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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『Happily Ever After』05   (香月)

炎の石後半。
この後のれーくんのシーンはとりあえずすっ飛ばします。カシス起きてないので。ただ話としては生きてる、ってことで…。

・キスシーン後のカシスの感想がヒドイ
・例の暴言シーンがやたら切ない出来になった
・『大丈夫。お前は死なないよ~』カシスが祖父ちゃん家に来たばっかりの頃、正常な器官がないほどやられていたカシスを励ました祖父ちゃんの言

以上を踏まえてどうぞ。

==========================
 


「……嫌なビンゴだな」
 舌打ちが出た。昼間と同じ斜面に降り立つと、ざく、と下生えの悲鳴が上がった。直感的に思っただけだが、嫌な方向にビンゴするもんだ。だから何で嫌な予感は当たりやすいんだ。せめていい予感も同じくらい当たれ。
 芝生の斜面に性懲りもなく男が転がっていた。昼間と同じ男なのは見て分かる。首根っこを掴んで引き上げる。重い。魔道師に力仕事なんぞさせるんじゃねぇ、畜生が。
 首筋に触れる。呼吸はない。脈も弱いな。
 迷わずうつ伏せに投げ出した。そのまま背中を思い切り踏みつける。2、3回。華奢な人間じゃなくて助かった。背骨がイカれるこたないだろ。気道確保、心臓マッサージ、両方が出来る上にさほど不快感もない。理想的な救急法だ。
 がっ、かはっ、ひゅ、ひゅうっ。無様な呼吸音がして、男が息を吐いた。ごろり、と爪先でひっくり返してやると、薄っすらと目を開けた。しばらく酸素の足りない金魚になった後に、声が出たらしい。
「意外と……親切なんだな……2回も、助けてくれるなんて……」
「自殺は自宅でやれ、マゾヒスト野郎」
「……死体の、処理に……来てくれたのか?」
 大分、目の光がはっきりしてきた。少なくとも憎まれ口に付き合う余裕はあるらしい。錫杖を担いでしゃがみ込む。
「同じ自殺なら腹上死の方が気が利いてるぜ?」
「残念だな。そんなに気張ると女の方が先に死んじまう」
 言葉に途切れがなくなってきた。まあ、よく口の減らない男らしい。他人のことを言えるような口をしてるわけじゃないが。
「名乗ってなかったな……俺はアルだ。ただのアル。それ以外の名前はない」
「特に興味はねえ」
「だろうな」
 さて、どうするか。このまま放って置く、というのもテだが、昼間の光景が頭をちらつく。そもそも何で俺はこの男を2回も助けるハメになったのか。この男は何をしていたのか。生憎、想像力は悪くない。さぁ、どう尋問しようか。
「……カルミノの遺産、"賢者の石"。聞き覚えは、あるよな?」
 ぴくり、と男の節くれだった指が動く。これもビンゴ。たまにはいい方に当たるじゃねぇか。
 男がわずかに身を起こして耳元に囁いてきた。
(俺たちは観察されてるぞ)
 言われてちらり、と背後の植え込みに目をやる。2組の視線を感じた。視線のジャンルは間違いなく奇異だ。まあ、後ろから見りゃあ、この構図は大の男が抱き合ってるように見える。そりゃ真っ当な目線には奇異に映るわな。
 さあて、下手なことを喋れなくなった。人の肩に捕まる男をちらり、と見る。……まあ、洒落の通じる相手らしいしな。
(どうせ招かれざる客だ。サービスくらいしてやるべきじゃねぇのか?)
(じゃあ、助けてくれた御礼だ)
 急に後頭部を抱え込まれた。やたらと冷めた一瞬の後に、うつぶせたせいだろう、土の味がするキスを押し付けられた。
 ―― ………上手くはねぇな。
 かなり乱暴だった。だが、乱暴が故に粗が分かる。冷めた頭でぼんやりと分析する。礼と言いつつ、何だか笑えた。下手だったのが逆に良かったんだな、無駄な嫌悪感を感じずに済んだ。
(悪い男だな、てめぇも)
 そして馬鹿だ。
 手の力を抜くなり、がくり、と気絶した男を眺めながら思う。
 今度は呼吸しているらしい。まあ、眠らせといてやるか。それよりも、ああ、面倒だな。
「物陰で人の会話をこそこそ盗み聞きたぁ、随分と高尚な趣味じゃねぇか、ええ? サービスショットは終わりだ。潔くなったらどうだ?」
 わずかに茂みが揺れた。出てきたのはローティーンの男女2人。男の方は帯剣しているようだった。女の方はヴェールに覆われていて、顔は見えない。些か、衣装が変わっている。ああ、あれは確か――?
「お気を悪くさせてごめんなさい。あの、助けを求める気配がしたもので……」
「……で、様子見に来たけど、あんたがいて大丈夫そうだから、帰るところなんだ。
 邪魔されたくないだろ。そこどいてくんない?」
 どく、と言ったってこの大荷物が邪魔なんだがな。そんなことを考えていると、見計らったように突風が吹いた。女のヴェールが捲れて、男の方が舌打ちする。ああ、思い出した。あれはシュアラの装束だったっけか。確かにあそこの女は姿を隠すのが美徳か何かだったっけ?
 まあ、不可抗力だ。そう思って目を向けると、特徴的な額飾りが目に入る。
 ……あれは。
「……へえ、あんた。シュアラの巫女姫様かい」
 シュアラの文化は特殊なものらしい。まじないから占いまで、大陸とは何もかもが違う。そして大陸まで信仰を集めるのが巫女姫様だとか何だとか。……ああ、嫌なことを思い出しそうだ。自分の言を聞かれたかもしれない出刃ガメの顔も確認できたし、面倒になる前にさっさと退散するか。
 シュアラか。そういや、そんな額飾りを見たことがあったのはいつだったっけ……?

