忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.071 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

『Happily Ever After』03   (香月)

白日の悪夢、カシス視点書き直し。
いろいろと変えてしまったところもありますが、ここは元の方が、いやいやこうの方が、ということがあったら言ってください。とりあえず試し書き。

元原稿の台所妖精で庭の形容(名前?)があったので、使わせていただきました。

ラテン語↓
Rosa = 薔薇
SusurrAtiO = ささやき
ホルトゥス = 庭
Malumian = 悪人、憎まれ役

ナイチンゲールは直しようがなかったのでそのまま。
"לבוגי למטה"はヘブライ語で『行け』という意味。


===========================

「……ジェイド」
 あおん。
 地に足をつけて呼びかけると、がさりと近くの茂みが揺れて、翡翠色の頭が飛び出した。犬の形をした、しかし、それよりは遥かにでかい生き物は、こちらの足元まで走ってくると、甘えるように足に絡みついた。
 構わずに芝生の上に胡坐を掻く。馴れたもので、ジェイドはあおん、と気の抜けた吠え声をして背もたれになるように、俺の背後に回りこんで座る。
「さて」
 広大なカルミノ庭園の中の、一際小高い丘。多少、上がるために階段と登り道を行かなければいけないせいか、人気はない。
 スーツケースを開けると、分厚いファイリングと簡易の測量機、手のひらに収まるくらいの水晶球と、いくつかの魔道器。天秤、短い杖、リング状の宝具。それから愛用の片眼鏡[モノクル]。
 測量機を芝生に置いて、トランシットとスタッフを立てる。片眼鏡[モノクル]をかけてファイリングを捲り、古い図面に赤字のペンで大きく三角形を描き、丘の上から顔を上げた。
 目の前に広がるのは、カルミノで最も大きな庭園。コーナーごとに名前がついているらしい。"Rosa"、"Nightingale"、"SusurrAtiO"。名前は……とりあえずは関係なさそうだな。
 なるほど、"Rosa"は名前通りに薔薇の庭園。ただ季節がずれているせいか、咲き誇ってはいない。蔓薔薇がアーチを描いているのが遠目に見えるだけだ。
 "Nightingale"。これもまた、名前から解る通り、ハーブ園にでもなっているらしい。比較的低い背丈の植物の花壇が、幾何学模様を描いている。
 "SusurrAtiO"。これは庭というより森だな。下手に踏み込んだら迷いそうだ。ジェイドなんぞに歩かせたら、一発で迷う。
 コーナーの狭間に走るのは白いレンガ壁と、青い生垣のコントラスト。まあ、吟遊詩人かポエムが趣味のヤツなら歌い出しそうだが、生憎、ここにいるのは偏屈と呼ばれる魔道技師だ。さて。
「ふーん……。ガセかと思えば、結構合ってるな、この図面」
 さすがは無敵艦隊の首領を名乗るだけのことはあるな、あの女。強奪っぷりは海賊と変わらねぇ。
 大体の位置を測ると、トランシットとスタッフをケースの中に戻す。代わりに出したのは、水晶のペンデュラム。手から垂れ下げると、すぐにふらふらと落ち着きなく揺れ始め、短い呪を紡ぐと、水晶は中心に紫のオーロラを発しながらさらに揺れた。
 光を怖がったジェイドが、きゅううん、と小さくなる。この臆病は何年経っても治らねぇな。
「ちっ、やっぱりダウジングにしちゃ範囲が広すぎるか。やっぱり土に潜るしかねぇかな……と」
 手のひらに違和感を感じた。ぐん、と糸が肉に食い込む感触がしたと思ったら、そのままぐん、と浮き上がり、東側――Nightingaleのホルトゥスを指す。
 ……アタリをつけた場所より大分、ズレてるんだが。何か別なものに反応したか……?
 鏡ででも探ってみるか、そう思ってペンデュラムを手に戻そうとした。そのときだ。
「―― っ!?」
 脳天の中にノイズが劈いた。壊れた蓄音機が、直に耳の中に音を叩き込んでくるような。
 痛みを堪えながら、同じような感覚を記憶の中から探す。ない。二日酔いだってここまで酷くならないし、主に好き勝手、教練を叩き込まれたときだってまだマシだ。
 強いて言うなら……ああ、あのときに似ている。己が土と同化したときだ。土の中を潜り、探るとき。だが、アレは送信機であって受信機ではない。
 そうやって考えているうちに、

 ごうっ!

