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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『桜降る夜の森に』(ほのぐらーちゃとお茶を)

『サクラ姫とお茶を』の修正案です。

 シュアラでの過去を踏まえた再会バージョン。

 ほのぐらーちゃの描写に挑戦しました。
 ちまコンビの会話はわざと元の小春ちゃんのバージョンを残しました。がーちゃの前でだけは幼いらーちゃに戻れるっていうのも萌えだなあって思って。

 るーちゃがさりげなくタラシ属性を発動しています。
 そして、レンを可愛いとか! お前、キャパ広過ぎだろう!

 ツッコミ大歓迎。
 よろしくおねがいします。        (ヴァル)


 ooo - ooo - ooo - ooo - ooo - ooo - ooo - ooo - ooo
『夜の桜の森で』

 
エクルーがカルミノに来る気になったのは、最終的にはサクヤのこの言葉のせいだった。
「あなたは友達を作る名人だもの。お友達を見つけていらっしゃいよ」

”お友達”。まったく子供扱いして。
 近頃どいつもこいつも俺にイドラを出ることを薦める。こんな辺境の島に閉じこもっていたらいけない。そろそろ将来のことも考えないと。どうだ、姉さんのスオミみたいに大陸に勉強に行って来たら? 男がいい年をしていつまでも母親べったりでどうする……などなど。
 
 要するにサクヤ以外の女の子にも目を向けて、キャリアを身に付けてひとりだちしろ、というわけだ。

 エクルーの学歴は7歳で通ったシュアラの幼年学校止まりだった。エクルーを産んだ後、サクヤは酷く弱ってしまってずっとシュアラの医療院で入退院を繰り返していた。エクルーの父はもう亡くなっていたし、その父の親友が母子の面倒を見てくれていたがいつも旅に出ていて留守勝ちだった。だいたいエクルーはシュアラにいる間、その男に会ったこともなかった。だからエクルーは子供時代をシュアラの山里で病気の母親を見守りながら過ごしたのだ。やることがないので修学院の幼年学校に入ったものの、退屈だった。しょっちゅう修学院の高等学校をうろついていた。本を読むのも教授の話を聞くのも面白かったけど、本気で打ち込めるものなどなかった。哲学も物理学も医学も何にも役に立たない。そんなもの、お母さんを助けてくれない。

 その後、サクヤが入院前に住んでいたこのイドラのドームに帰って来た。でも相変わらずサクヤは健康とほど遠い身体だった。おまけにエクルーの父親と親友だった例の男と再婚してしまった。さらに付け加えるとその義父も身体をひどく壊していた。そんなわけで、目下エクルーは病身の二親の面倒を見なくてはいけない立場なのだ。”お友達”だの”将来”だのを考える余裕などなかった。
 両親が昔やった何かアヤシイ仕事のおかげで経済的な心配はなかった。でもイドラの中学校にはもうエクルーの習うものなどなかったし、イドラには高等学校もましてや大学もないのだ。それでもっぱらジンの研究所で助手をやってひまつぶしをしていた。ジンが言うには”お前、発想だけならアインシュタイン級なんだがな。それを人に伝える能力がないよな”とのことだった。

 いいんだ、俺は。毎日、ジンやアルとバカ話しながら役に立たない実験ができれば。イドラに友人もいっぱいいる。”蛍石”のことを除けば、島から外に出る必要など感じない。島の外に”お友達”など必要ないんだ。

 ”お友達”と聞いて真っ先にエクルーが思い浮かべたのは、昔シュアラで会った子供だった。あの頃も今と同じように母親だけを見つめてぴりぴり張り詰めていたエクルーの心を、ふわっと溶かして周りの風景に気づかせてくれた友人がいた。イドラに来て10年音信不通で、島の外の情勢はあまり詳しく入ってこない。大陸はここ数年戦乱で荒れている。生きているかどうかさえわからない。
 でも、会えるかもしれない。

