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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『奈落の花』EPISODE1     (香月)

サイトより転載。カシスのトラウマ克服編、第一弾。
ルナちんとイリスさんが強すぎる…

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 油断があった。それは認める。
 少し用を足しに部屋の外に出て、再びドアノブを握ったときに違和感があったのだ。そして、部屋の内側でがしゃん、という音がしたとき、それは確信に変わった。
 ばたんっ、と盛大な音を立ててドアを開くと、同じ色の髪と瞳をした幼い少女が振り返った。
「とうしゃー」
「おま……っ!」
 怒鳴りつけようとして、急激に体の温度が下がった。
 少女の白髪が不自然に濡れている。側には割れたフラスコがあった。見覚えがある……というより、つい先日、エイロネイアから取り寄せて、昨日から徹夜で調べていた薬品だった。
 さあ、と背筋に寒気が走った。首を傾げて手を伸ばしてくる自分の娘。カシスは猫でも持ち上げるように、その首根っこを捕まえて階下に走った。
「へ? 何、どしたの? 何事?」
 階下ではちょうどサクヤの家から帰って来たばかりのルナがいた。いきなりばたばたと、駆け下りてきたカシスを見て、さしもの魔女も困惑気味だ。
 床に荷物を置いたルナに、カシスは今度こそ本当に怒鳴りつけた。
「さっさと風呂を沸かせ、大至急だ! それから救急用具を出しとけ、早くしろ!」


 全身を洗い流させて、とりあえず治癒の魔法をかけて、それでもまだ赤くなっていた柔らかい爪の先を救急用具で手当てして。
 ようやく冷や汗がひいたカシスはソファの上に倒れ込んだ。その膝の上で包帯の巻かれた手を操り辛そうにしながら、アルテミスが「とうしゃー?」と彼の目を覗き込んでいる。
 どれほど怒鳴りつけようかと思ったが、やめた。疲れた、呆れた、もうどうでもいい。
 ついて出そうになった言葉を引っ込めて、カシスは些か乱暴にわしわしと小さな頭を撫でた。
「……で、何だったのよ?」
 ソファの背もたれの向こうから、ルナが話しかけてくる。もう説明するのも面倒だったが、疲れた声で言い放った。
「レグレス酸化剤だ」
「は?」
「この馬鹿、部屋で熱処理中だったレグレス酸化剤を頭から被りやがった」
 ルナの顔から目に見えて血の気が引いた。
「ちょっと! それ劇薬じゃない!」
「わあってるつーの。だから焦ったんだろーが、ったく」
「わかってる、じゃないわよ! だあから部屋にはあれほど鍵をかけろ、って言ってるじゃない!」
「いってぇな! いちいち人を殴んきゃ話出来ねぇのかよ、てめーはっ!」
 しばらく睨み合ってから、「とうしゃー、かあしゃー」というアルの声に我に返る。
「ごめんなさい、もうしない」
『……』
 じっと伺うように見上げてくる娘の視線に、息を吐いたのは同時だった。
「あのな、お前、一歩間違ったら死んでるところだ。わかってんのか?」
「うん、わかった。もうしない。ごめんなさい」
 本当にわかっているんだろうな?
 調子よくお腹の辺りに抱きついてくるアルテミスに、力なく首を振る。徹夜も相まって異様に疲れた。
「でも、あれ、確か御大様に頼んで特別に送ってもらった、って言ってなかったっけ?」
「しゃーねぇだろ、この際。今夜にでも連絡してもう一回、送らせる」
 へえ、とルナが裏のある声を上げる。
「何だよ……」
「別にぃ? 何でもないけど? アル、まだひりひりするでしょ? 薬湯飲みなさい」
「うー……」
「自己責任よ。苦くても我慢」
 言いながらルナはカシスの膝から幼い娘を抱き上げる。娘は憮然としながら、少しは責任を感じているらしい。いつになく大人しく台所に連行されていった。
 救急用具を押しやって、ソファに寝転がる。眠ろうとしたが、どうもいつもと勝手が違って寝付けない。勝手に神経が昂ぶっているらしい。気分が悪い。ぐらぐらする。
 目を閉じるだけ閉じて、浅い呼吸を繰り返す。これだけでも結構な休息になる。
 図形と数式と理論図が頭の中で整理されていく。あれはこう、これはこう、これは後に置いておく、いや、あっちがこう使えるかもしれない、だからこうなって……。
 いつもの情報整理が始まる。その平行思考の中で、ふと瞬くものがあった。
「……」
 思い出した瞬間、さらに気分が悪くなった。
 少し煤けた木の匂い。手触りのなくなった薄っぺらな絨毯。ほんのりと漂う薬品の匂い。ときどき、かちゃかちゃと工具の音が聞こえてくる。
 カシスは息を吐いた。もう5年も前も話だ。何で今頃になって思い出すんだか。
 もう終わった話。最近はイドラの静かなんだか、騒がしいんだかわからない空気に揉まれて、頭に浮かぶことなんてなかったのに。
 ……いや、原因などわかっている。アルテミスのせいだ。


