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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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【露癒の祀】参  (香月)

鷹の隊士の面々を紹介します。

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「華音の機嫌が悪い?」
 傾けていた水筒を元に戻して、セルリアは今しがた聞いた言葉を聞き返した。かろうじて日の当たらない、狭い日陰に図体を押し込めて、セルリアは宙を見る。
「……旦那、一体、何しでかしたんスか」
「知るか」
「知るか、って……。今、あれだろ? 本来なら親不在で擬似夫婦体感中の至福のは、いだっ!」
 厚い鉄板に覆われた専用靴の踵で思い切りつま先を踏まれたセルリアの声がくぐもった。そのまま痺れたのか、数秒声が止まる。
「だ、旦那……あの、冗談とか、な? 少しくらい許してくれても」
「何か言ったか」
「いや、実にすいませんでした……」
 剣呑どころではない、斬るような視線で睨まれて、セルリアの声が裏返る。がしがし、と汗ばんだ頭を掻きながら、
「……ったく、親いなくて夕飯作ってもらうとか、俺ならそのまま泊め、……何でもないです、何でもないですから刀柄握るのだけは勘弁してください、マジで」
「……言葉に気をつけろ」
「かほ……いや、何でもないです」
 セルリアは短く溜め息を吐いてから、ちらりと横目で年下の上司を確認する。この暑いのに、仕官服を着崩しさえしていない。堅苦しいの塊とはこういうことか。
 風の通らない修練場の隅で、気分紛れに手で首元を仰ぎながら聞き返す。
「で、何かあったんスか?」
「さあ?」
「さあ、ってあんた、あれで華音も女の子なんだから繊細な部分だってあるでしょ。いつから機嫌悪いんですか」
「昨日だな」
「昨日、って……主上と例の件の話しに行ったんスよね。その後?」
「ああ、あきらと瑠那と修練場まで迎えに行ったんだが、その後だな」
「……」
 セルリアがもう一口、と口にしようとした水筒を直前で止めた。
「……旦那、もしかしてそのときに瑠那を馬に乗せたりしなかっただろうな?」
「? あいつは流れで魔道師なんてものをやってるんだ。馬など持っていないなら、乗せるしかないだろう」
「……」
 セルリアの手から水筒が滑り落ちそうになった。手を離れる直前でかろうじて受け止めた彼の目が、呆れと同情に細まる。
「……あのな、旦那」
「何だ?」
「いや……、まあ、ちょっと拗ねてるだけだろうけど……。……いいか。とりあえず、頑張れよ」
「?」
 意味がわからない、とも言うように眉間に皺を寄せる蓮に、セルリアは肩を竦めて話題を断ち切った。飲まないよりマシな程度の、温くなった水を喉に流し込みながら、じりじりと焼けつく空を見る。
 噴き出してくる汗を拭って、水筒の口を暇つぶし程度に齧りながら、炎暑の下で頭を回す。
「でも、実際どっから手をつけたもんですかね? 被害者の共通点は遺体の状態くらいなもんだし、……旦那が睨んだ通りだとしても外京の連中に手ぇ出すのは相当準備万端じゃねーと」
「万端であればいいんだろう。幸い、花街と聞くと有難がる馬鹿がいるからな」
「……」
 セルリアがその一言を暑さで茹った頭で理解するより先に、蓮は寄りかかった修練場の木壁から背を離す。ご都合というか何と言うか、靴のつま先が向かう先を見ると、たまたま通りがかった水瓶運びの女官とそれに話しかけている――否、いらないちょっかいを出している蟹股の男の背が見える。
 浅黄色に近いぱさぱさの茶髪に、無遠慮に袖を切り落とした隊士服。偏ったはちまきの巻き方は、本人曰く、『大陸で流行っている格好いい巻き方』なんだそうだが、少なくともセルリアはお目にかかったことがない。
「こんな可愛いお嬢さん方は見たことがないよ。瓶を運ぶだけで上品さが滲み出るなんてさ」
「いえ、あの、ですから……」
「本当に美しいよ。だから次の休日に、是非俺にお供を、」

 ごッ!!

