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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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重なる月に寄せて(その1)

 エイロネイアで目覚めたラーシャは、しばしば途方に暮れたような心許ない気持ちに陥った。
 クロキアにいた頃は祖国のために、やみくもに走り回っていた。結局何もできなかっかわけだが。
 今は何もすべきことがない。自分には何もできることがない。努めて気持ちを前向きに保っておこうと、骨折した左足のリハビリをしたりしているが、医者に自分をいじめるなとしかられてしまった。

 ”ゆったり身体を休めなさい”
 そう言われても、心は一刻も早くクロキアに飛んで帰りたいのに。家族や友人はどうしているのだろう。身動きもままらない我が身のふがいなさに、涙がにじむ。

 昏睡から覚めて以来、ジーラッハはずっとラーシャのそばにいた。ごく自然に。それはとても心強いことだが、自分の問題はやはり自分で解決しなくてははらない。
「とにかく元気にならないと。何もかもそれからです」
 ジーラッハは微笑む。身体が治ってもそれから? いったい何ができるだろう。
「あなたが歩けるようになったら紹介したい人がいるんです」
「紹介したい人?」
「イドリアンはここ300年はどほとんど島から出てこず、大陸の人と交流してこなかったんです。だから我々のこの姿も知られていない」
 ジーラッハは自分の耳やしっぽを指した。
「それは我々が奉る神を守るためだったんですが……その人はそれを
変えたいと思っているんです。”虹の架け橋”を架けたいって」
「虹の架け橋?」
「国と国の間、人と人との間に橋を架けて、もっと自由に行き来できるようにしたいって。だから私や甥もエイロネイアに来た。あなたにもきっと協力してもらえると思います」
「そうだろうか」
 ラーシャは自信がなかった。
「カルミノの人はエイロネイアを怖れている。シュアラの人はクロキアに反感を漏っている。お互い良く知らないから、疑心暗鬼になるんだと思いませんか。私はあなたに出会って……クロキアの人も好きになれると思いました」
 ジーラッハがやさしく微笑むので、ラーシャは赤面してしまった。浮ついている場合じゃない、と自分をしかる。

 この人と出会ってから、自分は何だかおかしい。表情がコントロールできない。自分がすごく無防備になった気がする。自分がどんな顔をしているのか気になって仕方ない。
「その紹介したい人とは、どんな人物なのだ?」
 話題を変えたくて、ラーシャは聞いてみた。
「やまわろというんですけど」
「やまわろ? 変わった名だな」
「でしょう?ハゲててね、ゴマ塩ヒゲで、でもそれがセクシーだとかで女性にもてるお茶目なおじ様です」
 ジーラッハがくすくす笑う。
「そなたも……ジーラッハ殿も……やまわろ殿もが好きなのか?」
「え、そうですね。つき合いが長いから、いろいろ頼み事をされてやっかいなこともありますけど、どういうわけか断れないんです。そう、私はけっこうやまわろのこと、好きなのかもしれないな」
 胸がずきんと痛んで、ラーシャは自分でも驚いた。
 やっぱり自分はおかしい……。

 杖をついているのでゆっくりしか歩けない。地面のちょっとした凹凸に足をとられて、しょっちゅうよろけるが、ジーラッハはけっしてせかさず、でも本当に危ない時だけ手を貸してラーシャが自分のペースでリハビリできるように見守っている。
「祖母が薬師でいつも手伝っていたので、病人やケガ人には慣れているんですよ」
 ジーラッハはやさしげな外見に似合わず芯の強い人のようだ。肩を貸してくれた時、意外に胸や腕ががっしり力強くて、どきっとした。
「ジーラッハ殿、何か武芸を修めておられるのか?」
「え?」
 ジーラッハがきょとんとする。
「こんなに手首が細いのに、軽々と私の体重を支えたのだろう。何か鍛えているのかと」
「そうですか? 医者にはもっと鍛えろと言われたんです。乗馬か棒術でも習って身体を動かすようにって。イドラではしょっちゅう発作を起こすので、軽い野良仕事くらいしかやってなかったんです」
「発作? 心臓でも悪いのか?」
 そういえば砂漠でも胸を押さえて、意識を失って……いや、あれは夢の中のことだ。しかし……。
 ラーシャが青い顔をして動揺しているので、ジーラッハは安心させるように微笑んだ。
「エイロネイアは温かいから、水が合ったのか、ここに来てから医者も驚くほど元気になったんですよ。適度に身体を動かせば、もっと心臓も強くなるだろうって。だから、ラーシャさん、いろいろ教えて下さい」
「ああ。私でよければ」
 ラーシャが思わず勢い込んで答えたので、ジーラッハはまた微笑んだ。
 身体が弱いのはジーラッハなのに励まされているような気がする。あの砂漠でもそうだった。いや、あれは夢の中のことだ。だが……。ラーシャは混乱していた。

