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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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【露癒の祀】伍  (香月)

蓮が暴走気味なのか、華音が暴走気味なのか…おそらく両方。
敵方を書いてるのが際限なく楽しい第伍話です。


=======================================
 

 ……きんっ

「っ!」
 遠くで響く澄んだ金属音が、華音の意識を水底から引き戻した。
 跳ね起きた瞬間に、きりきりとした痛みが心臓の辺りに走る。ざわざわと肌が泡立って、震えのような感覚が脳天から爪先までを駆け抜けていった。
「蓮……っ!?」
 視界を巡らせると、そこは何度か泊まった覚えもある砂領家の最も奥にある床の間だった。樫の木の柱が剥き出している小さな客室。おおよそ丁寧とは言い難いが、敷布が敷かれ、横たわっていた華音の身体には、何かから守るように分厚い毛布が被せられていた。

 きんッ!

「!」
 今度ははっきりと、締め切られた窓の外側から、軍人としての耳に聞き慣れた音が響いた。
 転がされていた片刃の刀と、大刃の刀鎌をやや荒々しく掴んで力任せに閉じられていた障子を開けようとする。
「な……ッ!」
 すぐに開くと思っていた障子は、しかし、華音の意思に抗ってがくんっ、と固くつっかえて開かなかった。鍵のかかる戸ではないから、外側から何かのつっかかるものでも立てられているのかもしれない。
「あんの、馬鹿あああああっ!!」
 叫んで華音はすぐに窓へ向かった。がたん、と木戸の覆いを外すと、細い月の光が差す天窓が現れる。だが、
「く……っ」
 知っていてわざとこの部屋を選んだのか、錆ついていてなかなか素直に開いてくれない。その内に、もう一度、今度は一際高く、鈍く、ぎんっ! と耳障りな金属音が耳を貫いた。
 ――あの馬鹿野郎……っ!
 何があったのかはわからない。だが、華音の外れたことのない頭の警鐘ががんがん、と鳴り響く。
 迂闊に眠り込んだ自分に酷く腹が立った。
「く……っ!」
 窓枠に爪を立てるが、錆ついた窓は動かない。舌打ちをして華音は刀を抜いた。

 ぎん……っ!

 鋭利な銀の刃を、窓枠の隙間に突き立てる。
 鈍い手応えが、じんじんと手のひらに伝わってきた。
 ――後で覚えておきなさいよ……っ、あの阿呆んだら……っ!


「蓮――っ!?」
 華音が竹林を駆け抜けたとき、最初に目に入ったのは、左肩を抑えて膝をつく蓮の姿だった。慌てて駆け寄ろうとすると、彼は唇を噛み締めながら顔を上げる。
「来るなっ!」
「来るな、って――っ!」
 思わず、怒鳴り返そうとした。そのときだ。
 上げた視線、細い三日月を背に――
「・・・!」
 荒い風に棚引く黒の法衣、顔に巻きつけた布切れの合間から除く、ぎらりとした瞳、両袖に下げた滑り光る片刃の刀。目に映ったその姿に、声を上げかけた華音の喉が凍りつく。
 頭の中で鳴り響いていた予感のような鐘の音が、荒々しい警告そのものに変わる。
 知っている。この光景を、華音の頭の片隅に追いやっていたはずの風景が。この光景を、華音は確かに知っていた。
 雪の花、散る花弁、異様なくらい晴れた空、湿った水の匂い――
 そして――

 鮮やかに、流れる血に染まった、舞い上がる雪――。

「――お前は、」
 呆然と、竹の葉の中に佇む男を見つめていた華音は、男が漏らした一言に我に返る。見ると男も右の手で静かに脇腹を抑えている。黒衣の裾から、だらだらと黒い体液が袖を伝って落ちていた。
 華音が刃を構えた。だが、男は静かな反応さえ返さずに彼女の眼を見返すと、そのまま音も無く飛び退った。
 ざわり、と蠢く竹林が、踵を返した男の姿を容易く隠してしまう。
「待ちなさ……っ!」
 思わず追いかけた華音だが、唇を噛みながら足を止める。腕を抑えたまま立ち上がる蓮に慌てて駆け寄ると、彼は眉間に皺を寄せて、静止する。だが、華音はその声も聞かずに彼の腕を取った。
「……利き腕じゃない。浅い傷だ。大したことは、」
「馬鹿言わないで! 刃に毒でも塗られてたらどうするのよ!」
 変わらぬ声で馬鹿を言い出す蓮を怒鳴りつける。袖を掴んだ指に力を籠めると、ようやく彼は諦めたように刀を収めた。