 男の後頭部に重そうな軍靴の踵がのめり込む。蓮は踵に力を込めながら、萎縮する女官に向けて詫びを口にした。
「うちの馬鹿が悪かったな。運悪く、牛車にでも当たったものだと思ってくれ」
「あ、あの、ええと……」
「てっめぇ、蓮んん……っ! おま、おごッ!」
「じゃあな。仕事の邪魔をして悪かった」
 焼けた砂の上に顔面から蹴り倒してから、ぽかんとした女官をそのままに、蓮はずるずると男の首根っこを引きずっていく。
「ぷはっ! おい、蓮っ、てめぇ! 砂の上引きずってくんじゃねぇよ! 口の中が砂だらけになっちまったろうが!」
「お前の軽薄な口はいっそ砂袋でも詰めて置け。世の中の為に」
「ひどっ!?」
「っていうか、アルティオ、お前なぁ……。いくら何でも仕事中の女官、軽々しくナンパすんなよ……祭事遅れたりしたらどうすんだ」
「何を言う! 俺はなっ、一週間前から修練場の暑い庭で張り込んで、毎日この時間あの子がここを通るのを確認してから声をかけたんだぞっ!?」
「うっわ、馬鹿! つかお前、それはストーカーだよ! 犯罪者だ、犯罪者!」
 頭に響く鈍痛に蓮は曲げた指をこめかみに押し当てた。へたり込んだままの鳩尾に、もう一度踵を叩き込む。ぐえっ、と蛙のひしゃげるような声がした。
「いっだ、てめぇ! いい加減に……」
「そうか、有難くも次の仕事をお前にやろうと思ったが、要らないらしいな」
「へ? 仕事?」
「花街だ」
 蓮を見上げるアルティオの目が、ぱちぱちと瞬かれた。目の中に信じられない、という色が見て取れる。
「隊の中ではお前が一番詳しいだろう。何しろ、仕事より女のケツらしいからな」
「ぎくっ」
「ぎくっ、って口で言う人間、初めて見たぞ俺……」
 はあー、と長い息を吐き出したアルティオが、立ち上がって隊士服についた砂を払う。大柄な身体で肩を竦めて、無表情な蓮の顔を伺いながら、
「で、今回は何だよ?」
「貴様も耳に入れていないわけじゃあないだろう。……詳しくは後で話すが、花街で右京周辺の噂と呪術関連の造詣がある人間の通い所を探せ」
「右京?」
 セルリアが訝しげに蓮の言葉を反芻した。蓮は軽く腕を組んだまま、口元に手を当てる。
「……殺した人間に恨みがないのなら、殺す人間は誰でも良かった、ということだ。だったら何を欲していたか。
 現場から無くなったものを考えれば、一つしかないだろう」
「2人分の血液……ってか。でもそんなもの、何に使うんだ?」
「この都で多量の血を使うとなったら、目的は限られてくる。
 例えば他人に輸血する場合だが、都の医療機関では術師間での致命傷、または力の補給が主になる。一般にはあまり推奨されていないがな」
「血液の闇取引でもある、って言うんですか?」
「ないとは言い切らないが、相手の殺しの手口が専門の筋で、尚且つ腕に自身があるのなら、ある程度の階級の術師に的を絞るだろう。そちらの方が、価値が高い。素養もない人間の血をそれほど有難がるとも思えない」
「右京、ってのはどういうことだよ。市井で起こってる事件なら、発見場所は2つとも左京のはずだろ?」
 不服そうな表情でアルティオが割り込んだ。聞くうちに何の話なのか察しがついてきたらしい。
「医療や公的な儀式で必要となる呪術的な血液は、ある程度には合法だ。殺人の危険を冒してまで、多量に採取する理由は薄い。
 ……となれば、おそらく狙いは、」
「非公式な呪術、ってか」
 察したセルリアの返しに、蓮は浅く頷いた。
「都内で外法が行われるなら右京か、もしくは裏鬼門。そんなことを仕出かす人間はある程度の素養がある、尚且つ危険を冒してもある程度には自分の身を守れる輩――外京周辺の人間かどうかは、定かじゃないがな。
 少なくとも主上はその可能性を懸念しておいでだが」
「なるほどね……。俺たちに振られた理由が、ようやくわかって来ましたよ。そりゃあ、正規の隊には振りづらい話だ」
「まあ、呪術そのものの調べも必要だろうがな。そちらの方は、」
「れーんっ!」
 言いかけた蓮の身体に、瞬時に鳥肌が立った。黄色いその声が耳に入った瞬間に、無表情だった顔をまともに引き攣らせて、腰を落とす。
「れーんっ、もういきなり休暇だなんて酷いわぁ! 詩亜さびしか、」

 ごッ!!!

