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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『奈落の花』EPISODE FIN  (香月)

ようやく終了。お疲れ、カシス。みんな一緒に帰ろうね。

=============================================
 
「―――ッ!!」
 起き上がった拍子に手元の質の悪い羊皮紙が数枚舞い落ちる。
 呼吸が荒い。心拍数が上がっている。
「お前が飛び起きるなんて珍しいな。いつもならベッドにしがみ付いているだろうに」
「…っ………」
 干したばかりのふかふかした絨毯に寝そべったまま作業していたのが悪かったのか。いつのまにか寝入ってしまっていたのだ。
 少し離れたデスクがきぃ、と小さな音を立て、腰掛けていた老人がこちらを振り返る。
 かけられていた毛布はきっと彼がかけてくれたものだろう。居眠りした子供にかけられる毛布。当たり前なものだが、それは少年にとって特別な意味を孕んだ。
「? ……どうしたんだ?」
 がくがくと肩と膝を震わせる少年の異変に気がついて、老人は椅子から立ち上がった。
 皺に塗れた手を伸ばし、少年の―――色のない、本当に真っ白な頬に触れ、色素の抜け落ちた髪に触れた。他の皆が恐れてやらないことを、この老人はいとも簡単にやってのけてしまう。
「嫌な夢でも見たのか? うつ伏せで寝ると呼吸がし辛くなって悪い夢を見やすい。
 お前はその癖があるからな。これからは意識して仰向けで寝るよう気をつけなさい」
「……わかった」
 老人は微笑むと少年の背中に手を伸ばし、抱き上げて膝に乗せた。もう直ぐ十を数える少年の身体は大分大きくなってきたと言え、まだまだ軽い。
「もうこんな時間だ。お前はちゃんとベッドで寝たほうがいい」
「平気だ。居眠りで眠くなくなった。早起きなんてする必要ないんだから関係ない」
 少年は学校に通っていなかった。老人は通いたいのなら費用は出す、と言ったが、元来特殊な頭脳を持つ少年にとって学校の勉強など数字の書き取りのようなもので、それこそ必要のないものだった。
「生活のリズムを崩すと自律神経に悪影響が出る。お前は私の見る限り、強い方ではないぞ。
 もうそろそろ寝ないと駄目だ」
「……」
 少年は自らが整理していた図面と蔵書に目を落とした。その量と自分の作業速度を推し量る。
「もう二十分で終わるさ。だから続きやってから寝る。
 じいちゃんも早く自分の仕事しろっての。明後日なんだろ、引き取りに来んの」
 行ってデスクの上の精緻な細工の施された天秤を見る。少年にはまだそれが何をする道具なのかはわからない。老人に細かく解説をしてもらえれば解るのだが。
「……わかった。では、これが終わったら必ず寝るんだぞ? ベッドに隠れて本を読むのも無しだ」
「聞き飽きた、つーの」
「お前は聞き飽く程言わんと効かんだろう。まったく、困った孫だ」
 そう言って老人は少年の髪を撫でた。その皺くちゃの手を実に不思議そうな目で、少年は見る。
「あんた……じいちゃんは……簡単に触るよな」
「カシス。ずっと言っているけどな……」
「わかってる。俺は白化固体[アルビノ]っていう特殊な遺伝子病なんだろ?」
「ああ、遺伝子の中にある人間の身体の情報を持った塩基配列の中の物質が、ほんのちょっとだけ間違いを起こしてしまったんだ。人間も間違いを犯す。なら、その人間の中にある奴らだって少し間違ったって不思議じゃない。
 ほんのちょっと、ボタンを掛け違えただけなんだ。何を不思議に思うことがある?
 中央の奴らは未だに悪魔が降りたとかなんだとか馬鹿騒ぎしているんだろう? まったく、滑稽だよ」
 老人の苦笑いに、少年は滅多に浮かべない笑みで返した。
「さて、もう一頑張りしよう。カシス、その前に顔を洗っておいで。すっきりして仕事も捗るだろう」
「ああ、わかった」
 頷いて、少年は老人の手から降りようとする。老人は少し考えてから、もう一度、その白髪の頭をくしゃりと撫でた。
「?」
「カシス」
 その撫で方が少しいつもと違っていたので、少年は洗面所に行く足を止めて老人を振り返った。
「お前は大事な私の後継者だ」
「ん」
「いつも耳を澄ましていなさい。目を開いていなさい。私はそこにいるからな」
「……?」
「日の下に咲きなさい。誇らしい花となりなさい。お前は奈落の花ではないのだから」
 そう言って、祖父は微笑んで、もう一度頭を撫でてくれた。

