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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『嘆キノ森』・背後            (香月)

勢いで突っ走ってラスト。
でもキジローさんの放浪記はもちっと続いたり。

暗いなー、可愛くないな

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 鴉は路地裏を抜けて、壊れた城壁の上から郊外の森までキジローを導いた。途中、なかなか厳しい道も通らされたが、帝都の外まで来てキジローはやっと肩から力を抜いた。
 そうしてから不意にあのパーカーを預けてきた男が心配になる。手垂れではあったようだが、本当に大丈夫だろうか?
「助かった。ありがとう」
 鴉はキジローの声にくえ、と鳴いた。「どういたしまして」と言っている。
 鴉がキジローの肩から飛び立った。旋回し、どこへ行くのかと思ったら、森の中に小さな沢があった。ありがたい。緊張と運動で喉がからからだった。
 雨で湿った草地に膝をついて、キジローは沢から掌に水をすくって何口か飲んだ。乾いた喉がひりひりした。
 くえ、と鴉が鳴く。嬉しそうな声だった。くるりと旋回すると、少し離れた木立の下へと向かった。
 それを追って、キジローは暗闇の中で目を見張った。
 一瞬、幽霊かとも思った。でも、そんな気配はなかった。ぼんやりと、暗闇の中に人の顔が浮かんでいる。幼くて、背丈で言えばキジローの腹あたりに浮かんでいる、真っ白、いやむしろ真っ青な顔。
 さく、と下生えを踏みつける音がして、キジローは彼が全身黒い服を着ていて、暗闇の中では判別つかなかったのだ、ということに気が付いた。
 ―― 子供……っ?
 鴉がその肩に降り立って、キジローは改めて眉を潜めて驚いた。
 歳は十を出ているか、出ていないか、その程度だろう。全身を喪服のような黒い服で包み、艶やかな黒髪と、生気の感じられない年格好とアンバランスな顔。目は深淵を思わせるように黒く、どこまでも深かった。何故か額と右の頬に、分厚く包帯を巻きつけている。
 キジローは混乱してきた。子供? 本当にそうか? 子供はこんな顔をして、こんな時間に、こんな場所に立って、両肩に足が3本ある鴉を2羽止まらせているようなものだっけか?
 少年はひどく生気のない笑みを口に浮かべて、首をいっぱいに伸ばしてキジローを見た。
「ご無事で何より」
 声変わりもしていない声は、しかし、年不相応に静謐で、覇気というものに欠けていた。
「あんたが、あの男とこの鴉の主さまなのか?」
「ええ、一応は」
 口元で笑っているらしい少年の表情は、その実、あまりにも変化に乏しくて、キジローにはほとんど無表情に見えた。
 面食らいながらもキジローは問いかける。
「何で俺を助けたんだ?」
「……貴方の敵が、僕の敵だったから」
 小さな声が流麗に響く。けれど、キジローは違和感を感じずにはいられなかった。
 いくら打っても響かない。言葉に手ごたえがまったくない。まるで、少年との間にガラスの壁でも挟んでいるように、何の熱も感じない。
 キジローは表情を歪ませた。
「……フルネームはキジロー・ナンブ様でよろしかったですか?」
「……ああ、そうだ」
「単刀直入に言います。もうこの国には来られない方が良い」
「……」
「貴方を追っていたあれらはかなり強力なバックボーンが存在します。はっきり言います。今、貴方はこの国のどこにいようと危険です。出来るだけ早く、国境を越えることをお勧めします」
 抑揚のない声で淡々と告げる。キジローは眉を潜める一方で呆然と、あどけない少年の顔を見た。あまりにも不釣合い。あまりにも不相応。
 自分が10歳のときはどんなだったっけか? 少なくともこんなことを、こんな顔で、こんな表情で、口にしたことがなかったのは確かだ。
「ありがとう。でも、俺は連中と戦わなくちゃならない理由がある。人を探してるんだ。その子は連中と関係してる」
「……貴方は一人で"国"そのものと戦う覚悟がおありですか?」
「……」
「貴方がその覚悟と力を持って、再び、この地を踏むというなら僕に止める権利はありません。ですが、そんな拳銃ひとつでここに来たところで、命を無駄にするだけです」
 キジローは苦々しく唇を噛んだ。
「……連中は、昔の教団の、ただの残党だと思っていた。違うのか?」
「当たらずとも遠からずです。貴方の言う教団がどれだけの規模だったのかは知りません……が、その裏でまた糸を持っていた者がいることは考えませんでしたか?」
 銃を握る手に力が篭った。
「そんな奴がいるっていうのか!」
「……」
 少年は口を閉ざした。それ以上は何も言うつもりがない、とばかりに。
 キジローは唇を噛んだ。どんな言動をしていようと、相手は幼い子供。胸倉を掴み上げるわけにもいかず、ただ拳を握り締めた。
「……一つだけ、聞かせてくれないか?」
「……」
