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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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カエルの姫君(その3)


 街を見下ろす石段の天辺まで上がったらすぐ境内が広がって社殿が見えるのかと思ったら、そこは照葉樹に囲まれた前庭だった。石段から続く大きな四角い石の並んだデコボコの石畳の道。その両側に掃き清められた白砂。右手にこじんまりした家が一軒、大きなこんもり茂ったエノキの木の影に建っていた。
「あそこが銀ちゃんのうちですか?」
「いや、あっこは……」
 僕の質問に石元さんが説明しようとしたところで、照葉樹林から鶏が三羽出て来て僕らを取り囲んだ。


「あかん、こいつら全部メンドリや」
 石元さんが慌ててキョキョロしてヤブニッケイの太い枝に止まったオンドリを見つけた。
「こいつ、トンスケの友達や。トンスケに用事あんのや」
 言葉が通じるかのように、オンドリの釈明している。オンドリは二、三度首を動かして話を聞いていたが、バササッと派手な羽音を立てて僕の足元に降り立った。
「あ。ええと、正田です。あの、桐ちゃんとも知り合いです。銀ちゃんいますか?」
 僕も先輩に習ってオンドリに説明した。オンドリはコ、コココ、と鳴きながら僕と先輩の周りを一周して怪しいところがないか点検しているようだ。
「大人あにしとけよ。こいつに蹴倒されて、頭5針縫ったヤツもおるんやけ」
 声を潜めて僕に言う。このニワトリ達は、どうやら神社のセキュリティーガードらしい。そして、頭5針縫ったのは先輩本人に違いない。
「あの建物は、咲(えみ)さんの和裁教室や。お花とかお茶も教えとる。咲さんいうんは、トンスケのお祖母ちゃんや。サクヤさんも弟子で、ここで子供に教えとる。サクヤさんいうんは」
「銀ちゃんと桐ちゃんのお母さん、ですね?」
「そや」
 銀ちゃん達の会話に時々出て来るので、名前は知っていた。銀ちゃんは母親を名前で呼んでいるらしい。
「会ったら驚くで」
「そうなんですか?」
「トンスケ、ものごっついマザコンでシスコンやろ。その元凶や」
「なるほど」
「目を引く美人てわけでもないけど、なんちゅうか、麗人、て感じや」
 そんな単語が石元さんの口から出て来ると思ってなかったので、いささかびっくりした。そうだよな。この人、そういえば、うちの高校に合格したんだもんな、と失礼なことを考えた。
 和裁教室の横手から麓に下りる車道があって、その途中に駐車場や弓道場があるらしい。

 話しているうちにセキュリティチェックを合格したらしく、鶏の一団はまた森へと帰って行った。僕らのクエストは続く。石畳の終点にまた石段があって、山門を潜る。そこでもまだ本殿は見えない。
 石畳とその両側に並ぶ杉の巨木が続く参道だった。前庭とは空気が違う。シンとしている。参道の左手に、石畳から一段高くなった木の柵としめ縄に囲まれた区画があった。囲みの中心は太い切り株だった。真っ黒に炭化して、まるで化石のように見えた。大人三人の両腕でようやく囲めるほどの太さ。その幹が、大人の背丈よりちょっと上ぐらいの高さで折れて、その裂けた痛々しい断面もそのままにガラスに封じ込めたような真っ黒いツヤツヤ光る切り株になっていた。その根元から染み出した水を樋で石の手水桶に引いてあった。桶の周りに白木の柄杓が並んでいて、樋の横に”桂清水”と書いた札が立ててある。
 ハンチングをかぶった年配の男性がポリタンクを2つ並べてその水を汲んでいた。石元さんと顔見知りらしく、おう、と挨拶する。
「銀ちゃんとこに遊びに来たんか?」
「そうです。おっちゃん、それ、夕方の分?」
「ほうや。桂清水の水出し珈琲、けっこう好評でな」
 商店街の喫茶店のマスターらしい。
「この清水は2000年前から湧いとんやで。その頃はまだ桂の樹が生きとって、琵琶湖からでも見えるぐらいの大木やった」
 マスターは、珈琲の宣伝文句らしいウンチクを説明してくれた。琵琶湖から見える、は大げさにしても、これほどの切り株ならなるほど大樹だったに違いない。この湧水が綺麗な小川となって流れ下り、僕らの高校のあの池まで続いているらしい。今度珈琲飲みにおいで、と誘われた。
 桂清水のある参道の奥にお札所があり、そこからさらに石段を上がってまた山門をくぐり、ようやく社殿にたどり着いた。毎日この坂を上り下りしてたら、そりゃあ銀ちゃん、足腰強くなるなあ。僕は軽く息が切れていた。本殿から水色の袴を付けた50絡みの男性が出てきた。お供え物らしい野菜と米の載った木の台を持っている。こちらを見つけてにっこり笑って会釈してくれたので、こちらも会釈した。
「あの人が銀ちゃんのお父さん?」
「ちゃう。禰宜さんの山本さんや。トンスケの親戚らしい」
「ふうん」
 二人で話しているうちに山本さんがこちらに歩いて来た。
「こいつ、トンスケのクラスメイトで、試験のプリント届けに来たんやと」
「そうですか。銀ちゃんの」
 山本さんはまたにっこり笑った。
「あの、銀ちゃんは」
 僕が聞くと、山本さんはまたにっこり笑った。
「まだ、枝社の方にいるので、母屋の方で待たれては」
 仕事中か。なら、ジャマしたら悪いかな。
「月城豊、来てませんか?」
 先輩が聞いた。
「ああ。豊くんね。いらしてたと思いますが、まだここにいるかは」
 山本さんが首を傾げたところに、本殿の横手からドオンと音がした。そして光。まっすぐに空に続く光の太い柱。僕は去年の夏休みの地震を思い出した。思わず石元さんを振り返って、
「先輩、今の音」
と聞くと、石元さんも山本さんもきょとんとしている。
「音て?」
 去年の夏休みと同じだ。家族はあの光を見なかったという。あの後、豊くんが行方不明になった。あの時、この神社の石段が割れた。あの地震。今は音だけで揺れなかったけど。だけど。

 僕は音がした方に走った。急に走り出した僕にびっくりして、先輩と山本さんもついて来た。

 本殿の奥、太い杉の並ぶ、すでに夕闇で薄暗い一角に小さい社があった。黒い屋根に赤い柱と壁。木の階段で境内から上がれるようになっている。そのお社全体が光っていた。
 またドオンという音がして、今度は地面が揺れた。お社から涼やかな笛の音。
「銀ちゃん!」
 
 僕は何も考えず、社の階段を上がって赤く塗られた戸をタン、と開けた。

 四畳半ほどの拝殿の中に、5人の人がいた。
 銀ちゃんは初めて見る神主姿。床にあぐらをかいて笛を吹いていた。その横にやはり神主の装束の無精ひげの男の人。そして巫女姿の桐ちゃん。これも初めて見る。以前、池で見たように三色のリボンがついた金の鈴と枝を持っている。そしてもうひとり、巫女姿の女の人。桐ちゃんと同じ鈴と枝を持って、桐ちゃんと向かい合って踊っていたようだ。

 そして4人の人の奥、木の台に枝やお酒がお供えしてあって、その中央にまん丸い鏡が綺麗な布の上に飾ってある。その台の前に横たわる人影があった。

 直立不動で胸の上に手を組んでいた。その手の下に太い刀が置かれている。全身が眩く光っていた。剣を手に目を閉じて輝いていたのは、豊くんだった。
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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