忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.05│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

お化けの店のユタカくん(その2)


「トンちゃん、おつかいかい?」
「シジミのいいの、入ってんで」
「今日は買い物ひとり? 後できーちゃん来るんか?」

 商店街に入った途端あちこちの店から声がかかった。
「咲(えみ)さん、あっちに帰ってんやろ。スモークチキンどうや。ポテトサラダも。これで晩御飯、バッチリや」


我が家の家庭事情が商店街に筒抜けである。サクヤと桜さんが身体が悪くて野菜と魚しか食べないこと。2人とも自分が食べないものだから、肉料理とか卵料理が苦手なこと。織居家の台所は咲さんと咲さんの次男坊のキジローが面倒見ていること。その咲さんがしばしば関東に帰ってダンナと長男坊の面倒も見ていること。
 咲さんは、俺の父の鷹史とキジローのお母さん。つまり俺の父方の祖母ということになる。俺の父を生んで以来、咲さんはずっと住吉神社と関東を行ったり来たりしている。

 というのは、俺の父親が宇宙人だったからだ。

 宇宙人というより先祖返りなのかもしれない。表向きには”高機能自閉症”と説明していて、映画とかTVドラマなんかで当時話題になってたおかげで、割とすんなり周囲に納得されたようだ。ほとんど白に近い銀髪に、金色がかった飴色の瞳。外見からして普通じゃない。ひとこともしゃべらず、いつもニコニコ人の話を聞いている。話しかけても時々通じない。しばしば何もない空間をじーっと見つめて何時間も動かない。騒いだりはしないが、授業中にふらっと教室を出て行ってそのまま帰って来なかったりする。ろくすっぽ授業なんか聞いていないようなのに、成績だけは良かったものだから、通常学級に通っていた。
 父方の親戚があれこれうるさいものだから、関東での子育てをあきらめて咲さんはうちの神社に来た。父の叔父に当たる新さんが、神社の娘、葵さんに婿入りしていたからだ。新さんも親戚筋が煩わしくて、さっさと実家を出ていそいそと西にやって来た。なぜ親戚が騒ぐかというと、俺の父方の曽祖父、道昭(みちあき)が南部の跡取りなのに親戚衆のセッティングしていた良家のお嬢様との見合いを蹴って、素性怪しい娘とほとんど駆け落ちみたいに結婚してしまったかららしい。そしてその娘は次男の新さんを生む時に奇怪な状況で意識不明に陥り、そのまま60年、眠ったままなのだ。その姿は60年変わらず、年を取らないままだというのは、親戚筋には秘密である。
 ”あんた達は父親みたいに変な女に引っかかっちゃダメだよ”という親切な親戚衆のアドバイスを蹴って、道昭の息子は2人とも、変な女と結婚してしまった。それが咲さんと葵さんである。

 確かに”変”な女にちがいない。

 満さんと咲さんの長男、仁史叔父さんは普通の子供だったが、次男の鷹史は宇宙人だったわけだ。ホレ見たことか、と親戚衆が再びヒートアップ。南部の後継の仁史さんを置いて、咲さんは鷹史を連れて住吉神社に逃げて来た。それでもできるだけ頻繁に関東に戻って仁史叔父さんと満さんにも会っていたそうだ。でなかったら、鷹史の9歳下のキジローなんて出来なかったことだろう。

 商店街で古くから店を構えている面々は、住吉神社の何だか”変”な女達に慣れている。室町時代からここの参道で団子売っていたと言う和菓子屋の爺様と、うちは天皇家に納めたこともあると張り合う呉服屋のご隠居は、桜さんを巡ってライバル関係にある。参道筋を仕切るこの2人が住吉贔屓なものだから、商店街の他の人々もおおむね神社の風変わりな連中に優しく接してくれる。咲さんの境遇に同情し、黙ってニコニコしている鷹史を不憫がって可愛がり、その息子で父親を2歳で亡くした俺にも甘いのである。もっともご隠居より下の世代では、年寄りへの反発からキツく当たって来る人もけっこういる。それに商店街から一歩外に出ると、もはや敵ばかりである。

 何せ住吉神社には別名が山ほどあるのだ。人喰い神社、男殺し弁天、神隠しの杜。
 泉のある都のはずれの山里に、だんだん人が集まり弁天さまが祀られて参道沿いに小さな町が出来た頃から、神社の周囲には説明できない変死や行方不明の事件が多かった。龍が出たとかキツネに化かされるとか、濡れた長い黒髪の女がすすりなくだとか、とにかく怪談のネタに事欠かない、”お化け神社”なのだ。このへんの子供なら必ず、日が暮れたら神社に行くな、神社の人間には用心しろ、と言われて育つ。そして神社に肝試しに行き、大人に反抗して神社の子とわざと仲良くしたり、あるいは大人と一緒になってイジメたりする。ここ20年で、新さんとうちの父親、2人の男が行方不明になったことで、住吉神社は悪名を新たにした。

