どう反応したらいいかわからない、というか。
 アカネは腕にかけた赤いドレスを見下ろす。赤い絹と、トパーズの金色が眩しい。
 ―― ……。
 綺麗で、眩しくて、ずっと憧れだったエクルーと同じ色のドレス。
 ずっと憧れで、あんな場所で憧れの人と踊ることが出来たのは、確かに、夢のように嬉しかった。だけど、
「あの……それなんだけど、」
 アカネの口にした提案に、3人は少しだけ驚いた顔をした。リィンとアヤメはそのまま小さく笑い始めて、エクルーとアカネはお互いに赤くなって俯いた。
「ええと、駄目かしら……?」
「え、ええと……うん。俺もそうしてくれると、嬉しい……というか、ええと、別にアカネに似合わないとか言ってるわけじゃなくて」
「うん、うん。わかってる。ありがとう。私がそうしたいの。いいわよね、エリシアさん」
 アカネが確認するように、ソファの上のエリシアを見る。エリシアはふーん、と呟きながら片眉をあげた。
「別にいいわよ。こっちとしてはあんたたちにあげたつもりだから、好きにしてちょーだいな。
 それよりアカネちゃん。そういうつもりなら、早めにあの黒衣の悪魔さまのところに行っておあげなさいな」
「え?」
「今頃、馴れない感情を無理矢理殺そうとして、喘いでる頃でしょーよ」


 自室まで引っ込んで、水をコップに一杯飲み干して。
 人心地がついた。冷静な血が流れ始める。頭のなかが少しだけすっきりする。深呼吸をしてからベッドの上に寝転がった。しばらく目を閉じる。
 ようやくいつもの感覚が戻ってくる。何だったんだ、くそ、煩わしいな。
 仰向けに寝転がりながら、大きく何度か息を吸い、吐いていると、いつものように思考の海が広がる。さっきまでは何をしようが、耳も目も澄ますことが出来なかったというのに。
「何だったんだ……」
 はあ、と息を吐き出して、頭を振る。
 思えば、彼らを送り出してから妙だった。すぐに書きかけの書類に戻ったのに、変に頭の中に雑念が浮かんで集中が切れる。


 舞踏会会場まで出向いて。予測はしていたことだった。
 舞踏会というものは通常、一人のパートナーを連れて参加する。当然のことながら、リィンとアヤメはタッグを組むだろう。そうなれば自然とアカネはエクルーと組むことになる。
 彼女にとっても、独身最後の社交期だ。妙な羨み方をしても仕方がない。第一、自分はアカネとのことでエクルーにしこりを生まないと、彼を守る温室ロボットたちに誓ったのだ。
 だから、彼女が思い出に今宵を楽しんでくれればそれでいいと。
 そう考えていたはずなのに。
 壁の花を決め込んで、彼らの踊る様を眺めていたら、急に得体の知れない恐怖が背筋を駆け抜けた。背中をつけた壁の感触が、急に逆転するような。
 それで思い出した。かつての温度の通わない体。日陰に篭ったまま、いつ来るかわからない終焉に恐怖と期待を抱いていた日を。
 そうしたら、いてもたってもいられなくなった。
 ……アカネとエクルーの踊る様は綺麗だった。思わず見とれてしまうほど。
 一曲の間、アカネはエクルーしか見ていなかった。夢を見るような、陶酔するような。悔しいけれど、彼らの息の良さには、アカネの中の思い出の王子様には、たぶん叶わないんだろう。それをまざまざと見せ付けられた。
 ……………悔しい?