 ――ああ、ようやく、思い出した。


 目を覚ましたのは、頭部への衝撃のせいだった。
「ぐ……」
「さっさと起きろ、この無責任導師」
 逆光の中に、歳の割りにやや幼い、見慣れた顔と緑青の瞳が見えた。続いてぽん、とお腹の上に何かが乗る感覚。
「とうしゃ、みつけたー」
「……」
 あっけらかんと腹の上にのさばるのは、包帯を指に巻きつけた、同じ瞳、同じ髪の色をした小さな娘だった。いつになくにこにこと実に嬉しそうにこちらを眺めている。
 その小さな体越しに、蔓を風に揺らすサクラランと少し古びた石碑があった。
 ということは、これは夢でも何でもなく、ここは眠りに落ちるより前の記憶にあるエイロネイアの庭だということだ。
 カシスはもう一度、真上を振り仰いだ。
「何で居んだよ?」
「何も言わずに、ふらっとどっかに行きやがった馬鹿を迎えに来たに決まってるでしょーが。寝起きで頭、ぼけてんの?」
「ああ、そうかもな」
 彼女は無言でまた人の頭を蹴り飛ばしてきた。くそ、後で風呂できっちり洗わせてやる。
「ぽかぽか人の頭、蹴り飛ばすんじゃねぇよ! 脳みそ機能しなくなったらどうしてくれる!?」
「あんたの場合、その方が少し大人しくなっていーわよ。嫌だったらさっさと起き上がれ」
「ちっ……」
 悪態を吐いて起き上がる。同時に、腹の上にいたアルテミスが胸元にぎゅう、と抱きついて来た。拍子に腹の上からばさり、と黒いストールが落ちる。見覚えがあった。
 ――あの変態皇帝、余計なマネしやがって。
「アルテミス、いらっしゃい」
「えー?」
 やや不満げな声を漏らしながらも、アルテミスはカシスの腹の上からぴょい、と飛び降りた。すててっと駆け寄った先は、石碑の前にしゃがんだルナの隣。
「おはか?」
「そうよ。あんたのえーと……ひいお祖父ちゃん? の墓」
「……」
 しれっとした顔でルナが言った。カシスは何も言わなかった。
「じーちゃん?」
「そう。とーさんよりもずうっと凄い人」
「ほへー」
 アルテミスは目を丸くした。しばらくぼけっとした後、まだ痛々しい手をぱんっ、と打ち鳴らして、
「あるもとうさんやじいちゃんみたいなまどーしになれますよーにっ」
 カシスは密かに噴出した。墓参りというものは死者の冥福を祈るものであって、願掛けではないのだが。
 まあいいか。祖父にとっては、確かにこの上ない鎮魂かもしれない。ルナも何も言わずにアルテミスの頭を撫でて、自分も静かに手を合わせた。
 シュアラ出身の彼女と自分の作法は違う。
 けれど、やることは同じだった。
 手の中の闇色のストールと、赤い装束を羽織った彼女、そして自分と同じ色をした娘の姿を見比べて、祖父の言葉を反芻する。
 ――悪いな、祖父ちゃん。すまんが俺はどうも日の下に咲けそうにない。
 彼は闇と月に育てられた。日の下には咲けそうもない。だが、十分だ。宵闇の月下に咲く花でも、十二分に愛される花はある。
 持ち主には悪いが、ストールをばさりと芝生の上に落す。どうせ土には汚れていた。恨むなら片腕の自分に余計な施しをした自らを恨むんだな。
 そんなことを考えながら、カシスは片方しかない右腕を動かす。
 その白い指は、もうきっと幾度することもないだろう、十字を描き、切った。


