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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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サクラ姫とお茶を・改訂案

「織姫のお仕事2」を踏まえると、カルミノで出会った時点で桜とエクルーは初対面じゃないわけですよね。
桜はいつも ”お兄ちゃん” と呼んでいて、”エクルー” という呼び名を知らなかったと想定して、こんな風に改訂してみました。

一応、公式サイトで公開している部分だから、このブログでもいいかな? と載せてしまいましたが、問題あったら言ってください。

ご意見、よろしくー。

特に、3歳の頃と、どういう風に桜が変わったか、という部分。
こんな感じでよかったかしら。
もっと早く気付いた方がよかったかな? でも、ちょっとじれじれ要素でこんな感じに♪

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ヒメサマのい・う・と・お・り

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第7話 サクラ姫とお茶を

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 エクルーは持ち前の愛想のよさで、うまく城の厨房に入り込んだ。目的は、例の ”石” の情報集めが6割、料理の修行が4割。いや、半々かもしれない。
 とにかく、いくらでも人手の必要なときであったし、女中頭の名前を言って、彼女の旦那の弟のいとこだのなんだのと言って、いつの間にか隅でオケ5杯分のイモの皮をあっという間に剥き、3時間後にはみなに ”新入り” と呼ばれ重宝がられていた。

 3時のお茶の準備が済んで、ようやく台所の人間に昼休みの時間が来た。
「新入り、休んでいいぞ。出来はどうだった?」
「見た目はいいみたいだ。ひとつ味見してくれる?」
 エクルーは布巾に包んで粗熱を取っているパンを、パン釜職人の親方に差し出した。
「後で感想聞かせて。じゃあ、メシ行ってきまーす」

 裏方用の使用人通路からサロンの横手に出たとき、騒ぎが聞こえてエクルーは足を止めた。
 だいたい、前夜祭からこっち、騒ぎばかりなのだ。人のことは言えないが、こんなに素性の知れない男をひとところに大量に集めて、無事に済むわけがない。しかも、この中からムコを選ぶ? エルザ姫がどんな娘か知らないが、心底気の毒だ。だいたい、王室の娘なんて男慣れしてない箱入り娘ばかりだろうに、あんなムダに血の気の多いのや、ムダにフェロモン垂れ流しの発情期のオスなんか、見ただけで怖気を奮うだに決まっている。

 そう、ちょうどあそこで震えている娘みたいに。
 その娘は、10か11に見えた。表情が幼いがもう少しいってるかもしれない。まっすぐな黒髪が、うつむいたほおをふっさり隠していた。取り囲んだ男達は、その娘がエルザ姫だと思っているようだ。バカな。エルザ姫ってのは16歳じゃなかったのか?

---------------------------------------ココカラ

 単に騒ぎの中心にいるというばかりじゃなく、その娘はエクルーの心を引いた。どこか……懐かしい。髪と絹のヴェールに隠れて顔はよく見えないが……このイメージ。白っぽい薄桃色の花びらがはらはらと降って来るイメージには……覚えがある。
 まだ幼かった頃、母親だけが世界のすべてで、もうない星のこともイドラのことも知らなかった頃、大事にしていた少女に似ている。でもあの子はシュアラの令嬢だったはずだ。こんなところにいるはずが……。

---------------------------------------ココマデ

 男どもは、もう、相手が誰だろうとどうでもよくなっているにちがいない。オス同士の張り合いに夢中になって、少女は単なる観客だと思っているようだ。
 しかし、少女の方は、自分の前で、大柄で粗野な男たちが、大声でアピールしあったり、肉体美を誇ったり、血なまぐさい自慢話を披露していることに、怯えきってしまっている。
 その少女の2つ、3つ年上と思われる仕官服を着た漆黒の髪の少年が、大声で制して少女をかばっているが、事態はますます混乱してきた。
 サロンにいた30人ばかりの暇を持て余した男どもが、完全にその少女はエルザ姫だと思い込んでしまった。このバカげたムコ取り合戦に冗談半分で参加しているものもいるが、運命をかけて闇雲に張り切っている輩もいる。とにかく、お互いがライバルで、お互いの存在が邪魔なのだ。きっかけは、誰かがお茶をこぼして誰かにひっかけたとか、どこぞの国を田舎呼ばわりしたとか、そういう些細なことだった。しかし、あっという間に乱闘になってしまった。