「……」
 何か違う。それだけじゃない。
 悔しいだなんて、そんなことずっと前からわかっていた。あの温室で、昔の光景を見せられてから、まだ抜け切っていない感情だ。
 悔しかったけれど、同時にほっとした。昔のアカネだったなら、きっと頑なに壁の花を決め込んで、そこから動かなかっただろう。舞踏会そのものを断ったかもしれない。
 エクルーとアカネが、皆が言っている昔のように戻れたのなら、それでいい。もう悔しさは、彼女の手を取れた優越感に摩り替えよう。
 エクルーも、アカネも。形は違えど、レアシスにとって大事な人に変わりはない。だから、何年も前のことをこれ以上、引きずらなくていい。


 でも、何でか落ち着かない。枕と毛布が、馴染んでくれない。
 嫉妬? ……似ているけれど、違う気がする。
 嫉妬なら、何でリィンやアヤメを見たときも、同じような感情が流れたんだろう。何かがくすぶっている。でも、その何かがわからない。


「?」
 顔をしかめたそのとき、部屋のドアが控えめにノックされた。
 控えめなノック。こんな時間にこの部屋をノックするような人間で、こんな控えめなノックの仕方をする者は極少ない……というか一人しか思いつかない。
「ええと、入ってもいい?」
 予想通りにほっとする少女の声が届いてくる。でも、今日のそれはほんの少し、レアシスの頭に痛みを走らせた。
 ドアを開ける前に、浅い深呼吸をするのは初めてかもしれない。
「……どうぞ。入って」
「……」
 微笑みながらドアを開けたつもりだったのに、少し俯き気味で入ってきたアカネには、どこか緊張が走っていた。いつものように備え付けのテーブルについて、お茶を淹れる。
「ごめんね。寝るところだった?」
「いや……それよりどうしたの? 今日は久しぶりに皆と過ごすものだと思っていたけど」
「あなたはどうするの?」
「僕は昼間に十分、話したよ。水を差すのも悪いだろう?」
 アカネはどこかすねたように唇を尖らせて、ティーカップを差し出すレアシスを見た。
「もう。あなたは水臭いの。みんなもう、兄弟のつもりなのよ?」
「……」
「どうしたの?」
 口を開きかけて、唐突に口元を抑えたレアシスに、アカネは眉間に皺を寄せる。
「いや……何でもないよ」
「駄目。あなたがそう言うときは必ず何でもあるときなの」
「……」
 渋るようにカップを傾ける手を止めたレアシスに、アカネはほんの少し息を呑む。
「いいから言って? 私は平気だから」
 レアシスはどこか困ったような表情で溜め息を吐いた。カップの中身を大分残したまま、立ち上がってそのままベッドに寝転がる。
 思案するときに寝転がる癖があるのは重々承知だった。アカネも馴れたもので、立ち上がってベッドの端の方に腰掛ける。
 庭園でも、実はテラスにかけているときより、木の根元で横になっているときの方が多い。カルミノやシュアラでも、よく人知れず、どこかに寝そべりながら目を閉じていたらしい。寒がりのくせに。
 彼は一度、ころりと寝返りを打ってから、曖昧に微笑んだ。アカネは心の中でむくれる。その笑顔が一番、心配なのに。
「……自分でも、よく分からないんだ」
「?」
「アカネ、夜会は楽しめた?」
「? ええ。おっかなびっくりだったけど、意外と楽しかったわ」
「エクルーと踊れて、楽しかった?」
「……」
 アカネは少し困ったような表情で、黙ってしまった。眉を潜めて、小さく頷く。
「……そっか。良かった」
 レアシスはいつもの何となく意地の悪い笑いではなく、目を細めてほっとするような笑みを浮かべた。でも、アカネはちっともほっとできなかった。
「……すまなかったね」
「え?」
「邪魔をするつもりはなかったんだけど。もっと彼と踊りたかっただろう?」
「そんな邪魔だなんて思うわけないじゃない。むしろ、少し嬉しかったわよ?」
「嬉しい?」
「あなたが嫉妬なんてしてくれると思わなかったから」
 不意にレアシスは目を伏せた。笑顔から、何とも言えないような表情を作る。
「嫉妬……」
「?」
 ぽつりと呟いて、そのまま黙り込んでしまう。
「どうしたの?」
「……よくわからなくて」
 眉根を寄せてアカネを見る。
「君とエクルーがタッグを組むことになるだろうとは思ってたんだよ。自然のなりゆきだ。
 君にとっていい思い出になればそれでいい、と思ってた。でも、何だか我慢できなくてね。もやもやして、頭が重い」
