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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『Front breaking』伍

お待たせしました。
ようやく終結。

いろいろと不都合があるかもしれない。
これは無理だよ~、っていうところがあったら言ってください。orz

桜ちゃん、お疲れ様でした。

====================


 真綿の降る曇天が裂けた。
 初春の弱弱しい太陽が重たい雲の合間から差し込んで、厚く積もった雪をゆっくりと溶かしていく。
 底冷えた空気の中、隙間の日向を自然と歩いてしまう。人間は向日葵みたいなもので、潜在的に明るい場所を歩きたがるものなのかもしれない。心にどれだけの決意を秘めていても、夜闇だけでは病気になってしまう。逆も然り。
 昼と夜を創りたもうた神は、そういう意味では偉大だったのだろう。
 着慣れた単と、鼻緒の擦り切れそうな古い草履でさくさくと雪を踏みながら、そんなことを考える。
 擦れ違う人間が、少し奇異の目でカノンを見る。兵服でないのがそれ程珍しいのだろうか。
 飾り気はないが、大きな門構えの屋敷の前でぴたりと止まる。後宮を守る兵士が見逃してくれたのは、偏に日頃の行いだろう。人徳、人徳。
「こんにちは」
「……まあ、貴方」
 門前の雪を竹箒で払っている吉野に声をかけると、何とも詰まった声が返ってきた。
「貴方、今は謹慎中ではありませんの?」
「うん。だから一般市民。まさか巫女姫様の屋敷が、一介の客人を追い返したりしないでしょう?」
「……」
 吉野の目の中に疑念と疑惑の色が浮かんでいる。まあ、無理はないと思う。いくら女でもカノンは物騒な兵士であることに変わりない。
「姫様を救って頂けたのは感謝しているけれど……貴方、何を」
 喧々とした言葉を言い切るより先に、カノンの鼻先を、ヒトガタの薄い紙が滑っていった。馴れているのがぱしり、と手で受け止めた吉野は、その式に目を走らせて大仰に白い溜め息を吐く。
「わかりました。……中へどうぞ」