 エクルーは、あーあ、という感じで、サロンの外から呆れ顔で騒ぎを観察していた。小柄な仕官服の少年が、幼い姫を必死でかばっているが、多勢に無勢。
 もみくちゃにされている。この分だと、あの少女がケガをする。全員、ふっ飛ばしてもいいんだけど、一応、目立たないようにアルに言われてるからなあ。
 あの少女だけ連れて、どっかに飛ぶ? たいがいの人間は、信じたくないことは信じないから、目の前の人間がふっと消えても騒ぎ立てたりしない。でも、この城に来てから、気になる視線が2つ3つある。どう気になるかというと、きっと俺がふっと消えるのを見逃したりせず、しかも気のせいだと考えたりしてくれない類の視線だ。ここに、教団の残党がいないと誰が言える? 俺たちが ”石” を探しているなら、教団だって探して当然だ。

 あ、ほら、この視線も……。目の端に夕焼けの色が閃いた。
 頭上7mはあろうかという高窓に、鮮やかな紅い色の髪をなびかせた男が鳥のように止まっている。その男は明らかに、エクルーの方をまっすぐ見ている。男は、下の騒ぎにあごをしゃくった。それから、人差し指で自分を指し、その指で弧を描いてサロンの真ん中に向けた。それから、エクルーを指し、そして立ちすくんでいる少女を指した。

 つまり、自分が騒ぎの真ん中に躍り出てかく乱するから、少女をここから連れ出せ、と。
 どうして自分が、この男に信用されたのか、この男を信用する気になったのかわからない。でも、いけそうな気がしたのだ。

 エクルーは手に持っていたトレイを、できるだけ騒ぎから離れた安全そうなテーブルにおいた。そうして、両手をすり合わせるようなしぐさをして、”じゃあ、始めようか” というように肩をすくめた。

 紅髪の男は、かすかにに頷くと、ためらいもなくサロンの真ん中にひらりと舞い降りた。そうして、騒ぎの中心になっていた、脳みそが筋肉でできていそうな大男を一発でのした。そうして、周りの人間があっけにとられているうちに、その大男と張り合っていた軍服の男も蹴倒した。
 後は再び、乱闘である。

 エクルーは ”楽しそうだなあ” とため息をついて、するっと嵩高い男どもの群れに分け入った。そうしてまっすぐに少女のところに行くと、横向きに抱き上げて走り出した。漆黒の髪の少年が何か叫んでいたが、身動きが取れないようだ。せめてもの置き土産に、エクルーは少年にウインクを送った。

 人目につかないところまで少女を引っ張り出すと、”ちょっと目を閉じて” とささやいた。少女は怯え切っているくせに、素直に目を閉じる。 ”もう、目を開けていいよ” と言われて見回すと、そこは庭の東屋だった。
 あれ? さっきまでお城の中にいたのに。少女は、きょとんとして自分を抱いている黒髪の少年を見上げた。
 少年はそっと少女を下ろすと、「座んなよ。お茶でも飲んで落ち着こう」と言った。

 いつのまにか、東屋の大理石のテーブルにはトレイが置かれていて、3人分のティーセットが用意されている。サクラは辺りを見回して不安そうな声を出した。
「ソ、ソウガさんは……?」
 ソウガ? エクルーは首を傾げてから、ああ、と声を漏らした。
「あの黒髪の彼のことだよね。君の騎士なんだろう? 彼には知らせを送ってある。騒ぎが落ち着いたら、彼も来るから安心しな」
「は、はい……あ、助けてくださってありがとうございます」
 ぺこり、と頭を下げるとどうも。と明るい調子で声が返ってきた。
 あ、このひとはとても善い魔法使いだ。
 サクラはなぜかそう確信すると、急に身体がふうっと楽になる。
 そうして、ぺたんと座ると、さっきの恐怖が戻ってきた。顔から血の気が下がり、身体の震えが止まらなくなる。
 そんなサクラの肩をぽんぽんとエクルーが叩く。次に艶々した黒髪をくしゃくしゃにするまで撫でた。