「あなたがこれから一生つきあっていける、そんなお友達に出会う。この旅であなたの人生が変わるわ」
 俺の人生に関わる予言を、俺の女神は温めに淹れた緑茶をすすりながら明日の天気でも話すように無造作に託宣した。

 そういうわけで、アルの軽口には半信半疑のままエクルーはこの大国に足を踏み入れたのである。



 エクルーは持ち前の愛想のよさで、うまく城の厨房に入り込んだ。目的は、例の ”石” の情報集めが6割、料理の修行が4割。いや、半々かもしれない。
 とにかく、いくらでも人手の必要なときであったし、女中頭の名前を言って、彼女の旦那の弟のいとこだのなんだのと言って、いつの間にか隅でオケ5杯分のイモの皮をあっという間に剥き、3時間後にはみなに ”新入り” と呼ばれ重宝がられていた。

 3時のお茶の準備が済んで、ようやく台所の人間に昼休みの時間が来た。
「新入り、休んでいいぞ。出来はどうだった?」
「見た目はいいみたいだ。ひとつ味見してくれる?」
 エクルーは布巾に包んで粗熱を取っているパンを、パン釜職人の親方に差し出した。
「後で感想聞かせて。じゃあ、メシ行ってきまーす」

 裏方用の使用人通路からサロンの横手に出たとき、騒ぎが聞こえてエクルーは足を止めた。
 だいたい、前夜祭からこっち、騒ぎばかりなのだ。人のことは言えないが、こんなに素性の知れない男をひとところに大量に集めて、無事に済むわけがない。しかも、この中からムコを選ぶ? エルザ姫がどんな娘か知らないが、心底気の毒だ。だいたい、王室の娘なんて男慣れしてない箱入り娘ばかりだろうに、あんなムダに血の気の多いのや、ムダにフェロモン垂れ流しの発情期のオスなんか、見ただけで怖気を奮うだに決まっている。

 そう、ちょうどあそこで震えている娘みたいに。
 その娘は、10か11に見えた。表情が幼いがもう少しいってるかもしれない。まっすぐな黒髪が、うつむいたほおをふっさり隠していた。取り囲んだ男達は、その娘がエルザ姫だと思っているようだ。バカな。エルザ姫ってのは16歳じゃなかったのか?


 単に騒ぎの中心にいるというばかりじゃなく、その娘はエクルーの心を引いた。どこか……懐かしい。髪と絹のヴェールに隠れて顔はよく見えないが……このイメージ。白っぽい薄桃色の花びらがはらはらと降って来るイメージには……覚えがある。
 まだ幼かった頃、母親だけが世界のすべてで、もうない星のこともイドラのことも知らなかった頃、大事にしていた少女に似ている。でもあの子はシュアラの姫君だったはずだ。こんなところにいるはずが……。


 男どもは、もう、相手が誰だろうとどうでもよくなっているにちがいない。オス同士の張り合いに夢中になって、少女は単なる観客だと思っているようだ。
 しかし、少女の方は、自分の前で、大柄で粗野な男たちが、大声でアピールしあったり、肉体美を誇ったり、血なまぐさい自慢話を披露していることに、怯えきってしまっている。毅然としてまっすぐに立っているが、気が乱れているのがわかった。張り詰めて、倒れてしまうかもしれない。
 その少女の2つ、3つ年上と思われる仕官服を着た漆黒の髪の少年が、大声で制して少女をかばっているが、事態はますます混乱してきた。

 サロンにいた30人ばかりの暇を持て余した男どもは、騒いでいるうちに完全にその少女はエルザ姫だと思い込んでしまったようだ。このバカげたムコ取り合戦に冗談半分で参加しているものもいるが、運命をかけて闇雲に張り切っている輩もいる。とにかく、お互いがライバルで、お互いの存在が邪魔なのだ。なのにお目当てのエルザ姫にはいつ出会えるかわからない。与えられた時間はたった3日。行き場を無くして苛立っているエネルギーは爆発寸前だった。きっかけは、誰かがお茶をこぼして誰かにひっかけたとか、どこぞの国を田舎呼ばわりしたとか、そういう些細なことだったにちがいない。しかし、あっという間に乱闘になってしまった。

 エクルーは、あーあ、という感じで、サロンの外から呆れ顔で騒ぎを観察していた。小柄な仕官服の少年が、幼い姫を必死でかばっているが、多勢に無勢。もみくちゃにされている。この分だと、あの少女がケガをする。全員、ふっ飛ばしてもいいんだけど、一応、目立たないようにアルに言われてるからなあ。
 あの少女だけ連れて、どっかに飛ぶ? たいがいの人間は、信じたくないことは信じないから、目の前の人間がふっと消えても騒ぎ立てたりしない。でも、この城に来てから、気になる視線が2つ3つある。どう気になるかというと、きっと俺がふっと消えるのを見逃したりせず、しかも気のせいだと考えたりしてくれない類の視線だ。ここに、教団の残党がいないと誰が言える? 俺たちが ”石” を探しているなら、教団だって探して当然だ。

 あ、ほら、この視線も……。目の端に夕焼けの色が閃いた。
 頭上7mはあろうかという高窓に、鮮やかな紅い色の髪をなびかせた男が鳥のように止まっている。その男は明らかに、エクルーの方をまっすぐ見ている。男は、下の騒ぎにあごをしゃくった。それから、人差し指で自分を指し、その指で弧を描いてサロンの真ん中に向けた。それから、エクルーを指し、そして立ちすくんでいる少女を指した。

 つまり、自分が騒ぎの真ん中に躍り出てかく乱するから、少女をここから連れ出せ、と。
 どうして自分が、この男に信用されたのか、この男を信用する気になったのかわからない。でも、いけそうな気がしたのだ。

 エクルーは手に持っていたトレイを、できるだけ騒ぎから離れた安全そうなテーブルにおいた。そうして、両手をすり合わせるようなしぐさをして、”じゃあ、始めようか” というように肩をすくめた。

 紅髪の男は、かすかにに頷くと、ためらいもなくサロンの真ん中にひらりと舞い降りた。そうして、騒ぎの中心になっていた、脳みそが筋肉でできていそうな大男を一発でのした。そうして、周りの人間があっけにとられているうちに、その大男と張り合っていた軍服の男も蹴倒した。
 後は再び、乱闘である。


 エクルーは ”楽しそうだなあ” とため息をついて、するっと嵩高い男どもの群れに分け入った。そうしてまっすぐに少女のところに行くと、ひょいっと横向きに抱き上げて走り出した。漆黒の髪の少年が何か叫んでいたが、身動きが取れないようだ。せめてもの置き土産に、エクルーは少年にウインクを送った。



 人目につかないところまで少女を引っ張り出すと、”ちょっと目を閉じて” とささやいた。少女は怯え切っているくせに、素直に目を閉じる。 ”もう、目を開けていいよ” と言われて見回すと、そこは庭の東屋だった。
 あれ? さっきまでお城の中にいたのに。少女は、呆然とした面持ちで自分を抱いている黒髪の少年を見上げた。
 少年はそっと少女を下ろすと、「座んなよ。お茶でも飲んで落ち着こう」と言った。

 いつのまにか、東屋の大理石のテーブルにはトレイが置かれていて、3人分のティーセットが用意されている。少女はは辺りを見回して不安そうな声を出した。
「ソ、ソウガさんは……?」
 ソウガ? エクルーは首を傾げてから、ああ、と声を漏らした。
「あの黒髪の彼のことだよね。君の騎士なんだろう? 彼には知らせを送ってある。騒ぎが落ち着いたら、彼も来るから安心しな」
「は、はい……あの、助けてくださってありがとうございます」
 まだ緊張した面持ちで少女はぺこり、と頭を下げる。何とか気持ちを落ち着けて威厳を保とうと必死なようだ。でもきつく握り締めた両手のこぶしが真っ白に震えている。ヴェールが後ろに流れて、隠しておかなければいけないはずの青ざめた頬を曝していることにも気づいていないらしい。

