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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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お化けの店のユタカくん(その1)

 そいつと初めて会ったのは例によって桜さんのせいだ。


 桜さんは俺の曾祖母なのだが、”ひい祖母ちゃん”などと呼ぼうものなら鉄拳が降ってくる。第一、うちは女ばかり祖母だの叔母だのいろいろいるので、”お母さん”の指す人物が呼ぶ人によって違うというややこしい事態になる。というわけで、我が家では女性は基本、個人名で呼ぶルールだ。

「トンちゃんっ。トンちゃん、ちょっと来てっ」
 禰宜の山下さんを手伝って榊を運んでいると、本殿の横手のお社から桜さんが切羽詰った声で俺を呼んだ。もっとも、桜さんはしょっちゅう切羽詰った声で俺を呼びつけるので、俺はまたか、と聞き流して山下さんのワゴンまで榊を運んだ。これからご町内の新築物件の地鎮祭なのだ。徹さんが土嚢をふた袋抱えて来て、ドスンとワゴンに積み込んだ。
「こら。忌み砂を粗末に扱う奴があるか」
 俺にはいつも優しい山下さんだが、長男の徹さんには厳しい。徹さんは大学生なのにもう神主の資格がある。うちの神社と、山下さんの実家の神社を行ったり来たりしている。
「おい。ピー助、奥様が呼んでるぞ」

 トンちゃん、トン介、ピー助といろいろ呼ばれているが、俺の名前は鳶之介という。父の名は鷹史。つまり”タカから生まれたトンビ”なのだ。サクヤは”あなたの目が鳶色だから”と言ってくれるけど、小さい頃から散々周りに”タカがトンビを生んだ”と言われているのでもう慣れっこだ。東京の方ではお囃子で使う笛のことをトンビと呼んだりするそうだ。だからもう、別にトンビでもいい。俺は笛を吹くんだし。でもトンちゃん、トン介というのは豚みたいでイヤだ。ピー助というのは、トンビがぴーひゃららと鳴くからだろう。さらにバカにされてる気がしてむっとしてしまう。
「ピー助はやめてください」
「行かなくていいのか、惣領息子」
 この惣領息子という呼び方も徹さんのイヤミなのだ。織居の家は女系家族。女が後を継いで婿を取るしきたりだ。俺の父の鷹史も、葵さんのダンナの亡くなった新さんも婿養子なのだ。だから俺も長男だけどいずれ外に出される。一族の男が大人になっても神社に残っていたら喰われるとか言う人もいるが、父も祖父も婿養子なのに死んじゃったんだしトンチンカンな説だと思う。どっちにしろ、この神社に男は不吉なのだ。
「いいんです。いつものことだし」
 俺はふくれっ面でワゴンの後部座席を倒して荷物室を広げた。こういう作業は好きなのだ。いつも手伝うから、レバーの操作もお手の物。俺がやりたがるので、山下さんはいつも任せてくれる。ダンボールに、紙垂(かみしで)、神籬(ひもろぎ)、注連縄(しめなわ)、玉串をくしゃくしゃにならないように気をつけて重ねて入れた。
「忌み竹は徹さんのバンで運ぶんですか?」
 山下さんと2人の時はもっと気楽に話すのだが、徹さんがいるとつい突っ張って敬語を使ってしまう。どうせ7歳の坊主が大人ぶって、とか思われてんだろう。面白がって余計にからかわれるのはわかっているけど変えられない。
「杭も掛矢も、幕もテントも祭壇も玉串棚もぜーんぶ積んだ。椅子と酒は工務店で持ってくる。お供えは施主さん。だからお前、奥様のところ行っていいぞ」
 俺はさらにむっとしてしまった。神社の跡取りだからって甘やかされてると思われたくない。7歳だってできることはいろいろあるんだ。サクヤが具合悪いんだから、俺がちゃんとしなくちゃ。
「銀ちゃん、行ってさしあげなさい」
 山下さんが俺の方に少しかがんで言う。子供扱いして頭を撫でたりしないのが有難い。そんなことされると余計にムカついちゃう。
「でも」
「奥様、お心細いんですよ。今朝またサクヤさんが倒れたし、ご自分も先週発作を起こしたばかりだし」
「でも地鎮祭が」
「徹にやらせますよ。この間みたいにポカやらかさないよう私が見張ってますから」
「オヤジッ」
 この間、徹さんは献饌(けんせん)で酒の蓋を地面に転がしてしまったのだ。地鎮祭に俺が行ったって、大したことはできない。自分でもよくわかっている。俺が狩衣つけて玉串を配るとオバサン、オバアサンに”あら可愛い”と言われて写真撮られるだけのことなのだ。もちろん徹さんを見張るつもりなんかない。
「ついてて差し上げてください」
「うん。すみません。後はよろしくお願いします」
 俺はぺこっと頭を下げて、お社の方に走った。
「トンちゃーん」
「すぐ行くー」