「……もう、ずるいわ」
「?」
「私の方が申し訳ない気持ちになってくるじゃない」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
 まだ少し、うーんと唸りながら聞いている。
「……でもね。アカネがよかったなら、僕がどうこう言うことじゃないし……良かったと思ってる」
「本当に?」
「うん。悔しいけど、現に君とエクルーの息はぴったりだしね。君自身、彼としこりがなくなったから、今日思い出を作れたんだろう? なら、それでいいことにするよ」
「それでいいことにする、ってどういう意味?」
「理屈で割り切れない部分もあるけど仕方ない、と思ってるということ」
 不謹慎だけどちょっと嬉しかった。
「でも、私だってずっと悔しいのよ?」
「?」
 少し頬をむくれさせながら、アカネが言う。ぽふり、と彼の隣に頭を並べる。スプリングの聞いた皇室のベッドのシーツが、アカネの小柄な体を受け止めた。
 この距離だと、お互いの目にお互いの顔が映っているのがよく見える。何だか無条件に安心した。
「会ったのは私が先だったのに、あなたの初恋は私じゃなかったのね」
「……」
「髪の色は同じだけど、ウェーブなんてかかってないし、胸も小さいし、あんなふうにも振舞えないし。それに、研究院の中には、ときどきあるあなたの特別授業をやたらと楽しみにしてる娘だっているのよ?」
 しばらく沈黙が降りた。
「前はこんなこと思わなかったの。私も欲張りになったのかしら?」
 それからさらに数秒して、彼女の言わんとしていることを悟ったレアシスが、ふ、と笑った。同時にアカネもぷっ、と小さく噴き出す。
「2人で欲張りになって、2人で嫉妬してたら、世話ないね」
「本当にね」
 何だか急に馬鹿馬鹿しくなってきた。結婚間近の婚約者同士がする話じゃないな。
「でも、」
「?」
 不意に黒衣に包まれた腕が、アカネを優しく捕まえた。細い腰を捕まえて、引き寄せると思いきや、彼は逆に自分の体を寄せた。抱きつくようにアカネの背中に手を回して、愛おしむように撫でるとアカネの唇からわずかに、鼻にかかった声があがる。
 レアシスは満足そうに手を止めると、彼女の胸元に頬を寄せて目を閉じた。
「今日はこのままがいい」
「……最近、レアシスって何だか子供みたいね」
「駄目かな?」
 答えの代わりに柔らかな溜め息が返ってきた。ふんわりとした吐息が前髪にかかって、優しい手が肩と頭を抱いてくれる。花と水の匂いがする。何だかようやく落ち着けそうだった。
「それで、何がよくわからないの?」
「うーん……」
 困ったように顔の角度を変えて、アカネを見上げながらくしゃりと眉根を寄せる。そんな捨てられそうな子犬みたいな目をしないで欲しい。反則だ。エクルーはこの目に弱いんだろうか?
「……嫉妬なのかな、と思っていたんだけど。何だか……それだけじゃ、リィンやアヤメさんを見ていても、少しもやもやするはずないからね」
「リィンとアヤメに?」
「それだけじゃないみたいなんだ」
 考え込むように目を伏せる。
「この間、シュアラに行って雪路と話をしてきた」
「例の……話?」
「主旨はね。でも、少し話をする時間があった。雪路の義理の母上は、サクヤさんに似ていたらしい。他にも雪矢くんや桜姫の話をたくさんしてくれてね。
 ……大分、いろいろとあるみたいだったけど、……」
 レアシスはそこで言葉を切った。アカネの腕の中で静かに小さく、唇を噛んでいる。漏らしてはいけない言葉を我慢するように。
「そのときも、もやもやしたの?」
「……それは」
「レアシス。ここに雪路さんたちはいないのよ。言いたくないのなら、私は誰にも言わないから。吐き出したいなら言って? 大丈夫。私はレアシスを嫌いになったりしないわ」
「……」
 少しだけ迷うような間があって、細い溜め息を胸に感じた。レアシスが顔を隠すようにアカネの鎖骨に、鼻先を埋める。彼女はゆっくりと彼の黒髪を何回か梳いた。
「……った」
「?」
「羨ましかった、んだと思う」
 ひどく自信なさげに言う。何だか声音が弱っていた。何だかこんなレアシスは久しぶりに見た気がする。初めて結ばれたクリスマスの夜から、確かな活力を感じるようになったのに。
 その灯火が、ほんの少し揺らいでいる。