 その仕草が、よくソウガのしてくれるものと似ていたので、サクラは少し瞳を潤ませた。
 エクルーはうん、と頷いてサクラに何かを差し出す。
 急にやわらかくて温かいものが顔を覆ったので、サクラはびっくりして小さく悲鳴をあげた。
 おそるおそる見ると、甘い、いいにおいの焼きたてパンだった。
「試作品なんだ。味見してよ。どう?」
「……わあ……おいしいです。とてもいい薫り。リンゴと……えっと……カボチャ?」
「当たり。ポルタ・ネグラの名物菓子なんだって。今日、習って初めて作ってみた」
「ポルタ・ネグラは知ってます。でも……こんなにおいしいもの、初めて食べました」
「そう?」
 素直に感嘆するサクラに対して、黒髪の少年が面白そうに笑う。
 サクラは一生懸命温かいパンをほおばった。シュアラは米が主食なので、滅多にパンは食べないのだ。
 だいたい手づかみで者を食べるなんて、初めてだ。焼きたての温かいパンだって初めてである。そして、見も知らぬ男の人と2人でお茶をするのも。


「君、エルザ姫じゃないんだろ? そう、はっきり言っちゃえば、あそこまでの騒ぎにならなかったのに」
 サクラが落ち着いた頃合いを見計らって穏やかな声が降ってくる。少年の声音には責める色はなかったが、サクラはうつむいてしまった。
「それは……」
 エルザを助けるためにカムフラージュになるなら、とか、あの人たちがあんまり一生懸命なので気の毒で、とかいろんな言葉が浮かんだ。
 けれど、あんなに異性に囲まれたのは初めてで、怯えてしまって、毅然と発言することができなかったのだ。
 そうしてあんな闘いに。もしかしたら誰か怪我をしたかもしれない。
「わたし……いつもこうなんです。よかれと思っても……うまくいかなくて……」
 きゅうっとドレスの生地を握りしめる。白い手がますます白くなった。すると、目の前に湯気の立つカップが差し出された。
「飲んで。効くよ?」
 それは不思議な香りのする甘いミルク・ティーだった。
「効く……? 何に?」
「カルダモンとジンジャーはいじけ虫に効く」
「わ、わたしいじけてませんっ」
 ぷうっと頬を膨らませるサクラの顔を楽しげに見つめて、エクルーは腕をのばしてぽんぽんとサクラの頭を叩いた。

「さっきのパン、本当においしかった?」
「とっても」
「”メゲラ・コショネ” っていうパンなんだ。何て意味か知ってる?」
「知りません。どんな意味なんですか?」
「こぶたのお尻」
 サクラは一瞬呆気にとられてから、持っているストールで口元を隠した。肩を震わせて笑っている。エクルーはにこっと笑った。 
「良かった。そろそろ君の騎士が来るから、俺は城に戻る。もう大丈夫だろ?」
「はい。ありがとうございます。あの……お聞きしていいですか?」
「うん?」
 黒髪の少年が身軽に振り返る。
「……お名前は?」
 少年はにこっと笑った。
「エクルー。目がエクルー(うすとび色)だから」
「エクルーさん、は……どうして私に親切にしてくださったんですか?」

 そう問うとエクルーはちょっと返事に困ったようだった。
「あのさあ、あんまり不用意に男にそういう質問しちゃだめだよ」
 きょとん、とサクラはエクルーを見上げる。
「え?」
「そういう質問は、口説く絶好のきっかけになっちゃうからね。君はあの、黒髪の騎士が大事なんだろ?」
「はい、とても」
 素直にこっくりと頷く姫君に、エクルーは苦笑した。
「じゃあ、その気のない男にはそんな質問をしないことだ」
「その気……?」
 顔を見上げて、琥珀の瞳をまんまるくして。サクラは小首をかしげた。
 エクルーは一瞬言葉を呑んでから、先ほどの黒髪の小さな騎士に心から同情した。ああ、恋愛対象どころか異性としても見られていないんだな、と。

