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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『嘆キノ森-PSI-missing-』・EPISODE4   (香月)

企画記事に割り込むようで申し訳ない;
やたらと暗い『嘆キノ森-PSI-missing-』EPISODE4。
アジト突入は次回です。

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「ん……」
 ぼんやりとした意識。起きているのか眠っているのか、よく分からない曖昧な世界。
 靄のかかった少年の視界に、二つの顔が浮かび上がる。両方とも、よく見慣れた顔だった。自然と安堵の息が漏れる。気が付けば、額にも背中にもぐっしょりと汗が滴っていた。
「殿下、大丈夫っすか?」
「……」
 ぴちゃり、と冷たい感触が額に乗る。気持ちだけ、少しすっきりしたような気がした。
「クロイツ……」
「ああ、駄目っすよ。起き上がっちゃ」
 半身を起こそうとして、止められた。彼が肩を抑えるのに対して、支えにしようとした腕を、無言、無表情でクロイツの隣にいた小さな少女が抑えて来た。少年と同じような黒い髪に白い顔。仏頂面だが、ぎゅ、と眉間に皺を寄せてふるふると首を振る。
「ほら、シャルもこう言ってるんすから」
「……」
 少年は柔らかく息を吐いて、自分より少し高いところにある黒い頭を小さな手で撫でた。
 そうしてから、もう一度、クロイツの方を振り返る。薄炎色の髪がかかる頬に、痛々しくガーゼが当てられている。……その傷を見て、何故自分がベッドに寝かされていたのかを思い出した。
 彼の傷は、敵にやられたわけでも何かヘマをやらかしたわけでもない。
 頭の中に、まだ錯乱した余韻が残っている。ぐらぐらと焦点が定まらない。それでも、身体と頭の中の違和感を無理矢理ねじ伏せる。
 そうしなければ、また我を失くして彼らの身を傷つけてしまいそうだ。
「すまない、クロイツ。僕……また、錯乱して、やったんだね?」
「あー……いえ、その」
「いいよ。……自分で覚えてる。また君らに迷惑をかけたね、すまない」
「殿下のせいじゃないすよ。……また、薬増やされたんすか?」
「……どうやらそうらしい」
 自嘲気味に笑って、少年は天井を見る。ふう、と意識が落ちていくのを繋ぎとめる。ああ、このまま眠ってしまいたい。でも駄目だ。このまま意識を落してしまったら、二度と戻って来れないような気がする……。
 ―― ……。
 でも、それでは本当に駄目なのだろうか。このまま眠ってしまって、一体何がいけない?
 日に日に口にするものに混入される、得体の知れない幻覚剤が体と精神を蝕んでいく。気力でその痛みと霍乱を抑えつけるのも限界に近づいていた。一度たがが外れると、目の前の、青年の傷が語るように、自分の手で大切なものから一つずつ壊してしまう。
 いっそ、このまま眠ってしまおうか。その方がきっと……。
「っ!」
「殿下?」
 びくん、と少年は体を震わせる。俯いて唇を噛み締めていたクロイツが、驚いて顔を上げた。
「……いや、何でも、ない……」
 頭を抑える。僕は今、何を考えた? 何をしようとした?
 背筋を冷たいものが這っていく。それを振り切るように、少年はさらに口を開いた。
「クロイツ。彼は国境を越えられたかな?」
「……」
 一瞬、クロイツは迷うような表情を見せた。少年のまだあどけない黒い瞳が、急に鋭利なものになる。クロイツは肩を竦めて仕方なく、大人しく噤みかけた口を開いた。
「……国境付近で、奴らの方に動きがあるようです。例のモノが、動き出しているのかもしれません」
 少年の、ただでさえ深い深淵の瞳が、さらに深く、透明な影を落した。


 ――こうしてるだけなら、可愛いもんなんだけどな……。
 焚き火から少しだけ顔を上げて、ちらりと対面で丸まる毛布を視界に入れながら、キジローは軽く溜め息を吐いた。
 話を終えるなり、てきぱきとやたらと馴れた手つきで自分の寝床を確保すると、早い者勝ちと言わんばかりに、「じゃあ、おやすみー。見張りよろしく!」と横になって、間髪入れずに寝息を立て始めた少女。
 相手がその気のない人間で良かったが、今日会って初めての人間の前で、いくら何でも無防備すぎるだろう。と、思ったらしっかりと毛布の下の手には件の銃が握られている。抜け目がないというか、無邪気さに欠けるというか。とにかく、子供らしくはない。
「んー……」
 毛布ごとごろりと寝返りを打って、少女は向こうを向く。
 同年代の少女たちより、少し小さい、小柄な少女を焚き火越しに眺めながら、キジローはぼんやりと、先ほど聞いたばかりの話を思い返していた。自然と眉間に皺が寄っていく。
 信じられない話だった。
 自分が連中の核心の部分に触れかかっている自信はあった。だが、この土壇場で、こんな幼い少女から、あんなヘビーな話を聞くことになろうとは、誰が予測出来たろう。
 いや、
『でも大丈夫。赤頭巾ちゃんに会えるから』
 しばらく前、夜に姿を現した白いサクヤが言っていた言葉を思い出す。
 ――狼くらい、逆に食い殺しそうな赤頭巾だな……やれやれ。
 毛布の上に敷かれた少女の真っ赤なベールを見ながら思う。
 ――シュアラ出身、って言ってたよな……
 シュアラという国は、淡い色が好まれる国だ。あの国に、こんな言葉はないがパステルカラーというか、薄い染め色が好まれる。それに魔道などとは縁のない土地だ。
 鮮やかなまでに赤い装束を纏い、魔道を扱う少女は、キジローの知っているシュアラ人とは、結んでも結んでも結びつかない。
 ――まあ、人間なんて国柄で縛れるもんじゃないけどな……何か、理由があるのか?
 少女は、あえて国と逆行しているように見える。そう思って、ふと、もう一度顔を上げたとき、
「……?」
 毛布が小刻みに揺れているように見えた。炎の陽炎かと思ったが、そうでもないようだ。
「おい、お嬢ちゃん、寒いのか?」
 キジローは焚き火を迂回して、少女に近づいた。声をかけて、顔を覗き込みかけて、絶句する。
 ぽたり、と毛布に水の斑紋が出来ていた。毛布に顔を埋めて、小さな手は毛布を握り締めすぎて、血色を失っている。それでも歯を食い縛って、声の一欠けらも漏らさずに、小さく肩を震わせて、泣いていた。
「おい、お嬢ちゃ……」
 思わず手を伸ばしかけた。その刹那、

 ばっ!