「……籍でも入れるか」
「は?」
 サクラランのアーチを抜けて、墓に向かってばいばいをするアルテミスを眺めながら、ぼんやりと吐いた台詞がそれだった。隣にいたルナの目が丸くなる。
「……あんた、本気で悪いもん食べたでしょ?」
「失礼な反応だな、てめぇ」
「いや、だって」
 ルナはぽりぽりと頬を掻く。
 イドラで衣食住を共にし、果ては子供まで設けたが、実際のところ彼らは今の今まで正式に籍を入れたわけではなかった。理由はカシスのエイロネイア籍になっている偽りの戸籍をいじくるときに、いろいろと面倒が生じることと、ルナ自身が堅物な生家をあまり好んでいなく、厄介ごとを起こすのがやっぱり面倒だったから。そして二人ともそういったものに無頓着だったのが最大の原因である。
 今までは別に困らないと思っていたが、なるほど、サクラランの蔓を引っ張って遊ぶ我が子を眺めていると、そういうわけにもいかないか、と思い至った。まさか、こいつの方から言い出されるとは思っていなかったけど。
「……わかった。帰ったら、ちょっくら生家の連中を脅してくるわ」
「おう、行って来い」
「あんたも御大ばっかに頼んでないで、たまには自分で動いたら?」
「俺がやるよりあいつがやった方が遥かに手際がいい。適材適所、ってヤツだろ」
「あのね。まあ、いいや……。
 それはそれとして、あの子のフルネームはどうするつもり?」
「あー……だな」
 まだ少し、朦朧とする頭でぼんやりと考える。ちょいちょい、とズボンを引っ張られる感覚がして下を向くと、思った通り、幼い娘が小首を傾げてこちらを見上げていた。
 ――そうだな……
「ノワール、か」
「?」
 カシスは片手で器用にアルテミスを抱き上げた。
「アルテミス=ノワール。ついでにベルサウス=グリュンスタッドのおまけだ。そう悪くないだろ」
「……ま、あんたにしちゃ悪くないネーミングじゃない」
「?」
 にやりと笑って口にした名前に、ルナはふう、と息を抜いてそう返した。そして片手を出そうとして、やめる。代わりに、アルテミスを抱き上げる腕を引っ張った。
「ほら、行くわよ」
「どこに」
「馬鹿? 帰るに決まってるじゃない。こっちはここ数日、まともに風呂に入ってないのよ」
「かえるー、おなかすいた。"せんぞくぱてぃしえ"のてぃらみすたべたい!」
「そりゃ好都合だ」
 アルテミスがぱっと顔を上げた。唐突に降って湧いた声。二人が振り返るより先に、アルテミスが「大きい方のおじじー」と叫んで、結局、二人とも大爆笑だった。
「あのなー、小さいアル、それはないだろー?」
「じじつなのに」
「父親の前だと素直なのになー」
 片手に何やら膨れた袋を持ったアルバートこと大きい方のアルは、少し溜め息を吐いてアルテミスの頭を撫でた。
「好都合ってどういうことよ?」
 ルナの問いに、大きい方のアルはがさり、と手の中の袋を翳して見せた。
「カルミノからの帰りでさ。毎度おなじみの八咫鴉便が来たから何だと思ったら、研究所の管理をサボっているのが二名いるから連れ帰ってくれ、って。
 ついでに最高品のスパイスやら菓子の材料やら押し付けられたんだ。エクルーに渡して、完成品を持って来てくれ、って」
「茶菓子の逆輸入かよ。意地汚ねぇな。
 つーかてめぇ、またあの姫さんのお付き、口説きに行ってたのか? 良い歳したロリコンが」
「ひどいよなぁ、せっかく迎えに来たのに。それに、君に言われる筋合いはないと思うんだけど」
 にやにやと笑ったアルの視線がずれて、ルナで止まる。彼女の目が剣呑な色を灯して、ぴきっ、と額に血管が浮かんだ。
「くっくっく、それもそうだ。問題は歳でなく、見た目だからな。主に普通は出てるべき箇所とかな」
「ほっほう……」
 どす黒い、地を這うような声が響く。じゃきん、とどこかで聞いたような重い金属音が響き、ルナの細い両手に、無骨な黒い塊が二つ握られた。
「会って早々、そういう口を利くたあ、いい度胸じゃない。それなりの覚悟は出来てるんでしょうねぇ、二人共……」
「げ」
「塵に帰れ、エクスプロードッ!!」

 緑の庭に似つかわしくない粉塵が舞った。

「ま、待てルナ! アルテミスに当たったらどうするんだッ!」
「根性で避けろッ!」
「無茶言うなッ! おわッ!」
 放たれた銀光から荷物を死守しながら、アルが隣で喚いている。広大な庭を避け逃げながら、カシスはくつくつと実に楽しそうな笑いを上げた。
「とうしゃー?」
「何でもねぇよ。実践訓練だ。背中で迎撃しろ。手加減はいらねぇぞ。てめぇの母親はンなヤワじゃないからな」
「はーい♪」
「おいおい……」
 嬉々として覚えたばかりの呪文をぶつぶつと唱え出すアルテミスに、大きい方のアルはさすがに苦笑した。
 背後の怒鳴り声と、やたら楽しそうな娘の声を聞きながら、彼は生まれて初めて思う。

 ――帰りたい。






「……」
 庭から響いて来る爆音に、デスクの上の皇帝は胃の痛い息を一つ吐いた。
「……ですから甘いと」
「うん、反省してる」
 まったく、と呟きながら従順な従者は新しい茶を淹れに行く。それを見送って、レアシスは庭が半壊する前に止めに行こうと窓の外をちらりと見た。
 でもその前に。
「一仕事、終えとこうかな」
 彼は目の前の書類にさらさらと文字を滑らせる。最後にかっ、とペンを弾くと、満足そうにインク壺にペンを立てて立ち上がる。
 デスクの上に残された書類には、こう記されていた。


『Cassis=BellSouth=Grethestead』









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▽ほっとしましたよ。
アルも混ぜてもらってよかったね。
さあ、みんなでクリスマスだ♪
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