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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.09│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

『織姫のお仕事 1』           (ヴァル)

イドラに来る前の、ちびエクルー物語。
エクルーを生んで身体を壊したサクヤが、シュアラの医療院で療養しているときのエピソードです。

実は、ここでいろんな人と出会っていた……。
後にカルミノやイドラで再会することになる。



 (行方不明の”もうひとりのお父さん”はこんなところに →   ☆
 

 ===== # ===== # ===== # ===== # ===== # =====


 きれいに掃き清められた白砂の上に、薄紅色の花の塊がほろほろと落ちてくる。そっと拾い上げると、花びらがしっとり冷たい。

 サクヤの肌みたいだ。サクヤの頬も、指も、いつもひんやり冷たい。触れると貝殻のようで心地よい。でも、いつも不安になる。温めてやりたくて、手で一生懸命包むけれど、ちっとも生き返らない。起こしたくないけれど、目を開いて欲しい。


 一時期は、身体を起こして話をしたり、一緒に中庭を散歩したりもしていたのに。もう3ヶ月くらいサクヤは眠ったままだ。そして、また身体が透けていたりする。こういう時、サクヤは”星の時空”に行ってしまっているのだ。普通の人にはわからないけれど、このシュアラの医療院では感応力のある神官が多いので最初はけっこう騒ぎになった。
『患者さんが、サクヤさんが、またいなくなっちゃった!』

 戻ってきたサクヤは、微笑みながら話してくれる。時間も場所も関係なく、いろんなところに跳んでいけるらしい。
「あなたのお父さんのね、故郷の森を見たわ。雪の中でね、カエデのシロップを集めて、大きなお鍋で煮てた。すごく甘い匂い。雪に上に煮詰めたシロップを垂らしてキャンデーを作っていたわよ」
 くすくす笑いながら、うれしそうに話す。
「あなたのお父さんね、いっつもズルして一番大きなキャンデーを取っちゃうの。でも端っこを割って私にくれたのよ?」
「俺の父親って、銀髪の方の?」
「そう。あなたの同じ名前、同じ銀髪の人。大きいエクルー、よ」
「もうひとりの父親っていつ来るのさ」
「そうねえ。そろそろ来ると思うんだけど」
 そんな会話を繰り返しながら、俺は期待せずに待っていた。いいんだ、もうもうひとりの父親なんか要らない。サクヤは俺が守る。

 竹を細く割いて編んだ籠に、拾った八重桜の花をそっと入れる。八重桜ってあんまり匂いがしないんだな。桜の幹から生えている、まだ赤い若葉をむしってみる。かすかに甘い香り。何枚か集める。これも花と一緒に入れてやろう。

 籠一杯の花を持って、白い布を廻らせた帷の中に潜り込むと、”これっ””この子はまたっ”と口々に叱責の声が上がった。
「いいんですよ。エクルー、今日は何を摘んできたの? まあ、名残の八重桜ね。いいわ、お湯に入れてあげなさい」
 おっとりとした婦長の声に促されて、薄紅の花を散らしていく。
「このまま20分、薬浴治療をするわ。エクルー、お湯が冷めないように見ていてあげてくれる?」
 そう言って、婦長は他の神官を連れて帷を出て行った。

「サクヤ、桜だよ。山桜も終わっちゃったから、八重桜だけど……かわいいだろ?」
 白い薄物の湯浴み着をつけて、サクヤは浅い浴槽の中で漂っていた。両手でサクヤの手のひらを支えて、お湯をすくう。
その手のひらに、八重桜の花を入れてやる。そっと手をお湯に下ろすと、ふわっと花が開く。水面から手を上げると、花がくたっとつぶれてしまう。
「ほら、開くよ?」
 そっと手をお湯に戻す。
「見えた?」
 サクヤは目を閉じたまま、微笑んだように見えた。
「若葉も入れたんだ。甘い匂いがするだろう? 桜餅みたいな匂い」
 お湯に漂っていた橘の花をすくい出して、サクヤの膝にのせる。薬浴治療は、その季節の薬効のある植物を何種類もお湯に浸して患者を入浴させる、シュアラ独自の療法だ。薬草の組み合わせには1000年以上の伝統がある。エクルーはそのレシピに、いつも独自のアレンジを加えるので、神官たちに叱られていた。
「ねえ、今はどこにいる? 何を見てるの? ……いつ、帰ってくる?」
 サクヤは黙って微笑んでいる。俺の眼には、そのままお湯に溶けてしまいそうにみえる。本当に帰ってくるんだろうか?