 アカネは彼の頭を抱く手に力を込めた。
「羨ましい?」
 すう、と深呼吸をする。かなりの間があった。アカネは辛抱強く待った。
「昔の……母上の話を聞いたり……君たちみたいに幼馴染同士、仲良さそうに楽しそうに遊んでいるのを見るとね……急に、苦しくなる」
「苦しい?」
「……僕も」
 ぽつり、と悲しい響きが、アカネの鼓膜を打った。
「僕も、あんなふうに母上や父上や兄上や………幼馴染や。話せたらよかった。遊べれば、よかったな……」
「……」
「みんなと語れるような思い出が……僕にも、あったら良かった」
 アカネは目を細めて、小さく唇を噛んだ。ぎゅう、と彼の頭を離さないように抱きしめる。
 アカネにだってある。いい思い出。悪い思い出。笑顔で話せなかった思い出もある。そのせいで、大好きな幼馴染や、双子の姉と距離を感じたり、不必要に自分を戒めたりしてしまっていた。
 でも、今すぐではないかもしれないけれど、それも変わっていけそうだった。今なら胸を張って、アヤメが大事な双子の姉だ、リィンもエクルーも大事な幼馴染だと言えそうな気がする。
 あなたに会えて良かった。
 ――でも。
 彼の、思い出は。
 冷たい魔力槽の中で電気や薬を流された痛みは、母と言える人に無慈悲な恨みの刃を突きつけられた痛みは、……いつになったら、懐かしい思い出にとって変われるんだろう。
 いつか語れるようになるなんて無責任な言葉だ。
 彼に安らかな過去の思い出を作ってあげるなんて、アカネにはもちろん、誰にも、できることじゃない。
「ひどい無いものねだりだよね。そんなことを羨ましがったって、過去が書き換わるわけじゃない。そんなことで誰も彼もを羨ましがってても、きりがないだけで……。
 すまない、わかってはいるんだ。こんなことを話されても、迷惑なだけだって」
 アカネは何を言ったらいいかわからなくなった。でも、首を振った。
「前はこんなこと思わなかったんだ。素直にみんなに頑張って、と言うことができた。
 でも今は――」
「つらいの?」
「……つらくないと言ったら、たぶん、嘘になる」
 ――私は……私も、エクルーも……この人に何かひとつでも返せているのかしら……。
 わからない。
 でも、きっと出来ることはひとつだけ。
「ねえ、レアシス」
「?」
「明日は予定、空いてるの?」
 アカネが急に話題を変えた。レアシスは首を傾げながら答える。
「午前は外せない会議があるけど、午後からは休めって言われてる」
「じゃあ、明日。リィンたちがクロムハーツ卿のお城に行くんですって。一緒に行こう? レアシスだって風変わりしたクロムハーツ卿と直接、会うのは初めてでしょう?」
「それは、まあ……」
 昔のことを思い出したのか、少し眉を潜めるレアシスに、アカネはくすりと微笑みながら、
「10年後に明日のこと、みんなでお話できたらいいわね」
 レアシスの漆黒の目が驚いたように見開かれる。講義のときは、まるで人形のように綺麗で静謐なのに、急に人間味が増したようで少しおかしい。そして嬉しい。
 しばらくその目でアカネを見つめた後、彼はやんわりと微笑んだ。昔の取り繕うような微笑じゃない。自然と、広がって滲んでいくような。
「……ありがとう」
 呟いて、もう一度、彼女の胸に顔を埋める。
「アカネ?」
「うん?」
「今日は本当にここにいてくれるの?」
「いちゃ駄目なの?」
 レアシスは首を振る。顔を上げて、促すように視線を絡めて。アカネが頬を染めながら目を閉じていくのを待って、ゆっくり手を伸ばして。彼女の頬を耳とを包む。
 少し冷たい指先が、火照った赤い頬に触れる。指先で首筋の産毛をなぞった瞬間、アカネの体が少しだけ跳ねて、足のつま先がぴん、と伸びた。
 髪を梳いて、長くなった青銀の髪の一房にうやうやしく口付けてから、聊か緊張気味に閉じられた桜色の唇をなぞった。熔けるような甘い吐息が、お互いの口から漏れる。それすら逃すのが惜しいように、柔らかい場所を押し付けあう。感じあう。
 深く触れ合おうとしているつもりなのに、何でこんなに切なくなるんだろう。アカネは思わず薄く目を開けてしまった。本当にすぐ目の前に、互いの瞳がある。目があった。やっぱり彼も少し切なそうに目を細めて、こちらを見ていた。
 じんわりと涙が浮かぶ。嬉し涙なんだろうか。悲し涙なんだろうか。よくわからない。