 エクルーはイドリアンの小さい子達によくするように、この少女の頭をなでてやりたくなった。でもまだ触れない。今触れると余計に怯えさせてしまうだろう。エクルーはテーブルの差し向かいに座ったまま、カップにお茶を注ぎ始めた。 

「ほら、飲んで。気持ちが落ち着くから」
 少女はぽかんとした顔で差し出されたカップを見つめている。
「あ、毒が心配? じゃ、俺が味見してやる」
 エクルーはカップの反対側からひとくちゴクリとお茶を飲んで、「うわちっ」と声を上げた。その声に少女の見開いた目がさらに丸くなる。
「あ、味は問題ないよ。俺、猫舌なんだ。うん、ちゃんとうまくできてる。今、カルミノの王宮でこの”チャイ”が流行ってるんだってさ。ほら、どうぞ」
 カップをくるりと回して、毒見済みのカップを少女の前にソーサーにかちゃりと戻す。

 その親切なんだか無作法なんだかわからない振る舞いに毒気を抜かれて、少女は思わずお茶に口をつけた。

 あ、甘い。それに温かい。
 不思議なスパイスの香りが効いたミルクティーだった。これは生姜、それにナツメグ、カルダモン……?

 ほっとすると、急にさっきの恐怖が戻ってきた。顔から血の気が下がり、身体がかたかた震えだした。
「ほら、もう一口飲んで」
「はい……」
 見守るエクルーの声に促されて、少女は素直にまたお茶を口に運ぶ。
「よしよし、いい子だ」

 その声に滲む優しさに驚いたように、少女は顔を上げた。そして初めてエクルーの方をまっすぐに見た。


 その瞬間。
 エクルーは白い花びらが降りしきる桜の森の中にいた。見上げるような桜の樹がどこまでも広がる夜の森。花びらが雪のようにあとからあとから降ってくる。月明かりなのか篝火なのか、ほの白く照らされた森の底。風もない。誰もいない。夜の森では鳥の声も虫の羽音もしない。闇を破るゴイサギの声さえしない。暑くも寒くもない。静寂に支配された凍り付いた森の中にただ、はらはらと、雪のように、花びらが降りしきる。
 
 君はこんなところにいたのか。ずっとひとりで。こんな寂しい場所に。


 エクルーの眼差しに心の底を見透かされたような気がして、少女は慌てて目を伏せた。そして自分を落ち着かせようともう一口、お茶を飲んだ。でもカップをソーサーに戻すと両手でカップを包んだまま、またかたかたと震え始めた。

「きゃっ……むぐ」

 急にやわらかくて温かいものを顔に押し付けられたので、少女はびっくりして小さく悲鳴をあげた。
「むぐ……な、何」
 思わず受け取っておそるおそる見ると、甘い、いいにおいの焼きたてパンだった。
「試作品なんだ。味見してよ。どう?」
「……むぐ……お、おいしいです。……とてもいい薫り。リンゴと……えっと……カボチャ?」
「当たり。ポルタ・ネグラの名物菓子なんだって。今日、習って初めて作ってみた」
「ポルタ・ネグラは知ってます。でも……こんなにおいしいもの、初めて食べました」
「そう?」
 怯えていたのも忘れて素直に感嘆する少女に、エクルー面白そうに笑う。

 こういうとこ変わってない。大人びた口を利くくせに、妙に素直でしぐさが幼い。

 少女は一生懸命温かいパンをほおばった。シュアラは米が主食なので、滅多にパンは食べないのだ。
 だいたい手づかみで物を食べるなんて、初めてだ。焼きたての温かいパンだって初めてである。そして、見も知らぬ男の人と2人でお茶をするのも。


「君、エルザ姫じゃないんだろ? そう、はっきり言っちゃえば、あそこまでの騒ぎにならなかったのに」
 少女が落ち着いた頃合いを見計らって穏やかな声が降ってくる。エクルーの声音には責める色はなかったが、少女はうつむいてしまった。
「それは……」
 
 あのとき。
 人込みの中に懐かしい人を見つけた気がして。思わずゴッタ返すサロンの中に不用意に飛び込んでしまったのだ。
 追っていた人の姿はすでになく、獣じみたギラギラした目の男達に囲まれてしまった。
 必死で矜持を保っていたものの、内心怖ろしくて仕方なかった。
 普段、周囲を護衛してくれる隊士たちもみな屈強だが、こんなうす汚い視線で私をなめ回したりしない。あんなに野蛮な大声を上げたりしない。蛮行をひけらかしたり、あんなおぞましい体験を……女性達をなぶった不潔な戦果を自慢したり……。 

「ほら、手が止まってるよ。温かいうちにパン、食べて」
「は、はい」
「お茶も。そのお茶は特別なレシピなんだから」
「特別?」
 また無警戒に顔を上げる。この少女は大人なんだか子供なんだか、ちぎはぐで危なっかしい。
「カルダモンとジンジャーはふさぎの虫に効く」
「……あ、ありがとうございます」
 初めて少女の顔にあやふやな微笑みが浮かんだ。
 
「そのパン、本当においしい?」
「はい。とっても」
「”メゲラ・コショネ” っていうパンなんだ。何て意味か知ってる?」
「知りません。どんな意味なんですか?」
「こぶたのお尻」
 少女は一瞬呆気にとられてから、持っているストールで口元を隠した。肩を震わせて笑っている。エクルーはにこっと笑った。 
「良かった。そろそろ君の騎士が来るから、俺は城に戻る。もう大丈夫だろ?」
「はい。ありがとうございます。あの……お聞きしていいですか?」
「うん?」
 黒髪の少年が身軽に振り返る。
「……お名前は?」
 エクルーはにこっと笑った。
「エクルー。目がエクルー(うすとび色)だから」
「エクルーさん、は……どうしてこんなに親切にしてくださったんですか?」

 名前に反応がない。そう言えば、あの頃いつも”お兄ちゃま”と呼ばれていたっけ。”星のお兄ちゃま”って。
 名乗ったところをみると、俺のことは忘れてるのだろう。俺だって一瞬、誰かわからなかった。冷たい静まり返ったオーラは、あの頃のふんわり柔らかい雪解けの森のような空気とすっかり変わっていた。あれから、この子に何があったんだろう。
 自分のことにかまけて、ちっとも心配してやらなかった自分が恥ずかしい。この子は必死に戦っていたのだ。

 でも同時に自分のことを思い出してくれない、この少女をちょっといじめたくなってしまった。

「あのさあ、あんまり不用意に男にそういう質問しちゃだめだよ」
 きょとん、とサクラはエクルーを見上げる。
「え?」
「そういう質問は、口説く絶好のきっかけになっちゃうからね。君はあの、黒髪の騎士が大事なんだろ?」
「は、はい」
 素直にこくっと頷く姫君に、エクルーは苦笑した。
「じゃあ、その気のない男にはそんな質問をしないことだ」
「その気……?」
 顔を見上げて、琥珀の瞳をまんまるくしてサクラは小首をかしげた。
 エクルーはちょっとため息をついて、先ほどの黒髪の小さな騎士に心から同情した。ああ、恋愛対象どころか異性としても見られていないんだな、と。

 苦笑しているエクルーを不思議そうに見上げながら、サクラはふうわりと微笑んだ。
「でも、あなたはやさしくて、いい方ですもの。私を助けてくださったでしょう? それに不思議な力を持っている、いい魔法使いだわ。だから大丈夫。あなたが無体なことをなさるはずありませんもの」


 これこれ、こういうところ。こういうところは変わってないんだよな。
 きょときょとしてたかと思うと、急に自信たっぷり。素っ頓狂なことを言い出して、俺の度肝を抜いてくれる。そして俺のことを俺より信じてくれる。

 エクルーは腹をかかえて笑いだした。驚いた姫君はまた小首を傾げる。
「やさしい、いい方、ね。それってホメ言葉じゃないよ」
「え……?」
 躊躇うサクラの顔をまじまじと見ながら、エクルーはニッと笑った。
「あ、うれしくないわけじゃないんだ。ありがとう。お礼にさっきの質問の答えを教えてあげる」
 サクラは琥珀の瞳をまるくした。
「君に親切にした理由は……別に君のためじゃないよ」
 そう言うと、サクラはまた小首をかしげる。

 あーあ、そんな無防備な顔、男の前でしちゃダメだってば。あの小さい騎士殿もさぞかし日頃ハラハラしていることだろう。自分で自分をしっかりしてると勝手に思い込んでるところなんか、うちのお姫さんと似ている。始末に終えないよな。

「ええと、つまり俺にはずっと好きな女性がいて……でも、もう俺には彼女にしてあげられることは何にもないから……代わりに君に親切にすると、何だかちょっと救われるんだ。だからボランティアだと思って、親切を受けてくれていいよ」
 冗談めかして言ったのに、サクラは真剣な面持ちでじっとエクルーを見つめている。そして、また柔らかく微笑んだ。
「でも、ありがとうございます。とても嬉しかった」
 そう言うと、少年は少し寂しそうな顔で笑った。

 あの時と同じだ。サクラは俺の心の中の扉をどんどん開けていってしまう。不思議な居心地の良さと懐かしさ。そして不安でもある。誰にも見せてない、心の中の弱さを見透かされそうで。

「君……その女性と黒髪がさらさらきれいなところが似てる。それから、自分のせいじゃないことに、責任感じて落ち込んじゃうところなんかね。君、名前は?」
 サクラは神妙な面持ちでエクルーの話を聞いていたが、名を聞かれると花が咲くようにふわっと笑った。
「サクラです。シュアラ国の……サクラと申します」
「うん。名前も似てるよ」


 やっぱり……サクラなんだな。最初、別人かと思った。表情がすっかり変わっていて。そして、名乗ったところを見ると、俺のことも気付いてないんだな。

 昔、シュアラで会ったとき……サクラは3歳だった。複雑な生い立ちながら、まだ彼女の心は守られていて無邪気だった。人を疑うことを知らないあどけなさで、名前も知らないエクルーに懐いていた。あの頃の透明でまばゆいオーラは変わっていないのに。うっすらと淡い桜色を帯びた透明なオーラ。でも、もう彼女はあの頃のあどけない少女ではない。姫宮としての責任や立場、国内外の軋轢が、彼女の表情を変えてしまった。
 今、サクラは誰も訪れることのない夜の森の底にいる。心を殺して、必死で何かを守っている。

「俺のこと、覚えてない?」
 エクルーは身体を屈めて、顔を近づけた。
「あの時俺の髪は銀色で、別れた時はダークグレーって感じだったかな?」
 サクラは両手を口にあてた。
「星のお兄ちゃま!」
「そう、君が俺の目のことを一番星と二番星だって言ってくれた」
 サクヤも昔、同じことをいった。俺の目をポーラースターだって。だから、私は信じて進むことができるのよって。そんなとこまで似なくていいのに。

 くしゃくしゃとサクラの頭を撫でてからエクルーはひらりと東屋の囲いを越えた。
「本当に、俺、もう帰る。君の騎士と決闘するはめになりたくない。お茶は彼の分もあるからね。じゃ」
「お兄ちゃま!」
「当分、この城にいるからまたゆっくりね」
「本当に? また会える?」
「また会える。約束する。じゃね!」


