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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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カエルの姫君(その5)


 僕の左肩に座っているガマくんは、普通のヒキガエルとちょっと違っていた。
 両目のまぶたの上が角のようにとがっている。普通、目の後ろから脇腹に黒い帯模様が走っていて、それが枝分かれして肩まで黒いベルトが走っている個体もある。でも胸側はほとんど白いのが普通だ。僕のガマくんは顔を囲むように目の後ろから肩、胸までぐるりとひと続きの帯がついていた。しかもモルフォ蝶のような鮮やかな金属光沢の青の帯なのだ。


「あ、お前もしかして伊吹山で壺に入ってたヤツか。でも何でこんなとこいるの」
 思い出した。2年前の春に、伊吹山の自然観察クラブで冬眠中のヒキガエルを掘る活動があったのだ。冬眠から覚めて車に轢かれないように、自動車道脇の落ち葉に埋もれて眠っているカエルをバケツに入れて、道路から遠い安全なところで埋めなおす作業を20人ぐらいの小中学生とレンジャーの人でやってた。あの時のカエルだ。

「壺の中? カエルが?」
 銀ちゃんが怪訝な顔をするので、自然観察クラブのことを説明した。
「僕、ちょっと道路から離れたところまで入ってしまって、そしたら変な声が聞こえて」
 ヒキガエルの鳴き声というより、コントラバスのような長く響く低い音だった。でもその時僕の頭はすっかりカエルモードになっていたので、山の中で変な音楽が聞こえることを不思議に思うより、珍しいカエルでも見つかるかも、と地崩れで出来たらしいちょっとフカフカした斜面をスコップで掘り返した。改めて考えると不思議だ。古びた壺を手に取った時、中からカエルが出て来ることを何も疑わなかった。果たして、この綺麗なガマくんが真面目な顔で底に座っていたわけだ。

「壺の口に何か封がしてあっただろう」
 ジージャン姿の神様が言う。
「ボロボロの紙で覆ってあって、紙の帯みたいなのが貼ってありました」
「ふうむ」
 女神さまが言う。
「ふうむ」
 神様が言う。

「克昭、お前、帯剥がす時、ヤバイかもとか思わんかったん?」
 銀ちゃんが呆れた顔で聞く。
「でも、息苦しいだろうし、早く出してあげようと思って」
 僕がそう言うと、ますます呆れた顔をされた。そうだ。あの時、僕は開ける前から中にこいつがいるのを知っていた。

「そのガマは2、300年は生きておるぞ」
 女神様に言われて驚いた。もちろん只のヒキガエルとは思ってなかった。それに、このカエルが300歳なのと、剣から神様が出て来るのと、81歳の金髪ギャル、どれが一番不思議なのか検討つかない。
「おそらく蠱毒の術に使われたものであろうの」
 神様に言われても、僕には何のことかわからない。孤独? 300年もあんな壺に閉じ込められてどんなに寂しかっただろう。
「まあ、そのガマの事情はおいおい聞き出せば良い。シズク殿の養い子が通訳してくれるだろう。主、ガマより娘を気にかけろ。よくよく話を聞いてやるのだぞ」

 振り向くと、桐ちゃんはおばさんの膝に抱かれたまま泣き疲れたように眠っていた。
「風邪なぞ引かせぬようにの。我はしばらく休む。何かあればまた呼べ」
 そう言うと、唐突に神様の姿が変わって無精ひげを生やした神主さんに戻った。神主さんは剣を両手に掲げて深々とお辞儀すると、ふう、とため息をついた。
「祖母さま、剣はまたこの社に安置していいですか?」
「祖母さまって呼ぶんじゃないよ。年取った気がするだろ」
 神主さんに聞かれた金髪ギャルは、ビシリと言い返した。81歳って紛れもなく後期高齢者だと思うんだけど。
「サクヤが白木の台を拭いておいてくれた。榊を持っといで」
 
 白木の台に白い布をかけて、白木を組んだイーゼルのようなものに神剣を立てかけた。白い花瓶に緑の枝。白木の三方にお酒と塩。
「お供え、酒でいいですかね。何がお好きでしたっけ。俺、ガキだったからよく覚えてないんですよ」
 神主さんが首をひねる。
「大丈夫、ちゃんと頼んでおいたから」
 巫女姿のおばさんが言った途端に、コンコン、と軽い音で拝殿の戸がノックされた。
「もう、ええですか?」
「さっちゃん。ちょうど良かった。買って来てくれた?」
「はい。ここに」