 どれくらい前になるか。確実に10年は昔だ。10歳と少しくらいの頃だったような気がする。
 カシスがまだベルサウス老の小屋に来て間もない頃。まだ素直にあの薄汚れた小屋とじじいを慕っていた頃の話だ。
 同じようなことがあった。
 何の薬だったかは記憶にない。あのとき、ベルサウス老の書斎で、深青色の深海のような液体がフラスコの中で踊っていた。深青色……銅か何かか? ともかく、当時は魔道学1本で、そんなことも知らなかったから、無意識に手を伸ばしてひっくり返してしまった。
 ベルサウスがしばらく前から、眠らずにそれについての何かの作業に没頭していたことは知っていたから、ひどく申し訳ない気持ちになった。ベルサウスの貴重な研究の一つを台無しにしたと思ったのだ。
 怒鳴られると思ったのに、薬品を被ったカシスを見つけて、ベルサウスはそれまで見たこともないほど血相を変えた。そして無理矢理カシスを抱き上げると、風呂場に連れて行って桶に汲んだ水を懸命にかけ始めた。
 最初は罰なんだと思った。けれど、ベルサウスはそれから幼いカシスの髪や体を丁寧に洗って、乾いたふかふかのタオルで拭いてくれた。新しい服に着替えさせて、「どこか痛くないか?」「気分は悪くないか?」と質問責めにしながら、ひりひりする爪先や手の甲に軟膏を塗り、包帯を巻いた。
 それから懇切丁寧に、自分の部屋にある薬品について説明された。自分が被ったものが、人を殺せる劇物だと知ったのはそのときだった。
 ベルサウスは深い溜め息を吐くと、もう二度と同じようなことはするな、と念押しした。
「……」
 胸の中が煮えくり返って、カシスは寝返りを打った。忌々しい。今さら、あのじじいが何だというのだ。自分が殺される土壇場になって、いらないと言われた。来なければ良かったと。
 血の海に沈む孫に、あの人はそう吐いたのだ。
 もうどうでもいいことだ。自分は今でもこうして生き残っている。もうルーアンシェイルの塵どもや、上っ面だけ取り繕った偽善者には騙されない。
 あれは事故。自分の身に降りかかった災厄。それで片付けて来た。それを思考すると、何故だか、決まって槍に貫かれるような痛みが身体に走るけれど。
 だが、どうにも眠りに入れなくて目をうっすらと開いた。
「あら、寝てたんだと思ったら」
「……何してやがる」
「いや、別に何も」
 目と鼻の先にいた連れ合いは、やけに機嫌が良さそうににやついていた。
「馬鹿に機嫌がいいじゃねぇか、気持ち悪ぃ」
「あたしが機嫌いいのがそんなに悪いか。つか、あんたに言われたくないし」
 言葉のボールを投げると剛速球で返ってきた。普段はこれが面白いのだが、何故か今日はそんな気にもなれない。
「でも、驚いたわよ」
「何がだよ?」
「あんたのあんな切羽詰った顔なんて初めて見た。正直最初、あんたが父親なんてやっていけんのかなー、って心配してたけどそれほど心配する必要もなさそうね。安心したわ」
 カシスは眉間に皺を寄せた。
「切羽詰った、俺が?」
「何、無意識だったわけ? あんなに血相変えてたくせに?」
 ちりっ。
 焼きつけるような、かすかな痛みが体に走った。
 血相を変えて、俺が?
 馬鹿な、それじゃあまるであの日のあのじじぃと一緒じゃないか。俺とあの裏切り者のじじぃが同じ? そんなことがあってたまるか。
 でもそうだ。確かに、薬を被ったアルテミスに対してとったカシスの行動は、あの日のベルサウスとぴったり重なる。
「……」
「カシス?」
 普段から血色のよくない顔がさらに青く、冷たい汗が浮いている。ルナは不自然に思って、側に置いていたタオルでその汗を拭ってやろうとした。
 しかし、その手を払いのけて、カシスはどこか不安定な足取りでのろのろと立ち上がる。
「どうしたの?」
「……寝る」
 そのままふらふらと寝室へ向かう。
 残されたルナはきょとん、と目を瞬かせた。そして呆然としながら、
「……あいつがちゃんと寝室で寝るなんて、明日は火矢の雨でも降るのかしら?」
 何とも失礼な言葉を吐いていた。