---------------------------------------ココカラ

 くすくす笑っているエクルーを不思議そうに見上げながら、サクラはふうわりと微笑んだ。まるで雪の上にあたたかく注ぐ春の陽のように。
「でも、あなたは、やさしくて、いい方ですもの。私を助けてくださいったでしょう? だから大丈夫。あなたが無体なことをなさるはずありませんもの」
---------------------------------------ココマデ

 呆気にとられてから、エクルーは腹をかかえて笑いだした。驚いたサクラは小首を傾げる。
「それってホメ言葉じゃないよ」
「え…?」
 躊躇うサクラの顔をまじまじと見ながら、エクルーはニッと笑った。
「あ、うれしくないわけじゃないんだ。ありがとう。お礼にさっきの質問の答えを教えてあげる」
 サクラは琥珀の瞳をまるくした。
「君に親切にした理由は……別に君のためじゃないよ」
 そう言うと、サクラはまた小首をかしげた。ああ、そんな顔その気の "
ある" やつの前でしちゃだめだってば。とエクルーは思いながら言葉をつづけた。
「ええと、つまり俺にはずっと好きな女性がいて……でも、もう俺には彼女にしてあげられることは何にもないから……代わりに君に親切にすると、何だかちょっと救われるんだ。だからボランティアだと思って、親切を受けてくれていいよ」
 冗談めかしたのに、サクラは真剣な面持ちでじっとエクルーを見つめている。そして、また柔らかく微笑んだ。
「でも、ありがとうございます。とても嬉しかった」
 そう言うと、少年は少し寂しそうな顔で笑った。

---------------------------------------ココカラ
 この少女は不思議だ。俺の心の中の扉をどんどん開けていってしまう。不思議な居心地の良さと懐かしさ。 
---------------------------------------ココマデ


「君……その女性と黒髪がさらさらきれいなところが似てる。それから、自分のせいじゃないことに、責任感じて落ち込んじゃうところなんかね。君、名前は?」
 サクラは神妙な面持ちでエクルーの話を聞いていたが、名を聞かれると花が咲くようにぱっと笑った。
「サクラです。シュアラ国の……サクラと申します」
「うん。名前も似てるよ」

------------------------------------------ココカラ

 エクルーはちょっと寂しそうに微笑んだ。やっぱり……サクラなんだな。最初、別人かと思った。表情がすっかり変わっていて。そして、名乗ったところを見ると、俺のことも気付いてないんだな。

 昔、シュアラで会ったとき……サクラは3歳だった。複雑な生い立ちながら、まだ彼女の心は守られていて無邪気だった。人を疑うことを知らないあどけなさで、名前も知らないエクルーに懐いていた。あの頃の透明でまばゆいオーラは変わっていないのに。うっすらと淡い桜色を帯びた透明なオーラ。でも、もう彼女はあの頃のあどけない少女ではない。姫宮としての責任や立場、国内外の軋轢が、彼女の表情を変えてしまった。

「俺のこと、覚えてない?」
 エクルーは身体を屈めて、顔を近づけた。
「あの時俺の髪は銀色で、別れた時はダークグレーって感じだったかな?」
 サクラは両手を口にあてた。
「星のお兄ちゃん!」
「そう、君が俺の目のことを一番星と二番星だって言ってくれた」
 サクヤも昔、同じことをいった。俺の目をポーラースターだって。だから、私は信じて進むことができるのよって。そんなとこまで似なくていいのに。

 ぽんぽんとサクラの頭を撫でてからエクルーはひらりと東屋の囲いを越えた。
「本当に、俺、もう帰る。君の騎士と決闘するはめになりたくない。お茶は彼の分もあるからね。じゃ」
「お兄ちゃん!」
「当分、この城にいるからまたゆっくりね」
「本当に? また会える?」
「また会える。約束する。じゃね!」