 少女の緑青色の瞳が一気に開かれた。瞬時にキジローの額に、冷たい銃口が突きつけられる。キジローは慌ててその口を抑えながら、半身を起こした少女と目を合わせる。
 びっしょりと、脂汗を掻いた少女は肩で息をしている。眠る前とは打って変わって、青い顔でキジローを眺め、目が焦点を結ぶと同時に、かたかたと鳴る歯をぐい、と食い縛った。
 がくん、と肩から力が抜けて、銃口が下ろされた。
「……そっか、おっちゃんか……何だ……」
「……大丈夫か?」
「うん……ごめん」
 まだ整っていない息を隠しながら、汗を拭う。キジローは立ち上がって、買い物袋を漁り、携帯用の鍋に水を張って火にかけた。
 お湯が湧くまでの間、ルナは座り込んだまま、ずっと息を整えていた。
 キジローはカップに湯を注ぐと、少しだけコンデンスミルクを溶く。
「ほら、気分が落ち着くぞ」
「……」
 昼間、相手の馬車を転がした少女の影はまったく見えず、彼女は濁った目を緩慢に動かしてカップを見た。のろのろと手を伸ばして、両手で受け取ると、やっとのことで口に運んだ。
 手先が震えているのか、歯とカップの淵がかたかたと音を立てた。
「本物の牛乳じゃなくて悪いな。でも、これでも結構、いけるだろう?」
「……」
 何かを言いかけて、失敗して、喉を解すように手をやる。上手く声が出せないらしい。たぶん、礼を言おうとしたのだと思う。
 少女の顔が、悔しさに染まっていく。ぎゅ、と唇を噛んで、青い顔でカップを指が白くなるまで握り締める。
 ―― ……。
 どんな地獄を見て来たんだ、と問いたのは自分だった。地獄なんて大層なものは見てないよ、と軽く返したのは彼女だった。
 でも、地獄なんて主観なのだ。いくら後から笑い話になるような話でも、当人にとっては、今、そのときが地獄なのである。
 キジローは少女が不器用な手つきでカップを空にするのを待った。時間をかけて、コンデンスミルクを飲み干す頃には、幾分、顔色も良くなっていた。額に浮かんだ汗を袖口で拭う。
「ごめん、おっちゃん……もう大丈夫だから」
「どうしたんだ? 一体」
「何でもない……ちょっと、夢見悪かっただけ」
 少女はにぱ、と青い顔で笑った。楽しそうに笑う少女だと思っていた。だが今は、その笑顔が妙に痛々しくて仕方が無い。
 ふと、キジローはスオミに出会った頃のことを思い出した。時折、眠りながら父親のことを思い出して、キジローの袖に縋りながら泣いていた。「父さん」と小さく口にしながら。幼い頃のキリコのように。
 毛布にしがみついていた少女を思い出す。何も口にしなかった。してはいけないように、歯を食い縛って、眉間に皺を寄せて。縋る名前などないように。むしろ、自分から誰かに縋ることを拒絶するように、手を伸ばしかけたキジローに銃口を向けた。
 少女は苦笑しながら、月の位置を確かめる。
「おっちゃん、寝なよ。しばらくあたしが見張りしとくからさ。目、覚めちゃったし。
 どうせ、連中んとこに邪魔するのは明日の夜になるんだから、今のうちに体力温存しといた方が……」
「……いや」
 キジローは首を振った。
 まだわずかに震えている体に毛布をかけて、空になったカップを取り上げる。
「弱ってるお嬢ちゃんに見張りをさせておくなんて不安で仕方がない。見張りなんて後でたっぷりさせてやるから、もう少し眠れ。そんな小さな体して、あんたこそ、体が持たんぞ」
「……」
 彼女は口を開きかけて、けれど疲れているのは自覚しているのだろう、大人しく毛布に丸くなった。
「子守唄とかいるか?」
「馬鹿にしないで」
「別に馬鹿にしてるわけじゃない。俺だって、この歳で子守唄は懐かしいし、嬉しいぞ」
「その歳だからじゃないの?」
「あのな」
 もそり、と毛布が動いた。
「……シュアラの歌じゃないのがいい」
「ん?」
「……懐かしくも、何ともないから」
「……そうか」
 毛布で表情は見えない。キジローはゆっくりと、小さな肩を叩きながら、記憶を掘り返す。歌のレパートリーなんて少ない。それも郷里の歌は禁止と来た。
 けれど、ふと浮かぶ歌があった。スオミを引き取ったばかりの頃、外国の宿屋で聞いたんだ。赤ん坊を抱えた宿屋の女将が、優しい声で歌っていた。
 キジローにもはっきりと意味はわからない。耳に残った旋律を思い出しながら、しどろもどろに歌った。
「……子守唄、か」
「ん?」
「……おっちゃん、子守唄ってね。もともと、親が歌うものじゃないんだよ」
「……」
「幼い頃から子守仕事をするために故郷を出た子守娘が最初に歌ったんだ。
 彼女たちはね、子供のために歌ったわけじゃない。自分の身が哀れで悲しくて、自分を慰めるために歌った。『起きて泣く子の面憎さ』、『眠らぬ奴は頭たたいて尻ねずむ』、なんて歌詞、聞いたことない?
 だから、あたし、子守唄って嫌いなんだ」
「俺はあんたが妬ましくて歌ったわけじゃないぞ? 上手くもないのに、そんなことのために歌うか」
「あはは、そうだね。うん、わかる。
 ……だから、少しだけ、好きになったよ。少しだけね」
「……そっか。よかったな」
「ん。ごめん。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 ――ああ、そうか。
 ちゃんと人の気持ちのわかる、良い子だから、逆につらいんだ、この子は、きっと。






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*COMMENT-コメント-
▽うわああああああん
れーくんもるなちんも、切な過ぎる!
みんないい子なのに…・・・幸せになる権利があるのに!

非力ながら憤ってしまうキジゴロー。とりあえず歌います。声はバスくらいかな?
▽みんなで行こう。
無駄に切ない章でした。
トラウマ持ちの子が多くてすいません;
大丈夫、こっちでは幸せになろうね、みんなで。

低い声って落ち着きますよね。ぴったりかも、キジローさん。

るーちゃやスオミさん、サクヤさんが目覚めたらもう、他のお話挟まないですぐにこっち来ちゃうのかな? 『織姫4』はルナちんの介抱話?
▽予告ヘン
はあーい、来週の『織姫のお仕事』は……

ルナちん介抱編です。
トヨさん大活躍。家族でルナちんを囲んで……そして、再び乙女の敵るるーちゃ降臨!?

また来週も見てくださいねっんむぐ、ううんむぐっ(古い)

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織姫のお仕事
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エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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