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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

『春日なる』              (ヴァル)

『再生の呪文』のつづき。
アル、惚れちゃってますねえ……べた惚れですよねえ。
……独身に戻ったら、タガがはずれたか? (非道い)



 ### ♭ ### ♭ ### ♭ ### ♭ ###





 アルは不機嫌だった。サクラとソウガが差し入れてくれた大福をパクついて、ジンが上機嫌なのと対照的だ。サクラは心配して、むっつりしたアルの側に寄るとそっと聞いてみた。
「あの……お邪魔でしたか?」
「え?」
「みなさんが”賢者の石 ” の謎を解くために根を詰めていらっしゃるから……せめて私にもできることを、と思ったんですが」
 サクラも石の子供の話は聞いている。大勢苦しんでいる人がいるのに、お菓子作りなんて遊び半分に思われただろうか?

「え?違う、違う」
 アルは慌てて言って、いつもの笑顔を見せた。
「俺も大福は好物なんだ。次は草餅作ろう。俺、ヨモギを見つけるの、うまいから」
 サクラはほっとして、自分も笑みをみせた。
「サクラ姫、心配しないでいい。そいつが不機嫌なのはエルザ姫のせいだ」
 上司のジンが暴露する。
「私のせい?」
 一同の視線が、改めてアルに注がれる。アルはガリガリと頭をかいた。
「その鉄砲玉のせいで、さっきは肝が冷えた。それだけだ」アルは湯飲みを置くと立ち上がった。
「塔に忘れ物した。取ってくる」
 そういい置いて、書庫を出て行ってしまった。
 サクラとエルザは顔を見合わせる。ジンはまた「若いねえ」とつぶやく。ソウガは「年甲斐のない」と反対の感想を言う。


 気に喰わない。まったくもって、気に喰わない。俺は石のために、カルミノに来たんだ。エルザ王女のムコ取り合戦なんて、潜り込むための口実に過ぎないはずだ。
 こうして、エルザは”石の番人 ” として覚醒したし、俺たちの事情を理解して協力してくれている。これ以上、望みようがないほど順調だ。なのに、どうしてこんなにいらつくんだろう。

 エルザ姫のせい……ジンがそう指摘した。そうだ。何もかも、あの能天気な姫のせいだ。
 ”石の番人 ” としての覚醒だけでも重荷だろうに、エイロネイアの政変、”石の子供 ” の話、”石の再生 ” 、何もかも矢継ぎ早に起こった。そして、レアシスの身体……。石を見つけて再生させることは、そのまま彼の命に関わっている。このすべてがエルザの肩にかかっているのだ。

 アルは大きなため息をついた。これ以上、重荷を増やしたくないのに。
 エルザの顔を見ていたらわかる。女の子のせいもあるのだろう。多分、これまで帝王教育なんか受けてこなかった。”賢者の石 ” から遠ざけるために、国政そのものにも興味を持たせないように守られて来たのだろう。それが、この3日間はショックの連続なはずだ。
 石のことだけじゃない。……結婚。この大園遊会のラストはエルザ姫の婚約なのだ。初恋もまだだろうに。ろくに知らない男のものになる。あんまりじゃないか。こんなばかばかしいお祭り騒ぎで、一生が決まってしまうなんて。でもあの姫なら、そんな風に決まった結婚相手でも、まっすぐに向き合って精一杯愛するんだろう。

”アルは結婚しないの? ”
 エルザの声が耳元に蘇った。胸がぎゅっと痛む。ずっとそんなこと、考えてみもしなかった。自分には人の一生を引き受ける覚悟なんかない。誰かを愛する資格なんかない。そう思って来たのに。
”アルが幸せになることが、アルを不幸にしたヤツらへの最高の復讐になるのよ ”
復讐なんかしなくていい。償いができればそれでいい。でも今……エルザ王女の婿候補に名乗り出る資格がない、と自分に言い聞かせるのが、どうしてこんなにつらいんだろう。


 アルは両手で顔を覆った。花が満開の、中庭の上空でエルザを抱きとめたとき……春が飛び込んで来たかと思った。すべてを背負って、それでも軽々と明るい笑顔を浮かべて……俺の腕に飛び込んで来た。まぶしくて、とてもまっすぐに見つめられない。


