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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『織姫のお仕事2』            (ヴァル)

 ・・・何だかリレー小説っぽいな。
 小春ちゃんのコメントやイラストに触発されて、こんなエピソードを入れてしまった。蒼牙、妬かないでね~。

 でも、妙に相性いいよね、この2人。


 (小春画伯によるチビるーさくのイラストは →   こちら
 


 *** + *** + *** + *** + *** + *** + *** + ***
エクルーは、夏椿の木のてっぺんにいた。むう、やっぱりまだ早いか。白い珠のようなつぼみは、もうほころびそうなのに。
「お兄ちゃん、何してるんですかあ?」
 小さな女の子が、めざとくエクルーを見つけて下から呼びかける。濡れたようなもともと大きな黒い瞳をまん丸に見開いて、一生懸命見上げている様子がいじらしい。エクルーはすたん、と少女のすぐ横に下りた。少女は怖がる様子もなく、感心して見つめている。
「桜、またそんな薄着で庭に出て。風邪ひいたら、お外に出られなくなるぞ?」
 エクルーはため息をついて自分の上着を脱ぐと、少女に着せてやった。袖をまくり上げて、前のボタンを止めてやる。すそが少女の膝まで届いた。この間、3つになったと言っていたけど、それにしても小柄で華奢な身体つきだ。顔色もいつも透き通るように白い。それで、つい世話を焼いてしまう。
「ふわ。あったかいです。ありがとうございます」
 いつも妙に言葉遣いが律儀なんだよな。薬草寮の裏に広がる標野(宮廷が管理している貴重な薬草の生える林野)で出会うから、社か役人の子供なのだろうが、いつも自分ちの裏庭にいるような軽装で現れる。まるで、ここに住んででもいるようだ。
「お兄ちゃん、沙羅の樹のお花が欲しいの?」
「沙羅の樹?」
「うん。これ、沙羅の樹っていうのよ? でも、本当の沙羅の樹は別にあるんですってめのとが言っていました」
「ふうん」
 めのと……乳母のことか。乳母がいるってことはやっぱりけっこういいおうちのお嬢さんなんだな、この子。
「沙羅双樹というの。いま、お花がいっぱい咲いているの。いい匂いなのですよ」
 一生懸命、説明している。
「本当? いい匂い?」
「うん。まるで、茉莉花みたいないい匂い」
 エクルーは興味を引かれた。サクヤは夏椿が大好きだけど、いい匂いの花なら違う樹でも喜んでくれるかもしれない。
「どんな花? どこにあるか知ってる?」
  
 桜があっというように、慌てて両手で自分の口を押さえた。まゆが八の字になっている。
「入っちゃいけないところなの?」
 エクルーがたずねる。それを言ったら、本当はこの庭だって禁域だ。
「ええと……」
 桜が困っている。
「ええと……ごめんなさい。花が咲いている間は、沙羅女がいるからってトヨが……」
「しゃらめ?」
「樹の精なんですって。髪が長くて、薄い白い衣を着て、いい匂いの花が好きなの。トヨに邪魔しないようにって言われているから…」
「トヨなら僕もともだちだよ。その樹の精を脅かしたりしない。だから、その樹に連れて行ってよ」
 桜は悩んでいるようだった。
「でも遠いのです。お馬がいるの」
「大丈夫。僕が連れて行ってあげる」
 そう言って少女をふわっと抱き上げた。軽い。ちょっと大きめの猫くらいの重さしかない。
「多分、その樹の精、僕が探してる人だ。その樹の場所を思い出して?」
 桜が一生懸命思い出していると、エクルーが目を閉じて自分のおでこを桜のおでこにくっつけた。
「んー……あ、見えた。谷を下りて南の斜面……金色の塔があるとこだね?」
 