 相変わらず、冷たい廊下は寂しかった。小綺麗に整えられた庭と、よく磨かれた床の間と。拝借した台所は細々とした灯が入っているだけで、どこか寂しい印象を抱くのは同じだった。
 障子が外を拒絶するようにぴたり、と締め切られている。曇天から差し込む陽光も、障子に遮られたまま。
 膝をついて開けようかと思った。だが、自分の背中に陽光が当たっていることに気が付いて、やめた。
 ぱすん、と障子を開くと、白床の上に座った彼女の肩が小さく震えた。見るだに身体が強張っている。
「元気?」
「ふぇっ?」
 わざと高い声を出すと、桜は肩を強張らせたまま、ぱちくりとカノンを見た。
「こんちわ」
「あ、え、あの……こ、こんにちゃ」
 言おうとして慌てて噛んでしまったらしい。途端に口元を抑えて、真っ赤になって俯いてしまった。
 ――何だ、普通に感じる心あるんじゃん。この子。
「熱出した、って聞いたけど。大丈夫?」
「は、はい、おかげさまで……。熱は下がりました。……先日はありが、……あ、あの?」
 聞くなり障子を開け放したまま、床の脇に手にしていた膳を置くカノンに桜は戸惑いながら声を絞り出した。少し冷えた空気に気が付いて、カノンは自分が羽織ってきた襦袢を桜の肩にかけた。
「あ、あの……」
「せっかく晴れたのに閉め切ってばっかりじゃあ、逆に具合悪くなるわよ。あ、卵粥嫌い? 生姜と青葱は?」
「え、あ、平気、です……。けど、あの、吉野は?」
「何か主上からのご用事だって言ってたよ? はい」
「え……」
 薄く粥が盛られた木の杓を、口元まで突き出されて、桜は今度は本当に固まった。
「ご飯食べてない、って聞いたけど。気持ち悪い?」
「そ、そうではなくて……あの、その」
「ごめんね、あたしが作ったヤツで。美味しいか、わからないけど」
 その一言に、桜はしげしげと杓の上で湯気を立てる卵を見た。数回瞬きをして、首を傾げる。
「あなた、がつくった、んですか?」
「あ、やっぱり駄目だった?」
 今度は勢いよく首を振る。じ、っと杓の粥を見て、まだ戸惑ってから、彼女は意を決したように口を開ける。
「ん、む……」
「おいしい?」
「……おいしい」
「良かった。はい」
 答えを聞いてほっと胸を撫で下ろして、カノンは2口目を器の中から掬って、小さい口元まで運んでいく。桜はもう一度ぶんぶん首を振って、
「い、いいえ、あの、自分で……」
「病人は寝てるのが普通よ。いいから、はい」
「……」
 それからゆっくり器の中は空になっていった。最初はおそるおそる、段々と馴れてきたのか最後の一口を食べ終えたときは自然と息が漏れた。
「はい、お疲れ様」
「……」
 最後に薬の入った湯呑みを手渡して、カノンは膳を脇へと押しやった。桜は湯呑みの中の薄緑色をぼんやりと眺めながら、ほんの僅かに顔をしかめる。
「あの、て、てんら、ちゃま?」
「うち、武家にばっちゃまいるんだ。解りづらいから華音でいいよ」
「あ、ええと、か、かのんちゃま」
「何?」
 桜は大分迷った後、唇をへの字に曲げた。ゆっくりとこくこく首を動かしながら、迷ったり、戸惑ったりを繰り返す。
「……ごめんなさい」
「何で?」
「……あきらちゃま、から、きんしんしょぶんになった、って……。わたしのこと、助けたから……」
「うーん、どっちかっていうと兵士を2、3人ノした挙句の命令違反だったからじゃないかな?」
「でも……、わたしのせい……」
 肩を落としながら呟く。その反応にむう、とカノンの頬が膨れた。
「えい」
「はにゃっ!?」
 カノンの両手が桜の青白いほっぺたを両側に優しくつねった。驚いた表情で妙な声を出す桜が、何だか急に人間になったように見えて、少しおかしかった。
「あんた、誰かを助けるときにいちいちものを考えるの? 走ってくる牛車の前に子供がいたらどうするの? 突き飛ばしてでも助けようとしないの?」
 ぶんぶん。
「それで自分が怪我したからって、その子供のことを怨んだり、憎んだりするの?」
 ぶんぶん。
「じゃあ、いいじゃない。あたしだってあんたを嫌ったり、怨んだりしないわ」
 ぱっ、と手を離しても、まだ桜は驚いた表情でカノンを見上げていた。
「かのん、ちゃま、は……」
「ん?」
「……なんでもない、です」
 ふるふると、今度はゆっくりと首を振って、桜はもう一口薬湯を飲み込んだ。カノンが膳を片付けている間、何かぼんやりとした目で天井を眺めて、繰り返し息を吐く。
「かのんちゃまは、どうして、ここに……」
「あんたと話をしに来たのよ」
「おはなし……?」
「あたしたち、まだ全然おしゃべりしてないじゃない。お互いの階級と名前を知っただけだわ。それはお話、って言わないのよ」
「……なんの、ために?」
「桜と仲良くなりたいから」
 たぷん、と湯飲みの中身が震えた。
「おかしいかもしれないけど。
 あたし、護衛官には向いてないの。誰かを守りなさい、って言われて、その為に他の誰かを見捨てなさい、って言われたりしたらきっと出来ない。桜も、その他の誰かも守ろうとしちゃう」
「……」
「だから、あんたと友達になりに来たの」
「とも……だち?」
 こくり、と首を傾げた桜に、カノンは笑って頷いた。
「だって、友達だったら危ないときに助けるのは当たり前のことじゃない。あたしは桜と友達になりたい」
「……」
 桜はしばらくの間、無反応だった。ほんの僅かに唇を開いたまま、呆けてじっとカノンの顔と湯飲みの中身とを見比べている。ふるふると首を振って、けれど度々小さく頷いている。
 椿のような首の動きではなかった。小さな子供が、勇気を振り絞ってこくこくと首を傾けているような。
「わた、しも、自分が守られたから、だれか、ケガをするのは……いやです」
「……」
「かのんちゃまは、わたしには命令するぎむがある、って言ってくれたけど……。りっぱな、こうぞくにはなれない。そんな、めいれい、いやです……。だから、えっと、あの、その……」
 ぱくぱくと、唇がからぶって息だけを紡ぐ。カノンは膳から手を離して、じっ、とそれを待っていた。
 しかし、

