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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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カエルの姫君(その4)


 巫女姿の桐ちゃんは、春に池で初めて会った時のようにずっと大人の女の人に見えた。白い胴着に赤い袴。透けた薄い着物を重ねていて、天女みたいだ。まっすぐに延びた黒い髪を白い布で結んで背中に垂らしている。額にシャラシャラ音がする薄い金属の簪飾りをつけている。
 桐ちゃんと向かい合って踊る女の人も、桐ちゃんと同じ衣装で同じぐらいの長さの黒髪で、すごく良く似ていた。この人が桐ちゃんのお母さんだろうか。それにしてはすごく若い。桐ちゃんともうひとりの女の人は双子のようにそっくりで、鏡で合わせたようにぴったりと揃って踊っていた。


僕が拝殿に飛び込んだ瞬間、2人の巫女と銀ちゃんと、神主姿の男の人が僕の方を振り向いた。銀ちゃんは、笛から口を離してちょっと目を見開いた。桐ちゃんは、あの春の夜のように僕の方を見ていても僕を見ていない。緑に輝く大きな瞳を僕に向けながら、少しも姿勢を崩さず踊り続けた。銀ちゃんもまた笛を吹き始めた。神主姿の男の人がドドン、と太鼓を叩く。
 2人の巫女が金の鈴を掲げてシャラランと鳴らした瞬間、床に横たわっていた豊くんを包む光が一層強くなった。眩い光の中、豊くんはすうっと身体を起こして目を開いた。色の薄い髪と目。豊くんが光の中に溶け込むようだ。膝を起こして跪坐(きざ)の姿勢を取ったと思うと、持っていた剣を鞘からすうっと抜いた。
 目が痛いほどの光が剣から降りそそぐ。ビリビリと拝殿が揺れた。身体が動かない。僕は床にへたり込んで、ただその空間に圧倒されていた。

 剣を完全に抜いて鞘を腰に、刀身を前に構えた瞬間、豊くんの姿が変わった。

 黒い切れ長の目。黒い髪を埴輪の人みたいな形に結っている。白い衣装に石のネックレスを何重にもかけて、古代の神話に出て来る神様みたいな格好をしている。それとも、本当に神様なのかもしれない。こんな光り輝く人が、普通の人のはずがない。

 神様は剣を構えて辺りをなぎ払うようにひと振りした。風が起こって、拝殿の天井から下げた布や鈴がバタバタちりちりと揺れた。僕はふっ飛ばされて床で一回後転してしまった。一回りして床で四つん這いになっている僕を、神様はふ、と笑った気がした。そうして剣を鞘に戻して神様がすっと立つと、光が幾分薄れて拝殿が拝殿に戻った。僕はようやく周囲の様子に焦点が合うようになった。

 銀ちゃんと神主姿の男の人、巫女姿の桐ちゃんともうひとりの女の人は床に膝まづいて、神様に深々とお辞儀をした。神様がまた、ふ、と笑った。
 そうして拝殿の裾の暗がりの方を振り向くと、大きな声で呼ばわった。

「真朱(まそお)、おるのだろう。隠れておらんで出て参れ」

 ビリビリと壁が震えるような声だった。それほどの大音声じゃないはずだが、鼓膜に直接響くようだ。

「隠れてなぞおらん。ただ、俺がおってはバツが悪くて出て来れんのだろうと気を遣ったのだ。お前、”竜胆殿の守りは俺に任せろ”などとえらそうに言った直後に刃を折られて散ったのだからな」
 そう言いながら暗がりから出て来た女性は、まるで神話の女神のようだった。奈良時代のお姫様ってこういう衣装じゃなかったっけ。床まで届く裾の長いスカートと長い袖のドレス。薄い布を何枚も重ねて金襴模様の帯をかけ、肩からは天女みたいな透き通った長いリボンをふんわり垂らしている。胸に丸い鏡を下げ、首から何重も色石の首飾り。額飾りに髪飾り。そして眩い装飾品が霞むほど光り輝く長い金の髪が腰まで届いている。金褐色の長いまつ毛に縁どられた瞳は金色を帯びたオレンジ色。化学図説で見た金コロイドイオンの色だ。

「ついでに言っておいてやるが、俺もその後すぐに散り散りにふっ飛ばされた。宝珠を盗られて手も足も出せず、鏡に逃げ帰った。お前の言う竜胆殿は、孤立無援になってしまった」
 剣の神様は、金色の女神様を暗い目で見返した。
「散り散りながら、様子は感じておった。竜胆殿は、今、ここにおられんのだな」
「そうだ。竜胆は……黒曜は……連れ去られた。ずっと探しているが、行方はまだわからん」
 神様と女神様は2人してうなだれてしまった。住吉神社の面々もみな沈痛な雰囲気だ。黒曜って誰だろう。神様の知り合いだからやっぱり女神様なんだろうか。

「武御雷様」
 神主姿の男の人が深々と頭を下げた。
「住吉の当代の宮司でございます。この度、再び顕現いただきありがとうございます。山陰の刀鍛冶に依頼して折れた刀身を治させていただきました。具合はいかがでしょうか」
「うむ。いい具合じゃ。苦しゅうないぞ」
 神様はニカッと豪放な笑顔を見せた。
「何が苦しゅうないだ。修理に出す度にゴネおって。鍛冶を脅すものだからどこも断って来て、結局、シズク殿の養い子にお守りしてもらってようやくじゃ」
「言葉も通じぬ卑しい鍛冶に神剣が治せるものか。そんな奴に力任せに鍛えられても、我は顕現せんぞ」
 金色の女神様にくどくど言われても、剣の神様はちっとも応えていないらしい。
「して、宮司。あれから何年経った。桜殿はお元気か。天狗の子はどうしてる」

 住吉のメンバーはまたみんなうつむいてしまった。
「武御雷様が眠られて、今で25年でございます。桜は7年前に亡くなりました。天狗の子も、鷹史もおりません。私は鷹史の弟で当時4歳でした。ここにいますは、鷹史の息子でございます」
 宮司さんは銀ちゃんを指さした。すると天狗の子というのは、銀ちゃんのお父さんなのか。
「なんと。天狗の子はどうなった」
「わかりません。消えました。おそらく今頃は竜宮におるかと」
「ううむ。そうであったか。桜殿も天狗の子もおらぬ。竜胆殿もおらぬ。真朱は宝珠を奪われ片身しかない。これではここを守るものが無いではないか」
「だからお前を治したのだ。それを面倒かけるものだから、とうとうシズク殿まで」
「シズク殿まで?」
 金色の女神の言葉に神様が問い返したところで、空間がぐにゃりと歪むような違和感が走った。神様の光が薄れて、太い声が可愛らしい高い声になった。
「ミカちゃん、重いよ。キジさんに代わってもらってもいい?」
「ミカちゃん、とな」
「武御雷(たけみかづち)だからミカちゃん」
 神様の口から太い声と高い声が交互に出て来る。
「ふむ。まあよいか。宮司、代わってやれ。シズク殿の養い子には迷惑かけた。休ませてやらねば」
「かしこまりました。では失礼して」
 
 宮司さんが両手に剣を受け取ってお辞儀し、頭の上におし戴くと、宮司さんの身体が光って姿が変わった。同時に今まで神様の言葉で話していた豊くんが、元の姿にしゅるるると戻ったと思うと、そのまま床に丸くなって猫のようにすうすう寝始めた。
 宮司さんの身体に入ったらしい神様は、さっきほどギラギラ光っていない。さっきのがシリウスとすると今度はリゲルぐらいの光り方だし、姿もだいぶんカジュアルだった。肩につくぐらいの黒髪はボサボサ伸ばしっぱなし。チェックのネルシャツにジーンズにジージャン。開いた胸元に青い石のオガタマをひとつ下げている。

「なんじゃ、そのむさくるしいナリは」
 金色の女神さまに指摘されても、神様はニヤニヤしている。
「何の。今風じゃ。省エネとか言うのじゃろ。お前もその嵩高い格好を解いたらどうじゃ」
「ふん。俺だけ正装しとるのもバカらしいな。お前に礼を尽くしてやる謂れもなし」
 金色の女神様は、胸にかけた鏡を木の台に納めた。そうして腰に届く金の髪を結わえていた赤い飾り紐をほどいて首をひと振りしたと思うと、あっという間にカーキ色のカーゴパンツとオレンジ色のタンクトップ、という姿に変わった。僕や銀ちゃんより2、3個年上のお姉さんという感じだ。
 そのお姉さんは僕に向かってにこっと笑った。
「この少年は初めて会うな。トンスケと豊のクラスメイトだって? よろしくな。俺はトンスケの曾祖母だ。当年とって81歳」
 いろいろいっぺんにあり過ぎて、もうどこから聞けばいいのかわからない。とりあえず、剣の神様がジージャンなんだから、81歳のギャルがいてもしょうがないよな、と納得することにした。

 女神さまがギャルになった途端、桐ちゃんともうひとりの巫女さんの姿も変わった。双子のように似ていたはずなのに、ひとりの方は栗色の短い髪にふっくらした身体のおばさんになった。そして、桐ちゃんは小学生に戻った。髪はまっすぐなままだ。
 桐ちゃんは、今初めて僕に気がついたらしい。鈴を取り落として声を上げた。
「克昭さん! どうしてここに!」
 明らかに非難されている。僕はまた場違いなところに来てしまったらしい。
「ご、ごめん。銀ちゃんにプリントを」
 言いかけたところで桐ちゃんに突き飛ばされて、僕はまた拝殿の床を後転してしまった。
「ダメなのに! 来ちゃダメなのに! どうして! 帰って! 帰ってください!」
 両こぶしを握り締めて身体を震わせている。
「ごめん。桐ちゃん、ごめん。泣かないで」
「ダメなのに! 克昭さんまで、シズクちゃんみたいに」
 そこまで言って、言葉が途切れてしまった。桐ちゃんは激しく泣きじゃくって、巫女姿のおばさんに優しく抱きしめられていた。
「どうしよう。咲さん、どうしよう。克昭さんまで消えちゃったらどうしよう。父上も、トンちゃんも、鏡ちゃんも、みんなみんな、消えちゃったらどうしよう。私、誰も守れない。みんなみんな、私のせいで消えちゃうかもしれない。どうしよう。咲さん、怖い。どうしよう」

 うわああああん、と本格的に泣き始めてしまった桐ちゃんを、ジーンズ姿の神様はむしろ面白そうに眺めていた。
「この娘が当代の柱の姫か?」
「当代の娘です」
 神様の問いに銀ちゃんが答える。
「ふむ。なるほど、幼いのに力の強い娘じゃ。頼もしい。それに、主、お前、そんなものをどこで拾って来た」
 神様に指を突きつけられて、僕はびっくりしてしまった。
「え? 拾って? 僕が何か?」
「それよそれ。お前の左肩に乗っておるそれじゃ。そのガマじゃ」
 僕は慌てて自分の左肩を見た。確かにそこにはでっかいガマガエルが載っていて、しごくイノセントな眼差しで僕を見つめ返していた。

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