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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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モノクロのキス Side:L

思いつきのままルナちんセンターでかしるな話。
自由すぎた人の苦悩。
自由すぎるのもいいことじゃないと思うんだ。

しかし、ルナちんセンターは語り部話が多いな。

=======================
 
『モノクロのキス』

Side:L 乱れた振り子



 最初はどうなることかと思っていた。

『お前の半生を寄越せ』

 正直な話、密室にでも監禁されて、夜な夜な欲の捌け口にされるような生活でも待っているのかと思っていたくらいだ。実際、それ程度の覚悟は出来ていたし、さあ、そうなったらいつ舌を噛もう?と画策していたくらいである。
 ……いっそ、その懸念が現実になってくれた方が楽だったかもしれない。


 傍目には情熱的な行為だったかもしれない。
 さもありなん。一人の男のために国を捨てて、馴れない遠国に向かうというのは、どれだけ使い古された御伽噺だろう。カルミノの王女あたりなら、涙を流しながら食いつきそうな純愛ストーリーだ。
 でも当時の心境は、そんなに綺麗な心境でもなかった。
 私にとっては契約でしかなかったからだ。あの娘を紗羅に取り戻すための、ただの契約。あの男にそれを依頼した、これはその報酬。

 それで構わなかった。
 その結果を導いたのは他でもない私だ。もともと紗羅に未練などあるはずもない。傍目よりも薄情な生き方をしていた私にとって、今さら失って困るものなど何一つなかったのだ。

 もともと冷めた思考の持ち主だったという自覚はあった。だから誰にでも、その人間に一番合った『役者』であることができた。
 カノンのことにしたってそう。大切な友人を取り戻すための自己犠牲、なんてものじゃない。客観的にあの娘が戻ってくることが、最も良い結果を招くと判断しただけなのだ。もともと自分の身体にそれほどの価値を見出していたわけでもない私は、あっさりとあの男の要求を呑んだ。

 本当は、誰のことを言う資格などないのかもしれない。私こそ、いつ、誰の手を離してもいいような生き方をしていた。
 情の深いフリをして、土壇場になれば誰の手でも突き放せるように生きてきた。失って困るものを作らないように生きてきた。
 一度だけ、その均衡を崩しかけたことがある。初めて人に惹かれかけたとき。でもそれは、"恋"なんて形を取る前に呆気なく霧散した。それで良かったと思っている。自分の枷になるようなものは作らなくて正解。

 そんな生き方をしてきたせいか。
 周りの人間は私を自由だと言った。冗談のような、他愛のない悪意を込めて。
 私には雪路のような地位の枷も、エクルーのような特別な情の枷もない。至極、自由。そうなるように生きてきた。何の枷も嵌めない、何の錘もない生き方を、淡々と選んだ。何年時を刻んでも、けして乱れない振り子のように。ふよふよと宙を漂う糸の切れた風船のように。
 私はきっと、誰が死んだって泣けないんだろう。

 だから容易く奈落を選ぶことができる。失って困るものがないということは、こういうとき利になる。もしかしたら、このときのためにこんな生き方をしてきたのかもしれない、とさえ思った。

 人は空を飛ぶ鳥になりたい、と言う。
 でも、大きな空を飛ぶあの鳥が、必ずしも幸福とは限らない。
 私は苦痛を感じない、冷めた自由の代わりに、幸せを感じる感情さえも捨ててしまったのかもしれない。


 ……まあ、そんな覚悟をしていたわけだけれど。
 イドラに着いて、さあ、どんな辱めを味わわせてくれるのか、半ば楽しむように仁王立ちしていた私に、最初に言い放たれた一言は、『好きにしろ』だった。

 いや、わけがわからない。

 『出て行くことは許さない。だが、普段何してようと構わない。好きにしろ。というか無駄に拘束しても俺が面倒くさい』。
 ……ちょお待てや、コラ。
 人をイドラくんだりまで引き込んでおいて、何だその言い草は。いや、別に拘束されたかったわけじゃないけど。
 一体、何がしたいんだ、この男は?
 エイロネイアの宮仕えということだが、まさか体裁に女を飾って置きたいわけでもないだろう。自分で言うのも何だか、私以上に見栄えのする女ならごろごろいるだろうし、この男のルックスがあれば一人や二人は容易く釣れるだろうから。
 そう宣言した後に、『その代わり、俺も俺で好き勝手させてもらう』とこっちを全無視で、持ち込んだ分厚い魔道書に顔を埋めた。
 ―― ……本当に何がしたいんだ、この男?
 ……まあ、いいか。
 本人がいい、と言っているうちは自由にさせてもらおう。束の間かもしれないし。
 この男ほどじゃないが、多少の知識欲を持っていた私は、魔道のご本家であるエイロネイアから持ち出されたのだろう魔道書を引き寄せて、勝手に見させてもらった。法度であるはずのその行為に、男は別段、何の文句も吐かなかった。


 そんなよく解らない、微妙な関係のまま同居がスタートした。
 確かに夜は多少過激な夜伽に付き合わされるものの、その他はほとんど放任と言ってもいい。別に縄をかけられるわけでも、首輪を嵌められるわけでもない。ただ必ず、もともとあった物理研究所の隣の建物に帰らなくてはならない。ただそれだけだった。
 幸い、イドラにやることは尽きなかったから、そんな状態でも退屈することはなかったけれど。
 何度も「何のつもり?」と聞いたが、大抵、いつもの腹の立つ不遜な態度と言動が返ってきた。本当にムカつく。何なんだ、一体。

 雪路には遠慮なく暴言を吐く友人を、エクルーには口うるさい母親役を。いつでも誰かに必要な役を演じてきた。
 けれどわからない。この男は私に何を求めているのか。こいつが求めていたのは、何でも言うことを聞くお人形ではなかったのか。
 ……まったく、苛々する。

 そんなうちに、私の腹に子供ができた。
 ……まあ、避妊なぞ気にせずにしてたんだから、当たり前っちゃ当たり前だわな。
 さて、どうなるかと思って口にしてみたら、『今さら気づいたのか?』と馬鹿にしたような口調で言い放たれた。
 ……あー、そうかい。そういえばあんた、医者でしたね、見えないけど。
 どうするのか疑問に思って聞いてみると、返ってきた答えは『面白そうだから産め』だった。『面白そうだから俺の子供を産め』、ってその発想の方が逆に面白いわ。
 『考えてもみろ。俺の頭とお前の馬鹿魔力[ぢから]の産物なんぞ、逆に面白そうだと思わねえか?』
 ……言われてみればそうかも。
 いやいや、感化されてどーする、私。っていうか馬鹿魔力[ぢから]って失礼な。
 ともかく、こいつにとってみれば交血さえ研究対象と。はあ、まったく逞しい。ここまでくるといっそ感嘆してしまう。
 まあ、そんなこんなで産まれた子供は、ヤツの予想通り、結構とんでもない娘でいろいろと凄まじいことをやってくれるわけだが、それはまた別の話。

 ひどく温い家族ごっこが、取り返しのつかないところまで来ている。
 ただの契約だったはずが、何故か世間の目から見れば、いい家族、いい夫婦とまで言われていて。
 未だに私だけが、気持ちの悪いほど冷めた世界に囚われているようだった。私には、家族間の愛情を語るような資格などないはずなのに。

 それからもう一つ。未だに解せない。
 あいつは、一体何のつもりで、私にこんな中途半端な枷を嵌め続けているのだろうか。





「……ん?」
 西日が夕刻を告げる温室に、未だに人影があることに気がついて、エクルーは首を傾げた。味わったはずのデジャヴが頭を過ぎるが、コンソールの前に置かれた立て付けの悪い椅子に胡坐を掻く、大分小さな背中にああ、と納得する。
 雰囲気が違いすぎるのか、同じ時間、同じ場所に腰掛ける、ちょっと面白いこの姉とサクヤを間違えることは、不思議なことになかった。だからといってこの年上の女性を嫌いなわけじゃない。
 サクヤの切ないほどの思慕を受け継いだ魔女は、コンソールの前で腕を組んで、長く伸びた髪を唇に押し当てていた。眉間には皺が刻まれている。
 後ろから覗き込むと、見ているものは、かつてサクヤが歌いながら見ていた植物リストではなく、イドラという島全体の地図だった。その上から何やら幾何学模様が描かれて、ポイントが穿たれている。女性の片手間には、何かの設計図のようなものが置かれている。
 エクルーには、それが何を指すのか、さっぱりわからない。
「お疲れ様」
「ん」
 そう言ってマグカップに淹れた紅茶を出すと、魔女は礼も言わずにずずず、と口にした。サクヤだったら、何となく申し訳なさそうに礼を言うだろう。
 エクルーは苦笑いする。この椅子にこんな別人が座って、かえって良かったのかもしれない。彼女がここに座るようになってから、この場所に来るたびに湧き上がる慕情は減ったような気がする。ここに座っているのが、サクヤと似たような人間だったら、俺はここに来て椅子を見るたびに、また複雑な気分に陥っていたかもしれない。
「何やってるの?」
「定点観測」
 簡潔にずばりと言った。
「定点?」
 問いかけると、頭の中を整理したいと思ったのか、くるりとこちらに向き直って足を組む。「見えるよ」と言おうかとも思ったけれど、言ったら言ったで銃のグリップか青い閃光が飛んでくる気がしたのでやめておく。
「緑化の目処はもうたった」
「……ほんとに?」
「ん」
 紅茶をすすりながら、彼女は目を瞬かせたエクルーにあっさりと頷いた。彼女はボールペンの先でかつかつと耳の後ろを叩きながら、
「雪が降ったでしょう? やり方が間違っていない証拠だわ。このまま自然界のバランスをゆっくり戻していってやれば、サクヤが植えていった植物が自生して、自然と根を生やす。時間がかかるのは仕方ないけどね」
「……そっか」
「でも、いくら緑を増やしたところで、星が降ってくれるのは変わりない」
 彼女はまたくるりと椅子を傾けて、コンソールに向かう。
「以前、星が降ったデータと今観測されている流星のデータを元にして、着地地点を割り出してるのよ。それさえ解れば、被害を最小限に食い止めることもできる」
「そーなの?」
「ま、姉さんに任せて置きなさい」
 言って彼女はぱらぱらとメモ書きされた羊皮紙を捲る。ふと、エクルーはあることに気がついた。
「それ、ルナの字じゃないよね?」
「……」
 舌打ちされた。
「……生憎、防御結界は専門外なもんでね」
 エクルーはにやけた笑みを浮かべる。イドラで彼女以上に魔道を卓越している人間など、一人しかいない。と、途端に銃のグリップが脳天に降ってきた。
「あだっ!」
「にやにやしてんじゃないわよ。しまりのない」
「乱暴だなあ……」
 後頭部を抑えながら、呟く。彼女はコンソールの電源を落とすと、ばさりとファイルを纏め始めた。
「そろそろ帰るわ。夕飯の準備しないと」
「あ、台所にさっき作ったドライカレーがあるから好きなだけ持ってっていいよ。きりがいるからちょっと甘めだけど、それは調節して」
「ああ、さんきゅ……」
 言いかけて、はた、と彼女は言葉を止めた。ぎゅ、と眉間に皺を寄せる。
「どうしたの?」
「……今、あたし、自分で『帰る』って言った?」
「? 言ったけど?」
「……」
 気持ちの悪いものでも見たような顔で、ルナは苦い表情を浮かべた。エクルーは首を傾げる。
「どうかした? 具合でも悪いの?」
「……いや、何でもない。また明日」
 簡潔にそれだけ言うと、ルナはそのままの表情で温室を出て行った。


 気持ちの悪い感情が心臓を埋めている。
 舌の上に苦いものが走っている。
 『帰る』? 私が?
 ……そんな単語、今まで口にしていただろうか。いや、していた。無意識のうちに。気持ち悪い。
 口元を抑えても、口の中に残る苦さが消えない。
 いつのまに口にしていたんだろう。産まれてから口にした覚えなんかなかったのに。何で? 答えは単純だ。帰る場所だと思ったところが無かったから。
 帰る場所という単純な足枷さえも、私は今まで作らなかった。だから、そんな言葉を口にする必要もなかったのだ。
 ……今までは。
「……気持ち悪」


「かあしゃー、おかえー」
「たらいまー。ほい、みやげ」
「ありがとー、おちゃもってくるー」


「……ただいま」
「また随分と機嫌が悪ぃじゃねぇか」
「あんたの所為よ」



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*COMMENT-コメント-
▽やっぱりスキです、かしるな
ルナは自分で言うほど、自由じゃないんだと思う。そして、実は捕まえられたかったんじゃないのかな?

まあ、成行が成行だから、自分が”幸せ”だって認識にしくいんだと思うけど。
でも、やっぱりいい家族で、いい夫婦なんだと思うよ?
▽原作で一番幸せになって欲しかったCP
何か平気な顔して痛そうなんですよね、彼女は。
陛下やカシスはわかりやすく痛そうなんですが、ルナちんは見た目から伝わって来ない。
Justice~はこの夫婦が本当の幸せを掴むための物語でもあります。
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