 うちの境内には主祭神の住吉さんの他に摂社の小さなお社がいくつか並んでいるが、桜さんがいるのはさらに小ぶりな末社だ。表に「丹生(にう)」と書いてある。丹生というのは水銀が採れる谷のことだと、葵さんが教えてくれた。葵さんはサクヤのお母さん、つまり俺の祖母で桜さんの次女。大学でジンブン学というのをやっている。

「どしたん」
「鏡ちゃんの紐が」
「紐?」
 桜さんは丹生神社の神殿でぺたっと座り込んでいた。手には青緑の鏡。鏡と言ってもガラスじゃなくてズッシリ重い金属製だ。青銅というらしい。1000年前のもので、しかもこのお社の御神宝のはずなのだが、桜さんはいつも割と気楽にこの鏡を持つ。磨いたり、飾り紐を掛け替えたり、お酒をお供えしてお相伴と言いながら一緒に飲んだりしている。
 桜さんが言うには、この鏡には赤い鳥が住んでるそうだ。確かに鳥みたいな時もある。でも俺にはだいたいシカかヤギみたいな感じに見える。サクヤは優しいお兄さんと言うし、キジローは綺麗なお姉ちゃんだと言う。要するにみんな好き勝手に好きなイメージで見ているのだが、鏡に住んでるのでみんな共通して”鏡ちゃん”と呼んでいる。
「つい、つい先に新しいの、つけたったんよ。ほやのに、ほら」
 桜さんが差し出す鏡を見ると、艶のある鮮やかな朱色の組紐がボロボロになっていた。
「ネズミ?」
「ネズミやら、そんな、鏡ちゃんに悪さするわけないやろ」
「ほうかなあ。鏡ちゃん、ネズミやら鳥やら猫やら好きやん。あれ、絶対暇つぶしに呼んでるって」
「ほやから。いつも鏡ちゃんがお供えとか分けたげて、お社で雨宿りさせたげてるんやから、ネズミも悪さやらせんて」
「うーん」
 確かにかじられた痕じゃない。紐だけ何百年も経ったみたいに、色褪せてもろく崩れている。
「こんなじゃ、鏡ちゃん、可哀想や。新しいの買ったげな」
「うーん」

 葵さんによると、鏡に飾り紐をつけたり台に豪華な金襴の織物をかけたりするのは、正式な祀り方じゃないらしい。つまり桜さんの趣味なのだ。でも我が家に桜さんに逆らえる人間はいない。
「トンちゃん、ミノルくんのお店に行って来て」
「え」
「お茶屋さんと扇屋さんの並びにあるやろ。ほら、表に大きなツボとか綺麗なガラスのランプが並んでる骨董屋さん」
「ああ」

 思い出した。お使いでお茶教室用の抹茶を買いに行った時、いやあな感じの店の横を通ったのだ。怖いとかじゃないけど、何というか、うるさそうというか、窮屈そうというか、要するに何かごちゃごちゃ”いそう”な店だった。いつ前通っても開いてた試しがない。何かうっかり拾うのがイヤで、ちょっと遠回りしても近づくのを避ける。そんな場所のひとつだ。
「ミノルくんって大学のセンセーなんよ。葵ちゃんとか新さんと同じようなことしとんやって。ミノルくんの息子さんもミノルくん言うてミイラ掘ったりする人でね、な、同じやろ」
 葵さんはミイラなんか掘ってない。でも葵さんのとこのキョージュのカロ先生は、昔トルコでミイラ探したって言ってなかったっけ。
「で、ミノルくんてミノルくん呼ばれとるけどほんまはユタカくん言うんよ。ユタカくんのお孫さんもユタカくん、言うてな。な、おもしろいやろ」
 ややこし過ぎておもしろいのかおもしろくないのか、よくわからない。でも桜さんの話はいつもこんな感じでとっちらかっててスットンキョーなので俺はこだわらずにうなづく。
「ユタカくん、トンちゃんと同じ年かいっこ上やで、確か」
「ああ」
 いやな予感がさらに強くなった。俺と同じぐらいの年で、この神社の参道を囲む商店街に住んでて、あんないかにも”いそう”な店の子供。できれば会いたくない。
「お財布取って来る。トンちゃん、その緋袴、着替えてや。暗なる前に行かんと」
 うわあ、行きたくない。でも仕方ない。我が家に桜さんに逆らえる人間はいないのだ。

 桜さんはパタパタ母屋の方に走って行ってしまった。俺はひとり残って、お社の木の床にあぐらをかいた。
「鏡ちゃん、どんなんがいい? また赤いのにする?」
 鏡ちゃんは出て来ない。紐が壊れて機嫌が悪いのかもしれない。
「トンちゃーん。はよ行かなー」
 母屋から桜さんが呼ぶ。
「はいはい。今行くよー」
 俺は答えて立ち上がった。
「あんな変な店、行きたくないけどさ。まあ、何か探してくるよ」

 鏡ちゃんがにやっと笑ったような気がした。


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シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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