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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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【露癒の祀】拾壱  (香月)

急展開の11話。一番書くのが楽しかったどSです。
露癒キャラの中では浅葉が一番好きです。

=======================================
 
 夕に降り注いだ雨が、夜を霧で覆っていた。
 暑苦しく残る靄と、ぼんやりと曇った月とが、いやに静まり返った小路を白く映し出す。湿気の多い空気は息苦しさを覚えるが、ぼんやりとした月明かりと薄らに漂う霧とが足音と姿とを眩ましてくれる。
 鳴く虫はまだ夏虫で耳に喧しい。通りを2,3本隔てた向こうからは、靄の中に煌々と照る提灯の明かりが反射していた。花街の喧騒は、ほんのわずかのざわめきにさえ聞こえない。
 からん、ころん。
 不安定な下駄を鳴らす音が、小路に響いた。泥酔とはいかないが、よろけてはかこん、と軽く音が響く、ふらふらとした足音。よろめきながら歩く男はひくり、と度々肩を震わせる。
 三度、足を縺れさせて、男は路地裏の木塀に寄りかかった、その刹那。

 がっ!

「ぅ……っ」
 小さく呻いて、男は木塀に寄りかかったまま、ずるずると石畳の上に転がった。蹲った格好のまま、手足だけはだらんと弛緩させて意識を失う。
「……」
 若者と言うには歳が行き過ぎて、中年と言うにはまだ若い男だった。髪を掻きあげて、酒と暑さで汗ばんだ首筋に手を当てて――

 きんっ――

 金属音が鼓膜を震わせて、ぴたりと手の動きを止める。首筋に冷たく、鋭利な感触が触れていた。
「……残念ね」
 少女の高い、澄んだ声が首筋に当てられた刃のように突き刺さる。
「……」
「……どうして、ですか?」
 押し殺した声で刃を突き付けながら、華音は静かに問いた。人の声さえしない小さな路地裏に、さらりと生温い風だけが過ぎる。
「……何のことですかね」
「……武鎧の血脈」
 ぼそり、と呟いた華音の一言に、ぴくりと刃を突き付けた人物の肩が揺れた。
「700年前、武鎧の血の祖となった術師は、己の血を持って、五つ瀬の剣ケ峰の奥地にある禁呪を封じた。その呪を封じて以来、武鎧の家は術師であったことを隠すかのように、術師としての才を失い、武人として生き続けてきた」
「……」
「禁呪の名前は『露癒』(ろうゆ)。溢れ出る泉の癒しではなく、たった一滴の癒しの雫を創り出す秘術」
 刃に突き付けられながら、彼の口元に小さな笑みが生まれる。華音はくぐもった声で、口の中の乾いた唾を飲み下した。
「ただし……その雫を創り出すには、他者の多量の血液と魂を必要とする」
「……」
「……どうして、こんなことを」
 半ば、震えた声で問う華音に、彼は無言を貫いた。奥歯を噛みしめ、ちゃき、ともう一度刃を持ち上げて、華音は彼の名前を呼んだ。
「――答えてください。貴景先生」


「……どうして、こんなところに貴女が?」
「……」
 貴景はいつもと変わらぬ笑顔と、穏やかな口調のまま華音に問いかけた。華音は指が白くなるほどに大刀の柄を握り締め、低く声に力を込める。
「被害者の遺体、検死官の中に貴景先生もいらっしゃったそうですね。軍医仲間に聞きました」
「……」
「蓮が襲われたとき、浅いながら付けられたのは明らかな刀傷でした。貴方は被害者の身体に、目立った傷がないことを知っていたはず。
 ……けれど、貴方は蓮の傷の手当てをしたときに、聞きましたよね。『刀傷でしたね。例の件と関係あるのですか?』」
「……あのときは、蓮くんも『例の事件とは関わりがあるかわからない』と言っていましたが……。彼も事件を担っている青龍二番隊の隊長ならば、被害者が刀傷を負っているのではないとご存じだったはずでは?」
「ええ、そう。だから蓮は隊の皆には話さずに内輪で留めようとした。ただ、市井で他の人斬りの噂が立っていなかった以上、無関係とも言い切らなかった」
「……」
「無関係と言い切らなかったのは、あたしを事件から遠ざける為でもあったでしょうね……。隊から外れている今、そんな少しでも事件との関係を匂わせれば、あたしは堂々とは関われない。
 ……彼はそういう人間よ」
「……私が蓮くんを襲った輩に、罪を着せようとしていた、と? 証拠もない決めつけのように聞こえますが――」
「勿論、それだけで断定なんか出来ない。でも、『露癒(ろうゆ)』の話を聞いてから気にかかることがいくつかあった」
 貴景は無言で華音の言葉を受け止めた。彼の背後から刃を向ける華音の碧色の瞳が、鋭く細められる。
「……事件が起こる前。貴方、蓮の家を訪れてこう言ってたわよね。事件が起こる前の週、五つ瀬に行っていたって。
 逆に言えば、貴方が帰って来てからこの事件が起き始めたことになる」
「……」
「……貴景先生。前にあたしにこう言いましたよね」

