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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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カエルの姫君(その2)


 休み時間というのに、教室の中は静かだった。今日の午後、物理のテストがあるからだ。
 中間テストにはまだ早いが、高校に入って初めて遭遇した運動方程式というものにあまりに僕らが呆然として全面降伏状態だったもので、物理の先生が業を煮やしてテストと相成った。お茶の水先生は、飛鳥高校の名物だ。大きな丸い鼻にもじゃもじゃ白髪。額は禿げ上がっていて、後頭部に残った白髪がもじゃもじゃと耳の後ろに鳥の巣を作っている。お茶の水先生のテストは”わんこテスト”と呼ばれていて、B6の紙に1問しか書いてない。できたら手を上げると次の問題が来る。回収したテストが間違っているとやり直し。最終的に何問目までクリアしたか、が評価になるわけだ。
 定期試験じゃないから内申書に関係ないぞーと言われたが、進学校の生徒はみんなどんなテストでも赤点を取りたくない面々ばかりだ。みんな思い思いに教科書や問題集にかがみ込んで、ブツブツ勉強している。そんな中で、僕の席の周りに座る3人は異色だった。

 僕の席は窓際だ。中庭の池と木立が見えて、お気に入りの席である。余った椅子を持って来て僕の机にノートを広げているのは、1学年上の身体の大きな先輩だ。
「石元さん、こんなところで勉強しないでください。僕ら、テストあるんですよ」
「俺らやてテストあるんや。1年のテストと2年のテストは重みが段違いやんか。一緒にすな」
「だったらちゃんと教室で勉強したらいいでしょ」
「見捨てるなや、克昭。薄情なやっちゃな」
「1年坊主に習いに来ないでくださいよ」
 もちろん僕は2年生に数学なんか教えられない。石元さんが助けを求めたい人間は、2人とも忙しくて相手をしてくれないものだから、僕に絡んでいるのだ。その2人とも窓際の列。僕の前後に縦に並んでいる席だ。

「おい、トンすけ」
「トンすけ言うな」
 決まり文句の応酬をした後、僕の後ろの席のトンちゃんこと織居鳶之介は不思議な記号の並んだ紙から目を離さず、ブツブツ言いながらmp3プレーヤーのイヤホンから聞こえる謎の音楽に集中している。
「中間で赤点やったら補習確定なんや。俺、主将なのに」
 身長182cmのバスケ部主将が情けない声を出して、身長163cmの1年生に泣きついている。
「弘平が学期最初の試験で赤点4つも取るからやろ」
 トンちゃん改め銀ちゃんは、幼馴染の先輩にため口である。どうやら石元さんの高校受験も1年次の勉強も、ずっと面倒みていたらしいのだ。僕らと話す時には出ない方言が、この先輩相手にはぽんぽん出て来る。
「中間なんかまだ先やんか。俺のはこれ、今日本番やもん」
 銀ちゃんは由緒ある神社の息子で、笛の名手。他所の神社のお神楽や儀式にも引っ張りだこらしい。
「初めて出るとこなの?」
「なんか、50年に一度の祭りらしくてさ。そんならもっと早く言っといて欲しいよな」
 銀ちゃんの笛の音には特別なパワーがあるらしく、こんな風に頼りにされているようなのだ。
「去年からこんな話ばっかりだよ。異常気象だの地震だの、誰それが行方不明だの、謎の風土病だの、とにかく心配でうちの神社に相談に来る。普段は毛嫌いしてるくせにさ」

 行方不明。その言葉に僕と石元さんと銀ちゃんの視線は、前の席ですうすう眠っている月城豊に集まった。クラスのほとんどの生徒は知らないことだが、豊くんは去年行方不明になっていて、今年、もう一度僕らと同じ1年生をやっている、つまり留年生なのだ。入学最初の試験で学年トップを取ったので、当然クラス委員長に任命されるところなのに、留年生だからと免除された。このクラスで成績2番手が、甘える石元さんをケンケンいなしている銀ちゃん。彼の場合、家業が忙しくてしょっちゅう休むので、これも委員長を免れた。
 というわけで、現在クラス委員長の井堰くんは僕の前後の2人に風当たり厳しい。
「おい。飼育係。シロシロコンビをテストまで逃がすなよ。再試とかになったら面倒だ」
 飼育係とは僕のこと。シロシロコンビとは、銀ちゃんと豊くんのことである。銀ちゃんはほとんど白に近い銀色の髪。豊くんは少し虹色がかった不思議な透明感のある白い髪。どういうわけか、入学当初からこの成績優秀だけど浮世離れした2人の問題児と縁があって飼育係に任命された。
「豊あー、ここ、ちょっと見てんか。これ、どうなっとんねん」
 石元さんは豊くんをむりやり起こして、自分のプリントを見せている。豊くんは半分寝ぼけながら、スラスラ2年生の基礎解析を解き始めた。あっという間に全問片付けて、またすうすう眠ってしまった。
「トンすけー」
「トンすけ言うな。コロッケおごれよ」
「メンチカツも、豚バラ串もつける」
 肉屋の石元さんの報酬に負けて、銀ちゃんは豊くんの解答を解説し始めた。
「ほー、なるほどなー」
「この演習問題、ここんとこ、同じ定理やろ。ちょお解いてみ」
 石元さんに宿題を出して、やれやれ静かになった、とまたお囃子の勉強に戻る。僕の前の席では豊くんが気持ちよさそうに寝息を立てている。まったく変な連中と仲間になったものだ。

 図書館はアールデコなのに、校舎は素っ気ない鉄筋コンクリート。以前は図書館と同じレトロな建物だったのに、耐震構造が不十分ということで20年ほど前に建て替えになったそうだ。
 僕は結局、科学部はあきらめて弓道部と図書部を選んだ。図書部というのは図書館の運営を手伝う図書委員とは違う。図書館の蔵書を研究したり紹介したりする部らしい。蔵書の小説から脚本を起こして劇にした代もあったそうだし、広報誌や新聞を作ってもいい。けっこう自由な分、熱心な部員が少ないと有名無実になりやすい。僕はとにかく図書館にいられればそれで良かった。
 科学部は銀ちゃんの言った通り、今年から3年間物理テーマらしい。物理の好きな銀ちゃんは科学部と弓道部に登録した。でも僕が見ている限り、ユニホームだのコロッケだの、報酬に釣られていろんな運動部の手伝いに行っているようだ。一番引っ張り出されているのは、石元さんが主将をしているバスケ部。他に陸上や水泳にも数が揃わない時に、大会に駆り出されている。何せ進学校なので、名前だけ所属している幽霊部員ばかりなのだ。豊くんは、もちろん石元さんに引きずられてバスケ部。そして図書部。もちろん閲覧室でも書庫でも、その時一番日当たりのいいところで丸まって猫のように寝ている。そのくせ、書架のどこに何の本があるか図書委員より把握しているし、とんでもない本の内容をさらっと教えてくれる。髪の色のように不思議なコだ。石元さんは幼稚園の頃から豊くんと仲良しらしい。

 桐ちゃんとは思いのほか早く再会できた。桐ちゃんは飛鳥高校附属図書館の常連なのだ。大型の図版がぎっしりついた博物学の図鑑や版画集をよく見ている。図書室で会うと声をかけるようにしているが、桐ちゃんの方は挨拶を返してくれるものの、やっぱり警戒している。出会いが悪かったから仕方ない。
 ある時、重い版画集を3冊も運ぼうとしていたので、思わず「手伝うよ」と本に手をかけた。
「あ」と声を出して、それからうつむいて、「あの」と少し逡巡した後、ぼそっと「ありがとうございます」と言った。何だかかえって悪いことしたような気分になってしまった。
「書架に返すの?」
「はい。禁帯出なので」
「この間もこの、魚の巻と貝の巻、見てなかった?」
 桐ちゃんは、しばらく言葉に詰まった。しまった。ますます警戒されたか。
「禁帯出なので」
「そっか。でも好きな本を居心地いい場所で読めるっていいよね。ここの閲覧室、気持ちよくて好きなんだ」
「そう……ですね。私も」
 言葉を切ったので、”私もここが好きです”と続くのかと思った。ところが、ぽつんと
「ここにいると、いろいろ忘れられます」
と言う。小学1年生の子が、こんな悲しいこと言うなんて。僕は何と返していいかわからない。
 桐ちゃんははっと顔を上げた。話し過ぎた、という表情。
「あ、ええと。珍しい本がいっぱいあるから。何だか外国みたいで」
 珍しく笑顔を見せてごまかそうとしているのも痛々しい。
「外国……行ってみたい? 行ったことある? どこ行きたい?」
 僕も追求するのが可哀想で、話題を変えた。

「私と桐はね、パスポートに入国スタンプが12あるのよ。カナダとイギリス、フランス、スイス、イタリアには3回、クロアチアに3回。ルクセンブルクもオーストリアも行ったわ」
 僕たちの後ろに桐ちゃんとお揃いの制服を来た女の子が仁王立ちしていた。僕はいつも桐ちゃんの護衛に警戒される立場らしい。
「みっちゃん。ピアノ終わったの?」
「うん。それで、あんた誰」
 仁王立ちしている小学生は、桐ちゃんとは違うタイプの美少女だった。桐ちゃんと同様、一見中学生か高校生でも通用しそうに大人びた雰囲気。でも純和風に黒髪黒い瞳の桐ちゃんと対照的に、真っ白な髪に朱色の目。ヨーロッパ風の顔立ちだった。
「僕? 正田克昭。銀ちゃんと豊くんと同じクラスなんだ」
「へえ。トンスケの」
 女の子は容赦なく僕をジロジロ見ている。
「克昭さん。この子、従姉妹なんです。同い年で、名前は佐伯魅月」
 桐ちゃんが説明してくれた。
「それでみっちゃんなのか」
「そうよ。ついでに言うとイタリアのクォーターで、この髪と目は父親に瓜二つ。だから自慢なの。何か質問ある?」
「ふうん。綺麗だね。銀ちゃんとも豊くんとも違う色」
 みっちゃんは、僕の間抜けな感想に毒気を抜かれたようだ。
「ピアノ弾けるの?」
 ”何か質問ある?”と言われたので質問してみた。
「4歳からやってるの。今は2声のインベンションよ」
 鼻息荒く言われたが、僕にはよくわからない。
「英語とイタリア語は日常会話レベルよ。今、フランス語習ってるの」
 今度はさすがの僕でもわかった。
「すごいなあ。どこでも行けるね」
「桐と世界征服するの」

 何だか初対面の女の子に張り合われている気がする。何に対してライバル意識を持たれてるんだろう。僕は日本語も怪しいし、辛うじて音符が読めるレベルだ。

 桐ちゃんの方を見ると、何だか困った顔をしていた。僕はどうやらいつも桐ちゃんを困らせてしまうらしい。
「桐ちゃんもピアノ弾くの?」
「あ。え、はい。みっちゃんとか母に習って。簡単な曲だけです。でもピアノの音が好きで」
「そっかあ。銀ちゃんも笛うまいし、いいね、みんなで音楽できて」
「え。あ、はい。そうです」
 うつむきながらも、自分のことを話してくれるのがうれしい。でもやっぱり困っているようだ。思わずニコニコしてしまった僕の顔を、みっちゃんがジロジロ睨んでいる。

 こんな感じで、みっちゃんや銀ちゃんは、僕が桐ちゃんに馴れ馴れしくしないように保護者意識むき出しでガードしてくる。銀ちゃんは教室では普通なのに、桐ちゃんが間に入ると途端に僕に厳しくなる。そして桐ちゃんはいつも困っていて、なかなか警戒を解いてくれない。

 ホタルにもあれ以来会えない。朝、学校に来て教室に入る前、それから放課後に図書館か弓道場に行く前と後、一日三回、あの北側の池をのぞくのが日課になってしまった。時折、リリリーという声を聞いたような気もするけど、光る球を見ることはなかった。桐ちゃんがいる時に居合わせたらまた見れるだろうと思うけど、また困らせたくないので、池に近づく前に周囲に桐ちゃんがいないことをよく確認する癖もついた。

 あの日みた、あの踊りの意味もまだ聞いていない。桐ちゃんから話してくれない限りは、僕から聞かないと決めた。あれはやっぱり僕なんかが見てはいけない、何か大事な意味のある踊りだったに違いないからだ。
 
 中間テスト前で部活休みになった日、シロシロコンビが2人そろって休んだ。クラス委員長の井堰くんが、僕に試験範囲や試験の注意事項なんかを書いたプリントを2枚押し付けた。
「飼育係。あいつらに渡しといてくれ」
「え。どこに届ければいいの?」
「あの人に聞けよ」
 井堰くんがくい、と親指を曲げた先に石元さんがいた。

「あいつら、薄情なやっちゃな。俺が赤点取って補習になってもええっちゅうんか」
 石元さんがブツブツ言いながら僕のクエストに付き合ってくれた。あの2人にテスト勉強を手伝わせるつもりだったらしい。石元さんが徒歩なので、僕もチャリを押しながら並んで歩いた。
「家、近所なんですか?」
「ああ。俺と豊は同じ商店街で、トンスケの神社の参道沿いなんだ。徒歩15分」
 高校から石元肉店まで徒歩20分。そこからまず2辻向こうの豊くんの骨董店に行ってみた。店のガラス戸が閉まっていて、中は真っ暗だ。豊くんはこんな風に時々ふらっと学校を休む。そんな時はメールにもチャットにも出ない。
「ま、トンスケは確実や。神社行こ」
 参道を歩き出す前に、石元肉店に戻って揚げ立てのコロッケをひとつずつもらった。絶品だ。歩きながらはふはふ食べる。

 銀ちゃんのうち、住吉神社は小高い丘の上にある。商店街からなだらかな坂道を上って、さらに72段の石段を登らないといけない。参道からお社の赤い鳥居が一直線に見えている。この町はあの杜に守られてるんだな、と素直に納得してしまう地形である。
 石段は真新しい白い石の部分と、割れてて黄色いテープやポールで”足元注意”と囲ってある部分とでまだらになっていた。

「去年、地震あったやんか。これ、そん時割れたんや。上から下まで真っ二つに」
 石元さんがぽつんと言った。
「去年の夏休みの?」
「それや」
 その地震ならよく覚えている。停電が丸一日続いて、暑い盛りだから病院のエアコンが動かなくて、重態になった赤ちゃんやお爺ちゃんがいたのだ。あの時、夜空が光った。音のない、雷みたいに空から地面に一直線に太い光の柱が走った。その直後にズズン、と揺れて電気が消えた。
 あんなに強い光だったのに、家族は誰も見ていないと言う。不思議だったがそれどころじゃなくて、忘れていた。あれは不思議な地震だった。活断層なんかで予想されていた地域と何の関係もなく、まるで地下で爆弾でも爆発させたかのような、突発的な揺れだったそうだ。
「豊な、あの地震の後、ふいといなくなったんや。そのまま、春まで帰って来なくて留年扱いになった」
「地震と何か、関係があった……?」
「わからん。あいつ、何も言わんし。説明されても、俺アホやからわからんかもしらんし」
「……」
 石元さんは、どういうわけかあったばかりの僕に豊くんのことをいろいろ話してくれる。信用してくれてるのだろうか。
「克昭、お前、トンスケとか桐ちゃんと仲ええやんか。豊も何かお前に懐いとるやろ」
 懐いているというんだろうか。豊くんは割と誰とでもすぐ仲良くなる方だと思うんだけど。でも、そうだ。豊くんには、人に絶対踏み込ませない、何か秘密の部分がある。触ってはいけない場所がある。付き合いの浅い僕でもそれがわかった。石元さんは、勉強教えろとか弁当寄越せとかダメな先輩の振りをして僕らの教室に押しかけながら、いつも本当は豊くんを心配して見に来ているのだ。豊くんがまた消えてしまわないように。
「あいつ、猫みたいなもんでな。ピリピリ怖いとこには絶対寄らん。お前は生まれつき、飼育係みたいやな。動物とか子供に警戒されんやろ」
 確かに動物には懐かれやすいかも。野鳥とかトンボとか、よく止まられるし。でも桐ちゃんにはなかなか警戒を解いてもらえないけど。
「僕に……何かでいると思います? 豊くんとか桐ちゃんのために?」
 石元さんは、何だかぼんやりした表情でこちらを見た。こんな顔、初めて見たかも。いつも調子良くて陽気な先輩なのに。
「何もせんでええ。ただ一緒におったってくれ」
「……」
「俺には何もわからんけど、何かが起こっとんやと思う」
「何か?」
「ようわからんけど、人に説明できん、何かおかしなことが、この町にはずっとあんのや。トンスケのうちの人とか、豊は、そのようわからん事情に振り回されとる」
「それが、あの2人がよく学校を休み理由?」
「わからん。そうかもしらんし、そうやないんかもしらん」
 
