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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『再生の呪文』          (ヴァル)

3日め…ですよね?
無敵の太陽少女、降臨。

そういえば、このエピソードからアルは独身ってことになったんだよね。というわけで、スオミもフリーになって、すおみろい企画が持ち上がったというエポック・メーキングなお話。


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 エルザの前に大小さまざまな本や書類が広げられている。
 みんなぼろぼろで、数百年は経っていると思われる。文字もカルミノの言葉だけでなく、さまざまだ。古トラキア語、シュアラ語、さまざまな記号に符丁。それをすらすらと読み解きながら、アルとジンが説明してくれる。

「もちろん、こいつらはアナクシマンドロスが書いたものじゃない。後世の学者が、彼の研究について調べた論文だ。だから推測が大部分といっていい」
「でも、何人かの研究者が重複して指摘していることがある」
「石の再生だ」

「石の……再生?」
 エルザには思いがけないことばかりで、頭がついていかない。つい昨日、カルミノの秘宝と呼ばれる”賢者の石”に恐ろしい力があることがわかったばかりなのに。そして、自分がその石を守る番人であり、石の封印を開く”鍵”である、と。

「アナクシマンドロスがこの石を創造して、そろそろ2000年だろう。つまり寿命なんだよ。このまま封印していても、次第にその力が衰退して……いずれ消滅する」
「いつ!?」
 エルザが勢いこんでたずねたので、アルは慌てて説明した。
「いや、今日明日なんて話じゃないよ?あと数百年は大丈夫らしい。ゆっくりとエネルギーが弱くなるから、この石に依存していたものも、ムリなく自立できるように考えてあるみたいだ」

 ジンが腕組みした。
「これは、おそらく大賢人の賭けだったんだろうな」
「賭け?」
「うん。2000年のうちに、この石を理解して封印を解くものがいなかったら、そのまま消滅させるつもりだったんだろう」
「再生しなければ……このまま消えて無くなるんですね?」
「おそらく」
 エルザはむしろそれでもいい、と思った。いろいろな効用もあるかもしれないが、同時に強力な武器でもある。複雑な国際政治のバランスや、戦争の恐ろしさに実感を持ち始めた今となっては、この秘宝を使って周囲の国を威圧する気持ちになれない。

「再生って、具体的にどんなことをするんですか?」
「うん、それについてはまだ調査中。もう少し待ってくれ」
 何か恐ろしいことが起こるのかもしれない。そのくらいなら、このまま消滅させた方が……

「これ、この記号、どこかで見なかったか?」
「あ、あれじゃない?クロキアの魔道師が書いてたメモ」
「お、そうか。あれ、別館の書庫だっけか」
「第三層の書架D」
 ジンがふっと笑った。
「相変わらず、カメラのような記憶力だな。助かるぜ。取ってくる」

 アルは、自分の上司が身軽に走り出ていくのを見送った。子供みたいだ。夢中になると、睡眠も食事も吹っ飛んでしまう。妻のイリスに頼まれてはいたが、自分もすぐ一緒になって吹っ飛んでしまうから、あまりいいお目付け役とはいえない。
 エルザが青白い顔で、研究書を見下ろしているのを見て、アルが肩をぽん、と叩いた。
「少し座ったら? 寒くない?」
「あ、いいえ……何だかいろんなことが一度に起こって……」
「混乱するのはムリもない。でも、みんなできるだけ手助けするから」
 自分を励ますように微笑む顔を見ているうちに、その質問が口をついて出て来た。

「アルって結婚したりしないの?」
 自分でも驚いた。どうしてこんなこと、いきなり聞いてしまったのだろう。
「この前、自分は付き添いだって言ってたでしょう? この大園遊会に来たのは『石』のためで、婿になる気はないって。イドラに好きな人がいるの? 誰か待ってるの?」
 アルは戸惑ったようにちょっと笑った。
「好きな人はいない。待ってる人もいない。大切な友人はたくさんいるけどね。多分……僕は、この先、誰とも恋愛しないし、結婚もしないと思う」
「どうして!?」
 思いがけず大きな声が出てしまった。
「うーんと、まあ、『石』のごたごたでね、僕はもう一生分の”熱”を使い尽くしてしまった。怒り、とか恋愛、とか、そんなエネルギーはもう持てないと思う。こんな楽隠居のような人生につき合ってくれる奇特な女の子がいるとも思えないし、後はただ……穏やかに暮らしていければいいんだ。『石の子供』を助けながら」
「そんな!」
 そんなのって悲しすぎる。犠牲者としての人生を甘んじて受け入れるなんて。だからって、自分に何ができる? また無力感が襲ってきて、身体が震え出した。
「そんなの、教団に負けたってことじゃない! どうして幸せになろうとしないの?」
 アルは微笑んだまま、静かに言った。
「幸せだよ。教団に操られたまま、自分の意思もなく、人殺しをしていた時に比べれば。後は自分のしてしまったことを、償うだけだ」
 静かな諦観。やさしい微笑み。どうして?どうしてそうなるの? どうして私には何もできないの?
 気がつくと、エルザは思いっきりアルをひっぱたいていた。
「アルのバカ! どうして教団に復讐してやろうと思わないの? アルが幸せになることが、最高の復讐なのに!どうしてそうやって、あきらめてしまうのよ!」
 ぽかんと頬に手を当てているアルを残して、エルザは書庫を飛び出してしまった。


 めっくら滅法走って、気がつくと別館の塔に来ていた。書斎の窓から中庭を見下ろしながら、はあはあ、と息をつく。まだ涙が止まらない。どうして? どうして世の中にはこんなに恐ろしい、悲しいことばかりあるの? 私がこの城でぬくぬくと暮らしている間に、みんなひどい目に遭って苦しんでいた……レアシスも、カシスも、レンも、エクルーの両親も、そしてアルも……。王女というのは守られてばかり。本当は私が……大切な人々を守らないといけないのに……!