『蓮くんも、武鎧の家の最後の生き残りなんですから、誰かに狙われてもおかしくはないですが……。
 ご自分の身に、きちんと気をつけてくださらないといけませんのにね』

「……あたし、ずっと武鎧の家は上方の権力争いに巻き込まれたんだと思ってた。奴の目的は、武鎧の家の失脚なんだ、って。
 でも、違う。
 武鎧の家はもうない。もし、そうだとしたら、蓮が狙われる理由なんかもうどこにもない。
 ――だから、つまり、誰に狙われてもおかしくない、なんてことが言えるのは、武鎧の血脈の本当の価値を知る人間だけ。
 ……血を持って成された封印なら、血をもって解放できるはず……。禁呪解放の鍵――それが、武鎧の血脈が狙われる理由」
「……」
「あの男は、武鎧の血を断とうとして、武鎧の血の皆殺しを狙ってる。……貴方は、」
「……それだけの、状況証拠だけですか?」
 静かな返答が、貴景から漏れる。華音は刃を下ろさないまま、高い声を抑えて、ゆっくりと視線を落として、言った。

「――隊士たちの警備から外れたこの場所で、こんな時間に、貴方は一体、何をされてるんですか――?」

「……」
「申し訳ないですが、診療所から後をつけさせてもらいました。
 信頼された軍医の貴方なら、軍の警備体制を隊士たちから聞き出すことも出来たはずです。そして、見事に警備の目を掻い潜ったここにいる……」
「……」
 貴景の口元に強く、笑みが浮かんだ。低い、低くて、悲しいほどに冷たい声が、鼓膜を震わせる。
「……なるほど。言い逃れは、出来なさそうですね」
「何で……」
「そこまで察しがついているなら……、勘付いてはいるのではないですか、華音さん」
 華音は喉元まで上った言葉を、ぐっ、と飲み込んだ。刃を避けて振り向く貴景の光の一切映さない、瞳が、ぼやけた月明かりに見えた。華音は眉根を下げて、それを見上げる。乾いた言葉が、掠れた声が口をついて出る。変わらない笑顔が、悔しかった。堪らなく口惜しかった。
「貴景先生……」
「――自分の姿が見えない、見られない、苦痛が貴方にわかりますか?」
「……それで、ずっと蓮を」
「……」
 貴景は答えなかった。答えの代わりに、節くれ立った左手が淡く光る。
「!」

 ひゅんっ!

 飛びかかった光弾に、華音は身を引いた。熱量を持った光弾が、耳元の一房の髪を焼いて風に消える。石畳の上を跳躍して、華音は今一度構えを取った。
「……先生、出頭してください。貴方と事を構えたくありません」
「それは出来かねます」
 華音の言葉に、貴景は素気無くそう答える。唇を噛み締めて、華音は大刀の柄を握り締めた。碧色の瞳が、今一度、貴景の形を変えない柔和な笑みを睨みあげる。
「……貴景先生」
「……貴様だったか、貴景」
 華音が吐き出した名前に被せるように、声が響いた。はっ、と気が付いたときには、既に目の端に捕えた影が動いている。
 華音は反射的に身を捩ってその場から飛び退った。貴景は静かに手を翳して、淡い光の薄絹を作る。

 斬っ!!

