忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

カエルの姫君(その1)


 僕が4月から通う高等学校には、アールデコのお城と森に囲まれた湖沼群がある。
 アールデコのお城は文化財指定の私立図書館で、生徒以外にも開放されている。高い天井まで届く細長い窓が並んでいて、磨きこまれた木の床に午後の日差しが差し込む閲覧室は僕のお気に入りの場所だ。新刊なんかは無いけれど、いろんな文学全集やカラーの木版画図版のたくさん入った大型の博物学図鑑、地域の歴史書がそろっていて何時間でも過ごせる。閲覧室から続く別棟には、お弁当を食べていいラウンジがあって、凝った組木模様の床にアンティークなテーブルや椅子が並んでいる。今時の視聴覚ライブラリなんて無いから、いつもひっそりして静かだ。
高等学校は200年の歴史があるらしい。木がみんな大きく育っていて、真夏でも涼しい影を作っているし、ちょっとした植物園並みに珍しい樹種がそろっている。今は名残のロウバイといろんな品種のツバキ。正門に続く表側の校庭を囲んで、樹齢100年近いような立派なソメイヨシノが並んでいて、今を盛りに咲いている。図書館に続く庭園には、桜目当ての人々がそぞろ歩いているけど、芝生は宴会禁止なのでやっぱり静かだ。小さい子供や犬を連れた家族連れが、芝生のベンチでのんびりしている。

 図書館の北側に大小いくつかの池とそれをつなぐ水路があって、大きな木々の下でひっそり綺麗な水が流れている。薄暗いせいか、図書館を利用する人や花見客もめったにこちらまで来ない。ここはいつも鳥の声がして、生き物の気配がある。もともとは大きな湖とそこに流れ込む川があったそうだ。地層が隆起したり、一部は埋め立てられたり、水路をところどころ暗渠にして公園を整備したりして、今の景観になったらしい。そのせいか、この辺り一帯はいつも水の匂いがする。
 高校に合格してから、僕は自転車でせっせとこの森に通っていた。双眼鏡で野鳥を観察したり、図鑑を持ち込んで樹の種類を調べたり。本当は池にタモ網を入れたり、胴長で水に入って水の生き物を調べてみたかった。僕は両生類に目がないのだ。
 ここなら数種類、サンショウウオが住んでておかしくない。もしかしたらヒダサンショウウオやブチサンショウウオがいるかもしれない。
 去年、この学校の文化祭で科学部の展示を見た。この森のカエル類の研究発表で、シュレーゲルアオガエルの他にモリアオガエルも産卵するらしい。ナゴヤダルマガエルもいるし、渓流に済むタゴガエルも観察できたらしい。この高校に合格できたら絶対に科学部に入って両生類の研究をするんだ、とその頃から決めていた。入部すれば堂々と池に入れる。

 来週には入学式という春休みのある日、僕はやっぱり高校の裏の池に来ていた。まだここの生徒じゃないから校庭には入れない。でも図書館から続く公園と池を囲む森は一般市民も出入り自由なのだ。薄曇りで、何となく雨の予感があった。森に入る前から、いちだんと強く水の匂いを感じた。そして森の方からルルルルル、リリー、リリリーンという鳴き声が聞こえる。
 何の声だろう。野鳥にこんな声の鳥はいない。アカショウビンの声は聞いたことあるけど、ぜんぜん違う。虫かな。アオマツムシにはシーズンが違うし、こんな森より街路樹なんかで鳴きそうだ。カジカガエルに近い。でもこんな池にカジカガエルがいるだろうか。

 僕は早る気持ちを押さえて、池にそっと向かった。物音を立てたら鳴き止んでしまうかもしれない。もしかしたら逃げてしまうかも。水域を囲むニシキギの生垣の切れ目から、ガサガサ音を立てないようにこっそり近づいて、ヤマモモの影から池の方を覗いてみた。
 一番北側の、湧水が出ている池の辺りがぼんやり光っていた。その辺りは一番木が茂っていて、昼間でも薄暗い。湧水の横に小さな石の祠があってちょっと不気味な感じだ。ぽおっと丸いグレープフルーツぐらいの光る塊が水面からいくつも浮かび上がって来た。ホタルじゃない。あんな黄緑の光じゃなくて、青白い光が時々黄色っぽく強くなって明滅している。これは何て生き物だろう。この生き物がルルルルーと鳴いているのだ。でもその生き物は光の中にいて輪郭がよく見えない。
 ルリリールルルルリーと鳴きながら、青白い光の玉がふわっと水面から空中に浮かんだ。水面に近づいたり遠ざかったりしながら、7つほどの光が飛び交っている。