「!」
 遠くに風の音が舞い上がった。ペンデュラムの先、ホルトゥスの中の、開けた農園と思しき中で。
「……おいおい」
 正直、口に出た。ありゃ、何だ?
 素直に形容するなら竜巻だ。規模はちっぽけなストームだが、ンなことが問題なんじゃない。誰でも教わるだろう、台風なんてもんは海上で産まれて育つもので、地上じゃせいぜいつむじ風がいいところだ、ってな。
 どうやらペンデュラムが反応したのはアレらしい。何事かは知らないが。
 無関係か、否か。
「……まあ、見てくりゃ解るか」
 ジェイドにケースを見てろ、と呼びかける。早速、頭を抱えてふるふると震えていたジェイドは、ひくひくと頷いた。
 錫杖を構えて呪を紡ぐ。

「我望む、天翔けるは天空[そら]より与えられし無垢なる翼、翔べフロウ・フライト」

 ずん、と風が足元に絡む。見えない翼に変化する風は、馴れた感覚で己の身体に浮遊感を駆け抜けさせる。
「……לבוגי למטה」
 そう命じると、渦巻いた風が、翼を開いて身体を押し上げる。それに合わせて芝生を蹴った。




「……おいおい」
 さっきと同じ言葉が口から出た。片眼鏡[モノクル]を外して、胸ポケットに収め、足元に広がる光景を見下ろす。渦巻いた風が、周辺の枯れ葉、じょうろ、石片、肥料用の袋なんかを巻き込んでいる。規模が小さいためか、上から眺めていた俺以外の人間は現場にいない。
 だが、
「何が原因かと思えば」
 眉間に皺が寄るのがわかった。
 渦の中心を見遣る。男が一人、蹲っているのが見えた。歳はわかりにくいが、ガキでもなければおっさんでもない。色の抜けた金髪で、両手で身体を押さえつけているため、顔は見えなかった。背は高そうだ。
 人為的なのは予想していたが。まさか魔道師でもないだろう。って、ことは何だ?
 とりあえず、この嵐は男が望んで起こしているものではないらしい。まあ、破壊活動が趣味なら、人混みの中でやるだろうからな。
「脳酔い[ブレイン・クラッシュ]か。まあ、似たようなもんか」
 さて、どうするか。言っている間にも蹲った男の身体は、巻き上がった石や砂利なんかでぴしぴしといじめられている。それに耐える、というよりは甘んじているような気がする。暴走の原因は何か知らないが、迷惑な男だな。
 錫杖を真下に傾けると、しゃらん、と音が鳴った。
「風なんてもんは」
 逆流させてやりゃいいもんだよな?

「我望む、駆けるは無垢なる虞風の旋律、吹けヴァイオレントゲイル!」

 男の起こす風と逆に逆巻いた風の群れが、上空からぶち当たる。ごうんっ、と最後の乱暴を周囲に振り撒いて、風と風は干渉を起こして消えた。男の痩躯が、がくん、と折れる。衝撃で気絶したらしい。
「よっ、と……」
 一回転して、無様に倒れた男の隣に降りる。
「ったく、自殺なら一人でやりやがれ。どんな死に方だろうと、片付ける人間の迷惑になるんだぞ? せめて他人様の迷惑を最小限にする死に方を選ぶんだな」
 擦り傷だらけで呻いている男を見下ろしながら、ちっ、と舌を打つ。あの生温い主も同じような目線で俺を見ているのか。胸糞が悪いったらないな。
「……」
「あん?」
 わずかに男が呻いた気がした。見下ろして、気づく。左腕が、二の腕から不自然に曲がっていた。
 あれで骨でも折ったのか? そこまでの衝撃じゃあ、なかったはずだが。ごろん、と爪先で図体を転がしてみる。転がった肩の付け根が、破れた服の合間から見えた。
「……義手」
 そこだけ服の破れ方が激しい。まるで掻き毟ったように。
「……ちっ」
 びりびりとした痛みが、その先のない己の左肩にも走る。くっそ、伝染なんかするな。カルミノという土地がまぐれにも平和なだけで、他では戦争なんざ過去の話じゃない。腕の一本や二本、ないヤツなんかザラにいる。いちいち動揺するな。
「我望む、癒し洗うは汚れし者の贖罪の聖痕、慈しめリザレクション」
 大地から立ち上る薄緑白色の聖光が、男の身体を覆う。ローブの裾から魔道文字の描かれた護符を引き抜いて、破れた付け根に括った。
 それでようやく苦痛から解放されたのか。男の目が薄っすらとだが開く。だが、焦点は合わない。意識は回復してないらしい。
「ちょいと失礼」
 ぐい、と瞼を押し上げる。眼球が動いた。膝を叩くと反射で足が動く。脳は無事らしい。
「どうやらおつむの方は無事らしい。脳酔い[ブレイン・クラッシュ]は大体、1時間くらい続くとアウトなんだが。あんたは運が良かったな」
 男が口を開きかけた。だが、意識が曖昧で言葉にはならなかったらしい。読唇術は専門じゃないが、大体読み取る。
 "Cashew?"
 眉根を寄せる。ぞくり、と背筋が凍るが、首を振る。下の偽名はともかく、俺の名前を知る人間なんぞ極一部だ。それに下半分は違う。いくらカルミノ語に訳したとしても、だ。
 事実、男はすぐに人違いに気づいたらしい。次に動かした口は、
 "What's your name?"
 ……誰彼に間違われるなんざ嫌いだった。
「……カシス。Cassis = Von = Hohenheimだ」
 男がかすかに頷いて、目を閉じる。今度は安堵した気絶の仕方だった。おかげでこっちはムカムカする。

