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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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カエルの姫君(その6)

僕の目の前にはそれこそズラリと不思議なものが並んでいた。
 和洋東西玉石混交。硯の横に真珠のタイピンが置いてあったりする。極彩色の大きな壺や、何が書いてあるのかわからない掛け軸。お城にありそうな立派な振り子時計や武者人形。
 値札が付いてないものがほとんどだけど、高いんだろうなとは想像できる。高価過ぎるものはまず買えないし、買ったとしても持ち歩くのが不安だ。大きかったり重かったりするのも不便だろうし、手頃な値段で手頃な大きさのものが有難い。



「依り代ってどんなもの?」という僕の質問に、豊くんの「ポータブル水たまり」という答えにますます混乱し、そこに銀ちゃんや弘平さんがいろいろ解釈を付け加えて、今みんなで豊くんの店に来ているわけだ。目的はガマくんの依り代だ。
 
 僕は結局、試験休み期間、毎日弘平さんに拉致されて、強制的に銀ちゃんの家に連れて行かれた。豊くんも一緒だ。銀ちゃんの部屋は土蔵を改築した離れで、母屋と渡り廊下で繋がっている。離れには二階に六畳ほどの部屋が4つあって、子ども部屋の他は下宿や客間に使っているらしい。一階は物置きで、さらに地下室があってなんとグランドピアノとドラムセットがあってびっくりした。ピアノはサクヤさん、ドラムは麒治郎さんが演奏するらしい。禰宜の山本さんがベースで、ジャズトリオを作っていると聞いてさらにびっくりした。神社でジャズ。クールだ。
 試験勉強と言っても、豊くんも銀ちゃんも大して勉強が必要ないらしい。豊くんはたいてい寝ているし、銀ちゃんはしょっちゅう呼ばれて拝殿や母屋に走って行って用事を片付けている。弘平さんは試験休みに家にいて勉強しろとガミガミお母さんに言われるのがイヤで、ここに逃げて来ているのだ。それでも一応演習問題を広げて、銀ちゃんに宿題を出されて勉強らしいことをしている。ゲーム機やグラビア雑誌を持ち込んで、銀ちゃんにお説教をくらったりしながら楽しそうだ。どうせ部活もないし、僕も仕方なく銀ちゃんの部屋で勉強した。わからないところはすぐ聞けるし、適度に気が散ってかえってはかどった気がする。
 グラビアと言えば、銀ちゃんはアイドルグループやアニメみたいなサブカルにはほとんど興味が無いらしい。メジャーなグループの名前ぐらいは知っているけど、メンバーの名前はひとつもわからない。僕も特に好きな方ではないけど、中心的なメンバーの顔と名前ぐらいは個体識別できる。織居家の面々はあまりTVを見ないらしい。TVは鏡の女神様が入っている81歳のきささんの和室にしかなくて、見たい人はそこで見る。でも毎朝4時とか5時に起きて境内の掃除をしたり、弓を引いたり、お祓いしたりと忙しいので、和室は夜9時に消灯なのだ。桐ちゃんが動物番組なんかを予約録画して見せてもらったりしていても、だいたい半分も見ないうちに寝てしまうそうだ。そういえば、銀ちゃんも学校の5分休みなんかに時々寝ている。神社の生活って大変だ。
 そのせいか、毎日神社に通っていても、桐ちゃんとはほとんど顔を合わせなかった。桐ちゃんは小学校から帰って来ても、神社の仕事や咲さんのお教室の手伝いで忙しい。6時過ぎにはご飯を食べて8時には寝てしまう。試験勉強が一段落して僕らが帰る頃には、いつも桐ちゃんは寝ているのだ。
 ガマくんは消えたり現れたりした。いつの間にか僕の左肩にいたり、神社の池にいたり、学校の裏の池に出て来たり神出鬼没。ガマくんの事情について、豊くんに聞いてみたかったが、なかなか聞けなかった。
 神様は”シズク殿の養い子に通訳してもらえ”と言った。前後の文脈で、それが豊くんのことだとわかったけれど、そうしたら今いない”シズク殿”のことを聞かないといけない。桐ちゃんは”克昭さんがシズクちゃんみたいに消えちゃったらどうしよう”と怯えていた。銀ちゃんもシズクさんのことを口にしない。もちろん豊くんも。