 空を裂いて飛来した見えない刃が、華音の足元に、貴景が生んだ光の薄絹に突き刺さる。抉れた石畳に息を呑んで、近くの家の瓦屋根を仰ぎ見る。
 生温かい風に、黒い影が靡き、冷たい鶯色の瞳が華音と貴景を見下ろしていた。
「浅葉、藤一郎……」
「……ようやく私の名を知ったか。天良の娘」
「……」
「貴景。まさか『露癒(ろうゆ)』を狙う者がお前だったとはな……」
「……浅葉さん、ですか。まさか、先代の帝の命を未だに追い続けているとは」
「これは俺の意志だ。最早、先帝の勅命ではない。沙羅国の永在の為には致し方がないことだ。邪魔をするな」
 ぎんっ、と男――浅葉藤一郎の両手に構えた刃が靄のかかる月明かりに怪しく光る。
「武鎧蓮を始末する前に……貴景、お前から片付ける」
「おやおや、物騒ですねぇ」
 微笑んだまま、貴景は少しも慌てずに口にする。華音の中を違和感が駆け抜けた。
 貴景に武闘の心得などあっただろうか。少なくとも華音は知らない。なのに、この局面でどうしてそんなに落ち着いて言葉を並べられる。何かこの場を潜り抜ける秘策でもあるというのか。
「解放の儀には彼の血が必要。それも多量の。そんなことをされては困ります」
「……蓮はここには来ないわ」
「……華音さん」
 不自然な笑顔を張りつかせたまま、貴景は穏やかに華音の名前を呼んだ。
「本当に、元気でお優しい子です。ですが、ご自分の身の価値を理解しておられないのは、頂けません」
「……どういうこと?」
「……彼は貴女のことを誰よりも大事にしている。それこそ御身よりも。
 その貴女が、通り魔がうろついているかもしれない路地に出ていると知ったら――彼はどうするでしょうね?」
 ――!!
 華音は愕然と微笑みを絶やさない貴景の顔を見た。同時に、遠くからほんのわずかに鎧の音と、軍靴の重たい靴音が響いてくる。
 ――まさか……!
「貴女なら、そろそろ私のことにも気づくだろうとは思っていました。まさか事を起こそうとしたこの夜に見破れるとは思ってもみませんでしたが……。
 彼は私を信頼してくださっている。――貴女の名前は、絶好の餌、なんですよ」
「・・・!」
「華音!」
 怒り交じりに飛んだ声は、聞き慣れた、けれど今は最も耳に入れたくなかった低い声だった。路地に飛び込んで来た蓮は、その場に広がっていた光景に一瞬目を瞬かせる。だが、彼が抜き身の大剣を構えるより先に、反応した屋根の上の男が瓦を蹴った。
「!」

 ぎぃん!!