------------------------------------------ココマデ


 そう言って、お城の裏庭への斜面を軽やかに駆け下りて行った。サクラはその後姿を見送っていた。

 その背中が急に後ろに引っ張られる。サクラは何となく気配で察知していたので驚くこともなく、息を切らした幼なじみをみた。
「サクラッ…姫!!!!」
「わあ、本当だ。すぐ来た」
 あの方、本当にすごい魔法使いなんですね。
 そんなことをぽやぽや言い始めるサクラに、ソウガは呆気にとられてから、眉間にしわをよせた。
「この…馬鹿!! あいつに何されたんだよ!」
「え…? あ、お茶とパンを頂いて、お話ししたんです」
 ここでソウガの怒りが沸点を超えた。にこにこと笑うサクラの頬を力いっぱいひねりあげる。
「いひゃいいはいっ」
「部屋に戻るぞ」
「あ、だめです。ソウガさんも食べてみてください。パンもお茶もとっても美味しくて、落ち着くんですよ」
 この期に及んで、ふわふわ微笑むサクラに本気で頭痛を感じたソウガは長く息をついた。そして無言でサクラの背中に滑り落ちている絹布を引っ張り、サクラの頭にかける。サクラの顔が半分覆われて、サクラはきょとんとソウガを見た。
「人前……とくに男の前では被れって言われてるだろっ」
 頭ごなしに怒られて、サクラはむっとしたが、すぐにしゅんとした。確かにシュアラ国では皇族や大臣の娘は絹布や扇で顔を隠さなければならないのだ。
 けれど。サクラは少し頬を膨らませてそっぽを向いた。

---------------------------------------ココカラ

「でも……ここはカルミノだもん……それに、あの人はお兄ちゃんだもん」
「……へえ。まだ言うの。だいたい、”お兄ちゃん”って何だよ」
 ソウガのこめかみに青筋が浮かぶ。少しだけ危ないかな、と思ったサクラは少し絹布をずらしてソウガだけに顔を見えるようにしてから、にこっと笑った。
「わかりました。お部屋に戻ります。でもお茶とパンは持っていきましょう? お部屋で食べながら、話してあげる」

---------------------------------------ココマデ


「………わかったよ」
 ソウガはがっくりと肩を落とした。この少女の笑顔には絶対に敵わないと確信しながら。



 死屍累々と男たちが横たわるサロンの真ん中で、男はほぅ、と息を吐いた。念のため周りを見渡してみるが、幼い姫君の姿も、黒髪の少年軍人の姿もない。
 男はようやく安心して剣を収める。遠くからばたばたがちゃがちゃと、衛兵の走ってくる音がする。いつまでもこの場に残っていて詰問されるなど御免だ。
 男は降りたときと同じように、ひらり、と手すりを飛び越えて再び高台に上がった。とん、と軽やかに着地して、ふと気づく。

 高台の正面に、人が佇んでいた。
「やあ、どうも」
「……」
 黒髪に薄鳶色の瞳をにこやかに細めた長身の男が、作業着のポケットに手を入れたまま立っていた。一瞬、誰だか分からなかったが、ああ、そういえば先ほど救出を求めた男だった。容姿など特に気にも留めていなかったから忘れていた。
「一瞬で上がってくるなんてすごいね。そうは見えないけど、君も魔術師?」
「……俺は魔術やら魔道は一切使えない」
 黒髪の男はひゅう、と短く口笛を吹く。
「じゃあ、ほんとに身体能力オンリーなんだ。すごいもんだね」
「何か用か? 礼なら出すつもりはないぞ」
「いや、別に。そんなことを思っちゃいないさ。ただ、何で俺が協力させられたんだろう、と思ってさ」
「……」
 紅毛の男は煩わしそうにふぅ、と息を吐く。黒髪の男――エクルーはきゅ、と唇を上げた。

「あの騒ぎの中で一番まともそうな顔をしていたからな。それに動揺一つしていなかった。
そういう変わった神経の人間なら、何とか出来ると思ったまでだ」
「初対面の人間に酷いなぁ。確実に褒めてないよ、それ」
「褒めるつもりなど毛頭無い」
 間髪入れず、入った男の一言にエクルーは『酷いなぁ』と重ねる。
「って、でも俺が聞きたいのはそうじゃないんだよ」
「……だったら何だ?」
「何であんた一人で助けに入らなかったんだろ、って」
「……」
 紅髪の男の表情が見るだに不機嫌になる。これは失言だったかとエクルーは、一度は口元を抑えるが、まあ機嫌の良い話なわけはないよなと思い直す。
「結局、あの娘に群がってた奴らはあんた一人で倒しちゃったみたいだし。最初から一人で助けに入ってもあんまり変わらなかったんじゃないか、ってさ。それに、一応、俺だってエルザ姫の婿候補合戦にエントリーだけはしてるんだ。そんな男に攫わせるなんてさ。まあ、あの娘が16歳の女の子に見えるほど、目は節穴になってないつもりだけど」
「……」
「あんた、あのちっちゃいお姫様と知り合いなのか?」
「……」
 紅髪の男は不機嫌な面を下げたまま無言を貫いた。エクルーは「うーむ」と唸って腕を組む。
「……まあ、いいや。俺だって他人の事情に土足で踏み入るほど馬鹿じゃない。何かの事情であのお姫様に自分だと気づかれたくなかったんだ、って勝手に解釈しておくよ」
「……最初からそうしろ」
「きっついなぁ。そうだ」
 思いついてエクルーは残っていたパンを片手に差し出した。
「今日の俺の試作品なんだ。あんたもどう?」
「……“メゲラ・コショネ” か」
「何だ。よく知ってるな」
 エクルーにしてみれば、多少の空気の緩和にはなるかと思った好意だったが、紅髪の男はますます表情を険しくさせるだけだった。滑ったかな? と懸念していると、男から「遠慮しておく」の一言が返って来た。
「何で?」
 何となく自分の作品が突っぱねられたのが納得いかなくて、思わず問いかけた。
 男は無言ですたすたと反対側の高台の端まで行くと、手すりに手をかけて、
「……カボチャは苦手なんだ」
 ぼそりと一言だけを残して手すりを飛び越える。エクルーは一瞬後にそれを理解し、一人で少しだけ噴出して笑ってしまった。

---------------------------------------ココカラ

 面白くなって来たじゃないか。
 最初は何でこんなとこ、と思っていたけど、サクラに会えたし。それに仏頂面の紅髪の美青年。
 役者がそろって来たってところか? 

 エクルーは口笛を吹きながら、昼ご飯を食べ損なったことも忘れて厨房に戻って行った。

---------------------------------------ココマデ



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*COMMENT-コメント-
▽ふむふむ
改訂部分の前後でもちょっとじれじれしたいかも?

この間のチャットが有効なら、彼らがれーくんに会うより前にカシスに会ってもらった方が面白いかもしれない…とか思ってみる。
▽じれじれ強化
そうですねえ。東屋に行ってからは、基本、サクラちゃん視点で描かれているので、遠慮したんだけど、もう少し伏線があってもいいかも。
乱闘の時点で、るーちゃが『あれ? サクラかも』と思ってもいいかも。せっかくテレパスなんだし。
▽くつずれ…。
ヒール毎日履いてる人すごいな。尊敬します。靴ずれでかかとがデンジャラスなことになっている小春です涙
これから一か月これはかなきゃいけねーという事実に早くも死亡フラグ。それと異常な忙しさに負けそうです。あうあう。


ふう。
今日帰ってきて「サクラ姫とお茶を」が更新されていてうはうはしちゃいました(笑)
なつかしーっ!!エクルーかっこいいぜちくしょーっ。
でも、少し不自然だなって思う点がいくつか。
去年の私が改正もしくは加筆した部分、いらないかなーって。

・そう言って、お城の裏庭への斜面を軽やかに駆け下りて行った。サクラはその後姿を見送っていた。

のあとのちまコンビの応酬いらないかなって。昔の大好きなお兄ちゃんに再会のあとにギャグチックなものは合ってないような;
ここはカットしてレンパートにそのまま行く形はどうでしょう。