 試験休みの3日めに離れで勉強していると、鏡の女神様入りのきささんが揚げ立てのドーナッツとコーヒーを持って現れた。今日は長い金髪を結い上げて着物を着ている。
「あれ。キョウちゃん、今日お休み?」
 豊くんがコーヒーを受け取りながら聞く。キョウちゃんというのは鏡の女神様のことらしい。
「そうなんよ。ミカちゃん呼び出すの手伝って、ちょっと疲れたみたいやね。昨日から鏡に戻って寝てはるんよ」
 女神さまが抜けていても、81歳の桐ちゃんの曾お祖母さんは女子大生ぐらいにしか見えない。どうなっているのか聞いてみたい気もするけど、切りがないので気にしないことにする。
「ほんで。克昭くん、ケロちゃんは?」
「学校の池が気に入ったみたいで、さっきは池のギボウシの影にいました」
「そうなん。あのコ、名前つけたった?」
「名前?」
「名前つけて縛ったらんと、あのコ、消えてまうよ」
 きささんが言うには、ガマくんを蠱毒の術に使った術者も、呪われた対象も、この2、300年の間に消えてしまったと思われる。おそらく契約か術者の念が残っていてガマくんを縛っていたが、この前、剣の神様がなぎ払った時にけし飛んで、ガマくんは自由になった。
「克昭くんが新しい主になって契約結んで縛ってやらんと、あのコ、もう寿命残っとらんし、早晩消えてしまうで」
 女神さまが寝ていても、きささんにはいろんなことがわかるらしい。咲(えみ)さんもすごい霊能者らしいし、この神社に出入りして三日で、僕はここの人達についてあまり疑問を持たなくなってしまった。
「でも、せっかくやっと自由になったのに、また縛られたら可哀想じゃないですか」
「ようやっと自由になったのに、さっさと消えてしまうのも可哀想かもしらんよ。本人に聞いてみたらどないやろ」
「契約結ぶとして、僕にそんなことできるんでしょうか?」
 というわけで、試験が終わった金曜日、ガマくんはなかなか捕まらないから、まず名前と依り代を準備することにした。ジージャンの神様が入っていた剣とか、女神さまの鏡とかがいいんだろうけど、そんなもの一介の高校生には手に入らない。”ポータブル水たまり”というのは、近くに綺麗で居心地のいい水辺が無い時にそこでガマくんが休憩できるような場所、という意味らしい。
 ガマくん、どんなところが好きだろう。湿ってて薄暗くて静かな場所。ガマくんの首飾りの色と合うような、青いものがいいな。そう考えながら豊くんの店をうろうろした。金属の卵型の小物入れを見つけて手に取ってみた。七宝で青地に睡蓮の花や葉が描いてある。卵を囲むように銀色のカエルやガマの穂にとまったトンボなんかが作ってあって、すごく緻密で綺麗だった。
「あ、それ、ファベルジュのアンティーク。一応ザザビーのカタログにも載ったことある本物だよ。うちに来る途中でトンボがひとつ逃げちゃったから安くするよ」
「いくら?」
「300万」
 僕は絶句してしまった。カエルの目や水滴なんかが全部ルビーやダイアモンドで、純金製。確かに重いはずだ。3万円ならお年玉貯金で買えるのに。
 弘平さんは僕にじゃれついて”これどないや”と変なものばかり勧めていたが、銀ちゃんは少し離れたところで和箪笥の上に並べられた小物を見ていた。と思ったら、急に不自然な姿勢でバランスを崩したと思うと、銀ちゃんが背中から倒れそうになった。慌てて銀ちゃんの腕を掴んで引っ張り起こそうとしたけど、急に何かに頭を押さえつけられて僕の方がバランスを崩した。何とかふんばろうとしているところに、何かが足元をすり抜けた。
 結局僕は土間に尻餅を衝き、その上に銀ちゃんが倒れこむ、という始末になった。弘平さんがとっさに腕を支えてくれたので、お尻打って目に火花が散るだけで済んだけど、まともに倒れたら危なかったかも。
「おまえらー。何やっとおん」
 弘平さんはケタケタ笑っていたが、急にふっと優しい顔になって銀ちゃんの頭をガシガシなでた。
「トンスケ、おまえ、あれ以来やろ。この店来たの」
 銀ちゃんはちょっとぼんやりした顔をしていたが、くしゃっと笑ったような泣いたような表情を浮かべた。
「そうやな。あれ以来や」
 あれ以来、というのは何のことか聞きたかったが、足元にさっき僕と銀ちゃんを転ばそうとしたフカフカの毛の猫みたいな生き物がいたので機会を失った。スコティッシュフォールドみたいに耳が垂れてて、目が大きくて、とにかく可愛い。