 ぱたぱたぱたっ

 障子の向こうから駆けてくる、摺り足の音が桜の言葉を掻き消した。
「姫様」
「よしの……?」
「主上と春宮が、見舞いにと……お見えになられました」


 大分、緩やかになった冬の空気にカノンを背伸びをする。どこか遠くで鳶が返事をした。
 振り返ると開け放たれた障子の向こうに、3つの影が見える。表情まではわからないけれど、差し込んでいる夏の木漏れ日のような陽光を、今は信じることにしよう。
 枯れ松の下で同じ日の光を浴びながら、ふと気がついて懐に手を入れると、固い感触があった。
「……」
 のしに覆われたままの冷たい懐刀が、掌の中にあった。
 カノンはしばらく考えた後、

 ぱきんっ。

 薄氷の張った池へ、無造作に投げ捨てた。割れた氷の合間から、濡れた刀の影がぷくぷくと深くまで沈んでいく。
 それを見て、カノンは満足そうに息を吐く。
 枯れ松に積もった厚い雪が、曇天を裂いた光にやんわりと溶け始めていた。



「かのんちゃま!」
「ん?」
「あ、あの、あのね、わたしも、かのんちゃまとね……」





========================================

『Front breaking』/林原めぐみ youtube→


ゆるぎのない その瞳
見据えている先で
あきれるほどの憤り
渦巻いていても

何度だって何度でも
人は立ち上がれる
生き与えられた命
とことん使って

手のひらで燃える熱い炎は
心の奥の奥で
誰もが持ってる 力

遠い未来への迷いよりも
今、目の前にある現実
一つ一つ砕いたなら
ただの砂に変わる
なりふりかまっちゃいられない
正面突破で行こう

眠る間もなくいきづく
傾いた世界で
心の使い方すら
戸惑う日もある

くり返し、くり返される
マニュアルめいた返答(こたえ)
あきらめ上手のふりして
何を見ているの

本当は言われなくても知ってる
上手な言い訳ほど
意味を持たないことを

遠い過去はもう悔やまず行こう
今、目の前にある景色を
一つ一つ受け止めよう
痛みをになっても
たとえ世界が滅んだって
私はあなたを選ぶ

遠い未来への迷いよりも
今、目の前にある現実
一つ一つ砕いたなら
ただの砂に変わる
なりふりかまっちゃいられない
正面突破で行こう
災い転じて粘り勝ち
最後の最後まで行こう


========================================


『Front breaking』FIN
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*COMMENT-コメント-
▽お疲れさまでしたっ
まずは、カノンちゃんありがとう!
手を伸ばしたシーン、くったくなく笑いかけてくれたシーンどれも涙がこぼれました。
そして五話に渡る大作を手掛けてくださった香月さんに心からの感謝を^^!
自分の子ではないキャラを動かすのはとても難しいものだとおもいます。それでも最初から最後まで違和感のないストーリーでした!素敵な書き手さんに会えてらーちゃ達も私も幸せです。

らーちゃだけじゃなくゆっきーもせっちゃんにも雪解けが訪れてよかった!
▽かのんちゃまっ
ちび桜ちゃんのいじらしさに悶絶。
頼もしいお姉ちゃんができて良かったね。
まさに百万の味方。
立場とか責任とかで身動きできなくなって人形になっちゃってた桜ちゃん。そんなもの吹っ飛ばして、一番欲しいものを掴む力をカノンにもらったらいいよ。
でも、まず何より、笑い方を教えてもらってね。
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