 前に、婦長が説明してくれた。サクヤは俺を生むとき、かなりムリをしたらしい。
『身体にムリをしたというより……ちょっとずるい手を使っちゃったのね、お母さんは』
『ずるい手?』
『”宇宙の理”ってやつをちょっと曲げちゃったの』
 サクヤはもともと”星の時空”にアクセスして、未来を読む”星読みの司”だった。俺の父親が死んだとき、その魂をつなぎ止めようと、そのずるい手を使ったらしい。
『どんな手を使ったんだろう?』
『うーん、サクヤは星の端っこをちょっとちぎって丸めて、あなたを作ったんだと笑っていたけど……』
 この婦長もサクヤも、いつもおっとり微笑んでいる人で、どこまで本気なのかよくわからない。
『だからね、サクヤは多分、時々罰当番をさせたれているのよ。天の川の横の白砂を、竹箒で掃いているのかもしれないわ。あるいは、天の川のほころびを直す銀糸の織物を100本織り上げるまで帰しません、とか言われたのかもねえ』
 まったく、俺が子供だからって。そんなおとぎ話ばっかり。この婦長さんはシュアラではかなりえらい人らしいんだけど。時々、”猊下”なんて呼ばれているし、薬草寮があるお社のの宮司らしい。でも、毎日サクヤのところに顔を出して、俺にいろいろ話しかけてくれるので、俺にとってはグラン・マって感じなのだ。周りに他の神官がいないときは、本当の名前を呼んでいい、と言ってくれた。
『秘密の名前だから、他の人には言っちゃだめよ? トヨ、というの』
『うん、内緒の名前だね』
『そうよ、忘れないで』
 めったに2人きりになれないのでなかなかその名前は呼べなかったが、秘密を知っているのがうれしくて、俺は時々、婦長と目を見合わせてくすくす笑ったものだ。
「ねえ、サクヤ、今どこ? ちょろちょろ遊びにいってないで、マジメに罰当番を片付けちゃいなよ。そうして、帰っておいでよ」


 軽い足音が近づいてきた。ひょいっとくるくる波打つ銀髪に包まれた頭をかがめて、スオミが帷に入ってきた。
「スオミ! どうしたの? 大学は?」
「もう論文は提出しちゃった。お借りしていた本を、資料庫に返しに来たのよ」
 スオミは医者の卵だ。この初夏にエイロネイアの医大を卒業する予定だ。浴槽の横にひざまづいて、サクヤの顔をのぞき込んだ。
「顔色はいいのね。ただ、どこかに飛んでいって帰ってきてくれないのね」
 スオミはため息をついた。5歳で父親を教団に殺された後、スオミはイドラで育った。ミヅチやメドゥーラ、サクヤや”大きいエクルー”が親代わりだった。そして、12歳から16歳まで4年間、シュアラでスオミに教育を受けさせたのが、エクルーの”もうひとりの父親”、キジローだった。そういう縁で、スオミは俺にとって姉のような存在なのだ。
 キジローは、生前の”大きいエクルー”と親友だったらしい。一緒に教団を追いながら、どっちか死んだら残った方がお互いの家族を面倒みる、と約束したらしい。……というわけで、もうひとりの父親なのだ。会ったこともないけど。

 スオミは手をお湯に浸して、サクヤの手を取った。
「サクヤ、どこにいるの? また”大きなエクルー”とデートしているの? でも、小っちゃなエクルーがここで待っているのよ?帰ってきて。帰ってきて、一緒にキジロー父さんを探して?」
 スオミが16でエイロネイアに留学して以来、キジローはまた放浪の旅を続けるようになった。教団の残党を追って、何度か、エイロネイアにスオミを訪ねて来たこともあったが、もうまる1年音信不通だった。

 死んじゃったんだろうか? ”大きなエクルー”みたいに、教団に殺されちゃったんだろうか?
 いつも浮かぶその疑問を、エクルーはスオミにもサクヤにもぶつけたことはない。でも、早く大きくなって2人は俺が守らなきゃ、と静かに考えていた。早く強くなって、賢くなって、大切な人を守れるようになりたい。
 子供なんかいやだ。7歳の誕生日を越してから、スオミとそっくりだった銀髪の色がだんだんくすんで、灰色っぽくなってきた。
トヨは”大人になった証拠かもね”とからかうけど、髪なんかどうでもいい。大人の男になりたいんだ。そういうと、トヨはちょっとマジメな顔でたしなめたっけ。
”子供には子供の仕事があるのよ? それを全部済ませないと、大人になれないの”
 そのくせ、”子供の仕事”が何なのか、教えてくれない。ずるいんだ、大人なんか。







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*COMMENT-コメント-
▽るーちゃあああ!
既に余裕で息が止められるんですが…
スオミ姉さん、頑張れ!
切ないけど頑張れ!

ちょっと思ったけど、小説は記事にタイトルだけ書いて、追記に載せた方があとで一覧みたいに見やすいかも?
記事を書くのちょっと下にある「続きを書く」というところをクリックすると、追記が可能になります。
▽お、できた♪
(つづきはこちら)のやり方がわからなかったんですよー、ありがとう♪

 ところで、なぜ息を止めるの?? 
▽とよさん^^v
かわいいなあエクルー。
七歳だったら桜が三歳蒼牙が四歳くらいかなあ…。まだあどけなきころだ…泣
医療院でちび桜とるーちゃ会ったりしていたのかも。
「おにいちゃまのぎんのかみ、とってもきれい」
とかなんとかv
▽そんな静かな切迫感
何というか、止めて読んでしまう?
ついでに拳を握って?(そんな静かな切迫感)

キジローさんが一年間、音信不通になった理由とかあるのかな? ちょっと昔のエイロネイア編を書いてみたいかも…(お前、いくつネタを出す気だ)
▽ボヤッキーの失踪
キジローさんが音信普通になった理由…それは、そのうち明らかになるのかな…?
(まだ考えていません、すみません)
▽私のオッサン萌えの原点
さて、このブログのサブタイトル ”みんなで幸せになろうよ” は、特車二課第二小隊隊長後藤さんの名言です。どこの後藤さんかって? 『機動警察パトレイバー』の後藤さんです。
…すみません。
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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