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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『嘆キノ森-PSI-missing-』・EPISODE2    (香月)

るなきじ2話目。
カーチェイスならぬ馬車チェイス。
ルナちん、ひどすぎ。

===================================================
 
 どんッ!

 キジローの放った弾丸が壁を掠めていった。身を潜めていた男たちが、飛び出してくる。キジローは舌を打って踵を返しながら弾倉を捻った。
 背後からぼそぼそとした詠唱が聞こえて、青い光がキジローを取り囲んだ。キジローは前のめりに手をつくと、前転するようにして光を交わす。そのまま走り出すと、背後で爆発音がした。
 ――冗談じゃねぇ、マジで殺す気か!
「くそ……!」
 キジローは路地の角を曲がる。そこで足を止めた。
 黒ずくめの中肉中背の男が一人、狭い路地に佇んでいる。キジローが呻くと同時に、背後で足音が響いた。囲まれたらしい。
「く……っ!」
 フードの半分から見える男の唇がつり上がる。キジローは半分、覚悟を決めて銃のグリップを握り締めた。
「貴様、あの娘とどんな関係だ?」
「は?」
 その口から出た予想外の台詞に、キジローは眉を潜める。
「とぼけるな。あの娘に何を渡した? あの娘を大人しく引き渡せ」
「ちょっと待て。俺はあの子が金が足りなくて困っているらしいから……」
「嘘を吐くな! そんなわけがないだろうっ!」
「いや、そんな決め付けられてもだな……」
「我々の研究資金を丸ごと強奪していった奴に、金がないわけがないだろうっ!? 贅沢をしなければ20人くらいが一生、遊んで暮らせるぞ!?」
「……」
 キジローは絶句した。ぱちくりと目を瞬かせる。あの少女が? 20人分が遊んで暮らせるだけの金だって? そんな馬鹿な。
「言え! あの娘はどこに行った!?」
「知らん!」
「どうせお前も仲間だろう!? 捕えろっ!」
 取り付く島がないようだ。
 ――くそ! 人の話を聞かない奴らだな!
 後ろの足音が動き出す。キジローはリボルバーを上げて、正面の男に放った。軸をずらして交わす男。キジローは身を屈めて猪のように男の懐に突っ込んだ。
「ぐふ……っ!?」
 思った通り、細身の男は堪えきれずにその場に尻餅をつく。
「魔法とやらばっかりに拘らない方がいいぜ、あんた!」
 言い捨ててキジローは路地の石畳を蹴る。表通りに出れば易々と手は出せないだろう。キジローは転がるようにして村のメインストリートに出る。
 同時にひひん、と馬の嘶きが聞こえた。
「!?」
 振り返ると、開けた通りを二頭立ての馬車が土煙を上げて駆けてくる。まるで誰かを追っているように。
 ――おいおい、冗談じゃないぞ……
 馬車はまっすぐにキジローを追っていた。とりあえず、逆方向に走り出す。メインストリートにいた村人の悲鳴が重なった。
「大通りでも遠慮なしかよ、くそ……っ!」
 キジローは悪態をついて速度を上げる。だが、道が開けている以上、馬車に敵うはずはない。それに、
 ――く……!
 ぐらりと眩暈がした。厄介な兆候だった。
 ――こんな、ときに……っ!
 キジローが足を踏ん張る。そのとき、前方で背後の馬車とは違う嘶きが響いた。横道から、細い道にあった木の看板と屋台とを破壊して別の馬車がキジローの目の前に躍り出る。一際高い悲鳴が民衆の中から上がった。
「あ、あんたは……!」
「おっちゃん、乗って!」
 御者台にいたのは赤いベールを被ったあの少女だった。キジローははいごを振り返る。追う馬車の御者台に乗った男が少女を見て叫ぶ。
「小娘! ようやく見つけたぞ! おとなしく"あれ"を返せ!」
「ちっ! しつこいわね! 大体、あんたらみたいな危険な研究を放って置けるわけないでしょーがっ!」
「地下に火炎魔法を叩き込むようなヤツの方が危険だろうが! さあ、早く"石の研究"を明け渡せ!」
「!」
 キジローの顔色が変わった。
「うっさいわね、あんなシュミの悪い研究、とっくに燃やしたわよ!」
「貴様ぁ! 小娘の分際で……!」
「小娘って、あんた、ら……!?」
 キジローは御者台に上がると小柄な少女の体を抱え上げて、代わりに手綱を握る。
「お嬢ちゃん、一つ聞くぞ。あんたとあいつら、どっちが信用できる?」
「……」
 少女は目を瞬かせてキジローを見た。でも一瞬後ににやりと笑う。
「それは、あんたが決めればいいことだと思うけど?」
「……わかった。行こう。俺は昔からカンがいいんだ」
 キジローはそのまま手綱を引いた。


「くそ、しつこいな!」
 砂利の多い悪路をがたがたと馬車が走る。どうやら連中の馬車の方が性能はいいらしい。走る速度は一緒だが、格段にこちらの方にガタが来ている。
 背後から僅かな光がキジローの背後を照らす。すっかり馴れてしまった光だ。だが、それ故にキジローは眉を潜める。
「っ、おっちゃん、手綱は任せた!」
「おい!?」
 少女はキジローの腕からするりと抜け出すと、幌の上に上がった。キジローは「危ない」と叫びかけるが、それよりも早く、少女が腰に下げたホルスターから古めかしい鉄の塊を取り出した。キジローの表情が引き攣る。
 優美なグリップと、凶悪なラインの太い銃口。少女はそれを両手で構えながら、後ろの馬車で膨れ上がる魔力を迎え撃つ。
「我願う、盾無き哀れな者に強靭なる風の加護を、護れ、ウィンディシールド!」
 きぃん! と耳障りな音が響く。少女の構えた銃口の正面に光が走り、見たこともない六ぼう星の陣が描かれる。
「フレイ・フレイア!!」
 背後の馬車から複数の声が唱和する。無数の炎の矢が、幌車を襲う。
「撃ぇぇぇい!」

 だんっ!

 少女が引鉄を引く。風が動いた。
「!」
 動いた風が、炎の矢を一つ残らず撒き散らす。キジローが目を剥いた。
「はんっ、三下魔法ごときで、どうにか出来ると思ってんじゃないでしょうね! おっちゃん、このまま郊外まで走って!」
「郊外? 返って連中の思うつぼじゃないのかっ?」
「やられる前にやればいいだけよ! 積もる話は、その後でできるでしょ! いいから走って、後ろはあたしがどうにかする!」
「く……!」
 悔しいが、今は全力で手綱を振るしかできないようだ。キジローのリボルバーでは、後ろの馬車まで届かないし、攻撃を防ぐ能力もない。
 何度か背後で破裂音がした。その度にキジローは振り返って、少女がまだ幌に立っていることを確かめなくてはいけなかった。
 たまに右往左往しながら、馬車は軋みながらも町を抜け出す。
「くそ! 絶対に逃がすなよ!」
 後ろの御者の男がきつく手綱を引く。馬が嘶いて速度が上がった。キジローの眉間に皺が寄る。こちらの馬車はもう限界だ。これ以上、スピードを出せば、馬はともかく幌の方が持たない。
「おい、お嬢ちゃん、どうするつもりだ?」
「当然、」
 だがむしろ、少女は不敵に笑う。かちり、と銃を鳴らして、少女は銃を構え直す。
「ちょいとでかいの行くわよ、相棒」
 きんっ、と音がして少女の周囲にまた別の方陣が浮かぶ。淡い緑色の方陣が広がると共に、少女の気配が高まるのを感じた。ぶつぶつと、小さな声が呟かれる。
 背後の馬車でもまた淡い光が立ち上る。少女の眉がつり上がった。空耳のような音が、キジローの耳の中に残った。
「はっ……遅いのよっ! 我願う、請うは大地を統べる熱の源、燃ゆる蛇の化身、従え、セラフィムロードっ!」
 赤い光が少女と、後ろの馬車とを繋いだ。背後の御者と、顔を出していた魔道師たちが顔色を変える。クレイジーガール! と誰かが叫んだ。御者が馬車を止めると、一斉に皆、飛び降りる。
 赤い光が、ヴんっ、と不穏な音を立てる。刹那、

 どおぉおんッ!!

 煙と炎と爆音とを立てて、馬車が爆発する。
 キジローは手綱を握ったままあんぐりと口を開いた。それでも手は止めていなかったため、もくもくと名残の煙を上げる馬車が背後に遠ざかっていく。「こらー、まてー」という切ない声もまた。
「……これで良し、と」
 銃をホルスターに収め、少女はぱんぱんっ、と両手を打ち鳴らす。キジローには自分の顔が引き攣るのがよくわかった。
「あんた……無茶苦茶するな……」
「街中でこうしなかっただけ、えらいもんでしょーが」
 そう言ってするりと御者台に降りてくる。
「それはそうと、何か巻き込んじゃったみたいね。ごめんね」
「いや、あいつらは、俺にとっても用件があるみたいでな。お嬢ちゃん、もうちょっと腰が落ち着けるところに行ったら、ちょっといろいろ教えてくれるか?」
「……いいわよ。巻き込んだのはこっちだし、内容によるけどね」
「逞しい根性してるな」
 キジローは苦笑した。連中が言っていたこの子が資金とやらを丸ごと取っていった、という話もあながち間違いではないかもしれない。
「おっちゃん、名前は?」
「俺か? キジローだ。ナンブ・キジロー」
「ナンブ・キジロー……?」
 思うところがあるのか、少女は眉間に皺を寄せて聞き返した。聞きなれない名前なんだろうか。まあ、シュアラ以外では耳慣れない名前だろうな。
「ひょっとして、おっちゃんもシュアラ出身?」
「"も"ってことはお嬢ちゃんもか?」
 キジローは改めて少女の格好と、腰元の銃を見る。この子がシュアラ出身? いや、だが……
「お嬢ちゃん、名前は?」
「ルナ。漢字だと瑠璃の瑠に、伊邪那岐命とかの"那"って書くんだ。カタカナで書くときが多いけどね」
 そう言って少女は、初めて、少しだけ寂しそうな表情で笑った。







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*COMMENT-コメント-
▽ルナちん、とんでもねー。
巻き込まれてますねー、キジロー。
でも楽しそう。
擬似親娘ごっこ。よかったね、キジゴロー。
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エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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