 商店街の、しかも同じ年頃の子供が、こういう何ともフクザツなうちの事情を知らないわけがない。それもあんな店の子供が。

 住吉商店街とそれを囲む住宅街には、”見える”人が多い。土地柄だろう。敬ったり怖がったりしながら、弁天さまのお社を祀って来た人々は、多かれ少なかれここの精気を浴び、水脈の波動に共鳴しながら暮らして来たのだ。神社の人間をやたらに怖がったり嫌ったりするのは、そういう”見える”人が多いのだ。心当たりがあり過ぎるものだから、こちらも”理不尽な”と怒るわけにいかない。

「トンちゃん。適当に野菜みつくろって神社に届けてやろうか」
 八百屋のおっちゃんはサクヤのファンなのである。
「お母さん、また熱が出てん」
 俺はわざとしおらしい顔をして見せる。
「そりゃあかん。カブはどうや。身体が温まるし消化にいい。夕顔もええやろ。さっちゃんの好きなものなら、おっちゃん全部わかっとんや」
「ほんま?」
「ほんまもほんま。おつかい済んだら、うちに寄り。暗なったら危ないけな。おっちゃん、野菜積んで神社まで送ったる。魚辰にも言うといてやるわ」
「シジミとタチウオ、ええと思う。桜さんも好きやし」
「それとスモークチキン! 子供は肉喰わな!」
 肉屋のおっちゃんも参道の反対側から大声で主張する。
「肉はキジローの担当なんや。ガッコ帰りに商店街寄る、言うてたからキジローに言うて」
 キジローが肉料理や中華料理が得意なのは、ひとえに自分が好きだからだ。咲さんが病人優先で、薄味の精進料理みたいなものばかり作るので、ガッツリ肉が食べたいキジローは9歳で唐揚げをマスターしたらしい。
「お茶屋と豆腐屋さんの後、ここに帰ってくるわ。おっちゃん、すんません、お世話になります」

 さて。夕食の買い物も済んでしまった。気が進まないが、桜さんの用事を片付けよう。お化けの店の子がお化け神社の子をやたらに嫌わないでくれるといいけど。

「すみませ~ん」
 俺は声をかけながら、骨董屋のやや立て付けの悪いガラス戸を開けた。

「すみませ~ん、どなたかいらっしゃいますか」
 薄暗い店内から、さらに薄暗い店の奥に呼びかけても誰もいない。誰もいないが圧倒的に”何か”いる気配がする。息を詰めてこちらをうかがっている。

「あのー。すみませーん」
 あやふやに挨拶しつつ、気持ちがくじけてもう帰ろうかと思い始めた頃、カララと軽い音がして誰かが廊下の床を踏む足音が近づいて来た。
「いらっしゃいませ。庭に出とったもんで、お待たせしました。何かお探しですか?」
 
 一段高くなった上がり戸からショーケースの並ぶ店の土間に下りて来た人を見て、俺はポカンとしてしまった。

 誇張では無く、その女の人は輝いていた。少し緑がかったような薄青い光に包まれていて、ほっそりした指先から白い顔まで、優しい光に揺れていた。
「何あげましょか?」
 薄暗い店内で、長い髪が露草の花のような澄んだ青い色にぽおっと光っている。声も涼やかで気持ちいい。

 俺の第一印象は、”サクヤに似てる”だった。それから碧ちゃんにも似てるな、と思った。サクヤはいつも涼しそうな淡いピンクの光に包まれて見える。淡過ぎてほとんど白い優しい色。碧ちゃんは鍾乳洞の中の泉みたいにもっと深い青だ。紫がかってたり緑がかったり、ゆったり移ろっている。でもこの人の空気は温かい青だ。

「あの。紐なんですけど。鏡とかに結ぶ房のついたようなの、ありますか」
 4歳からひとりでおつかい行って、”大人みたいにしっかりした口をきく子だ”と褒められて来た俺が、しどろもどろになってしまった。
「できれば赤とか朱色とか。あ、金色も好きかも」

 女の人は首をちょっと傾けて、俺のとりとめのない話を聞いていた。着物も髪もほとんど色が無いように見える。でも真っ白ではない。春の小川みたいに空の青を写したり、岸の柳の緑を写したり、こちらの言葉に応えて色を変える。

 すがたやさしく いろうつくしく 
 さあけよ さけよと ささやきながら

 俺の頭の中で、幼稚園の年長組で習った唱歌が流れていた。

「ほやなあ。いくつか見繕って出して来ますさかい、ちょっと待っとってもらえますか」
「は、はい。待ってます」

 納戸か蔵でもあるのか、女の人は上がり戸をくぐって奥に入って行った。土間にひとりになるとすぐ、俺の背後、というか足元で声がした。

「神社の坊主か」
「まだ喰われとらんと見える」
「てて親にくらべるとフツウじゃの」
「生意気じゃ。一人前にシズク殿に見惚れおって」
 
 声の方を振り向こうとした時、何か小さな犬のようなものが膝の間を通ったので、俺はバランスを崩してしまった。そこへ何かが上から頭を押し付けるようにのしかかって来たものだから、石の土間に倒れてしたたかに頭を打った。後は闇。

PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
04 2017/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター