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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

『未遂』       (ヴァル)

 うわさにしか出てこない、銀髪のパパ・エクルーのお話。
でもやっぱりいちゃいちゃ。

タイトルの意味は……最後まで読めばわかります。
ある意味、るーちゃの弁明ですね、これ。

ええと、R-15?

 ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ ##### ♪ #####



 灯りを落とした温室に、低い細い声で歌がこぼれてくる。裸足のままぺたぺたと敷石を踏んで、歌の方に近付く。
 いた。まただ。サクヤがモニターに屈み込んでいるのだ。表示されたリストの中の植物たちに、歌を聴かせているように。
「またリストを見ているの?」
 サクヤは俺の気配に気付いていたのだろう。驚きもせず、モニターに目を落としたまま、微笑んだ。
「ええ。気になってしまって。うまく育ってくれるといいんだけど」
「もう、みんな植え付けちゃったんだから、後は運を天に任せるしかないだろう?」
「そうなんだけど……」

 モニターには、各ポイントに植えた苗床の構成種、その地点の土質、水捌け、地下水深度、地中温度などが表示されている。サクヤはこれから実質10年近く、自分が動けないことを予知していた。だから、10年分の苗を植えたのだ。10年分の気候変動を予測して。イドラの水循環は大分、変わってきているから……春から長雨が来る。それがカンフル剤になって、荒れた大地が目を覚ます。緑が増えれば……気候は和らぐ。少しの異常にも揺らがなくなる。今はむき出しのフラジャイルなイドラだけど……おまえたち、この地を守って。根を張って、緑の枝を広げ、たくさんの命を守って。お願いね。


 例え肩に触れなくても、サクヤの思いは分かった。毎日、何時間、このモニターの前に座っていたことか。コンソールとその前に置かれた座り心地の悪いイスに、サクヤの思いが染み付いている。この土地への愛情。夢。切ないほどの思慕……。俺もサクヤも、一度、自分の世界を失った。もう2度と……あんな思いをしたくない。
 この地に絡まる糸……それを解けば、少なくともしばらく時間が稼げる。うまくすれば……失った世界からの因縁から解放されるかもしれない。自由になった瞬間、俺はどうなるんだろう。余りにも長い時間、囚われていたから、もう想像もできない。サクヤはずっと、解放されて空気か水に溶けたいと言っていたけど。かわいそうだが、それはもう少し先だ。サクヤが俺の後を追わないように、布石を打っておいた。

「どう? 調子?」
「まだちゃんとついていないみたい。すごくエネルギーを取られているから、追いつかなくて。ムリして食べても、戻してしまうのよ。でも、大丈夫。ちゃんと育つわ。時間はかかるでしょうけど」
 サクヤはお腹をやさしくなでている。俺はイスの後ろに立って腕を伸ばすと、サクヤのお腹に触れてみる。
「本当だ、元気だな。2人分以上、喰ってるんじゃないか?」
「あなたに似て、食いしん坊みたいよ?」
「じゃあ、お父さんから救援物資だ」

 サクヤの細いあごに指を添えて、くい、と上を向かせる。抵抗する間も与えず、くちびるを合わせる。サクヤは目をきつく閉じて、手で俺の肩を押しているが、離させない。俺の肩で震えていたサクヤの手が、力を失ってだらりと落ちる。冷たかったくちびるに熱が生まれた。こわばった小さな背中が、ほぐれて俺の腕になじむ。きつく寄せていた眉根も溶けて、夢見るようなピンクに染まった。
「あ……」
「暖まった?」
「ごめんなさい……私……あなたからもらってばかり」
「今のはせいぜい、バタートースト2枚分だ。つまみ食いすれば戻る」
「本当? ちゃんと食べておいてね? 明日、大事な時なのにこんな……」
 身体を屈めて、間近からサクヤの顔をのぞき込む。
「俺も気持ちいいから、いいんだ」
 ピンクに染まっていたサクヤの頬が真っ赤になる。
「もう……そんなことばかり言ってからかって」
「今のうちにからかっておかないと」

 明日は城砦に乗り込む。2人とも、そこで起こることを知っていた。だから今夜は……最後の夜。
「眠れないの?」
「うん……さすがにね。ちょっとつきあってよ。俺も栄養補給しなくちゃ」
 台所を漁って、お茶と夜食を用意する。腹が減ってはいくさができない。サクヤにキスすると、いつも猛烈に腹が減るのだ。夕方作った卵ペーストとひよこマメのディップがあるから……パン3枚にバターとカラシを塗って、レタス、卵、トマト、チーズ、キュウリ、豆、パンで押さえてさらに、ベーコン、トマト、キュウリ、レタス、オリーブ……まあ、こんなものかな。最後にパンでぎゅうっと押さえる。特製サンドのできあがり。これも食べ納めだな。