「あんたは、今、連中が自分の敵だって言ったよな? "キリコ"という名前に覚えはないか?」
 少年は無言で首を振った。眉間にぎゅ、と皺を寄せている。その拍子に、はらり、と包帯の結び目が髪の合間から零れ落ちる。
 キジローは妙な痛々しさを感じて、それ以上、追求できなくなってしまった。
 深呼吸をして呼吸を落ち着ける。
「……すいません」
「……小さい坊ちゃんが謝ることないさ」
 キジローはそう言って彼の頭を撫でようとした。その途端、彼は身を竦ませてびくんっ、と後退る。キジローは慌てて手を引っ込めたが、軽く額に手が触れてしまった。
 ――く……っ!?
 ぐらり、と大地が反転するような感覚がキジローを襲った。全身に、裂くような幻覚の痛みが広がる。思わず倒れこみそうになって、たたらを踏んだ。
 両手を握り締めて、足を踏ん張る。
 少年はひどく慌てた表情をして、キジローの体を支えてくれようとしたが、自分の手を見て、やめた。
 膝に手をついたキジローは、その小さな手を見てしまう。赤くひび割れて、マメが潰れたような痕があった。痛々しく巻かれた包帯には、かすかに血が滲んでいた。
 ――……今のは、
 この少年のイメージなのか?
 キジローの感応能力はエクルーやアルなんかと比べると、本当に大したことはない。精度は格段に鈍い。
 ということは、キジローにさえ影響を及ぼすほど、イメージが強すぎるのだ。この、十もいかぬ少年の、内に抱いたイメージが。
 キジローは絶句した。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……平気だ」
 少年は懐から何か白い紙を出した。シュアラでも見たことがある。祖母が時折、使っていたのを思い出した。だから、少年が自分の額にそれを当てても、何も恐怖は感じなかった。
 ふんわりとした淡い光がキジローを包む。気分がすうっ、と落ち着いて、体の各所に走っていた痛みが引いていく。
「……なあ、小さな坊ちゃん」
「はい」
「あんた、本当に何者なんだ?」
 改めて問うと、少年は小さく、自嘲気味にくすりと笑う。
「さあ、何者に見えますか?」
「……とりあえず、10歳程度の子供には見えないな。子供ってもんは、もっと笑ったり、泣いたり、わがままを言うもんだ」
「そうですか」
 手ごたえがまるでない。心ここにあらず。人形と会話しているようだ。キジローは薄っすらと目を開く。少年の深い目が見えた。見えただけで、彼はこちらを見ていない。じゃあ、どこを見ているのだろう。
 もっと、遠くのどこか。あさっての方角へ。
 ――……。
「あんた、俺にそいつと戦う覚悟があるのか、って聞いたな……。それから自分の敵は、俺の敵と一緒だって」
「……」
「坊ちゃんは、そいつと戦うつもりなのか?」
 少年は沈黙で応えた。キジローは奥歯を噛み締めてしまった。
 こんな少年が? 何を考えているんだ、そんな傷だらけな小さな体で何が出来るっていうんだ。
「なあ、俺と一緒に来ないか?」
「……」
「俺なんかは大したことないが、頼りになる連中を知ってる。俺に一人で戦うな、と言うなら、あんただってそうだろう?」
 少年は目を閉じた。そして、数秒の後に開くと、口元に笑みを浮かべる。でも、キジローには笑みに見えなかった。今にも崩れ落ちそうな、泣き顔に見えた。
「……ありがとう。お心遣い、感謝します」
「……」
「でも、それは出来ません。……貴方が探し人と再会できることを切に願っています」
「何でだ?」
「……僕が、いなくなると、大変なことになるからです」
 少年が符を下ろす。立ち上がると、体の各所にあった軽傷が消えているのに気が付いた。いつもより気分もいい。
「大変なこと、ってどうなるんだ?」
「……大陸が」
 少年の表情がまたわずかに崩れた。
「大陸が、火の海になります。みんなみんな、焼けてしまいます。戦争になって、大勢の人が死んでしまいます」
「……」
 そんなバカな、冗談だろう?
 キジローは思ったが、あまりにも真剣な少年の目に何も言えなくなってしまった。彼は静かに、沢の下流を指差した。
「……ここをずっと下って行ってください。明朝には村に着きます。三日後には、国境に出ます」
「……ありがとう」
 釈然としない気持ちになりながら、キジローは素直に頷くしか出来なかった。少年は居住まいを正すと、年不相応な優雅な礼を一つ、した。
「さようなら、Mr.ナンブ。お声をかけてくださってありがとうございます。どうか、良い旅路を」
「……なあ、小さい坊ちゃん」
 荷を担ぎ直して、キジローは最後にもう一度、少年の顔を見た。
「あんたのことを何一つわからない俺が言うのは何だけど……。
 もっと、泣いて、笑って、いいと思うぞ、俺は。あんたにはその権利、いや、義務がある」
「……」
 少年は僅かに表情を動かしただけで、やっぱり沈黙と一礼で応えた。でも心では応えてくれなかった。
 そのまま彼は踵を返す。2羽の鴉を腕に抱いて、ふと風が吹いたと思ったら、もうその姿はどこにも見えなくなっていた。