 2人はゆっくり歩いて庭を抜け、湖畔まで来るとベンチで休憩した。
「お疲れさま。ごほうびです」
 ジーラッハは肩から下げていたカゴを開けると、お茶やクッキー、菓子パン、果物など次々にベンチの上に広げ始めた。
「こんなに持ってきたのか。重たかったろう。でも2人で食べきれないじゃないか」
 ラーシャが目を丸くしているので、ジーラッハはまたくすくす笑った。
「大丈夫。私たち2人だけじゃありませんから」
 そう言って指をくちびるにあてると、ピールルルと鳴らした。
 あっという間に大小さまざまな鳥やリス、アナグマに囲まれてしまった。
「こ、これはここで飼っているのか?」
 ラーシャはパンだの木の実だのを放ってやるのに忙しい。
「いいえ、みんな野生です。まだ餌が少ない季節だから歓迎されるんですよ。夏になれば来るのはずうずうしいブラックバードだけです」
 春生まれの蝶が、ジャムや蜂蜜をなめに来る。色とりどりの鳥や蝶に囲まれて微笑んでいるジーラッハは春の妖精のようだ。いつも食が進まないラーシャが鳥と競争しながらだと、つい食べてしまう。頭や肩に鳥をとまらせていると、自然に笑ってしまった。

 笑ってみると、いかに自分が今まで笑っていなかったか気が付いた。笑い方を忘れていた。息の仕方さえ忘れていた気がする。ジーラッハは不思議な人だ。ガチガチだった私の心をするりと解いてしまった。

「この湖は満月の夜、きれいなんですよ。湖面に月の光が映るんです」
「ほう」
「今夜が満月だから、来月の満月までには夜、ここを散歩できるくらい良くなっていますよ」
 ジーラッハがやさしく微笑むので、ラーシャはまた顔が赤くなった。それは一緒に月を見に来ようということだろうか。

 昼たくさん歩いたせいか、夕食の後、少しのつもりで横になったら深く眠ってしまったようだ。
 ラーシャは青い光の中で目が覚めた。

 ここはどこ。冷たい水底のようだ。私はひとりなのか? 誰もいないのか。
 いつもいっしょだったあの人がいない。消えてしまった。
 私を置いて行ってしまった。どこ? どこにいるの?
 
 ラーシャは部屋を飛び出した。杖をつきながら冷たい廊下を裸足でさまよう。窓から青い光が差し込んで、廊下を冷たく染めている。梢のレースを透かした光は、ろうかで網目模様を作ってたゆたっていた。
 こんな夜は月のおとぎ話を聞かせてくれた。それからピアノで月の曲を弾いてくれた。
 小夜曲に夜想曲……。
 月の光が似合う美しい女性。だから月に帰ってしまった。私をおいて。

 でも今夜は月がこんなに美しいから、私に会いに来てくれたんだ。
 昔のように夜想曲を弾いてくれているんだ。
 昔のように月の光が細い肩にこぼれて、髪が光に透けて天使の翼のように輝いている。
 ほら、今鍵盤から顔を上げて私に微笑みかけて……。

「ラーシャ……?」
「リーシャ姉さま……!」
「どうしたんです。こんなに凍えて。裸足じゃありませんか。ここまで走って来たんですか? さあ、座って。ピアノの前にいらっしゃい」
 昔のようにピアノのいすを半分こして、温かい肩掛けで包んでくれた。
「姉さま、姉さま……! 会いに来てくれたの? 姉さまはお幸せなの?どんなところで暮らしてらっしゃるの? 私ひとりなの。ひとりになってしまったの。私、姉さまのところに行きたい。姉さまと一緒にいきたい……!」
「ラーシャ……。大丈夫。あなたはひとりじゃない。私はずっと一緒にいます。けしてひとりにはしません」
「姉さま……!」
 温かい胸に抱きしめられて、安心して眠ってしまった。もう大丈夫。
 もう私はひとりじゃない。月の光の中で姉さまと会えた。ぐっすり眠るまで、姉さまは私を胸の中に包んだまま、ピアノを弾いてくれた。
 やさしい小さな音で、懐かしい子守歌を。昔のように。


「リーシャ姉さま……?」
 ラーシャは自室で目が覚めた。久しぶりにぐっすり眠って頭がスッキリしたものの、昨日までのことが夢のような気がする。
 ここはどこだっけ? 私は何をしていたんだっけ?姉さまが隣りにいた気がしたのに……。

 ああ、思い出した。姉さまは子供の頃行方不明になったのだ。今頃どこに……。無事に生きているのかさえ定かではない。じゃあ、昨夜、私の隣で子守歌を弾いてくれたのは……? あれは夢だったのか?