 身体がふわあっと浮き上がった。もう、夏椿の梢を見下ろしている。あ、薬草寮の瓦屋根。あ、医療院も見えた。ふわあ、すごいすごい。
「お兄ちゃん、やっぱりお星様から下りて来た人なの?」
 桜が目をまん丸にして、自分を抱っこしている少年を見上げる。
「うん。でも、もうその星は無くなっちゃったんだ」
「……なくなっちゃったの?」
「僕と、沙羅ともう2人だけ……あ、スオミ姉さんも。その星の生き残りなんだ」
「ああ、だから飛べるのね?」
 桜は少女らしく、とんでもないことをいとも簡単に納得した。
「うん。小さい沙羅を抱っこして、よくこんな風に飛んだ。沙羅はいい匂いの花と鳥を見るのが好きで……いつもこんな風に……」
 話しながら、エクルーの視線が遠い風景に像を結んだ。

 そうだ。よくこんな風に飛んだ。あの頃、沙羅は小さくてやせてて、笑わない女の子だった。俺は沙羅を笑わせようと必死で……
手当たり次第にいろんなものを持ち込んだ。花、貝殻、小さな動物、木の実…・・・。ずっと大事にしてた。ずっと守りたかった。いつも俺だけが傍にいたかったんだ……。


「……お兄ちゃん、泣いているの?」
 桜が心配そうに、見上げている。本当だ。頬が濡れてる。桜がぶかぶかの上着の袖でいっしょうけんめい拭いている。
「うん、大丈夫。大事なことを思い出したんだ。だからだよ」
「お兄ちゃん、髪が…・・・」
 風になぶられた前髪を目の端で見上げる。もう銀髪じゃない。黒髪だ。これが、しるし、なんだな。俺はもう銀髪のエクルーじゃない。もう沙羅は俺だけのものじゃない。きっと、そういうしるし。
「もう、お星様の色じゃなくなっちゃったね」
 桜がいつもそう言って、エクルーの髪をほめてくれたのだ。小さい沙羅みたいに。
「でもいいの。お兄ちゃんはまだ、きれいな星をふたっつ持っているもの」
「ふたつ?」
「うん。金色のお目めです。黒い髪が夜のお空。お目めは、いちばんぼしとにばんぼしです」
 桜がにっこり笑う。エクルーはまた泣きそうになって、こっそりそっぽを向いて塔を探す振りをした。


 ふわっと甘い香りが漂ってきた。
「あっ、この匂いです。あの真っ白に見える樹です」
 桜が見つけて、手を叩いた。まだ浅い新緑と春紅葉に囲まれたしっとりした仏閣の庭。シュアラに寺は珍しい。金色の仏舎利塔が午後の光を受けて輝いている。
「ふわあ、沙羅双樹のお花を近くでみるのは初めてです。いつも高い高い樹のてっぺんから降ってくるの」
 ゆっくりと梢の周りを巡る。
「いちばんきれいな花を一枝、摘んでくれる?」
 桜はちょっと戸惑った。それから、小さな両手をきちんと合わせてぺこりと頭を下げた。
「お花ください。沙羅女が起きるのに大事なのです」
 そうして、花をこぼさないように、小さな白い花がたくさんついた緑の枝を1本折ると、両手でしっかり持った。
「ありがとう。下りるよ? 沙羅を起こそう」

 きれいに掃き清められた庭にしゃりっと降り立った。そっと下ろしたけれど、桜はちょっと目が回っているみたいだ。
「ちょっと待ってな」
 蕗の葉を1枚取って、丸めてコップを作った。それで清水を汲んで、桜にゆっくり飲ませた。
「大丈夫?」
「はい。いい匂いです。葉っぱのコップも、沙羅双樹の花も、楠の樹の香りも。酔っ払ったみたいです」
 確かにこの庭は緑の性が強い。やっぱりこういうとこも、この子はサクヤと似てる。

「あ」
 桜が小さな声を上げた。
 新緑を透かして、庭に光の網目模様がゆれている。その光の帳をぬうように、白い影が歩いている。花と緑の香りを楽しみながら、うっとりした表情で漂っている。
「沙羅女です」
 桜がそっと、エクルーに教えた。
 腰まで届く艶やかな黒髪をゆらして、ふっと梢を見上げたり、樹の幹の温かさを確かめたり。風が吹いて、花の香りが立つ度に、胸をそらして目を閉じる。香りを胸いっぱいに吸い込んでいる。白い姿は、うすくなったり鮮明になったりする。完全にこの時空にいるわけでもなさそうだ。ふうっと消えたかと思うと、ちょっと心配そうな顔で戻ってきて、また白い蝶をみつけて微笑んだりする。
「お兄ちゃんのお母さんなの?」
 桜が小声で聞く。
「うん。お母さんで、姉さんで、かわいい妹で、恋人なんだ」
「ふうん。だいじなひと、なのですね」