 石段の途中で立ち止まって、石元さんは商店街の方を振り返った。
「この参道周りの人間は、子供の頃からようこの神社のこと聞いて育つんや。お前はどうや?」
「僕は……ちょっと離れた校区だったし……」
 でもこの神社のことは知っていた。天狗が出る山だと聞いていた。そして牛若丸が住んでるって。弓と笛の上手な牛若丸が、あんな可愛い顔してて、可愛い妹とか変な友達とか変な先輩がいるとは知らなかったけど。
「この先、何か変なもん見たり、何かけったいな話聞いたりしても、あいつらと……一緒におったって欲しいんや」
 変なものなら、もう見た。けったいな話も、実を言うとすでにいろんなところから聞いた。
「石元さん」
 言いにくいことを頼むように、言葉を選んで話す先輩に、僕はまっすぐ向き直った。
「僕、今のクラス、気に入ってるんです。高校の建物も、先生とか、図書館とか、池とか、全部気に入ってるんです。銀ちゃんも、豊くんも」
 それに桐ちゃんも。
 どういう事情にどんな風に巻き込まれて翻弄されているのか、まだわからない。でもこの町には、何か不思議なことがある。
「ついでに先輩も。一緒にいて、楽しいです」
 うん。不謹慎かもしれないけど、楽しい。僕はわくわくしてる。少し怖い部分もあるけど、ビビって遠ざかるには、この新しい仲間は魅力的過ぎる。
「だから、まだ事情はわからないけど、できるだけ味方になりたいです。銀ちゃんとか豊くんの」
 石元さんが、ほっとした表情をしたのがわかった。お調子者のようで、いろんな気遣いをしている人なのだ。
「ほうか」
 ニカッと笑って、僕の背中をどしんと叩いた。
「ほんなら、またコロッケおごったる」
「ありがとうございます。これ、ほんと、美味いですね」
「ほやろ。あいつらにも食べさせたろ」
「20個も?」
 石元さんの胸元にはホカホカまだ温かいコロッケの紙包みがある。
「あっという間や。トンスケのとこは大所帯やし、試験勉強するなら夜食も要るやろ?」
 けろっといつもの先輩に戻って、ケラケラ笑っている。それにしても。
「先輩、豊くんのこと、大事なんですね」
「へ?」
「すごく心配してるし、いつも気にかけてるんでしょ」
 友情というより、お姫様を守る騎士みたいだ。でもそう指摘するとイヤがられるだろうな。
「あいつ、親がめったに家におらんし、何か変な家やし、祖父さんも変やし、俺とか岩木先輩とか、商店街の連中で面倒みたっとんや。トンスケんとこも、いろいろあるし、そんで面倒みたらな、思て」
「ふうん。いいなあ」
 森と池とお城のある高校に入ったおかげで、牛若丸の住んでいる変な森の風変わりなコミュニティの一員にされてしまったらしい。まあ、楽しいからいいや。桐ちゃんと仲良くなるにはもう少し時間がかかりそうだけど。

 石段の天辺に着いた時、ちょうど大鳥居から参道へ真っ直ぐにオレンジ色の太陽の道が出来ていた。銀ちゃん、神社にいるかな。豊くん、いるかな。桐ちゃんに会えるかな。クラス委員長のパシリにされた割に、僕はけっこう愉快な気持ちで鳥居をくぐったのだ。
 


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シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
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