 行き場のない無力感に駆られて、エルザは塔の窓からぐっと身を乗り出した。窓の横に細い錬鉄のはしごがついている。身軽によじ登って、丸屋根のてっぺんの風見鶏の横に座ってふう、とため息をつく。
 いつもここに登って、世界を見渡したものだった。いつも、外で出て行きたいと思っていた。世界を見たいと。ここで、ぬくぬくと守られて、何も知らないまま、世界をあこがれていた。なのに、今、外のできごとを知ったら、おじけづくばかり。何もできないのに腹が立つばかり。
……アルに八つ当たりしたようなものだわ。謝らなきゃ。
 でも、それから? 私に何ができる? 脅えているのは性に合わない。目標を決めて、走り出したい。自分で……決めなきゃ。

「むん」
 エルザは腕組みして、大きく息を吐いた。でも口を引き締めていたので、その決意の息は、鼻の穴を大きく開いて、むふっと出て来た。
「ふん。何よ。いつまでもびくついてるエルザさんじゃないことよ。見てなさい」
 丸屋根をすべり下りて、別館と本館をつなぐ切り立った屋根の上に立つ。幅は20センチ。長さは100mほど。明り取りの窓まで何も掴まるところがない。地上30mの平均台である。
 いつか渡ってみたいと思っていた。それなら、今日だっていいじゃない?渡りきれたら……きっと世界と対決する勇気だって出てくるはず。

 大きく深呼吸。両手をすっと左右に伸ばす。そうして、迷わず一歩を踏み出した。



「おや? お姫さんは?」
 いつの間にか、ジンが書類を手に、ヘリンボーンの組み木細工の書庫に帰って来ていた。アルはかなり長い間、呆然としていたらしい。
「えっ、あっ、探してくる!」
 走り出して行ったアルを、今度はジンがにやにやしながら見送った。
「まだまだ、若いねえ」



 幅は十分にあるはずなのに、目がくらむ。下を見ないようにしなきゃ。ペチコートでたっぷり膨らませたスカートが、船の帆のように風をはらんではためく。綱渡りに最適な服装とは言えないわね。でも、もう半分過ぎた。進むしかない。そっと足を運ぶ。
 集中して、一歩一歩歩きながら、エルザは頭の中で、お祈りのようにくり返していた。

 ……私に勇気を下さい。友人を救う勇気。自分の足で世界に踏み出す勇気。誰かを心の底から愛する勇気。その人のためなら何もかも捨ててもいい、と思えるほど、誰かを大切に思える勇気をください。

 あと少し。もう少しで……本館の出窓……そこから先はかなり幅広い張り出しがある……あと一歩……着いた!
 エルザが出窓の木枠に手をかけた途端、中庭で渦巻いたつむじ風がスカートをなぶった。
 手が木枠を離れる。バランスを失って……落ちる!


 思わず目をつぶったが、いつまでも衝撃が来ない。
 あれ?私、落ちている? 浮かんでいない?

 恐々目を開けると、エルザの顔をアルがのぞきこんでいた。中庭の上に放り出されたエルザの身体を、アルがしっかり抱きかかえている。アルも飛べるんだ……そうか、エクルーのお兄さんだものね? でも、アル、顔が赤くない?

「……」
「アル?あの……」
「……この……鉄砲玉!どういうつもりで、こんなバカなことしたんだ?自殺でもするつもりか?何もかも君の肩にかかっているんだぞ? 全部投げ出して、逃げるつもりか!?」
「あの・・・ごめんなさい」
 中庭にふわふわ浮いたまま、アルは言葉につまってエルザの肩に顔を埋めて隠してしまった。
「悪かった……追い詰めて。そんなにつらいなら……もう何もかも忘れていい。もう一度……記憶を封印してやるから」
 アルの声があまりに苦しそうで泣きそうだったので、エルザは慌てて言った。
「違うの。逃げたかったわけじゃないの。反対よ。立ち向かう勇気が欲しかっただけ。この屋根を渡り切れたら……決心がつく気がしたの!」
 一生懸命言ったのに、アルの肩が震えている。泣いているの? 私、そんなに心配かけちゃった?

 エルザの予想は間違っていた。アルはいきなり顔を上げると、また怒鳴った。
「バカじゃないのか!? もっと迷惑でない決心のつけ方はないのか? 縄跳びでも、おはじきでも! 二重飛びを5連続できたらOKとか、いくらでも縁起担ぎの方法があるだろう!」
 アルは顔を真っ赤にして怒っているのに、例えがあんまりおかしくて、気が抜けて、エルザは笑い出してしまった。
「何がおかしいんだ!」
「……アル、怒った! まだ怒るエネルギー、あるじゃない」
 毒気を抜かれてしまった。
「ということは、まだ、恋をするエネルギーも残っていそうね」
 負けた。何という……無敵のジャジャ馬姫。賢者の石も蹴散らしそうじゃないか。
「アル、ひとつ教えてあげるわ」
 2人でふわっと中庭に下りた時、エルザがにっこり笑った。
「私、二重飛びで50回飛べるのよ?」
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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