「――はい、これでもう大丈夫ですよ」
 包帯の裾を結んで、貴景は緊張を解すように微笑んだ。安堵の息を漏らした華音とは対照的に、厚い包帯を巻かれた本人は苦い顔でそれを見つめていた。
「どこかまだ痛みますか? 蓮くん」
「いえ……ありがとうございます」
 血を拭った布を、消毒液の中に落としながら小首を傾げる貴景に、蓮は硬い声で頭を下げた。するり、と包帯を巻いた腕を隠すように着物の袖を落とす。顔をしかめて華音が彼の逆の腕を叩いた。
「駄目ですよ、蓮くん。あまり華音さんを心配させては」
「はあ、まあ……。いつも逆、という気がしなくも」
 べしっ。
 今度は音が出るほどの力で叩かれた。小さく貴景が笑い声を上げる。
「それは確かにそうかもしれませんね」
「貴景先生! 笑い事じゃあないです!」
「まあまあ、華音さん。真夜中ですから、少々落ち着きましょうね」
 窘められて、華音は慌てて両手で自分の口を塞いだ。緊急で行燈の明かりだけが灯された診療室と、寝間着姿のまま、白衣を羽織った貴景に今更罪悪感が浮かんでくる。夜中に喧しく木戸を叩いたのはつい先ほどの記憶だ。
「ごめんなさい……」
「いえいえ、私のことはいいんですよ。世に病と傷が絶えることはないのですから、こんなことは慣れっこです。
 お体のことでしたら、いつでも相談してくれていいんですよ」
「……お気遣いありがとうございます」
 穏やかな笑顔で言う貴景に蓮が再度頭を下げる。顔を覗くと、彼は険しい表情のまま、傷痕を抑えていた。
 巻き直した包帯を戸棚の中に保管する貴景を、眉をひそめて眺めてから口を開く。
「……貴景先生」
「はい、何でしょう?」
「俺が怪我を負ったことは、対外的には内密にして頂けますか?」
「蓮っ!?」
 貴景の和やかな表情が、一瞬だけ止まった。笑顔は崩さないまま、温和な口調に厳しさが混じる。
「それは、例の一件のこと絡みですか?」
「……」
「聞いていますよ。これでも、軍医も務めていますから。鷹の隊士が、大きな一件を預かったと。
 誤魔化しは利きませんよ? 市井で騒がれている例の一件でしょう、蓮くん」
「……」
「貴方の怪我、刀傷でしたね。関係あるのですか?」
「……今は、まだ。可能性はなくもないですが……」
「ですが、昔と違って最近は隊の警備の方がしっかりしてきましたから、人斬りなんて輩も減りましたし……。
 あの一件以外に、妙な噂も聞きませんよ?」
「……相手は、俺の名前を知っていました」
 治療用具を片付ける手を止めて、ゆったりと座椅子に腰かける貴景に、言葉を選びながら蓮は淡々と答える。
「関係あるのか、ないのか、今の時点ではわかりませんが……
 関係あるのだとしたら、俺は狙われる人間が無差別で選ばれているという仮説をひっくり返さなければいけません。関係がないのだったら、尚更。俺が隊の士気を下げるわけにはいきませんし、それに――」
「そうですね。このことを知ったら、帝は貴方を一件から下ろすでしょう。お優しい方ですから」
「ち、ちょっと待って、でも……っ!」
 雲行きの怪しさに声を上げた華音の頭に、蓮がぽん、と片手を乗せる。
「……元々、帝の負担と気苦労を減らす為に俺たちがいるんだ。
 それに、相手が俺を狙っているなら逆手にも取れる。いちいち動揺していたら、意味がないだろう」
「そう、かもしれないけどっ! 狙われてるなら、尚更、隊の皆に……っ!」
「確かに。蓮くんに浅いとはいえ、手傷を負わせられる相手ならば、かなりの腕前ではないのですか? 隊の皆には話して置くべきでは……」
「極、身の周りの勝手をしている人間だけなら良いのですが……隊の頭が手傷を負っている、というのは少なからず隊全体の士気に影響します。
 幸か不幸か、俺の隊にはお節介な人間も多々います。関係があるのならともかく、無関係なのであれば彼らの手を煩わせられません」
「そんなこと言ってる場合じゃ……っ」
 言い募ろうとする華音の肩に、静かに貴景のやや冷たい手が置かれた。立ち上がりかけた彼女を座らせると、彼はもう一度優しい目で蓮を見る。
「疲れたでしょう。華音さんは私が送って行きますから、蓮くんは典薬寮の宿舎の方でお休みなさい。今日はお戻りにならない方が良いでしょうから」
「はい、申し訳ありません。
 ……幸い、明日から2日間は警護のために軍の宿舎での寝泊りになります。まさか軍本部に直接乗り込んでくることもないでしょう。ご心配なさらないでください」
「いいえ、心配くらいのことはさせてくださいな。それ以外のことでも、相談に来てくださいね」
 蓮はもう一度、頭を下げてから立ち上がった。去り際に眉を下げて、泣き出しそうな表情をしている華音の頭をくしゃり、と撫でる。
「心配するな。大丈夫だ」
「……」
 自分の相棒が納得しないのは知っているのだろう。だが、疲労の色が濃く出た顔に、華音は何も言えずに俯いた。頭に置かれた硬い掌が、ぽんぽん、と軽く2度跳ねる。
「お前も早く帰って休め。祖母様にどやされるぞ」
「……うん。おやすみ……」
「ああ、おやすみ」
 言葉を探せないうちに、蓮は診療室の木戸を閉じてしまった。遠のいていく靴音を聞きながら、不安だけが飲み込めない豆のように華音の喉に残る。
「大丈夫です。彼も、貴方も疲れています。きちんと休んで、もう一度考え直しましょう。ね?」
「……はい」
 貴景が背中を摩るように優しく叩いてくれる。でも、今はその優しさが妙に痛く感じて。
 俯いたまま、隠れて噛んだ唇からは、ほんの少し鉄錆の味がした。