 そこでふいにジーラッハの顔が浮かんで、ラーシャは赤面した。初対面から夢の中で私を励ましてくれた人。思い出す度に胸が高鳴って自分でもとまどってしまう。

”私はずっとあなたと一緒にいます。けっしてひとりにはしません”

 確かにそう言った。あれは誰……?

 その日はずっとジーラッハに会えなかった。食事を持ってきてくれたトゥーリッキに聞いてみると、新学期からの講義の件で音楽院に行っているらしい。
 エイロネイアで目覚めて以来、食事やリハビリはいつもジーラッハがついていてくれたので、いないとさびしかった。早く他人の手をわずらわせずに自分で行動ができるようになりたいと思って、杖をついて庭に出たものの、気合いが入らない。そんな自分を叱咤してちょっとした石段を越えようとしたが、バランスを失って、いい方の足をくじいてしまった。

 痛さと口惜しさで涙がこぼれた。
 自分は何て無様なんだろう。こんな情けない自分は国を救えなくて当然だ。何もできないまま異国で朽ちるのがふさわしい運命だ。
 暗澹とした気分で地面にうずくまっていると「ラーシャ!」と叫ぶ声がする。

 誰の声かすぐわかった。
 なぜ、こんな時に。
 よりによってこの人に。

 でも動けないので、逃げようがない。

 仕方ないので地面についた両腕で頭を囲い込んで頭をかくした。なのに、そいつはかまわず話しかける。
「どうしたんです。一人で庭に出るなんて。無茶をして。大丈夫ですか? どこか打った?」
 放っておいて欲しいのに、放っといてくれない。情けない顔を見られたくなくてそむけていると、頭の上からばさっとチョゴマで織った腰帯をがぶせられた。
「それで鼻かんでもいいですから。とにかく戻りましょう」
「いやだ。もう私は、私なんか、そなたなんか、もう、もう、ひとりにしておいてくれ!」
「ひとりにしません」
 腰帯にさえぎられて見えなかったので、思いがけずすぐ近くから声がして驚いた。
「ひとりにしません。約束しましたから」
「でもそなたは……私は……」
「ひとりにしません」
 腰帯の上から、ジーラッハに抱きしめられて、ラーシャは息を飲んだ。
「ずっと一緒にいます。約束したでしょう。あなたはひとりじゃない。だからひとりでムチャしないで下さい」
「でも……だって……」
「約束ですから、そう簡単には逃しませんよ」
 そうささやかれて、ラーシャは安心していいのか、動転すべきかわからなかった。

 顔をかくしてくれるチョゴマがありがたい。どんな顔をしていいかわからないまま、抱き上げられて、屋敷に運ばれた。
 腰帯の影でラーシャはぐるぐる考えていた。じゃあ作夜の夢の中の姉さまは、私を胸に包んでピアノを弾いてくれたのは、そして私をベッドまで運んでくれたのは……ジーラッハだったのか?

 病室ではトゥーリッキと一緒に2人のお客が待っていた。
 ひとりは知らない人だったがもうひとりは……。
「ラーシャちゃん!」
「リーシャ姉さま!」
 これはどんな魔法? どんな奇跡? 抱き合って泣きくずれる姉妹を残して、他のメンバーはそっと病室を離れた。

 トゥーリッキの淹れてくれた甘い香りのハギ茶を飲みながら、エリシアは聞いてみた。
「よくわかったわね。あなた、リーズと会ったことなかったわけでしょ。どういうカラクリで、私とラーシャの姉が知り合いだろうって思ったの?」
「さあ? 何となく」
 ジーラッハは自分でも首をかしげている。
「匂い……でしょうか? ラーシャさんに似た匂いをどこかで感じた記憶があって……それをたどるのにいささか時間がかかりました。うまく行ってよかった」
「まったくだわ。下手すりゃその場で打ち首にされても文句言えないわよ。いきなり宮殿に乗り込んでくるなんて」
 ため息をついたエリシアに、ジーラッハは微笑んだ。
「そうですね。でも私の甥の義妹の婚約者は話がわかる方だという印象があったので、ちょっとずうずうしく攻め込んでみました」
 エリシアはもう一度嘆息した。
「あなた、見かけによらず豪胆ねえ」
「ラーシャのためには命も惜しくなかったのよね。素敵だわ」
 トゥーリッキはちがう種類のため息をついた。そして当のジーラッハは、にこにこしながらお茶受けの芋けんぴをかじっていた。

 とりあえず、一件落着。

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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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