 こんな生き物、見たことがない。
 僕は身動きもできず、息を潜めてその光を見つめ続けていた。もしかして世紀の大発見かもしれない。あるいは。
 普通の生き物じゃないのかもしれない。火の玉や狐火みたいな。鬼火というのも聞いたことがある。でも不思議と怖いとも思わなかった。綺麗だし、声も可愛い。もっと近くで見てみたいけど、近づいたらきっと逃げてしまう。

 どのぐらいの時間、そうしていただろう。いつの間にか、日が傾いて、春の青い夕闇が近づいていた。生き物が活発になる時間だ。水路の続く南の方の池では、野鳥の声が盛んに聞こえ始めた。ヒヨドリにシジュウカラ、メジロ。芝生の方の潅木ではホオジロが鳴いている。なのに、この北の橋の池では、青白い光以外、生き物の気配が無い。ここだけ違う時間が流れているみたいだ。

 池の周りはますます薄暗くなって、光が強く見えるようになって来た。あまり集中して凝視していたので、目が疲れてチラチラして来た。しばらく目を閉じて目尻やこめかみをぐりぐり指でほぐしてみた。視線を戻すと、一段と池が暗く見えた。ぱちぱち瞬きしてじっと目を凝らすと、祠の横に女の人が立っていて、僕はぎくりとした。
 いつの間に来たんだろう。
 肩に届くまっすぐな髪。水色の膝丈のワンピースを着ている。白い顔。人間だろうか。幽霊かもしれない。ふわふわ飛び交う光をまといつかせて、静かに水面を見つめている。よく見ると両手に何本か木の枝を持っていた。何をしているんだろう。時々、梢の鳥でも探しているように視線を上げて、何かの音に耳をすますようにじっと立っていたと思うと、数歩歩いて、今度は違う方向にじっと集中している。何か探しているのだろうか。光る生き物はいっそう明るく明滅して、リリリリリーと鳴きながら女の人の顔の周りを飛び回っている。

「しーっ。ジャマしないで。静かにして」
 また何歩か歩いて立ち止まる。ちょっとうなずいて、手に持っていた枝を地面に刺した。そこからまたしばらく歩いて、ゆっくり耳をすまして枝を刺す。そうして池を囲むように5本の枝を刺した。
 光の球はその枝から枝へ、バレーのトスのようにポーンポーンと飛び交って対角線を描いている。その輪の中に、女の人は静かに入って中心に立つ。
 何が始まるんだろう。僕はドキドキしていつの間にか両手のこぶしを握っていた。

 光がさらに強くなって、シルエットのように生き物の輪郭が見えた。
 長いしっぽ。太い胴体に丸い頭。短い足には指が4、5本生えているようだ。まるで水中にいるように空間をにょろにょろのたくりながら、器用に宙を泳いでいる。オオサンショウウオが飛んでいるようだ。でも黒くない。光に透ける身体。青白いようで、薄緑のようで。まるで水をオオサンショウウオの形に丸めたみたいだ。

 女の人は右手に鈴を持っていた。短い柄の上に三段で金色の鈴がついている。柄から長いリボンが垂れていて、それを左手にまとめて握っている。神社でお神楽を見たとき、巫女さんがこういう鈴を振っていた気がする。
 不思議なことに、その鈴はチリンとも言わない。
 まるで鈴の音の代わりのように、光の玉がリリーンリリーンと高い声で鳴いている。

 左手に握っていたリボンをさらりと離すと、代わりにワンピースの腰のベルトに刺していた緑の葉がついた枝を持った。それを扇子のように、ゆるやかに顔の前を動かしてまるで舞っているように左右にひらひらと動かしている。
 光がますます明るくなって、女の人は金色のドームの中心に立っているようだ。身体の周り全体が金の光に包まれている。リリーリリリリーという声が大きく響いた。
 左右の腕を広げて、ゆっくりと金色の空間で舞っていたと思うと、彼女がくるりと身体の向きを変えて、まっすぐにこちらを見た。