 研究所の中に耳慣れない音が響いていた。
 朝に顔を出すなり、自分用に用意されたデスクでいきなり愛用の魔銃を手入れし出したルナに、ジンとアルは目をぱちくりさせる。
「珍しいな」
「というか、懐かしい?」
「まあ、こっちに来てからそんなに使う機会もなかったからねー」
 引鉄にわずかに油を差して、かちり、と鳴らす。弾はない。魔銃の弾は魔力そのものだ。力を込めなければただの空砲だ。ふう、と銃身に息を吹きかけてから布地で拭いてやる。
 彼女の膝に乗ったアルテミスがいつになくきらきらと目を輝かせて、その手先を見つめていた。何となく将来的な不安を感じながら、大きい方のアルがその作業を覗き込みなが言う。
「どうしたんだ、いきなり?」
「別に定期的にはやってたんだけど……まあ、いいや。少し、必要になりそうだからさ」
「また物騒なことやるなよ……。それより、カシスはどうしたんだ? しばらく出て来てないけど、また地下で引き篭もってるのか?」
 アルが笑いながら問う。ルナは、ぱちくりと瞬きをして、小首を傾げた。
「いや、ヤツなら5日くらい前から行方不明だけど?」

 かしゃん、ぷうっ、がしゃんっ!

 向こうのデスクでジンがお茶を噴き出して、アルの手からファイルケースが滑り落ち、簡易のキッチンから食器を取り落としかける音が聞こえた。あれはエクルーだろう。
 ルナの膝でアルテミスが「あー?」と不快そうな声を上げた。
「ちょっと待て!」
「何?」
「何? じゃなくて! 5日前から行方不明ってどういうことだ!?」
「いや……行方が分からない?」
「言葉の意味を聞いてるんじゃないっ」
 珍しく声を荒げているアルに、ルナは肩を竦める。
「そんなこと言ったって、5日くらい前にふらっとどっか出て行ったなー、と思ったら帰って来ない、みたいな?」
「みたいな、じゃないっ。探すだろう、普通。というか行き先聞かなかったのか?」
「そんなこと言ったって、いつのまにかふらっといなくなってたしさー。っていうか、アイツだってガキじゃな……いや、いろんな意味でガキだけど。図体だけはでかいんだから、いちいち行き先なんか聞かれたくないじゃない」
「そうは言ってもどうするんだよ……。5日帰って来ない、ってどこかで何かあったのかと思うだろっ」
「いやあ……」
 ルナはぽりぽりと後頭部を掻く。アルは溜め息を吐いて、細肩にぽん、と手を置いた。
「ルナ。言ってないから、たぶん、知らないだろうけど……。アイツもいろいろとあった口で、」
「知ってるわよ」
「いきなり何かの弾みでどうなるかわからない……って、へ?」
 予想に反して、あっさり答えたルナに、アルの目が点になる。彼女は事も無げに手を払うと、短い溜め息を吐いた。
「御大様に聞いた。あの人、いろいろ律儀だからね。言動に似合わず。
 ま、いろいろあるのはわかるけどね。だからどうだ、ってわけでもないし」
「おいおい。だからな……」
「ん、だからいい加減、そろそろ迎えに行って来るわ」
「は?」
 がちゃん、と手入れの終わった魔銃が太もものホルスターに納められた。ルナは軽く息を吐くと、立ち上がってアルテミスを抱き上げる。
「かあしゃー、とうしゃ、さがしにいくの?」
「ん、そうよ。困ったあんたの父さんを迎えに行くの」
「わたしもいくー」
「そうねー、でもちゃんと大人しくしてなさいよ」
「って、おいおい。5日前、ってことはイドラと限らないじゃないか、連れていくのか? というか、場所わかるのか?」
「さあ?」
「さあ、って……」
「ルナ、出来たぞ。ジンとアヤメの作ったものを詰めただけだが」
 ジンの家に繋がるドアが開いて、イリスが顔を出した。手に何かの包みを持っている。たぶん、弁当か何かだろう。
「さんきゅー、イリス。助かったー、自分で作る暇なくてね?」
「ミヅチに言えば直通できるのに、まったく強情だな」
「あははは、いーのいーの。まあ、ジェイドもアンバーも連れて行かれちゃったから、さすがに向こうの大陸まではカリコボに送ってもらうわよ。
 それに、あたしはなるべく自分の足で歩きたいの」
 包みを受け取って、朝方から持ち込んでいた小振りな荷物を、アルテミスを抱いている方とは逆の手で持ち上げる。
「じゃあ、数日留守にするから、有給でよろしく。あ、この間の、計算は終わらせといたから後始末よろしくー」
「お、おいルナ!」
 ウィンクだけ残して、やや呆然とする一同を尻目に、ルナはすたすたと研究所を後にする。何でもないような顔で見送っていたのは、短く「頑張れ」とエールを送ったイリスだけだった。
 彼女はその凛とした声に、後ろ手に手を振って答えた。












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