それから桜の心理状況とか変わりぐあい。
くわしくは身辺落ち着きましたらこのお話の桜視点を書くのでそれを参考にしていただけたら。

雑多書きですが、これにて失礼っ!
▽秘密兵器!
ちまこい私は、常に6センチ以上のヒールはいてます。去年は毎日8センチ、ピンヒール。これはけっこうアイスバーンで滑らないし、雪に埋もれないし、実用的なんですよ?
でもやっぱりあちこちくたびれるので、中敷を駆使してます。透明なムニムニしたクッションが優秀です。土踏まずとかつま先にこれを入れると、全然疲れ方が違う! 靴屋さんで相談してmにてください。がんばれ、新入生♪

そうですねえ、全体のバランスを取って、あちこち微調整しよう。
サクラの心境も聞きたいけど、”(蒼牙くんと会う前に)よく遊んでもらってたやさしいお兄ちゃんなんです♪”と言われたときの、蒼牙の心境も入れてみたい(サド)。
ギャグ、入っていていいんじゃないかな? 緩急付けるというか……ハードボイルドなレン部分の前に、ほわっとしていいと思うんだけど。
▽ナルホド
さっそくためしてみますーっ///ありがとうございます☆

おおおそれは見てみたい。きっと蒼牙は少し眉をひそめる程度で返すでしょうが、頭の中は大荒れ(笑)
どこの馬の骨だぼきゃあああっみたいな←

緩急! 確かに。それじゃあヴァルさんおねがいしますっ。
心理変化はいますぐ書くわけじゃないので大丈夫ですー^^
▽もうちょっと付け加えてみました
主にるーちゃ関連をちょこちょこ。
このあと、部屋でお茶を飲みながら、蒼牙くんがどんな反応をしたかは、小春ちゃんのお任せしよう。
とりあえずこの章は、私はこんな感じでいいかな? と思います。
▽ちょっと気になるところ。
落ち着いたので、少し気になったところをあげます。
るーちゃが桜にエルザじゃないんだろー?ていうところ。
まず、サクラがなぜこのサロンにきたか。
メイドに扮したエルザが婿候補やお客さまの伯爵令嬢、侯爵令嬢、他国王女が集まってお茶会に連れてきたんです。
エルザとしてはサクラに純粋に楽しんでもらいたいっていう気持ちがあったらしく。そういう場所ってことは蒼牙や桜には内緒。入った途端、ドア付近にいたエドモンドに「……ここ婿候補たちや公女が集まる場所だよ?」とバラし、蒼牙は桜を連れて、問答無用に帰ろうとしました。
が。
絹布で顔を隠した少女に興味を持った頭筋肉人間やのーたりん共がむらがって以下省略。

なので、

*******
「君、エルザ姫じゃないんだろ? そう、はっきり言っちゃえば、あそこまでの騒ぎにならなかったのに」
 サクラが落ち着いた頃合いを見計らって穏やかな声が降ってくる。少年の声音には責める色はなかったが、サクラはうつむいてしまった。
「それは……」
 自分がシュアラの第一皇女だと名乗れば巫女姫だと分かり、あの場に更なる混乱を招いてしまうかもしれない。そう思ったからだ。逆に、身分を公言すればあの場はおさまったかもしれないとも考えた。
 けれど、あんなに異性に囲まれたり話しかけられたりするのは初めてで、怯えてしまって、毅然と発言することができなかったのだ。
 そうして自分が逡巡している間に、あんな闘いに。もしかしたら誰か怪我をしたかもしれない。
「……」
 自己嫌悪に陥って、哀しげに睫毛を震わせる。
 黙り込んで、きゅうっとドレスの生地を握りしめる。白い手がますます白くなった。すると、目の前に湯気の立つカップが差し出された。
******

それで、三歳のころと十二歳でどうかわったか。
簡単に言っちゃえば
顔色が悪くなって表情が消えて瞳にはあきらめの色。
一瞬他人かと思うほど無邪気の欠片はなくなっていると思います。