 何だ、こんなとこでのん気に散歩してたのか。じゃあ、心配することないや。思う存分緑を楽しんだら、俺のとこに帰ってきてくれるだろう。

 アオスジアゲハがきびきびした飛び方で、白い影の周りをかすめた。沙羅はちょっと驚いた風に微笑んで、蝶を追って振り返った。
 目が合った。
「サクヤ」
 見つかっちゃった、という風にふわっと笑った。
「エクルー」
 そうして、消えた。

「あ」
 桜が悲しそうな声を出した。
「大丈夫。起きたんだよ。桜のおかげで捕まえられた。迎えに行ってみる」
「本当?」
「うん、本当。今度、会いに来る? トヨに聞いてごらん」
 桜の顔がぱっと明るくなる。
「はい、行きます。トヨと行きます」
 それから、くしゅん、と小さなくしゃみをした。
「日が傾いてきたな。帰ろう」
「ええ。また、飛ぶのですか?」
「飛ぶと寒いから、今度は蝶についていくってどう?」
 そう言いながら、抱っこする。
「はい。ちょうちょみたいに、ついつい、と飛びましょう」
 ふわっと笑う桜の顔を、間近でじっと見つめる。桜は目をちょっと見開いて、小首をかしげた。
「桜。ありがとう。おかげで、また沙羅に会えた」
「はい。よかったです。わたしもうれしい」
 子供らしくない落ち着いた声で言う。それから、ちょっと心配そうな声を出した。
「また、会えますよね?」
「うん。きっと、また会える」

 アオスジアゲハを追ってついっと楠の樹の梢に入ったと思ったら、次の瞬間、桜はひとりでいつもの庭にいた。きょろきょろしたけど、もうお兄ちゃんはいない。沙羅に会いにいったのね。
 桜は、何度も折り返してくしゃくしゃになった上着の袖に顔を埋めて、くすくす笑った。
 沙羅女の恋人に会っちゃった。めのとに話してあげよう。驚くかしら。でも金色の塔を上から見たことは内緒。お兄ちゃんと私だけの内緒。







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*COMMENT-コメント-
▽ふたりのひみつ
なんだかくすぐったくて、ちょっぴり切ないお話でした…。
ふふふv桜と蒼牙が出会うのは、それぞれ7歳と8歳になってからなのです。とりあえずあきらにひっついてちまちま歩いてることでしょう(笑)
だから、るーちゃが最初の王子様…///♪
相性が合うって言っていただけて嬉しいです(>_<)
またあえるよね、おにいちゃまーっ!!

桜を可愛らしく書いてくださってありがとうございました^^
とてもとても幸せです。

それではノシ
▽最初の王子様♪
よかった……喜んでもらえて。
相性がいいというか……桜の言動は、いつもなぜかエクルーの深いところに触れるんですよね。
自分でも気付かなかった、隠していた心の扉が次々開いてしまう……そんな感じなのです。
かわゆいファム・ファタルなのだわ~。

ところで、沙羅女(しゃらめ)の恋人は沙羅男(しゃらお)なのか? とか考えて、ひとりでぷっと笑ってしまいました、まる
▽くくく…
あら、蒼牙くんをいじれるネタが増えたとかどSな発想が浮かんでいるのは私だけか?(笑)

それはともかく。
るーちゃ、思い出したのね…。
良かったのかな? うん、きっと良かったんだ。
そう思う。

しゃらお…ぷぷぷw
▽しゃらお…
一瞬、「チャラオ」と読み間違えて、
ひとりで噴き出しました。(いま思い出せばどうやったら間違えるんだ…?)
▽それは正しい…
”しゃらお”がるーちゃんを指しているんだったら、”チャラオ”でも間違っていないのかも。
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