 そう言って、エクルーはお城の裏庭への斜面を軽やかに駆け下りて行った。サクラはその後姿を見送っていた。

 その背中が急に後ろに引っ張られる。サクラは何となく気配で察知していたので驚くこともなく、息を切らした幼なじみをみた。
「サクラッ……姫!!!!」
「わあ、本当だ。すぐに来た」
 冷たい凛とした態度が身に付いたシュアラの姫神も、幼馴染の前ではつい子供らしい反応をしてしまう。
 あの方、本当にすごい魔法使いなんですね。
 そんなことをぽやぽや言い始めるサクラに、ソウガは呆気にとられてから、眉間にしわをよせた。
「この……馬鹿!! あいつに何されたんだよ!」
「え……? あ、お茶とパンを頂いて、お話ししたんです」
 ここでソウガの怒りが沸点を超えた。にこにこと笑うサクラの頬を力いっぱいひねりあげる。
「いひゃいいはいっ」
「部屋に戻るぞ」
「あ、だめです。ソウガさんも食べてみてください。パンもお茶もとっても美味しくて、落ち着くんですよ」
 この期に及んで、ふわふわ微笑むサクラに本気で頭痛を感じたソウガは長く息をついた。そして無言でサクラの背中に滑り落ちている絹布を引っ張り、サクラの頭にかける。サクラの顔が半分覆われて、サクラはきょとんとソウガを見た。
「人前……とくに男の前では被れって言われてるだろっ」
 頭ごなしに怒られて、サクラはむっとしたが、すぐにしゅんとした。確かにシュアラ国では皇族や大臣の娘は絹布や扇で顔を隠さなければならないのだ。
 けれど。サクラは少し頬を膨らませてそっぽを向いた。


「でも……ここはカルミノだもん……それに、あの人は星のお兄ちゃまだもん」
「……へえ。まだ言うの。だいたい、その”お兄ちゃま”って何だよ」
 ソウガのこめかみに青筋が浮かぶ。少しだけ危ないかな、と思ったサクラは少し絹布をずらしてソウガだけに顔を見えるようにしてから、にこっと笑った。
「わかりました。お部屋に戻ります。でもお茶とパンは持っていきましょう? お部屋で食べながら、話してあげる」
「………わかったよ」
 ソウガはがっくりと肩を落とした。この少女の笑顔には絶対に敵わないと確信しながら。



 死屍累々と男たちが横たわるサロンの真ん中で、男はほぅ、と息を吐いた。念のため周りを見渡してみるが、幼い姫君の姿も、黒髪の少年軍人の姿もない。
 男はようやく安心して剣を収める。遠くからばたばたがちゃがちゃと、衛兵の走ってくる音がする。いつまでもこの場に残っていて詰問されるなど御免だ。
 男は降りたときと同じように、ひらり、と手すりを飛び越えて再び高台に上がった。とん、と軽やかに着地して、ふと気づく。

 高台には先客がいた。
「やあ、どうも」
「……」
 黒髪に薄鳶色の瞳をにこやかに細めた長身の男が、前掛けのポケットに手を入れたまま立っていた。一瞬、誰だか分からなかったが、ああ、そういえば先ほど救出を頼んだ男だった。容姿など特に気にも留めていなかったから忘れていた。
「一瞬で上がってくるなんてすごいね。そうは見えないけど、君も魔術師?」
「……俺は魔術やら魔道は一切使えない」
 黒髪の男はひゅう、と短く口笛を吹く。
「じゃあ、ほんとに身体能力オンリーなんだ。すごいもんだね」
「何か用か? 礼なら出すつもりはないぞ」
「いや、別に。そんなことを思っちゃいないさ。ただ、何で俺が協力させられたんだろう、と思ってさ」
「……」
 紅毛の男は煩わしそうにふぅ、と息を吐く。黒髪の男――エクルーは涼しい顔で返答を待っている。