 入って来たのは、艶やかな黒髪を腰まで垂らしたスラリとした女の人だった。さっき踊っていた時の桐ちゃんと巫女さんの姿によく似ている。この人が桐ちゃんと銀ちゃんのお母さん、サクヤさんに違いない。なるほど、麗人だ。
「あら、桐、寝ちゃったん」
 桐ちゃんの傍にひざまずいて、優しく髪を撫で始めた。そしてふい、と僕の方を見上げてにっこり笑った。
「克昭さん? 桐とトンちゃんがお世話になっております」
「あ、いえ。こちらこそ」
 僕が恐縮していると、神主さんとおばさんも順番に挨拶してくれた。桐ちゃんのお父さんの麒治郎さんとお祖母さんの咲(えみ)さん。みんな優しそうだ。
「それで、これ」
 サクヤさんが神主さんに手渡したのは、瓶に入った牛乳と小さな袋に入った駄菓子。赤ちゃんがよく食べる卵ボーロだった。
「ミカちゃん、これが好きなんよ」
 受け取った神主さんは、さらに首をひねった。
「ほんまか? サクヤの好きなもんとちゃうんか?」
「ほやけど、よう一緒に食べたもん」
「まあええわ。お供えしとこう」
 丹精な白木の三方の横に牛乳瓶と卵ボーロ。何ともシュールな光景だが、アットホームなこの神社らしいという気もする。

 床で寝ていた豊くんを起こして、眠ってしまった桐ちゃんは神主さんが抱き上げて、一同で母屋に移動した。途中で社務所をのぞくと、山本さんと先輩がお茶を飲みながらおかきを食べていた。
「豊と一緒に宝物殿の片付けしとるて、サクヤさんが言うてたから、俺はどうせ役に立たんけな、思うてここで待っとった。何ぞお宝あったか?」
「んーとね。ミカちゃんとケロちゃん」
 寝ぼけ眼の豊くんが説明する。
「何やそれ」
 先輩は豊くんが頓珍漢なことを言ってもあまり頓着しないらしい。社務所から出て来て、銀ちゃんや豊くんにじゃれながら一緒に母屋にやって来た。

 泣きべそかいて眠ってしまった桐ちゃんを気遣ったり、小さな頃のサクヤさんと一緒にお菓子食べたり。剣の神様は女の子に優しいらしい。でも桐ちゃんをまた困らせてしまった。とうとう泣かせてしまった。言われたように帰った方がいいんだろうか。

 逡巡していると、サクヤさんがふんわり笑いかけてくれた。
「弘平くんが試験勉強するて言うてたわ。克昭さんも、一緒にご飯食べてくやろ?」
「え、いいんですか?」
「コロッケたくさんあるし。おでん、いっぱい作ったから食べていってください」
 先輩は当たり前の顔で食堂に入って行くし、豊くんは早速和室でころんと丸くなって5匹の猫に囲まれている。ちらっと銀ちゃんの方を見ると、”いいんじゃね?”という風に肩をすくめた。

「ガマさんは、みんながご飯の間、こちらへどうぞ」
 サクヤさんが縁側に面した池に案内してくれた。ギボウシとミヤマキリシマとドウダンツツジに囲まれた小さな池だ。
「裏にもうちょっと大きいんもあるけど、こっちの方がみんなのおしゃべり聞こえて寂しくないやろ、思て」
 ケロちゃんを地面に下ろすと、話がわかっていたようにまっすぐに池に向かって歩いて行った。そして300年前からここの主だったみたいに、縁石に陣取った。

 ま、いっか。このまま帰ったら気になるし。桐ちゃんが起きたら、神様に言われたようにじっくり話してみよう。何となくサクヤさんや麒治郎さんが味方になってくれそうな気もするし。
 急にたくさん、桐ちゃんのご家族に紹介されてしまった。今ここにいない、シズクさんと黒曜さんってどんな人だろう。何だかもう後戻りできないところまで深入りしてしまった。でもま、いっか。牛若丸の住んでいる変な森のコミュニティを、僕はすっかり気に入ってしまった。飛鳥高校に来て良かったな。当分退屈しそうにないや。



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シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
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 正面左右背後
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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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