 尻餅から体勢を立て直してその動物をなでようと思ったら、さっき僕の頭を押さえつけた何かが今度は頬をすりすりして来た。とにかく大きい。そして半透明でプニプニしていて可愛い。ホタルをでかくしたような質感だ。これもホタルの親戚だろうか。
 そうして我に返ると、店内は生き物だらけだった。大小のケモノや小さなお爺さんや、蝶のような羽のついた妖精や、着物を着た女の人や、何でもござれでとにかくやかましかった。300万円の金の卵にのっかったカエルがくしゃみしている。掛け軸に描かれた白鷺が飛び立って、硯の池に足を下ろした。
「で? 克昭、おまえどれにするか決めたんか?」
 弘平さんに聞かれた僕はため息をついた。
「無理です。どれも手が出ません」
 この店の品物は、どれも先約がある。先住者がガマくんとケンカせずに付き合ってくれるか甚だ不安だ。
「ほやな、ここの、どれもごっつい値段やもんな」
「そしたら、これ使う?」
 銀ちゃんがカバンから出して来たのは、石のストラップだった。紫の細い紐を編んだものに鮮やかな青い石がついている。
「咲さんがこういう紐飾り、作るの好きなんだ。これ、お前にあげたいって言って預ってた」
「トンちゃーん。営業妨害ー」
 豊くんが口を尖らせてからかうように言う。
「どうせ、ここの、空家なんか無いくせに」
「だったらどうして来たの?」
 豊くんに問われて、銀ちゃんは何とも言えない寂しそうな顔で見つめ返していた。この2人の間にはどうやら長い物語があるらしい。
「ありがとう。ガマくんが気に入るか、聞いてみるよ」
 僕は受け取ってストラップをバッグにぶら下げた。
「聞いてみるって、克昭、お前、300万円はともかくここのン万円するものを依り代に用意して、もしあいつが契約なんかイヤやて言うたらどうするつもりやったん?」
 銀ちゃんに聞かれて僕はあまり考えずに答えを出した。
「別に契約とかじゃなくていいんだ。依り代が緊急避難場所になって、ガマくんの寿命が延びて時々遊びに来てくれれば」
「物好きな」
 くしゃっとゆがんだ顔で銀ちゃんが笑った。この独特な歪んだ笑顔も銀ちゃんらしいけど、天真爛漫な笑顔も見てみたいな。銀ちゃんと桐ちゃんが大きく口を開けて笑い合ってるところを、いつか見てみたい。
「この店、桐ちゃんもよく来るの?」
 僕が聞くと、豊くんが広げた骨董品をしまいながらポツンと答えた。
「最近、来ないよ。去年から」
 そうなのか。桐ちゃんはここのへんてこな生き物と仲良くしそうなのに。本当は来たいんじゃないのかな。いつか一緒に来てみたいな。その前におこずかい貯めないと。
 豊くんはいつも居眠りしているかへらへら笑っているかだけど、何というか、心から笑っていない気がする。この年にもなるとみんな何かしら屈託や紆余曲あるものだけど、銀ちゃんや豊くんや桐ちゃんの抱えているものは、何だかややこしそうだ。弘平さんはケタケタ笑いながら2人にじゃれついているけれど、時々すごく寂しそうだし。
 うん。慌てないことにした。生態学者の第一歩はまず観察すること。介入しないで、生き物がそのままの気持ちでのびのびと行動して、何がしたいと思っているのか見極めることだ。できるだけ主観や偏見を交えずに。ガマくんのことも、せっついて見つけ出すのはやめよう。もし寿命があって、消えてしまうとしたらきっとその前に会いに来てくれると思う。その時、ガマくんが何をしたいのか、聞いてみよう。
 桐ちゃんは僕に帰って、と言った。僕に消えて欲しくないと言った。桐ちゃんは本当は何を望んでいるんだろう。ホタルを従えた水脈を守るお姫様。彼女を、彼女が守りたいと思っている水辺ごと守ってあげたい。そして屈託なく笑って欲しい。絡んでこんがらがった糸を、慌てて切ってしまわないで、丁寧に結び目を見極めて解いてあげたい。
 その水辺でガマくんものんびり余生を送れたらいいよな。そして僕は観察日記をつける。
 ダメかな、こんなバカみたいな夢、現実感ないかな。でももう、ホタルや神様や女神様と知り合いになってしまったし、この店も愉快な生き物でいっぱいだし。現実感なんかどっか行ってしまった。うん。だから慌てないことだ。とりあえず口笛の練習を続けよう。


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