「蓮っ!」
 蓮の振り払った刀が、浅葉の三日月刀をかろうじて受け止める。加勢しようと華音も刀を構えるが、貴景が漏らした小さな笑いに足を止めた。
 いつのまにか貴景の手には、手のひらと同じほどの大きさの石が握られていた。何の変哲もない、ただ朱色がかかったただの石。だが、背筋を通り抜けた嫌な予感に振り返る。
「……それは」
「『同調』、という方術用語をご存じですか、華音さん」
 背後から響く剣戟を目の端に留めながら、華音は貴景の顔を伺い見た。穏やかに見えていた笑みが、今は背筋が震える笑顔に映る。
「……強い力を発するものが近くにあるとね……その周辺の自然物もまた、同じような力を帯びる。ちょうど、磁石が鉄を同じ磁石に変えてしまうように」
「……まさか、それは」
「ようやく見つけた……。一年中、霧に覆われた剣ヶ峰の最奥の石。くくく……予想よりも素晴らしい力を持っていましたよ」
 そう言って貴景は細い手を懐へと忍ばせた。ゆったりとした着物の裾からか、華音の見覚えのある小さな瓶が取り出される。
 それはあの日、貴景が蓮から採取した血液を入れた、小さな――
「! 待ちなさいっ!」
 刃を構えた華音が走り出すのと、貴景が瓶の中の赤黒い血液とを石に垂らすのはほぼ同時だった。
 ぞんっ!!
「!?」
 凄まじい豪圧が、貴景の手にする石からその場に降り注いだ。圧力を持った妖気が、異様に美しい翡翠色の触手となって、石から立ち昇る。
 十数本、飛び出た光の触手は先端を獣の頭を彷彿とさせる造形をして、華音たちに襲いかかった。転がるようにして華音が避けると、さらにその背後で斬り結んでいた蓮と浅葉にさえ牙を向く。
「!」
「貴景っ! 貴様……っ!」
 蓮はその場を飛び退り、浅葉は躊躇いなく翡翠の獣の頭を刃で薙ぎ払った。砕け散った光を目に映して、華音は再び振り返り、
「う……っ!?」
 信じ難い光景に、思わず口元を抑えた。翡翠の獣の頭が、牙を剥き出しに倒れた男の胴体へ噛みついていた。その綺麗な翡翠の牙が、じゅくじゅくと吐き気を覚える音と共に、赤黒く、汚らしく染まっていく。
 ――吸われて、いるのだ。
「……貴景、先生」
 蓮の立ち直りはさすがに常人よりも数段早かった。しばらくだけ言葉を失った後、刀を静かに貴景へと向ける。
「やめて置きなさい、蓮くん。貴方は私には敵いません」
「何を――っ」
 鋭く瞳を吊り上げた蓮が、苦い声で口にしようとしたときだった。
 唐突に、その身体がくの字に折れ曲がり、苦しげに咳き込んで膝をつく。見開かれた目と、抑えられた口元。指の合間から吐き出されたのは、赤い、赤い――痛々しい雫の群れ。
「蓮っ!?」
「いくら貴方でも、すべての毒物に耐性があるわけではないでしょう?」
 華音は今度こそ、憎悪を瞳に宿しながら貴景を睨みつけた。……蓮にとっては信頼の置ける医者だった。何を飲まされたところで不思議ではなかったのだ。
 疑ったと同時に、気をつけていれば良かった。
 華音は唇を噛んで蓮に駆け寄ろうと振り返った。だが、

 ぞんっ!!

「!」
 翡翠の獣が石畳を這い回り、蓮の足元から生えた。そのまま、彼の全身を絡め取り、彼の吐き出した血を貪って締め上げた。
「がっ……はっ……。ぐ、ぁぁああっ……」
「蓮!」
「貴景、貴様!」
 浅葉が憎悪に怒声を撒き散らして、貴景へと斬りかかる。だが、貴景がもう一度、手にした石を振ると、翡翠色の獣が彼へと群れて、浅葉は足を止めざるを得なかった。
「蓮っ!」
 華音は大刀を握ったまま、彼を捕える獣の頭へ刃を振り下ろした。しかし、光の獣たちは銀の刃へ四散すつと共に、光の粒となって再び再生を繰り返す。華音の額に脂汗が噴き出しては、冷えていく。
 こんな馬鹿な。
 こんな獣の群れが、『露癒(ろうゆ)』の力も源だというのだろうか。一体、この獣たちは何だというのか。
 きぃっ!!
「!」
 甲高い声で獣が鳴いた。真っ二つに裂いた獣の頭から、もう一つの獣の頭が増える。血を吸って赤黒く変色した獣の頭が、そのまま華音の鳩尾へとめり込んだ。
「ぐっ、はあ……っ!?」

 どんっ!!