 そのとき、エルザの声が聞こえて来た。まったく、俺も取り付かれているな。どうしてこんなところにエルザが・・・まさか……。
 窓から身を乗り出したアルは、げんなりした。……まただよ、あのバカ姫。

 エルザは、地上約30mの切り立った屋根の上で両手を広げ、バランスを取っていた。その手には縄跳びのひも。目を閉じて、一心にお祈りらしき呪文を唱えている。
「……泉の守護聖人・聖イシュトさま、竈の守護聖人・聖ヘイデースさま、私に名前を下さった聖エリザベスさま、おばあさま、アナクシマンドロスさま」
 長々と連ねて来たらしい名前を唱え終わって、エルザは一息ついた。
「私に勇気をお与えください。怖気づいて、立ち向かう前に足がすくまないように、みんなを励まして、最良の結果を得られるように、自分の責任の重さに、つぶれてしまわないように。私は今まで大切に守られて来たの。世界の苦しみを何も知らずに、ひとり、夢の中にいたの。今度は私の番。私がみんなのために戦う番。夢から覚めて、夢を守るために闘うの。大事な友人たちの夢を。だから……今まで私を守ってくれた神様。今度は私の友人たちのために……力を貸してください」

 そう言って、エルザは屋根の上で二重跳びを始めた。
 エルザのお祈りの言葉に感動したアルにも、なぜここで縄跳びなのか理解できない。しかし、声をかけて集中力をそぐとバランスを崩しそうなので、息を詰めて見守るしかなかった。

「11!、12!、13!……」

 何回やる気だ。カルミノの神様は本当にこんな曲芸を喜ぶのか? 古代の闘牛や騎馬試合は、神様に捧げる儀式だと聞いたことはあるが……縄跳び?

「18!、19!、20!! やった! 神様ありがとう!」
 どうやら20が目標だったらしい。アルはほっとして息をつく。

 エルザはくるん、と向きを変えると、中庭の上で浮いているアルに手を振った。
「アル! 私できたの! きっと何もかもうまく行くわ!」
 そう言って、まっすぐにアルに向かって飛び込んで来た。

 スカートが風をはらんで広がった。青銀の髪が、天使の羽のように光に透けている。まっすぐに伸ばした腕と、明るい笑顔は、俺が受け止めることを信じて疑わなわないからだろう。どうしてこんなに、たった3日前に出会った人間に命を預けられるんだろう。どうしてたった3日前に出会った人間を、大切な友人と呼んで、そのためにこんなバカげた命がけの曲芸をしようなんて思えるんだろう。
 きっと、これまで大切に守られて、まっすぐに育って来たからなんだろうな。


 アルの腕の中に、ばふっと大輪の花が飛び込んで来た。背中に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。柔らかく息づいている。バニラとダージリン紅茶の香り。
 カルミノに、大賢人が作った人工太陽を探しに来た。でも、もうひとつ、大事な太陽を見つけた。この太陽に向かって、もう一度歩き出してみよう……自分の人生を。

 ひざと腰に手を添えて抱き上げると、エルザがごく自然に両腕をアルの首にまきつけてバランスを取った。屋根を越えて、湖が見えるまで高度を上げる。手入れの行き届いた瓦屋根。夕餉の支度に賑わう町。種まきの済んだ畑。深い森。
「きれいな国だね」
「ええ。大好き。大切な場所だわ」
 エルザは目を輝かせて、自分の国を見晴るかしている。こんなに無防備に抱きつくってことは、俺のことを男と見てないんだろうな、とアルはちょっとため息をつく。
「でも、シュアラも、エイロネイアも、イドラも、他のまだ見ていない国もきっときれいなんだと思う。いつかそんな国にも訪れて、カルミノと同じくらい大切に思えるようになりたい」
 そう言ってまっすぐに自分を見上げるので、アルはまたため息をついた。
「その決意のために、また屋根で何かやらかすのか?」
「え?」
「代わりに大人しく、礼拝堂でお祈りするわけにいかないのか?」
 エルザはしばらく首をひねっていた。
「それでもいいけど……」
「いいけど?」
「それじゃあ、つまらないじゃない?」
 アルはがっくりして、ため息をついた。

 まあ、いいや。あと数日は俺はここにいる。その間、王女様の安全ベルトになろう。
「アル、笑っているの?」
「いや、なかなか役得だな、と思って」



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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
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