 もうすぐ、この温もりを感じられなくなる。永劫のことじゃない。わかっている。信じている。でも、心のどこかで、やっぱり、切なかった。
 自然と指先が触れ合った。急くように指の間に指を絡ませて、握り合う。
 わずかに下唇を下げると、柔らかな舌がアカネの小さな唇を撫でるようになぞる。砂漠で水を求めるように、お互いの熱を分け合って、その熱の絡んだ吐息を感じあう。お互いの唇がふやけてしまうまで、愛しさと柔らかさに境界を失ってしまうまで。
 頭の芯が痺れる。感じるのは絡めあう唇と指の感触だけ。
 それでも足りなくて、身を寄せ合った。広いベッドなのに、そんな必要がないくらい。
 ようやく唇を離して、息を吐く。浅い深呼吸をしていると、レアシスが優しく背中を撫でてくれた。何だかたまらなくなって彼の首に手を回す。


「もう一度聞くけど……本当にここにいる?」
「……いるとどうなるの?」

「Je te veux」

 アカネの頬が染まる。少し潤んだ目でレアシスを見上げ、俯いて、……ほんの小さく頷いた。
 ふ、と微笑みが降りた。
 もう一度、触れるだけのキスをする。腕を絡めたまま、ゆっくりと、たゆたいながら、彼女の体は白い海に沈んだ。








PR
*COMMENT-コメント-
▽Je te veux
れーくんったら、かわいいよ?
実は禁出のパパ・ルーとサクヤのいちゃ会話に、この言葉が出てくる。
パパ・ルーが『もう2人だけの時間はないかもしれないよ? 俺が欲しくない?』と聞いて、サクヤが何も言えないでいると、さらにパパ・ルーが『ん?』と聞いて……サクヤは搾り出すように『Je te veux……』と答えたのでした。
そして2人が抱き合っている間、なぜかペトリの空にサティが流れていた……。ミヅチによるBGMサービス。

いっぱい思い出つくろうね?
▽やっぱり有名ですね、Je te veux
一回は使ってみたかったJe te veux.
サクヤさんもかわいいなー♪
みづちって毎回思うけど、粋な計らいをする方々が多いなあ。あやめりーのスセリさんとか。

いっぱい思い出つくっておいで。
▽ええっと、アカネ公認……?
”そんな捨てられそうな子犬みたいな目をしないで欲しい。反則だ。エクルーはこの目に弱いんだろうか?”
るーれーは婚約者にも容認されているのか? あらためて、ちょっと気になりました。

今度、れーくん、イドラにおいでよ。
『娘さんを僕にください』をやってみよう。
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「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
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