 咄嗟に飛び退ろうとした反動で、華音の身体はそのまま固い石畳へと叩きつけられた。口の中を切った。咳き込んだ拍子に、血煙が「食い契られた腹の一部から、どくり、と血流が流れ出す音がする。もがいて刀を振るうと、食いついていた獣の頭は四散して消えた。
 ――く……っ!
 傷口に焼けた鉄を押し当てられたような、凄絶な痛みが意識を襲う。手のひらに爪を立てて立ち上がると、正面に貴景の目を細めた嘲笑が見えた。
 華音がくぐもった声を漏らすより先に、彼の右手がふいに空を描く。
「!」
 再びあのとんでもない重圧が、華音を襲う。力の入らない足は、抵抗を許さずに華音の小柄な身体を路地脇の樫の木塀に激突させた。
 がつっ!!
 ――っ、う……!
 かはり、と吐き出した血混じりの息が、ぴちゃりと頬を汚す。身体中が痺れに襲われて、かたかたと痙攣した。それでも食いしばって開いた視線の先に、華音は声にならない声を上げる。
 翡翠の獣に首元を噛みつかれ、ぐったりと不自然に身体を項垂れさせた蓮と、華音と同じように脇腹を抑えながら膝をつく浅葉。その最中に美麗な獣たちを従えながら微笑む貴景の姿がある。 
 貴景は今一度、くすり、と小さく笑みを称えると、右手をゆっくりと握り締めた。
「『露となり、癒となり、化身の欠片。汝が主の膝元に、我、創世の兆しとならん。等しく等しく欲を呼び、等しく等しく癒しを与えんことを』」
 華音を襲った重圧が、今度は貴景を中心にして、轟音を立てながら風を生んだ。ずるずると闇の中へ融けていくように、貴景の身体が、従えた獣たちの光が、そしてその光に捉えられた黄昏色の髪の武人の姿が掻き消えていく。
「・・・!」
「さようなら。追い求めるならば、いらっしゃい、華音さん。
 誰にも邪魔はさせません。――たとえ、何を犠牲にいたしても」
「まっ……!」

 う゛んっ……

 吐き出そうとした声は、また血煙になって途絶えてしまった。愕然と闇を見つめる先で、貴景と蓮の姿が風闇に吹いて消える。持ち上げようとした身体は、しかし、縫いつけられたように動かなかった。
 舌打ちが聞こえる。華音の目の前で、浅葉はぎり――と鶯の瞳を鋭利に睨ませると、よろめきながらも細い路地の向こうへと消えて行った。
 霧の雨が降る。ぼんやりとした月が赤い。赤いのはきっと吐き出した雫のせい。ぼんやりと見えるのは、霧と、込み上げた熱く、煩わしい慟哭のような感情のせい。

『もし私に何かあったら……蓮のことを宜しく頼む』

 ――……守れなかった。
 彼自身を。あの日に交わした亡き人との約束を。
 凄絶な無力感と、壮絶な後悔が、身体を駆け巡る。
 握り締める力も残ってはいないのに、爪だけが血が滲むほど手のひらを傷つけていた。噛みしめた唇は、もうとっくの昔に赤く擦り切れて。
 けれど、そんなものよりも、擦り切れた声にならない叫びが。慟哭する心臓が。裏切られた思い出と、それに甘んじていた自分を許せない感情が。
 きりのない痛みだけを、ぎりぎりと華音の身体を蝕んでいた。
 ばたばたとした足音が、半分掠れかけた鼓膜を震わせる。視界に映らない影の死角に、気配が生まれて、息を呑む声が聞こえた。
「これは……っ、華音! おい、どうした、しっかりしろ! おいっ!」
 赤く染まった視界に、セルリアの汗を浮かべた顔がぼんやりと映る。けれど、答えようと動かした唇は、何の音も発せずに。ただ無言の虚しさを吐き出すだけだった――。 


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*COMMENT-コメント-
▽CV:石田彰……?
貴景先生……ビジュアルはギュンターかもしれないが、ここ一番で悪役らしくかます時に優雅に微笑んでしまうあたり……声は石田さんだね。
浅羽のおっちゃん、ガンバレ!

何か、嬉々としてレンやカノンをイヂメている香月ちゃんの顔が浮かぶんですけど。
めっちゃ楽しそうだよね。誰得?
▽計画通り(どや顔
貴景先生やっぱりダークだったですな!
かのちゃの悔しい気持ちにずぎゃーんとやられました。
かのちゃが無理しないといいけど…はらはら。
レンくんはきっと大丈夫だと信じています。
しかし浅葉さん……ちょっと…好き…かも…///任務をひたすら遂行しようとするストイックな男性♪
▽石田さんもいいけど…
宮田幸季さんも捨てがたい。腹の黒い声大好き♪

浅葉、気になると言ってくださって嬉しいですーv
露癒の中でもお気に入りです♪
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あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
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エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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 出口1
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