 僕はびっくりして固まってしまった。
 目が合った、と思った。そしてすぐに、彼女はこっちを見ていないと気づいた。両目を大きく見開いているけど、ここではないどこかを見つめている。その瞳が緑に光った。
 シャン、シャンシャン。
 初めて鈴の音が聞こえた。鈴を持った右手を頭上に。四色のリボンが揺れる。左手の枝も大きな弧を描きながら頭上へ。そしてまたくるりと身体の向きを変えて池の方に向き直った。
 シャン、シャンシャン。
 そうして順番に、地面に刺した枝の方に向きを変えて舞っているのだと気づいた。
 サンショウウオのリリリーという声が今はひと続きにリリリリリリリと甲高く響いて、耳が痛いほどだ。光がまぶしい。目がくらむ。
 最後に彼女が左手にリボンを持って、両手を頭上に掲げた時、まるで星が爆発したように、辺りが強い光に包まれた。

 そして、光が消えた。光の玉も消えた。
 水辺は、闇に包まれた。

 女の人は、公園に降りた青い夕闇よりも一層深い暗闇の中にしばらくじっと立っていた。そして、ひとつ、大きく深呼吸した。
 屈んで、足元に置いてあったらしい巾着袋のようなものに鈴をしまうのが、闇を通してぼんやり見えた。彼女と一緒に僕も大きく息をついた。緊張が解けてちょっと目眩がした。バランスを崩してたたらを踏んでしまい、ガサッと茂みで音を立ててしまった。

 今度こそ、彼女と目があった。屈んだ姿勢のまま、まっすぐにこちらに顔を上げた。

「ご、ごめん。ジャマするつもりはなかったんだ」
 彼女は何も言わない。
「僕、春からそこの生徒で、それで、生き物が好きだから、ここの森でサンショウウオを探すつもりだったんだ」
 僕は慌てて言い訳をした。サンショウウオ。怪しいと思われたに違いない。

 彼女はじっとこっちを見ていたが、ひとつため息をつくと、すっと立ち上がった。

 あれ、何だかさっきより背が小さく見える。こんな幼い感じだったっけ。色白で、目が真っ黒で大きくて、お人形みたいだ。さっきまでまっすぐに見えていた髪が、今は、ふんわりカールしている。彼女はポケットからすみれ色のリボンを出して、髪を耳の上でツインテールにまとめた。
 僕から視線をそらすと、数歩歩いてまた地面に屈んだ。さっき刺した枝を抜いて、ぽいと池の方に投げた。数歩歩いてまたぽい。

「あ、手伝うよ。暗くて見つけるの大変だろ」
 こんな暗がりでは足を取られて転ぶかもしれない。池を囲む水路に落ちたりしたら大変だ。僕は池の向こう側に走って枝を探した。
「水に流していいんだね?」
 女の子は、何も答えずこくっとうなずいた。

 何だか、枝を1本地面から抜く度に、いっそう辺りが暗くなる気がした。そういえば、池の方に来たとき漂っていた生臭い匂いが消えている。カツラの落ち葉のようなちょっと甘い香りがして、僕はまた深呼吸した。
「こっちの2本は取ったよ」
 声をかけると、女の子はまたこくっとうなずいて、池を囲む木立を抜けて開けた公園の方に出た。そしてこっちをじっと見ている。
 不審がっているんだろうな。公園の灯り始めたガス灯のような薄黄色い明かりの中で見ると、その子は小学生に見えた。9歳か、もしかしたら10歳ぐらいかもしれない。でも表情は大人びて見える。
 こんな子供を暗がりからじっと見つめていたなんて。痴漢かロリコンの変質者を思われてもおかしくない。どうしたら警戒を解いてもらえるだろう。誤解されても仕方ないけど、こんな小さい子が怯えて緊張しているのは可哀想だ。それに、さっきの舞は、本当は他人に見られたら困るものだったのかもしれない。

「僕、正田克昭。さっきもいったけど、4月から飛鳥高校の1年生。君、近所の子?」
 女の子は、しばらく黙ってこっちを見ていたが、ちょっとくぐもった声で名前を言った。
「織居桐花……です。桐の花と書いてキリカ」
 いい名前だね、と言おうかと思ったけど、ますますロリコン臭く聞こえるかもしれない。僕は黙ってうなずいた。
「ええと。さっきの、僕何かジャマしたかな。何か台無しにしなかった?」
 女の子は、しばらくまたじっとこっちを見つめていた。
「何か、見えた?」
 警戒するように聞いてくる。
「ええと。何か、オオサンショウウオみたいな生き物が光って、飛んでて、君が綺麗に踊ってた」
 女の子は、ふうーっと大きく息をついた。どうやら困らせたらしい。やっぱり僕は見ちゃいけなかったようだ。
「誰にも言わない。約束する。何か、困ることなんだろ?」
 女の子は、またふうーっとため息をついた。

「おい! お前、何してんだ。キリに何か用か?」
 図書館の方から声がして、あっという間にこちらに駆けて来た。銀色の髪にうすい金色の目。一見、女の子みたいに整った顔だが、声は男だ。背は僕よりちょっと小さい。
「トンちゃん!」
 女の子は、少年の方に駆け寄ると、その後ろに隠れた。そうして2人してこっちをじっと見つめている。むむむ。これじゃあ、僕が悪者だ。でも確かに困らせてしまったのなら、謝らないといけない。
「ごめん。のぞくつもりはなかったんだけど。この子が池の傍で踊ってるのを、偶然見ちゃって」
 少年はジロジロこちらをにらんでいる。
「踊ってるのを見たって?」
「うん。鈴が鳴って、サンショウウオが鳴いてて。それで、ええと、綺麗だった」
 言いながら、ちょっと照れてしまった。

 そうだ。綺麗だった。女の子は、もっと大きな女性に見えた。泉の女神さまがひっそり舞っているのかと思った。それで目を逸らせなくて、じっと隠れて見守ってしまったのだ。

「桐花」
「でも、ちゃんと枝を挿したし、その外側もぐるりと足踏みして結界張ったのよ?」
「ふうーん」
 少女は訴えるように少年に説明して、少年はまたこっちをじろじろ見ている。

「僕、正田克昭。春からそこの学校だ」
 もう一度言ってみた。少年はえ、と言う顔をしてちょっとだけ警戒を解いたようだ。
「俺もだ。春からそこの生徒。俺は織居鳶之介」
 なるほど、それでトンちゃんなのか。でも少年は、”トンちゃんと呼ぶなよ”というように、こっちをじろっとにらみつける。

「ちょっと試してみよう」
 少年は池の方に向き直ると、ピューイイッと強くひと吹き、口笛を鳴らした。するとまた池が光って水面からふわっと光の玉が浮き上がると、一直線にこちらに飛んで来た。今度は3つ。街灯とはいえ、さっきよりだいぶ明るい場所なので、今度ははっきり形が見える。やっぱりオオサンショウウオみたいだ。小さな黒い目が、大きな口の両側にあって何とも愛嬌があって可愛い。ルルルルというカジカガエルのような声も可愛い。
「すごい。可愛いね。口笛で呼べるの? 僕もできるかな」
 下手くそな口笛をヒュルウッと何とか鳴らすと、3つの光がこちらに寄って来た。
「触って大丈夫? 怖がるかな?」
「大丈夫。触ってみれば」
 少女が初めて警戒をゆるめた声で言った。
「へええ。冷たい。くず餅みたいな感じかと思ったらけっこう固い。でもツルツルで気持ちいい」
 珍しい生き物を間近で観察できて、僕はすっかりうれしくなってしまった。少年はニヤニヤしながらこっちを見ているし、女の子は困ったような顔をしながらそれでも曖昧に笑っている。
「ふーん。つまり、こいつ、そういう質なんだな」
「質って?」
 僕は聞き返す。
「お前、見たことないか? 幽霊とか妖怪とか」
 少年はニヤニヤ尋ねる。
「うーん。幽霊ははっきり見たことないけど、でも何かいるかなって感じるところには寄らないようにしてるし、古い物とか、時々触るの怖い時がある」
「なるほど。もともとそういう素質があって、桐の舞を見て目覚めちゃったか」
 女の子はまだ困ったような顔をしている。

「ごめん。何かまずかった?」
 僕は女の子を困らせたくなくて、聞いてみる。
「今更遅い。いっぺん見えてしまったら、よっぽどのことが無いと見えないようにならない」
 少年が代わりに答える。
「ええと。僕、両生類が好きで、この池で生き物を探したかったんだ。入学したら絶対に科学部に入ろうと決めてて。でもこれから、僕がこの池に来ると困る?」
「この池は公共の場所なんだから、来るななんて言えない」
 少年は淡々と言う。
「でも、科学部が生物やるのは去年までって聞いたぜ? 今年から3年は物理の先生が顧問だ。3年ごとに変わるんだってさ」
「えええええっ」
 僕があまりにがっかりしたせいだろうか。少年はぷっと軽く吹き出した。
「運動部と文化部、ひとつずつ所属しろって書いてあったから、科学部と弓道に入るつもりだったのに」
 僕がつぶやくように言うと、少年はへえっという顔をした。
「俺も弓道だ。家に道場あるから、あんまり部活に出る予定じゃないけど」
「家で弓引けるなんてすごいね。お父さんが弓の先生か何かなの?」
「いや。うちが神社で、神事とかで必要だから5歳から引いてる」 
「へええ。僕は9歳で始めた」
「ふうん」
 少年は、やっぱりこっちをジロジロ見ていたが、急に尋問は終わり、というように図書館の方を振り返った。

「もう日が暮れた。俺たち、帰らないと」
 僕は慌てて腕時計を見た。もう7時近い。
「ごめん。僕も帰らないと」
「いろいろ質問あるだろうけど、今度な」
「うん。でも二つ教えて」
 少年はまたじろっと睨む。小柄なのに何だか迫力というか存在感あるなあ。神社の子だからだろうか。
「何だ」
 変な質問したら、また警戒されるかもしれない。僕は慎重に言葉を選んだ。
「この生き物の名前、何?」
 僕は腕を伸ばして透明なサンショウウオをあやしながら聞いた。
「俺たちは、ホタルって呼んでる」
「へええ。ホタルかあ。うん、何かぴったり。水好きそうだし」
「もうひとつの質問は?」
 こんなこと、聞いたら怒るかな。でも織居くん、だと桐花ちゃんのことと混同しそうだし。
「ええと。君のこと、何て呼べばいい?」
 
 少年は今度ははっきりニヤッと笑った。ちょっと口を歪めるような、斜めな笑顔だけど、これはやっぱり笑ってるんだと思う。
「銀、と呼ばれてる」
「ああ。髪が銀色だもんね。銀ちゃん、4月からよろしく」
 銀ちゃんは、ちょっと面食らったような顔をしたが、またニヤッと笑った。
「うん。4月にな」
 そうして、口笛を細く長くリーと鳴らした。ホタルたちはにょろにょろ池に帰って行った。
「桐花ちゃんもよろしく。またどっかで会えるかな?」
 僕はちょっと屈んで女の子の方に挨拶した。すると、途端に銀ちゃんの態度が硬化した。
「お前、妹に手を出すな。ロリコンか」
「ち、違うよ。でも銀ちゃんより前に桐ちゃんに会ったわけだし」
「桐ちゃんとか言うな。桐、もう帰るぞ。あいつには近づくなよ。ロリコンだぞ」
 銀ちゃんは、桐ちゃんの腕を掴んで図書館の自転車置き場の方に歩き出した。

 引っ張られながら、桐ちゃんはこちらを振り返った。まだちょっと困ったような顔をしている。
「克昭さん、さようなら。おやすみなさい」
 ぺこっと頭を下げた。ずいぶん、行儀のいい子らしい。
「うん、さよなら。またね」
 僕は手を振った。
「桐、行くぞ。いいか、あいつには気をつけろ。桐は可愛いんだからな。男はオオカミだぞ。だいたい池に行く時は俺を呼べって言っただろ」
「でも」
 2人の会話がだいぶん遠ざかっても、まだ銀ちゃんが小言を言う声が聞こえていた。妹がよっぽど可愛いらしい。無理もない。確かに、桐ちゃん、可愛いもんな。ホタルも可愛いし、それに銀ちゃんも可愛い。
 新学期が楽しみになって来た。科学部がテーマ変更したのはがっかりだけど、弓道部は楽しくなりそうだ。池にまた行っていいのなら、サンショウウオを探せるかもしれない。それにもしかしたらまたホタルに会えるかも。
 僕はこっそりまた下手くそな口笛を吹いてみた。でも今度はホタルは来なかった。僕はそのまま口笛を練習しながら家に帰った。
PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
03 2017/04 05
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター