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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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ピアノ図書館(その3)

宮本研究室を出たところで電話が鳴った。院生の小野くんだ。
「今、だいじょぶですか?」
「うん。もう実習終わったの?」
「はい。高山さん、大学に戻って来ます?」
「うん。そのつもりだけど」
そう答えたところで、後ろの一団がどっと笑った。無責任に人を煽るばかりのオッサンどもめ。リューカだって絶対、俺と同い年なんかのはずはない。高野山で狩場明神が連れてた白い方の犬は、こいつだったんじゃないかと思ったりする。
 一同はこれからウルマスの姪がやっているとかいう嵯峨野のハンガリー料理店に行くらしい。同行してさらに魚にされるつもりなぞない。だいたい姪ったってどんな姪だかわかるものじゃない。興味はあるけれども。

「じゃあ、高山さんが来るまで、自分、待ってます」
「バイトあるとか言ってなかったか?」
「でも待ってます。あ、何かレモンかクエン酸の飲み物、買って来て欲しいって先生から伝言です」

「葵くんからかい?」
 カロ先生が何だかニヤニヤしてるように見えて、いちいち引っかかる。
「いえ。小野くんです。何か実習のことで話したいんでしょう。戻ります」
 さらにあれこれ言われないうちに、さっさとバイクで走り始めた。

 小野くんは修士の学生だ。どうやら何か見えてるらしい。見えてて頓着せず拘らず普通にしている辺り、”住吉向き”の人材と言える。
 注文の品を買ってカロ先生の研究室に戻ると、賑やかだった。
「何これ」
 俺には何も見えないが、とにかく喧しいのはわかる。音楽なのかわめき声なのか、すごいボリュームだ。これで両隣の研究室とか事務が文句言わないというころは、つまりこれはそういう音なのである。
「祀りの石像を見せてくださった家で、取材も終わって帰ろうとしてる時にお婆さんがあれ、持出して来て、もらってくださいって言われて」
 小野くんの指さしたゼミのテーブルの上に怪しい布包みがある。音はどうやらこの包みから出ているらしい。
「とにかくうるさくて先生参っちゃって。自分が運転して来たんです。他の学生は何も感じなかったみたいで、とにかくみんなは帰ったんですけど」
 古ぼけてあちこち擦り切れているが、座り心地だけはいいソファに葵さんが伸びていた。
「じゃ、自分帰ります。バイトに遅刻するんで。高山さん、後お願いします」
「ああ、サンキュ。じゃ、また月曜に」
「はい。失礼します」
「小野くん、ありがとう」
 葵さんが何とか身体を起こして手を振った。
「はい。お大事に」
 今時珍しい五分刈りでぬぼーっと背が高い小野くんがぺこっと頭を下げて出て行った。

 これで葵さんと二人切りだ。いや、そうじゃなく。
「葵さん、とにかくこれ飲んで」
「ありがと。ごめんね、のんちゃん」
「いいから飲んで。コーヒーも淹れましょうか?」
「ううん。大丈夫、何か酸っぱいものがあれば」
 寝ぼけ眼のようなぼおっとした顔で素直に健康飲料を飲み始めた。可愛い。いや、そうじゃなくて。葵さんの今日のファッションは、また父親の光さんのお下がりらしいカーキのシャツ。ぶかぶかで葵さんが2人入りそうだ。フィールドワーク用のトレッキングシューズに薄手のグレーのニットと細身のチノパン。誰かの東欧みやげのショールを巻いている。髪はくるくるねじって後ろでゆるくまとめている。可愛い。だから、そうじゃなくて。

「で、これ、どうしたんです?」
「あちらで持て余してるらしいの。無理言って石像見せていただいたし、いろいろ話していただいたので断れなくて。本当に困ってらっしゃるみたいだったし」
「だからって、そんな危ないもの」

 カップ2つに分けたクエン酸飲料の片方を、緑の髪の少女が飲み始めた。碧ちゃんだ。碧ちゃんが幽霊なのか妖怪なのか妖精なのか、俺には判然としない。とにかく葵さんの護衛役だ。葵さんとそっくりの顔をしている。ふわっと浮き上がるように近づいて来て、俺の回りを一周しながら匂いをクンクン嗅ぐのでちょっと動揺してしまった。
「うるさい黒い犬が来とるやろ」
「え。ウルマス来ていたの?」
 それでわかる葵さんもひどいが、碧ちゃんはとにかく口が悪くてイジワルだ。
「ほら、来年宮本先生が世話役のシンポジウムあるでしょ。その打ち合わせらしいです」
 カロ先生の後任人事や、ウルマスの娘のことはまだ話せない。下手な伝え方をしたらショックを受けるに決まっている。葵さんはぽおっとしているようで怖いぐらい勘がいいのだ。ちゃんと打ち合わせしておかないと、俺ひとりじゃボロを出す。
「ニ、三日、カロ先生のマンションに泊まって打ち合わせして、住吉にも顔出すって言ってましたよ」
「お忙しいのね」
 葵さんはやたらウルマスに懐いているのである。来日しているのに今日は会えないと知って、がっかりしている顔を見るに、こっちもがっかりするわけである。そういう流れが碧ちゃんにはお見通しなのも憂鬱だ。俺には味方がいない。
「とにかく、ひと心地ついたんなら帰りましょう。まだ顔真っ白ですよ。俺、運転しますから。それ、何か知らないけど、ここに置いてくわけにいかないでしょ?」
「どうやろ。このお人は人が多いところがええんかもしらんよ」
 碧ちゃんは毎度呑気というか、どこか人間の事情なんかかまってくれないので用心しないといけない。
「お人って、これ何なん」
 俺もつられてなまってしまった。
「ま、でもここで開けるのもあかんやろな。黒い犬と白い犬はおらんの」
 ウルマスとリューカのことらしい。
「嵯峨野に飯喰いに行ってる。連絡入れるか?」
「呼んだり。見たがるやろ。とにかく社に帰ろ。キリが起きとるうちに」
 碧ちゃんが何を知ってるのだかさっぱりわからないが、リューカと咲さんにメールを送っておいた。

 というわけで、怪しい布包みを枝社のひとつに運び込んだ。桜さんが一番気に入って居座っていた社だ。メノウの鏡が奉ってある。桜さんはこの鏡に住んでるらしい妖魔を鏡ちゃんと呼んでいた。
 住吉では何をさておいてもご飯である。くるみ味噌をかけたふろふき大根とアジの塩焼きを食べて、真っ白だった葵さんの顔色が少しピンクに戻った。可愛い。いや、そうじゃなくて。
 
 夕食を済ませて一同、鏡ちゃんのお社に座ってやかましい布包みを囲む。葵さんの娘のさっちゃん、そのダンナのキジロー。葵さんの孫のトンスケと桐花。俺の叔母の咲さん。そして葵さんと碧ちゃんと俺。光さんは今日は神社のご神馬を預けているファームに行っている。

「トンちゃん、開けたげて。きゅうくつだって文句言ってるもん」
 まだ3歳の桐花が何か注文すると、兄の鳶之介は絶対に逆らえない。包みの中にカミツキガメが入ってると言ったって開けたに違いない。とにかく無造作とも言える手つきで、トンスケはさっさと包みを解いた。
「わあ。綺麗だねえ」
 螺鈿をあしらった琵琶だった。古ぼけてあちこち擦り切れているが、しかし似たようなものを正倉院の写真集で見たような気がする。
「葵さん、これ」
「何でもね、国宝にって話もあったものなんですって。手入れが悪くて認定されなかったそうなの。手入れしようとすると怒るんですって」
 こんな会話の間も、琵琶はとにかくやかましい。ジャンジャンというかビーンビーンというか。キコキコ耳障りな音もするし。
「あんた、話したいなら大人しゅうしいな。やかましくて何いいよんやら聞こえんやろ」
 碧ちゃんに一喝されて、ちょっとだけボリュームが下がった。

「綺麗だねえ」
 桐花はぺたぺた、よく磨かれたお社の木の床をいざっていって、琵琶を抱っこしてにこにこした。
「いい子だねえ。お友達欲しかったんだよねえ」
 やかましい音がやんだ。桐花が弦を撫でると何とも深い味わいのある音が響いた。
「いい子いい子」

 咲さんが促して、桐花は琵琶の主張を翻訳し始めた。
「んーと。カシって何?」
 3歳児のわかる範囲の話なので、かなりの推理力が必要だ。
「あのねえ、この子、外国から来たのよ。カラってどこ。で、オカミに大事にしてもらったんだけど、オカミのオジさんのチュウジョーにカシされて、その人がすごく上手に弾いてくれたんだって」
 ちょっと待て。オカミって帝のことか? 皇族筋で臣下に下りた貴族に下賜されたって、これ、スゴイものなんじゃないのか。
「でもねえ、そのチュージョーがムホンでゴケニンと逃げて、それでシズデラに隠れて、そしたらまたイクサで、お寺が焼けちゃって、カズニモハイラナイものに持ち出されて、それで怒って文句言ったらまた別のお寺に運ばれて、そこもイヤで文句言ったらずっと閉じ込められて、誰にも会えないし誰も弾いてくれないし、悲しかったんだって」
 文句言ったら対応してもらえるって学習してしまったらしい。騒ぎ続けてたらい回しにされて、結局、田舎の庄屋筋の蔵に仕舞いこまれて、持て余されて今に至る。
「ずっとミヤコに帰りたかったんだって。ヒナはたくさんじゃって。やっと表に出たと思ったらまたイクサで、ミヤコの向こうが燃えてたんだって。お空からどんどん火が降って来て、みんな逃げて、またぐるぐる巻きにされて、ずっと怖かったんだって。かわいそうにねえ」
 桐花は優しく琵琶を撫でると、オロロンビョロロンとすすり泣くような音を立てる。
「かわいそうにねえ。でももうイクサはここにないよ。遠いとこでやってるけど、ここは大丈夫だよ。もうミカドはミヤコにいないけど、お友達はいっぱいいるよ」
 3歳児がどこまで歴史を把握しているのか、不思議だった。ビョーンビョロロン泣いている琵琶を抱っこしながら、桐花があくびをした。さっちゃんが慌てて時計を確認した。
「桐、もうとっくに寝る時間過ぎてるやない。ねんねしよ。おいで」
「うん。トンちゃん、抱っこしたげてね。もうすぐウルちゃんとルーちゃん来るからね。ウルちゃん、お友達だからだいじょぶだよ。ね」
 琵琶は大人しくトンスケに抱かれて、今ではロローン、ミヨヨーン、と子守唄のようなものを奏でている。葵さんもすっかり落ち着いたようだ。
「銀ちゃんももう寝なさい。後は大人に任せたらええんやから」
「まだ平気。葵さん心配だから起きてる」
6年生のトンスケはもういっぱしの大人のつもりなのだ。ことさらにさっちゃんに子供扱いされたり、トンちゃんと呼ばれるのをイヤがっている。さっちゃんも心得て気遣いしているのだ。
「そう? でも酔っぱらいにつきあってあんまり夜更かししたらあかんよ」 
    桐花はさっちゃんに抱き上げられて、咲さんも一緒に母屋に帰って行った。小さなお社には葵さんと男ばかりが残った。
「トンスケ無理すんな。明日は学校ないにしろ」
 キジローに言われて、鳶之介はいつものように噛み付いた。
「トンスケ言うな。桐に頼まれたんだから起きてる。ウルマス来るまで一緒に起きてる」
「わかったわかった。じゃあ、何か温かいもんでも作ってくるか。葵さん、甘酒に牛乳入れたのどうだ?」
 答える代わりに、葵さんが大きな目をうるうるされた。食いしん坊が発動するようならもう大丈夫だ。碧ちゃんはキジローに生姜湯を注文した。トンスケは琵琶を抱いたまま、葵さんと一緒に甘酒ミルクを飲み、一杯引っ掛けたウルマスが来る頃には葵さんに寄りかかってぐっすり眠っていた。葵さんもトンスケと琵琶を抱いてうとうとしている。そんな3人に毛布をかけて、俺とキジローはバーボンを啜っていた。そこにウルマスとリューカも混ざって4人で晩酌になった。

「今頃こいつが出て来るとはねえ」
 ウルマスは面白そうにくつくつ笑っている。桐花の聞き出した、琵琶の身の上話を伝えると、さらにくつくつ笑った。
「こいつ、誰も知らないと思ってずいぶん話を盛ったな。まあいいや。そういうことにしておいてやろう」
「え、じゃあ、帝から下賜されてって件はウソなんですか」
 思わず俺がつっこんだ。
「いやいや、そこは合ってる。源の誰ぞのとこに行ったはずだ」
 それってかの有名な玄上とかと同じじゃないか。
「こいつがうるさく騒ぐから、仕舞われたんじゃなくて、縛られてたのさ。そういう都合の悪いことは言わないんだな」
 調伏されたり封印されたりしてたってことらしい。不遇な1000年を過ごして来たと見える。でもやかましいのは困ったもんだ。
「要は誰ぞに弾いてもらえればええんでしょ。琵琶弾ける人やら、ここらならいくらでもおるやないですか」
 リューカがラフロイグをぱっぱか空けながら、こともなげに言う。まったく酔った気配を見せない。高いウイスキーがもったいないような気がする。
「でも何か気に食わないと、またすぐ騒ぐんじゃないですか」
 キジローは中学校の先生やりながら神主やってるだけあって、良識派の意見を言う。
「誰ぞに面倒みさせれば良いのだ」
 碧ちゃんもマッカランを舐めながら無造作に言う。まったく、こいつらは。
「愚痴を言い合える仲間でもできればいいんじゃないのかね」
 ウルマスは葵さんが飲み残した甘酒ミルクを味見しつつ、高齢者施設のお爺ちゃんについてみたいな暢気な話をする。不遇で文句言う仲間ねえ。ここの蔵を探せば何匹か見つかりそうだけど。それでなくともややこしいこの神社に、さらにやっかいごとが増えるのも面倒だ。どこかに里子に出せればいいんだけど。商店街のあの付喪神だらけの骨董屋で引き取ってくれないかしらん。

 あ。いいとこがあった。あそこならぴったりじゃないか。ピアノ図書館。


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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
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あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
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エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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