今日はこのへんで^^;;
▽桜ちゃん……
いろんなものを抱えて……ほろり。
お兄ちゃんとデートしてるときは嫌なことを忘れて、無邪気な子供時代に戻ってね。
ご指摘のところを直したいと思います。ありがとう~♪
▽ちょっと気になったこと
エドモンド版でなく、婿選び版でもエドはいるのかな?
婿選び版でも登場させるのOKですか?
▽あれ? 確か……
幼馴染で特に恋愛感情はないと思っていたけど、大園遊会でエルザが他の男たちと話しているのを見て、エドが何かあせっちゃって……みたいな話じゃなかったでしたっけ?
でも、エドってハンサムだしいいヤツですよね。勝てないなあ、きっひっひ。
▽えーと…
いえ、最初、小春ちゃんが書くエドモンドストーリーと、主旨だった(はずの)六人選びのストーリーがあって、後者には出ないという話だったので…。
でももうごっちゃでいいのか。
▽エド
大園遊会でエドが焦るっていう話、ごめんなさい初耳です;;そうだったんですか。

六人版でもエルザの幼馴染、蒼牙の学友として、出させてもいいかなっておもってました。
アピールはしないけど遠巻きに見てるキャラ。
▽あせるエド
あれ、何かチャットでそういう話を聞いた気がしたんだけど……勘違いだったかな。
園遊会で遠巻きに見てたけど、だんだん心穏やかにいられなくなって、自分の気持ちに気付いた……みたいな感じかな? と思っていました。
いっそ7人体制でもいいけど。
▽Dark ver. の桜ちゃんだとこういう時……?
バカな男どもの間で微笑んでいそう。
超越した優雅さと美しさで筋肉バカどもを(気持ち的に)見下ろしていそうだわ……っ。
お茶シーンの会話とかもだいぶ変わって来ると思う。というか、このver.の桜ちゃんってるーちゃとお話してくれるのかしら。思い出してくれるのかしら。
ちっちゃな雪の女王のようになっちゃった桜ちゃんの心を溶かしたくて、るーちゃがやっきになっちゃうかもー
▽ほのぐらーちゃ(笑)
そうですね…態度はとても堂々としているのですけれど、

ここまで来た経緯は、レンに似た人を見かけておもわずホールに入ってしまった。ってことにしようかなって。
人ごみ怖いからもともと行くつもりもなかったから軽くパニックになっているとおもいます。大人数の筋肉男にかこまれてぐらんぐらんになっているかと。
だから助けていただければ嬉しいです…!
るーちゃのことは思い出して、すごく悲しそうな顔を浮かべると思います。
【今の私を見られたくなかった】からです。
▽ほのぐらーちゃ②
間違えておしちゃいました。上の続きでふ。
ちっちゃな雪の女王さまは太陽(エルザ)に飢えております。でも雪の上から動こうとしてないので、るーちゃ、連れ出してあげてください。
がーちゃはらーちゃに近すぎて、どうすることもできないのです。
…こんな桜でも…嫌わない? るーちゃ…うるる。
▽ほのぐらーちゃは、
それでもレンのことを追いかけて引っ叩いてくれるのかしら? 彼の心に残っているかのちゃの言葉でも耳を傾けてくれるのかしら?
らーちゃも心配だけど、がーちゃもとても心配です。レン、さっさと帰れ(扱いヒドすぎる)。
▽ほのぐらーちゃとがーちゃ
らーちゃはレンカノのことをあきらめなきゃ、とおもっていて、がーちゃも忘れられなくて、二人で袋小路に入った状態です。寂しくて辛くて、あがいているんです。だから他人を受け入れようとしない。
それでも、再会したレンがいぜんと様子が違うことに気付いて、戻ってきてほしいと頑張るでしょう。二人の中ではカルミノで会った人とシュアラの記憶のなかにいる人は別格ですから。
たぶんレンの決闘は二人の成長のときでもあるんだとおもいます。
▽ほのぐらーちゃ、絶対るーちゃのツボだ
桜ちゃんの前に出ると、るーちゃは詩人になれるの。だからきっと、「俺は君のまなざしの中にいつも降りしきる桜の花びらを見ていた」とかゆーんだ。「でも今は、それが風花のように冷たい花びらなんだ。俺はそれが悲しい。その氷の花びらはきっと桜の指先も凍えさせているんだろう?」とか言っちゃうんだ。けけけ
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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