「それ……口に入るの?」
 ぶ厚いサンドイッチを、サクヤは怖いものでも見るようにまじまじと見ている。
「うん。楽勝」
 俺が3口かぶりつくと、だいたい半分は消えていた。その食べっぷりを、またサクヤが観察している。さらに3口でサンドイッチがすべて俺のお腹に納まったとき、サクヤはぱちぱちと手を叩いた。
「すごいわ。私もそのくらい食べてみたい」
「本当に……ちゃんと食べてくれよ?」
「努力しているのよ? これでも」
「これなら、食べられるんじゃない?」
 俺が小さな瓶を取り出した。きゅっとフタをひねって、スプーンでひとすくいする。
「なあに?」
「いいから。口開けて」
 サクヤは大人しく口を開ける。こういう時、必ずサクヤは目を閉じるのだ。小さい頃から、必ず。
「どう?」
「ん、甘い。やさしい甘さ……じんわり甘いの。とろりとしてるのに……ざくざくしてる感じ」
「エイロネイア産のココヤシのハチミツだ。お茶に入れたり、パンに塗ったり……これを1日、3すくい」
「ええ、おいしい。もうひとくち」
 サクヤからねだったのは初めてだ。俺は感動して、もうひとすくい、目を閉じたサクヤの小さな口に蜜を乗せた。サクヤのくちびるが、小さなスプーンを包んでも、俺は引き抜かずにそのまま舌に乗せていた。そっとスプーンをひねると、閉じたまつ毛が震える。
「目を……開けて?」
 スプーンをくわえたまま、サクヤが大人しく目を開いて俺を見る。小さくすぼめた口から、金のスプーンを引き抜いて、ぺろりと舐めてみた。まだ蜜の甘さが残っている。ねぶって味わい尽くすと、消えた甘さを追ってサクヤの唇をむさぼった。

「今夜は……ちゃんと寝ておかなくちゃ」
 サクヤがささやくようにたしなめる。
「どうせ眠れない……一緒にいてくれ」
 俺もささやく。振り絞るような必死な声になってしまった。
「ええ。私も……一緒にいたい」
 ぐったり力を抜いたサクヤの身体を抱き上げた。軽い。こんなに軽い、はかなげな女性を、俺は置いていかなければならない。
「でも、もうエネルギーは分けてくれなくていいわ」
 俺の首に両腕を回したサクヤは、ちょっといたずらっぽく笑った。
「せっかく夜食で補充したんだから、ちゃんとお腹に貯めておいてね?」
 その笑みにキスをする。
「了解。あげるのは別のものにする」
「なあに?」
「内緒」
 顔を寄せてくすくす笑いながら、温室を出た。月の光と夜露が青白くこぼれていた。



 腕を伸ばして、サクヤを引き寄せる……あれ、まぶしい。いつの間に朝? 今さっき、サクヤを抱いて温室を出たはずなのに……俺は温室の高い天井を見上げる。あれえ。首を巡らせると、隣に眠る友人の顔。長いまつ毛を伏せたその寝顔は、サクヤによく似ている。危なかったあ。また、やるとこだった。レアシスは、いつも俺より早く目を覚まして槍の鍛錬をするのが日課だが、近頃、時々こうして俺に寝顔を見せてくれるようになった。拾った狼の仔が気持ちを許してくれたようでうれしい。それにしても、これ以上前科が増えたら、夜道をひとりで歩けなくなるとこだった。
 おいしい夢だったな。何もあそこで目が覚めなくても。もう少しだったのに……ちぇ。

 俺は大きくのびをして、台所に行くと、寝坊助な友人の分も、分厚い特製サンドを作り始めた。





<Song for you>
(『名探偵ホームズ』より)

from  サクヤ  to エクルー :
from  エクルー to サクヤ :
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*COMMENT-コメント-
▽さくるーいちゃいちゃ
銀髪エクルーもやっぱり何だか楽しそうなのね。こんなとき。
ちょっと切ないけど、何だかほっとするような不思議な感じです。

……で、うん。タイトルにやっぱり、と思った自分は末期症状です、はい。
▽いろんなもののルーツがここに。
きりちゃの”えあいえあい”ぱちぱち、とか、味見のとき目を閉じるれーくんに萌える理由とか……。

特製サンドを出されたれーくんの反応が楽しみです。”それ……口に入るんですか?”と聞いてあげてね?
▽イメージソング
香月ちゃんのマネをして、サクヤとエクルーのイメージソングをつけてみました。
例によってまったく緊張感のない2人の雰囲気がよく現れているのではないでしょうか。
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織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
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シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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