『アル、アル、どこにいるんだっ? いるんだろう? 応えろ!』

「!」
 また誰かの声がした。これ以上、つまらないことで他人と関わるのは御免だ。舌打ちをして、早口に呪を唱える。屋根まで飛び立って、別棟の煙突の裏に入った瞬間、しゅんと空間が揺れて倒れた男の傍らにまた別の男が現れる。
 背は高いが、まだ青年と言っていい。現れ方以外は、普通の人間に見える。倒れた男を見ると、金色の目を見開いて駆け寄った。……どうでもいいが、金色の目というのはどこかの誰かを思い出して、食欲減退するな。どうでもいいが。
 しかし、あれは何だ? 普通の人間だが、真っ当な人間とも言い切れないだろう。移送方陣? まさか。そんな古代魔法を他国の人間が知るものか。
「……あ」
 記憶を巡らせれば、己の同僚の能天気な声がリフレインする。自分の郷里には、自分と同じような人間たちがたくさんいる、とのたまっていた。その同僚は、どこからか来て、どこかに行く能力があった。勿論、人外の変り種だ。
「……ふぅん」
 ぺろり、と乾いていた唇を湿らせる。とりあえず、危なげない場所で算段しなくてはならない。そう結論付けて、その場からさっさと退散することにした。



 ……ん?
 スーツケースを回収して一度、部屋に戻ろうと滑空していると、自分の部屋のある別棟の庭に見慣れた影を見かけた。思わず屋根の風見鶏に留まる。
 貴族風の男たち(今朝方見かけたパレットナイフの男とご同類だろう)と、それと対峙する黒い影。春もたけなわだっていうのに、全身黒衣なんて辛気臭い格好をしているのは、あの男ぐらいのものだ。袖から見える腕や顔に包帯を巻きつけている者も。
 貴族風の男たちの後ろには、少し驚いた面の青年が、困ったように立っている。特徴的な尻尾と耳。……ああ、一度見たことがある。イドリアン、てヤツか。
 2秒で状況が読めた。そして1秒でこれからの展開が読める。
「……やめときゃいいのに」
 しばらく観察していると、予想した通りに黒衣の主は、瞬時に多勢に無勢の男たちを駆逐した。あの男に喧嘩を売ったが最後、五体満足で生きてる方が幸せだ。可愛い顔してやるこたエグイからな。あの男に素手で首を刈られた豪傑がいくらいたと思ってんだ。
 屋根まで届く悪魔の咆哮に、男たちが散開し始める。蜘蛛の子を散らす、てなこのことなんだろう。
 と、思えば、今度は助けたらしき青年とやたらとフレンドリーに話し始める。相手もなかなか根性が据わっている人間(半分違うけどな)らしく、腰を抜かす、なんてことはしなかったようだ。
「やたらに仏心をだしやがって……」
 今の戦闘だけでどれだけの寿命を縮めると思ってるんだか。だからあいつは嫌いなんだ。自分に火の粉が降るわけじゃなし。むしろ、損をするのは己だ。放って置けば堅実に生きられるというのに、数年前から進歩のない奴め。
 ここは自己主義なMalumianのいるところじゃない。
 胸底が悪くなることばかりだ。そう思いながら、風見鶏の鉄塔を蹴った。



===========================

まめちしきー。
ホーエンハイムはルネサンス時代の医師であり、錬金術師だったおっちゃん。有名な方の名前はパラケルスス。
鋼錬のお父さんもたぶん、この人が元ネタだと思われる。


PR
*COMMENT-コメント-
▽驚かなくなった自分に驚いたりして
カシスの口舌に慣れてしまいました。さて、うちの連中。どんなタネにされるやら。くっくっく。
▽驚かなく(笑)
だんだん書くのが楽しくなってしまいました(笑)。中毒?
▽03追記
リィンとレアシスの陽だまりの庭シーンを追記+。
次のところに入れようと思ったら、そぐわないので追記しました。
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
2 3 4 5 6 7 8
9 11 12 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター