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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『暁の車』 出口    香月

おまけで出口。
実はこういうことでした。種明かし。意外と祖父ちゃんは逞しい。

キジローさんがシュアラに入院しているとき、『奈落の花』の後くらい。

=========================
 
 エクルーとサクヤは少し戸惑っていた。今日に限って、キジローが珍しいことを言い出したのだ。
『飲みたい薬がある』。
 薬を服用するのに抵抗したりはしないが、元来、それほど薬を好まずに身体を鍛える方を優先させてきたキジローが、こんなことを言うのは初めてだった。それも、薬を指定するだなんて。
 これに喜んだのは、蒼牙を連れてお見舞いに来ていた桜だった。薬草寮の病院を手配し、キジローの回復を願っていた彼女は真っ先に、「何のお薬ですか? どんな薬草が必要なんでしょうか?」と聞いた。
 そしてキジローは思ってもみない人間の名前を出したのだ。
「……で、何でてめぇまで付いて来るんだ?」
「だって、見張ってないと何しでかすかわかったもんじゃないし」
 病室に入るなり、カシスは背後にいたルナに噛み付いた。じっとりとした目線で、鋭い視線に怖気づくことなく返す。
 返された一言に、カシスははっ、と息を吐き、
「俺は狂犬か、つーの」
「はっ、同じようなもんじゃないの。空気は読まないわ、誰彼構わず噛み付くわ、おまけに目つきは悪いし?」
「てめぇ……」
「はいはい、夫婦喧嘩は外でやってね。ルナ」
 サクヤに手を叩かれて、ルナは目を細めてベッドへ視線を向ける。
「……公衆の面前でいちゃつくのもどーかと思うけど」
「え?」
 サクヤは重湯をすくった木製のスプーンを持ったまま固まった。ベッドの上でクッションに背を持たれたキジローはにやりとして、逆隣にいたエクルーは少し呆れながら首を振った。
「無駄だって、ルナ。この人たち、日頃からこうだから」
「……それもそうね」
 エクルーとルナの会話でやっと意味に気がついたサクヤは、スプーンと重湯の椀を持ったまま頬を染めた。
「あの、カシスさま」
 見舞いの席にいた桜が、壁際で成り行きを眺めていたカシスへおずおずと声をかけた。
「ええと、その、キジローさんがカシスさまの作った薬をお飲みになりたいと言われたので、お呼びしたのですが……」
 桜の言葉にまともに顔をしかめたのはルナの方だった。ベッドの上でにこにことくつろぐキジローをまじまじと見て、次に夫の方を見上げて顔を引きつらせる。
「マジ? おっちゃん、正気? ほんとにそんな危ないもん飲むの? 何が入ってるか、わかんないわよ?」
「確かに。言えてる」
「おい」
「蒼牙さん! ルナさま!」
「いや、だってトリカブトとか青酸カリとか、飲んだ後じゃあ遅いのよ?」
「いくらここが病院でもな」
「だよねー」
「もう、エクルーさんまで!」
 蒼牙とルナのやりとりに、桜が少しだけ語尾を強める。キジローは低く笑ってから、うるさそうにそれを見るカシスへ目をやった。
「前にお前の祖父さんを訪ねたときに、作ってくれた薬があっただろう?」
「……」
 少し珍しいものを見た。彼は鋭い目を細ませて、一瞬だけきょとんと首を傾げる。だが、すぐに思い出したのか天井の隅を見て「ああ」と声を漏らした。
「ああ、あれか……」
「あの薬でとても身体が楽になったのを思い出したんだ。軽くなったというか、ほっとするというか……身体の毒が抜けたような気がした」
「まあ……」
「へえ」
 エクルーとサクヤが感心したように声を漏らす。桜が目をぱちくりさせて、「すごいお薬なんですね」と呟いた。
「……」
 その中で、ルナは壁に寄りかかったカシスを見上げて眉を潜めていた。口元に当てた手の裏側で、彼はほんの僅か、唇を吊り上げている。笑っている? しかも結構、楽しそうだ。
「それで、その薬はどうやって作るんだよ?」
 蒼牙が肝心なことを聞いた。全員がカシスに注目する。彼は肩を竦めて、後ろ頭を掻きながら、
「そーだな。元手になる薬と物品はすべてそっちで賄ってもらうとして、手間賃とノウハウでしめて1万でどうだ?」
「おい」
 まず蒼牙が突っ込んだ。ルナが深々と溜め息を吐く。
「……まあ、私も人のこと言えないし……人よりがめつい自覚はあるけどさ……。もーちょっと空気読まない?」
「ビジネスはフィフティ・フィフティだ。需要と供給、手間と駄賃が釣り合って然るべきだろ? じゃねぇと世知辛い世の中で食っていけねぇぜ」
 サクヤが頬に手のひらを当てて、何かを考えている。軽く頷いてから切り出した。
「それって現金じゃないと駄目なのかしら?」
「いんや。等価価値のあるものなら構わねぇぜ。ただし、本当に等価かどうかはこっちで判断させてもらうけどな」
「エクルーが定期的に採ってきてくれる鉱石があるの。地下500m以下の場所で採るから、純度も高いわ。普段はイドラのいろいろな資金に使っているのだけど、それから見繕ってもらって、その値段。どうかしら?」
「ほう」
 カシスの薄い唇が笑みの形に吊りあがる。顎に手を当てて考えている。サクヤと彼のやりとりに、しばらく口をあんぐりさせていた桜が、はっと我に返った。
「あの、ご用意するものはすべて薬草寮で用意させて頂きます。少し大目に薬の方をお分けしても構いません。どうでしょうか?」
 桜の申し出に、カシスはふう、と息を吐いて肩を上下させた。懐から携帯用のペンを出し、ルナを見る。彼女はすぐに病室にあった竹皮のメモを引き抜いて、手のひらに乗せた。その上にさらさらと何かを書き入れる。
「まあ、こんなもん、大目にもらってもどうしようもないんだが」
「?」
 ぴっ、と引き抜いたメモを桜の前に差し出す。彼女は小さく会釈してから、丁寧に両手でメモを受け取った。
 文字を追ったその目が、どんどん見開かれていく。桜の様子に不審がった蒼牙も、そのメモを後ろから覗き込んで眉間に皺を寄せた。
「え、あの……これだけ……ですか?」
「ああ、それだけだ」
「あの、何か特別な処理などは……」
「まったくいらん。とにかくそこに書いたもんを用意してくれ、以上」
 それ以上は材料待ちと判断したのか、カシスは椅子を引き寄せ、壁に背をついて目を閉じた。桜は戸惑いを隠せないまま、メモを片手にキジローにお辞儀をして、蒼牙と共に病室を出て行く。
 サクヤとキジロー、エクルーはお互いに顔を見合わせた。ルナは悠々と構える夫を見て、「何考えてるんだか」と小さく呟き、だが何も言わずに黙って見守ることにした。


 やがてキジローの前に盆と共に置かれたのは、あのときと同じ、とろりととろみのある抹茶色の薬茶だった。湯呑みに淹れられて、湯気を立てている。
 運んできたルナはちらりと作った本人を見るが、当人は元の椅子に腰掛けて我関せず。手に汗を握るようにして見ているのは桜の方で、その隣の蒼牙は疑わしげな目線で湯のみを見ている。
 キジローは懐かしそうに湯のみを見て、サクヤに支えられながら湯のみを持ち上げた。熱すぎるものが駄目なキジローの胃に合わせて、木製のスプーンですくって飲む。
 一口、口に淹れた瞬間に、きゅ、とキジローの眉間に皺が寄った。
「どう?」
「……いや、味はあのときと同じ……なんだが、その」
 自信なさげに言って、キジローはもう一口、薬茶を口にする。
 噛むように味わって、顔をあげ、
「これは本当に薬なのか? 俺には抹茶をそのまま飲んでいるように感じるんだが……」
「え?」
 驚いたサクヤが、自分でも一口すくって飲んでみる。スプーンを加えたまま、軽く目を閉じて数秒、同じように眉間に皺を寄せた。
「ほんとに? 俺にも一口くれる?」
 続けてエクルーも一口飲んでみる。感想はまったく同じだった。
「……うん、抹茶の味……、だよな。とろみはたぶん、葛かでんぷんじゃないか? なあ、カシス、どういうことなんだ?」
「あ、あの……それは、その……」
 桜が珍しくしどろもどろに迷いを見せる。カシスは堪えきれなくなったように、くつくつと低く笑い始めた。
「ちょっと、笑ってないで説明しなさいって。どういうことなのよ?」
「どういうこともこういうことも。そのまんま、仰る通り。単純に白湯に抹茶の粉を大目に溶かして、葛で溶かしただけだわな。ああ、ほんの香りがつく程度に   アシの粉末も入れてあるが」
 全員の目が丸くなった。奇異の視線の中で、彼はなおも低く笑いながらふん、と鼻を鳴らす。
「大体、あんな設備も診断施設もない場所で胃がんの治療なんぞやれると思うか? おっさんがどんな症状が出ているか、他の肉体部位は健康か、ろくな診察もしてねぇのに、ほいほい大事な治療薬なんざ処方するかよ。真っ当な医者ならな」
「つまり、全部キジローの錯覚、ってこと?」
 エクルーが結論を出した。カシスは大仰に頷くと、指先でペンを回しながら、
「ま、そういうこった。よく聞くだろ? 病気の人間が故郷を思い出すことで、悦に入って精神的症状が緩和する、ってヤツだ。シュアラの人間なら抹茶や緑茶は日常的だし、しかも葛は病気の人間が飲む葛湯の材料だ」
「……そういえば、子供の頃は風邪を引いたときによく葛湯を飲まされたな」
 キジローはふと、昔、この薬……いや、茶を飲んだときのことを思い出す。確か老人は急にキジローの故郷のことに触れた。あれは世間話などではなく、戸棚を漁っていたカシスに対して、薬の調合を示唆するためのものだったのだ。
「でも、何で当時はただの抹茶だってわからなかったのかしら?」
「その前に飲ませた薬草茶があったろ?
 どうせ治療してほしいと言い出すんだろうと思ってたからな。軽い幻惑薬を淹れて置いたんだよ。ああ、身体には無害だがな。少なくとも薬とただの茶を間違える程度には、感覚がバカになる代物だ」
「なるほど……。一種の麻酔薬、ってわけね。
 でも、ただの抹茶と葛の粉で1万て……当時も同じ値段だったわけ? いや、薬の元出があるからもっとよね? それって詐欺じゃないの?」
「突き詰めればそうかもしれねーな。だが、確かに効果のあった薬を違法呼ばわりされる謂れはないね。
 老人と子供[ガキ]が生きていく、ってのはちと大変でなぁ? ま、諦めてくれや」
 唖然とした一同の中で、しれっと語るとカシスはひらひらと手を振った。ルナは呆れたように息を吐き、それでもどこか安心したように肩を竦めた。
 キジローは湯のみを持ち上げて、ほどよく冷めた茶を一口一口、飲んでいった。すべて飲み終えてから、静かに盆の上に湯のみを置く。表情はどこか晴れやかだった。
「ありがとう、カシス。できればベルサウス老の墓にも参りたいが、こんな身体なもんでな。祖父さんにも礼を言っておいてくれや」
「は、気が向いたらな。礼の話、忘れんじゃねーぞ」
 きょとん、としていたサクヤが我に返る。しばらく間があってから、彼女はにこりと微笑んだ。
「ええ、もちろん。こちらから連絡させてもらうわ。
 そうそう、ちゃんとルナを可愛がってあげてね。こう見えて寂しがりやだから」
「安心しろ。一人寝ができなくなる程度に可愛がってる」
「両方よけーなこと言うな! つーか何だ、その返し!」
 一瞬、意味がわからなかったサクヤはきょとんとした。だが、数秒経ってからかあっ、と頬を赤くする。蒼牙はしっかりと桜の耳を塞ぎ、エクルーは肩を竦めてキジローと顔を見合わせて小さく噴き出した。
「ははは、だが良かったなあ。ルナ、お前に関しては本当に嫁の貰い手に心配していたんだが」
「よくないわあああああっ! つーか、それ何気に失礼だし、超絶的に余計なお世話だし! っていうか、お前も笑うんじゃな……っ」
 怒鳴りかけたルナは言葉を止めた。さっきまでくつくつと笑いを漏らしていた連れ合いが、ふと何かを思い出すように押し黙り、あさっての方向を眺めながら目を細めていた。
 ―― ……。
「カシスさま?」
「帰るぞ」
 端的に言って立ち上がったカシスに、気が殺がれたルナは肩を竦めた。すぐにドアに向かう彼の背中を追う。
「カシス」
 ドアを開く直前で、キジローが呼び止めた。
「ありがとう。祖父さんによろしくな。それから真面目な話、ルナに構ってやってくれ。お前がイドラにいてくれてよかったよ」
「……」
 彼はふん、と鼻を鳴らしてから病室を出て行った。やれやれと息を吐いて、ルナはその後を追いかける。
 ぱたん、と閉じたドアを見つめて、キジローは深呼吸をする。心地よい茶の匂いが、まだ舌の上に残っていた。


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*COMMENT-コメント-
▽おお、何と言うオチ
そっか、プラシボなのね。なかなかタクマシイわ、じっちゃん。
でもいい雰囲気ね。カシスもルナも。キジさん……もうちょっとこの2人や桜ちゃんとの会話を聞きたかったわ……ほろり。
▽カシスの祖父ちゃんだもん
老人と子供が2人で生きていくには、図々しさが必要なのです(笑)。
『GLORIA』以前なので、ルナちんの中にまだまだしこりがあるよう。子供はいるけどまだ心から惚れてないね。
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目次(香月)
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