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*COMMENT-コメント-
▽貴景先生
ごめん。しぶの方にヘンなコメントつけたの私です。「BASARA」のナギって白銀の髪をくるぶしまで垂らした中性的なお医者さん。盲目で医師というより予言をするちょっと不思議な存在。もちろん美形です。ネットで探してみて。
無自覚いちゃかぽーについては敢えてスルー。
▽なるほどー
探しました、ナギ先生。確かにちょっと似てるかも。
しぶの方は盛大に噴いてきますた。
何で無自覚なままこんなにいちゃつけるんでしょうね、こひつらは。
▽きけいせんせい
なんだか怪しい……(じぃいい。
いちゃいちゃにはによによさせていただきました(笑)
うーん可愛い!レンさっさと嫁にもらっちゃえばいーのに。
まどやんの年齢をカルミノから逆算してみたら花の(笑)20歳だったです。わかい!おそらくこっちのまどやんは12、3歳で典薬寮に入って色々こつこつしてきたのではないかと。ゆきあきは15、6という驚異の若さ(`・ω・´)
▽てんてー
まあ、物分りいい先生ですよね(カッコワライ)。
みんな若ぇ(今も若いって)
一応、蓮くん17くらい、かのちゃ15くらいかな? 厳密にはしてないけどたぶんそれくらい。
ちなみに鷹の隊士の面々は、アルティオと詩亜は蓮と同い年、瑠那が16歳、セルリアが一番上で21歳くらいです。わけぇ。
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目次(香月)
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