 ―― っ!



『…私も数度しか行ったことがないんだけどね、カシス。そこにはとても不思議な文化があって、』



 ……やめろ。



『…とても大勢の人が皆、読み書きを習えて、美味しいものを食べて生活しているんだ』



 ……やめろっ。



『…そこは帝さまや巫女姫様という方々に守られていてね。ほら、絵に描いてあげよう、こんな形の……』



 ――出てくるなっ!!!





『――お前が、            』





 ―― っ、はあ、……はあ。
 ……くそ、ふざけるな。何でこんなことで。冷えろ。消えろ。もう二度と出てくるな。俺が俺でいられなくなる前に。
「……何かとご高名な姫さんが、こんなところで出刃がめたぁな。よっぽど暇と見える」
「……」
 吐き出す台詞に悪意を込める。力の抜けた男の身体を何とか担ぎ上げて、頭の中を白にする。
「一つ、教えといてやるぜ、巫女姫様よ。助けがどうたらこうたら、感じたところでほいほいと近寄るのはやめといたがいい。どんな蛇や鬼が出るか知れたもんじゃねぇからな。
 噂がどこまで本当かは知らねぇが、親切と余計なお節介の違いは間違わねぇようにした方がいいぜ。地雷を踏むのは自分だからな」
 言い放った悪意は自己防衛。自己主義を貫けばいいだけだ。俺はそうやって生きてきた。誰に頼った記憶もない。己が崩れるものならば、突き放せばいい。二度と触れることがないほどに。Malumianは、Malumian。それだけの話。
「……口を慎め」
「あ?」
 言葉を吐き出したのは、男の方だった。言葉の端、静かに傾けた表情の中に激情が見える。
 ああ、そうかい。そういうことか。言っとくが人間てヤツは脆いぜ? 死に際でも容易く裏切――

『――お前が、           』

 ああ、やめろやめろ。アレは既に過去の幻影。溶けて消えた残像。くだらないくだらないくだらないっ。
 自分を裏切った人間なんざ、知ったこっちゃないっ!!!





「……ああ、慎むぜ。生憎、俺は王族貴族なんてろくでもないもんが大嫌いでね。高く止まった身分で民に救いを、なんてほざかれるのは耳が腐る質だ。こっちから退散してやるよ」
「……あっそ」
 男は思いの他、淡白に返してきた。女の方は何故だか知らないが頭を下げる。
 気絶した男をズタ袋と同じ要領で抱え直す。さっさとこんな場は離れるに限る。
 素通りしようと瞬間、視界が狭まったせいか、熱を持つ脳が足をふらつかせたせいか、ヴェールを被り直した女の方と当たったような気がした。かしゃん、と何かの小さな音がする。
「……げほっ」
 さく、と軽い音がしたかと思えば、女の方がその場にしゃがみ込んだらしい。男の方が慌てて駆け寄るのが見える。
 ……ああ、そうか。何が起こったのか、まあ、想像はつく。巫女姫というくらいだ。御大ならどうするだろう。また下手な親切心と仏心を出すんだろうか。
 それがどれだけ己を痛めつけるか、一番己で知りながら、だ。……心底、馬鹿だ。くだらない。
 結局、アレは孤独を語りながら、孤独になれる性格ではないのだ。それでSatanを語るなぞ、笑わせる。それ以上、振り返ることなく下生えを踏みつける。何よりも自分のために。
 最後に、嘲笑った、はずだった。形になっていたかは知らない。その嘲りが、誰に向けていたかも……もう記憶がおぼろげだ。