 歩き出してからキジローは、少年に名前さえ聞いていなかったことを思い出した。
 もしかしたらあれは、やたらとリアルな幻影だったのだろうか。それとも、夜にしか見られない、夜闇の精霊か何かだったのだろうか。
 あまりに儚くて、あまりに強烈な悪夢だった。
「……また、会おうな」
 ぽつりと言った。けれど、風に紛れた声が、その黒の精霊に届いたかどうかは定かではなかった。


「何ですって?」
「申し訳ありません」
 入った報告に、セレッサは親指の爪を噛んだ。精鋭を募ったのに何てことだ。一体、何が悪かったのか。
 ……いや、察しはついている。
 また、邪魔が入った。まったく、群れた人間の、それも一番弱い子供の分際で。
「担当の魔道医に報告してください。皇太子への薬をレベル5まで引き上げなさい」
「は? し、しかし、あれは幻覚作用が強く、多量の投与は精神異常を引き起こす可能性が……」
「だからこそ、です。あれは明らかに邪魔な因子。早めに潰してしまわなければなりません」
「は、はっ!」
 男はうろたえながらも頷いた。セレッサは窓の外の夜闇を睨む。
 白み始めた空に、一枚の黒い羽根が舞った。鴉が明けの空に旋回する。
 ――それは決戦のまだ遠い、一夜のことだった。

 『嘆キノ森 終』






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*COMMENT-コメント-
▽くっくっく・・・もうちょっとキジローには苦労してもらいましょうか・・・
さて、国境まで無事行ったものの、どっかでとっ掴まってもらって、みんな(サクヤ、スオミ、エクルー)で迎えに行くのも面白いかなあ、とか考えています。
…しかし、キジロー、見せ場がないね。
主役級にいいとこを見せてもらうために、いつも苦境にいる・・・乙女のような役回り。
『いま助けに行きます』とかいう感動本があった? ないない!
▽くくく…!
くくく(笑)
ルナちんとの邂逅話では連中の残党を一つだけ吹っ飛ばそうかなー、とか考えてます。
まだルナちん、いいとこ12歳なのでいろいろ助けてもらおうかなー、とか思ってみたり。
でもきっと主導権はルナちんなんだろうな…

余談ですが、『嘆キノ森』シリーズ(シリーズ言ったー!?)には再会の『嘆キノ森』・出口をつけようかなとか考えてます。

さらに余談。
嘆きノ森、元ネタというか歌詞

→http://lyric.kget.jp/lyric/hz/ku/

こんなん聞いてたら暗くなるよねー。知ってた知ってた。
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目次(香月)
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