「あの騒ぎの中で一番まともそうな顔をしていたからな。それに動揺一つしていなかった。そういう変わった神経の人間なら、何とか出来ると思ったまでだ」
「初対面の人間に酷いなぁ。確実に褒めてないよ、それ」
「褒めるつもりなど毛頭無い」
 即答した男の一言にエクルーは『酷いなぁ』と重ねる。
「って、でも俺が聞きたいのはそうじゃないんだよ」
「……だったら何だ?」
「何であんた一人で助けに入らなかったんだろ、って」
「……」
 紅髪の男の表情が見る見る不機嫌になる。これは失言だったかとエクルーはちょっと肩をすくめた。まあさぐりを入れられてうれしいはずないよな。でも、もう一押し。協力したんだから、このぐらいの権利はあるだろう?
「結局、あの娘に群がってた奴らはあんた一人で倒しちゃったみたいだし。最初から一人で助けに入ってもあんまり変わらなかったんじゃないか、ってさ。それに、一応、俺だってエルザ姫の婿候補合戦にエントリーだけはしてるんだ。そんな男に攫わせるなんてさ。まあ、あの娘が16歳の女の子に見えるほど、目は節穴になってないつもりだけど」
「……」
「あんた、あのちっちゃいお姫様と知り合いなのか?」
「……」
 紅髪の男は不機嫌な面を下げたまま無言を貫いた。エクルーは「ふーむ」と唸って腕を組む。
「……まあ、いいや。俺だって他人の事情に土足で踏み入るほど馬鹿じゃない。何かの事情であのお姫様に自分だと気づかれたくなかったんだ、って勝手に解釈しておくよ」
「……なら、最初からそうしろ」
 困ったことにエクルーは、このぶすっと答えた男が可愛くなってきてしまった。
「くくっ。あんた面白いなあ。あ、そうだ」
 思いついてエクルーは残っていたパンを片手に差し出した。
「今日の俺の試作品なんだ。あんたもどう?」
「……“メゲラ・コショネ” か」
「何だ。よく知ってるな」
 エクルーにしてみれば、多少の空気の緩和にはなるかと思った好意だったが、紅髪の男はますます表情を険しくさせるだけだった。つつきどころを間違えたかと懸念していると、男から「遠慮しておく」の一言が返って来た。
「何で?」
 何となく自分の作品が突っぱねられたのが納得いかなくて、思わず問いかけた。
 男は無言ですたすたと反対側の高台の端まで行くと、手すりに手をかけて、
「……カボチャは苦手なんだ」
 ぼそりと一言だけを残して手すりを飛び越える。その姿はあっという間に中庭の木立の中に消えた。エクルーは一瞬後にそれを理解し、一人で少しだけ噴出して笑ってしまった。


 面白くなって来たじゃないか。
 最初は何でこんなとこ、と思っていたけど、サクラに会えたし。それに仏頂面の紅髪の美青年。
 役者がそろって来たってところか? 

 エクルーは口笛を吹きながら、昼ご飯を食べ損なったことも忘れて厨房に戻って行った。











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*COMMENT-コメント-
▽キャパシティ広っ!
カノンでも言わないよ、れーくんくらいしか言わないよ、そんなこと!(笑)

ほのぐらーちゃとお茶を、のタイトルに噴いた自分、負け組ですか?
改めて見てもるーちゃ、切ないねぇ。そしてがーちゃにも切なくなっちゃったよ。
しかし、らーちゃよりれーくんの方がるーちゃに辛辣な言葉を浴びせそう。友達作るの大っ嫌いだから。雨降って地固まるだと思って耐えてくれ、るーちゃ(何か違う)。
▽るーちゃの仕様ですから
女の子といるとチャライプレイボーイに見えるのに、男といるとなぜかゲイに見える。
小奇麗で器用。どこから見てもバイ。
それが仕様です。
▽星の王子様!!!
素敵です…。るーちゃが桜が夜の森にいるって見る場面が好きです。綺麗なんだけど、とても寂しいところ。動かない時間のなかにらーちゃがとりのこされてしまっているみたいで…ほろり。
それと、桜の幼い部分、凛とした部分はちぐはぐしているものの、両方とも彼女なんだっていうのがすごく伝わりました…!!
るーちゃの一言一言にくらりときてしまった小春です…。るーちゃ…ほんとうにあなた罪な人ね…[誰目線

ありがとうございましたっ
▽お母さんからOK出たー
よかったあ。不安だったんですよ、ほのぐらーちゃがちゃんと書けてるか。
これからは桜ちゃんを鳥の声の降る森につれて帰ってくるプロジェクトだ!
みんなで散歩しよーねっ
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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