 腰を落として体重を乗せた裏肘が、背後から彼の背に飛びつこうとしていた物体の顔面に打ち込まれた。その彼女のさらに後ろで眺めていたらしい瑠那が、団扇で髪を仰ぎながら、感動のない声で「おー」と口にした。
「さすが長年のストーカー防備の末に生み出された特技。綺麗な肘鉄だったわぁ」
「……感心するところか、今の?」
「死ぬほど嬉しくない賛辞は要らん。詩亜、お前は宮中で血を使う外法呪術の書物を当たれ。瑠那もだ。いいな」
 地面に沈んだ女に見向きもせずに、さらりと命令を口にする。高く括った黒髪と、ひらひらと過度なほど装飾され、やたらと露出を強調した隊士服の女は、沈んでいたと思えばすぐさまがばりっ、と上体を起こした。
「えええ、ひどおい。せっかくあの邪魔っけな女がいない、っていうのにぃ。詩亜、蓮の傍付きがいいー」
「断る。呪いや術に関する知識はお前と瑠那が一番詳しいだろう。自分の持ち場につけ」
「もうー、つれないんだからー。知ってるわよ、市井の気味の悪い2件の調査でしょう? あの子抜きなんて久しぶりなんだし、私との仲を照れなくてもいーの、」

 がんっ!!

 そう言いながら腕に手を回そうとした詩亜の脳天に肘を落としながら、蓮は疲れたように肩を下ろした。
「あのな。いつどこでそんな仲になったのか知らんが、華音抜きだからどうと思うな。その埋めの為に、」
「あ」
 ふと視線を逸らしたセルリアが、ややくぐもった声を上げた。何度目かの嫌な予感が背中を走り抜けて、セルリアの視線の先を追う。
「……」
 手ぬぐいと水筒を持ったままの華音が、唇を引き結んだまま立っていた。いつもなら喧しく駆け寄ってくる彼女が、ばつが悪そうに、踏み出しづらそうに、立ち竦んだまま。
 こちらと視線が合った瞬間に、彼女はくるりと踵を返して、その場から駆け出した。名前を呼びかけるが、『金獅子の戦姫』の通称は曲がりなく、あっという間に建物の陰に消えていく。
「あーらら」
「……ありゃあ、厄介な方向に誤解したなぁ、確実に」
「蓮んんんっ! お前、俺の華音を泣かしたらただじゃおかな、ぐぁっ!?」
 大声で喚き始めるアルティオの頭を再度踏みつけて、無責任に口にするセルリアと瑠那の声をどこか遠くで聞く。
 どこもかしこも面倒になりそうな予感に溜め息を吐いて、蓮はいつのまにか額に掻いていた汗を拭った。


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*COMMENT-コメント-
▽あら、何だか新展開?
無自覚朴念仁のはずのカノンが、まるで乙女のような反応してるじゃないですか! これは何か進展を期待していいのか? 香月ちゃんをよく知る私としては、甘酸っぱい気分だけ残してうやむやに元鞘ってとこに落ちそうな木がめちゃくちゃしてるんですけど。
でも鉄面皮のレンにちょっとジレジレさせてやればいいよ。くすくす。
▽ぎくっ
そ、そんなことないよ?
たぶん、きっと願わくは。
たまにはじれじれした気分を味わうがいいさ♪
▽じれじれ好きにはたまらんです。
最近セルくんにぞっこん!
のーまるなふつめん(!)いいですよね。周りが強烈だから、貴重な存在(笑)
カーラさんと内裏に遊びに来てくだしあ!ぶんぶん。
▽のーまるふつめん
常識人ぷまいです(笑)
もちろん、嫁さんもボケ担当です。一応名家の嫡流なので推参しますよ~♪
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
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カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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