 どさりっ。
 寝室のベッドに男の身体を投げ出す。やれやれ、疲れた。アンバーがいない、ってのもなかなか不便だな。錫杖で凝った肩を叩く。さて、尋問でも始めようか。
 試しにアルと名乗る男の肩を押して見るが、目を覚ます気配はない。眼球と呼吸を確かめてみるが、やはり寝ているだけだ。
 ―― ……殴打してみてから熱湯でも用意してくるか。それとも冷水と氷か……? それとも濡れタオルで鼻と口を塞いでみるか。
 非情と言うなかれ。少なくとも、槍の切っ先を枕にぶっ刺してくるどこかの誰かより数段はマシだ。火傷くらいはすぐに治せるしな。
 そう思って一度、部屋を出ようとした、ときだ。

 ぐいっ。

「なっ!?」
 急に生温い感触に右手首を掴まれた。元々片腕しかない俺は、逆の手でバランスを取る、なんてことが出来ない。一気に男の体重がぶら下がって来たら、そりゃ重力に従うしかない。くそ、何度も言うが、俺は重戦士じゃなく魔道師だ!
 どういう夢を見てるのか、そのまま男はのしかかったまま寝息を立て始める。
「……ンの野郎……ッ!」

 ずくんっ。

 ―― っ! あ、あ……
 悪態を吐いて抜け出そうとした、瞬間。
 呻き声と共に男の腕が回ってくる。肩口に、腕に、他人の節くれの腕と手が絡みつく。
「……ぁ、う……く……っ!」
 背筋が寒く凍る。身体中にびりびりと、錯覚の痛みが走る。やめろ、錯覚だ。もう何もない。傷跡さえもない。だからこの痛みはただの錯覚なのだ。そう思うのに、全身からぞわりと鳥肌が立って、脂汗が噴き出した。
 ―― っ!!
 目の前に無数の手が見えた。声に鳴らない悲鳴が、全身を駆け回る。暗闇の中から、皺くちゃの汚い手が身体を拘束してくる。けして優しい手つきなんかではない。それは拘束とただ穢すことだけを目的にした、強制的な拘束。いくら足掻いてもその手は緩められることはなく、やがては血が滲み出す。足掻くだけ傷つくだけだ、と宣言されたように。
 無数の手は髪を引き、腕を乱暴に吊り上げて、足首を引き摺り上げる。やがて背中には劈くような熱さと痛みが走って、ひしゃげた自分の悲鳴が耳鳴りする。


『……ほら、これで多少は可愛くなった……』
『……ははは、プリズンにはお似合いの焼印だな……』
『……さあ、今日も奉仕の時間だ。神に跪け。己が穢れを払ってやるからな……』


「……っ、あ、ぅう……」



『カシス?』



『嫌な夢でも見たのか?』



「―― っ! っは、はぁ……」
 数秒、息が止まっていたのを自覚する。人間の下敷きになっていると呼吸もままならない。くそ、もう一度、錯覚に病む前にのしかかる男の腹を蹴り飛ばそうとした。

「……死ぬな」

 ぽつり、と聞こえた声に振り上げた足が止まる。肩口のローブが濡れる感触。ぱたり、と枕の上に斑紋が出来た。
「すぐ……迎えに行くから……待って、て、くれ……」
「……」

『大丈夫。お前は死なないよ。私がついているから。何度でも迎えにいってやるから、お前も諦めないでくれよ?』

「……寝言に夜泣き。ガキかよ、くそっ」
 大の男が、よく知りもしない野郎の前で何でこんな無防備になれるんだ。どんだけ幸せな人生を送ってるんだか。くそ、忌々しい。
 ああ、ああ、本当に忌々しい。忌々しい記憶から解放するのは、いつも同じ忌々しい記憶。所詮はアレも俺を裏切った人間じゃねぇか。昔の話だ。俺には関係ない。そんなくだらないことに囚われているような場合じゃない。
 俺は生き延びる。無様にしがみついてでも。他人を蹴落としても。それ以上があるものか。
 ――くそ、ムカムカする……っ!
 こんなへらへらした優男が、一体、何を抱え込んでいるというのだ。聞きたいことがなかったなら、喉元くらいこの場で掻き切ってやれるのに。
 胃の中が煮えくり返る。ありったけの罵詈雑言が頭の中を駆け巡った。だが、身体は正直で嫌になる。このところ、やたらと短かった睡眠時間は、俺の意識を容赦なく闇に沈めていった。
 不思議と悪夢は見なかった。



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*COMMENT-コメント-
▽ほろり
ああもう、カシスがどんだけ憎まれ口を叩いても、もう可愛いとしか思えない、そんな私は病気です。
私が抱っこしてあげたいわ。
▽確かにかわいい
どんどん病気になってください(違)。本当は独りでがんばってたのね。
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「姫おり」過去編
織姫のお仕事
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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