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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『Calling (下)』

すおみろい第4段の下。
ちょっとだけ、進展しました。
良かったね。

いろんな本音が明るみに出たエピソードでした。



 ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ #####



 集落地の親方が指示を出して、スイとスオミを囲むように青い布で幕屋を立てた。薬師の婆さまがナギの枝を切ってこさせると、幕屋から泉の方角に地面に歌いながら挿していった。
「応援がいるよ」
「そうだな。おい、みんな。マコ米でも牛の骨でも何でもお供えして、スイを見かけたら追い出してくれるように頼むんだ。三本松の爺さまはどうだ?」
「冬に死んだ大叔母さんに頼んでくるべし」
 みんな、わらわらと散っていった。
「応援ってどういうことですか?」
 クロイツは、スイの胸を押している父親に聞いた。
「最近死んで、スイのことを覚えている人に頼むんだよ」
 ということは、みんな墓にお供えして祈りに行ったということか? この非常事態に? いや、周りでわいわい騒がれるよりいいかもしれないが、クロイツにはそれほど優先順位の高い行動には思えなかった。
 祈ってどうなる? クロイツはどんな神様にも、死者にも祈ったことなどなかった。祈るなんて、余裕のある人間のやることだ。

「ククリさま、いました!」
 泉に走っていった少年が、息を切らして報告した。
「おう。ククリさまは何て?」
「キジローとサクヤがいるから大丈夫だって」



 流れが速い。水位はそれほどでもないのに、流れに足を取られて進めない。ああ、急がなくちゃ。あの食いしん坊の少年が、こっちで一口でも何か口にしたら……戻ってこれなくなる。こんなことで……命を失うわけにいかない。あの、はじけんばかりに眩しい、命の光を見失うわけにいかない。ああ、でも……霧が出てきた。ということは、川の中央の深瀬に来たんだわ。ここを渡れば……。

 足元の岩がぐらりと動いて、スオミの足が空を掻いた。バランスを崩して、肩まで流れに浸かってしまった。流される!
 腕を伸ばしてもがいた瞬間、肩を支えてくれるものがあった。
「大丈夫? 水を飲んじゃった?」
「サクヤ!」
「こっちに岩があるわ。ここに上がって休んで」
「サクヤ、どうしてここに……!」
 岩によじ登って、息をつきながら問いただす。助け起こすとき、自分も流れに浸かったはずなのに、サクヤはちっとも濡れているように見えない。早瀬の中で浮かんでいるかのように落ち着いて立っている。
「キジローに頼まれたの。坊やを捕まえてくる間、スオミとここで待っていてって」
「父さんが……?」
「無茶をしちゃだめよ。あなた、お父さんが亡くなった時も川の向こうまで追っていって、結局その後、1年間も眠ったままになったでしょう? 心配させないで」
「でも……スイが……」
「大丈夫。キジローを信じて。必ず、スイを連れてここに来るから」

 何も変わらない。相変わらず、サクヤはやさしくて正しい。そしてキジローのことを自分のもののように話す。スオミは久しぶりに苦い思いをした。そう、この人は、キジロー父さんが死ぬときまで、独り占めしてしまった。死んでも、私にキジロー父さんを返してくれなかった。
 こんな風に恨む権利は自分にないとわかっている。だからといって、あきらめきれるものではない。せめて……自分の気持ちを伝えておけばよかった。

 2人並んで岩に座って、キジローを待った。何を話していいかわからなかった。”元気ですか?”と聞くのも変だ。”お変わりありませんか?”というのはもっと変だ。スオミが言葉を探していると、サクヤがぽつんと言った。
「ごめんね」
「え……何が?」
「ずっと、あなたに謝りたいと思っていたの。キジローを独占してて、ごめんなさい」
 ずっと……? ということは、ずっと前から私の気持ちを知っていたってこと……?
「あなたに返すべきだと思っていたの……でも、どうしてもできなかった。私、どうしても……キジローが欲しかったの」

 スオミはぽかんとしてしまった。今まで、サクヤがキジローを好きだと、本気で信じたことがなかったのだ。だから、ずっとずるいと思っていた。銀髪のエクルーの遺言だから、キジローがサクヤに一目ぼれしたから、キジローにあまり余命がなかったから、結婚生活を受け入れたのだと思っていた。何というか……サクヤが女性として、誰かを本気で好きになるなんてぴんと来なかったのだ。天使のように愛されるだけ。自分から、誰かを愛することなんかないような気がしていた。
「キジロー父さんのことが好きなのね?」
「ええ。ずっと」
「そう。なら、いいわ」
 何だか霧が晴れたような気持ちだ。
「え?」
「ならいいの。父さんをよろしくね」


 霧の向うから、ざばざばと水音が近づいてきた。
「キジロー、こっちよ」
「おう、やっとで捕まえたよ」
 キジローの声が聞こえて、スオミの心臓は跳ね上がった。少しも変わらない。低い温かい声。
「まったく、ちょこまかと……手当たり次第に何でもかじろうとしやがって」
「何か食べたの!?」
「食べてない。すんでで止めた」
 すぐ傍から声が聞こえているのに、金色の霧に包まれて、顔が見えない。
「帰り道で逃げられないように、このガラス玉に入れておいた」
 そう言って、子供用のオモチャの指輪を通したひもをスオミの首にかけた。昔、キジローが桐子に縁日で買ってやった指輪だ。桐の花のような青紫のガラス玉がついている。桐子が見つかるまで、キジローはこの指輪を首にかけて、お守りにしていたのだ。
 金色の霧が、スオミの身体を包んだ。
「がんばっているな。でも、あんまりムリをするんじゃないぞ? これからは自分の幸せも考えてくれ。スオミの花嫁姿を楽しみにしているからな」
 一生懸命、目をこらすけれど、どうしても顔が見えない。でも、金色の霧は針葉樹の森のような懐かしい匂いがした。
「父さん……」
「それと、お前、まだ約束を果たしてないな?」
「約束……?」
「言ったろう? 俺が死んだら、俺のためには泣かなくていい。自分のために泣けって。まだヤセ我慢してるんだろう?」
「だって……」
「誰かいないのか? しがみついて泣ける相手。甘えさせてくれる人はいないのか?」
「だって……」
 一番、甘えたいのは父さんなの。抱きついて胸で泣きたいのは父さんだったの。でも、ずっとできなかった。これからもできない。
「幸せになってくれ。いつも見てるから」

 気がつくと、川岸にひとりで立っていた。胸に青紫のガラス玉。帰ろう。雑多な声が私を呼んでいる。あの懐かしい私の場所へ。


「きのこ汁!」
 開口一番、スイは叫んだ。母親が上げたリストの中で、一番魅力的だったらしい。
「目を開けた!」
「ヤマイモの蒸パンも!」
「ああ、生きてる……先生、ありがとうございます!」
 スオミはふらつきながら、何とか立ち上がった。クロイツが腕を貸して支えてやった。
「とにかく、身体を温めて。温かいものを食べさせるのはいいけど、消化のよいものからね。熱が出ないか、気をつけてやってください」
「はい……はい。ありがとうございます」
 スイの両親は泣き崩れている。

 スオミはよろよろと診療所の方に歩き出した。慌てて追おうとしたクロイツを、薬師の婆さまが捕まえた。
「とにかく温めてやんな。先生もあっち側に足を踏み入れたんだからね。おフロでもいい。何かあったかいものを飲ませて、着替えさせて、体温を戻してやるんだ。できるかい?」
「はいっ」
 あっち側はともかく、早朝の渓流に飛び込んで、ずぶ濡れのまま、1時間近く治療をしていたのだ。身体が冷え切っている。

 スオミは診察室の隅で立っていた。
「先生! 着替えなきゃ。すぐ火を起こしますから。着替えてきてください」
 スオミは突っ立ったまま、動こうとしない。
「先生?」
 毛布を肩にかけて、スオミの身体を包んでやる。傍に立つと、何かつぶやいているのが聞こえた。
「私……スイのお母さんに御礼を言われる立場じゃないの。私……父さんに会いたかったの」
「動機なんか何でもいいんですよ。その強い気持ちがあったから、スイを連れて帰ってこれたんでしょ?」
「だって……ただ、会いたかっただけなの」
 スオミはうつむいて、小さな声でつぶやいている。
「会えたんですか?」
 一度うなづいて、それから首を横に振った。
「声だけ……父さんはもう、金色の光になってた……」
「光……」
「ずっと、ずっと会いたかったのに……自分のために泣けとか、誰かにしがみついて泣けとか。ひどい……自分は声だけで、サクヤを迎えに寄こして、女2人で何の話をしろっていうの? ずるいわ。ずっと、自慢の娘だ、とか言って私の気持ちを封じ込めてたくせに、サクヤと仲良くしろって言うの? 私はそんなできた人間じゃないわ!」
「先生……泣いていいんですよ?」
 スオミはクロイツの胸にしがみついて、子供のように泣き出した。
「父さん……好きだったの。独り占めしたかったの。ずっと好きだと言いたかったの……」
 
 ずいぶん経ってから、スオミはクロイツの胸から顔を上げた。
「……ごめ…ごめんなさい……」
 クロイツの差し出したハンカチで、顔を拭いている。
「あきれたでしょう……私、恥ずかしい」
「いえ……かわいいと思いましたけど」
 すごく年上の大人の女性に見えたり、幼児に見えたり。赤ん坊に見えたこともあった。でも、いつも近寄りがたい気がして、捕まえる勇気が出なかった。今は……ひとりの女の子に見える。
「クロイツくん……?」
 スオミの頭がふわりと引き寄せられた。
「先生、俺、先生のこと、好きです。もっと強くなりますから。もっと俺のこと頼ってください」
 胸の中できょとんと見上げているスオミがかわいくて、クロイツは思わずあごを持ち上げてキスしてしまった。スオミは目を見開いて、じっとクロイツを見上げている。愛おしさが込み上げてきて、抱きしめた。合わせたくちびるが熱い。小さな肩が震えている。腕にかけられた手は、押しのけようとしているのか、引き寄せようとしているのか。急に手の力が抜けて、スオミの身体がずるり、とクロイツの胸をすべり落ちた。
「先生!?」
「……息が……」
 キスしている間、呼吸を止めていたらしい。そのまま気を失ってしまった。

 ええと、どうしよう。とりあえず、お湯を沸かして、お風呂に入れよう。目を覚ましたとき、俺の言葉を覚えていてくれるだろうか。まあ、いいや。忘れられてたら、また言えばいい。今までで一番、先生を近くに感じた。また、捕まえよう。ずっと側にいよう。先生が安心だと思ってくれるまで。だって、俺のたったひとりの女性なんだから。









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*COMMENT-コメント-
▽切ない…
スオミさん、切ない。
ずっと頑張ってたのね。恋愛の勝ち負けって悲しい。綺麗な形で終われるならいいんだけど。

誰かが誰かの代わりにはならないけど、うちの愚息の胸でしたらいつでも精一杯使ってやってください。
▽やっと泣けてよかったね。
クロイツくんの胸で泣けてよかったね。
これから未来に向かって明るく行こう。
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