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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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ピアノ図書館(その5)

翌日、何事も無かったように大祭が執り行われた。
 いや、むしろ鷹史が消えたからこそ、無事に大祭を務めることができた。そんな感じだった。

 大祭前日の出来事は地元の夕刊に大きく取り上げられた。重軽傷者23人。昏倒して救急搬送された人が11人。視覚や聴覚に異常を訴えた人多数。ひきつけを起こした乳幼児9人。パニックを起こして負傷し、予後不良になった馬が3頭。
 そして、行方不明者1名。

 同時刻、住吉神社の敷地以外で怪しい光や音を知覚した報告はなかった。原因は不明。集団ヒステリーか、という解説もついた。大祭当日、マスコミ関係者が数人来たが、一般参拝客はひとりもいなかった。大祭の後も長いこと、神社を訪れる人は少なかった。それでも咲さんのお茶やお花の生徒が訪ねて来たり、桜さんやさっちゃんを心配して商店街の面々が思い思いのお見舞いを持って来たりして、少しずつ日常が戻って来た。しかし神社の悪評は決定的になってしまったのだ。

 6歳の時から17年住吉の連中と付き合って来たが、あの時ほど距離を感じたことはない。鷹史が消えたことに動揺して騒いだり探し回ったりしたのは俺ひとりだった。母親の咲さんも、父親の満さんも、キジローも、鷹史の兄貴の仁史さんも、みな暗い表情で現状を受け入れただけだった。警察にさんざん促されて、鷹史の両親は捜索願を出したが、消えることを知っていた、あるいはどこに消えたか知っていた、そんな感じだった。誰ひとり、鷹史が消えたことに涙を流したりしなかった。さっちゃんさえも。

 さっちゃんとトンスケは何一つ変わらず、朗らかに日々を過ごしていた。いや、今まで以上に朗らかだった。まだ2歳のトンスケがぴたりとゴネたりむずかったりしなくなった。もともと丈夫で手のかからない子供だったが、それでも眠い時や言いたいことが伝わらないと不機嫌になって泣いたりする。それが消えた。聞き分けが良過ぎて、不憫で仕方ない。今ならわかる。2人はこれ以上誰も失いたくなくて、必死にお互いに支え合っていたんだと思う。

 妹の都は満さんに弓を習っていて、大祭前日に仁史さんと演武を披露する予定だった。直前に母が高熱を出し、急遽南下をあきらめた。そのことだけは本当に良かったと思う。
 都が鷹史の失踪をどう考えているのか聞いたことはない。都は飛んだりはしないが、どこか鷹史に似ているところがあった。鷹史はいつも5歳児みたいにニコニコ上機嫌で何考えているのかよくわからなかったし、都はいつも半目しか開いてないような活気のない顔で何考えているのかわからない。一年足らず弟子入りしただけで、都は師匠を失った。今はひとりで闇雲に野山を駆け回って、俺にはさっぱりわからない魔法を振り撒いている。
 そして俺は葵さんの探索に同行するようになった。どこを探せばいいか見当もつかないから、千里眼の葵さんについて行けば何か見つかるかもしれないと思ったのだ。鷹史は新さんと同じ穴に落ちたに違いないのだ。それに今なら俺は葵さんの気持ちがわかる。痛いほどわかって、世界中飛び回る葵さんを放っておけない。聞こえない声を聞いて見えないものを探す葵さんは、自分の足元には無頓着でよくすっ転んでいた。危なっかしくて見ていられない。住吉の他の連中は誰ひとり真剣に消えた男たちを探してくれない。俺と葵さんは同志になった。

 いつから好きになったかなんてわからない。ふわふわした栗色の髪。優しい声。小さな身体。優雅な手の動き。猫のように見えないものを目で追う。どこに入るんだろうと思うぐらい食いしん坊。何とはなしにいつも寂しそうで不安そうな佇まい。ふいにぱあっと明るい笑顔を見せてくれる。アルバニア語でもサーミ語でもケラケラ笑うくせに、日本語になると途端に口ごもる。
 娘のさっちゃんの兄貴ポジションの俺を、昔から可愛がってくれていた。下宿人になり、教え子になり、同僚になった。信頼はしてくれていると思う。旅先ではぐれて合流した時など、心からほっとした表情で迎えてくれる。一週間以上2人で旅して、列車でもバスでも並んで移動。肩や肘が触れ合ってもリラックスしているし、飛行機が遅れて空港で30時間過ごした時など俺に寄っかかってすうすう寝ていた。つまり、甥っこポジションの俺を信頼してくれているが、男とは思っていないんだと思う。
 女の人は、男に上から覆い被さって来られたり、後ろから近づかれたりすると本能的に恐怖を感じるものだ。ところが、書庫で高いところの本が崩れて来た時も重心を俺に預けたまま、まずは装丁のゆるんだ古書をサルベージするし、ラッシュの電車で押されて釣り革に掴まれなかった時も俺に背中を預けて安心しているし、まあそんな感じだ。
 オーストリアからチェコに移動中、強風で列車が脱線して、行き場を失った客が小さな町の2軒しかないホテルに殺到したことがある。ずぶ濡れのまま15キロ歩いてたどり着いた宿はほぼ満室で、葵さんとひとつ部屋で泊まることになった。もちろん何も無かったし、嵐で不安になった葵さんは”ノンちゃんが一緒で良かったって今ほど思ったことはないわ”と感謝してくれた。
 その後だ。誰か彼女を作ろうと思ったのは。葵さんは俺を男と見ていないかもしれないが、俺にとって葵さんはやっぱり女性なのである。でも葵さんは今それどころでないのは重々わかっていた。今の距離を続けるために、他の人を見つけるべきだと決心した。そして珠里くんとつきあった。そして振られたわけだ。

「望くん、あなた好きな人がいるでしょ」と指摘された時、真っ先に心に浮かんだのはなぜか鷹史だった。鷹史を失ったトラウマのせいで、積極的に恋愛や結婚が考えられないのだと思っていた。俺は無自覚に、他の女性と付き合うことで葵さんとの関係を守ろうとしていたのだ。葵さんのことを朴念仁だと責められない。

 葵さんのゴルフに助手席に座って、後部座席には大事に右近を抱えたトンスケと桐を乗せて、宇治の職人さんの工房に向かった。琵琶を修理できる職人さんは街中に数あれど、”話のわかる”工房はそうそう無いのだ。幸い、右近は爆睡したままだったし、すぐ横でトンスケが見守って、桐は上機嫌で子守唄を唄っていたので何事もなく弦を張り替えてもらえた。
 吉川さんは黙って、葵さんと桐のわかるんだかわからないんだかふわふわした説明を聞いて請け負ってくれた。淡々と新しい弦を張り、緩んだペグの補修をしながら、ぽつんと言った。
「すごいですね」
「すごい?」
 トンスケがきょとんと聞く。
「この時代の五弦琵琶に触れると思いませんでした」
「そうなの?」
 預けるわけにいかないし、出来れば短時間で最低限の処置を、というこちらの無茶な要求を飲んでくださった。どういう由来か何も説明しなかったし出来なかった。
「今度は”起きている時”にいらして下さい」
 吉川さんはため息混じりに言った。
「”ご本人”に無断で塗り替えたり磨いたりするわけに行きませんからね。とりあえず間に合わせのことしかできませんよ」
 どうやらお見通しである。さすが古都だ。

「ああ。でも必ず坊ちゃんとお嬢ちゃんも一緒に来てくださいね。それに日没までにお引取り願える時間にいらしてください」
「ご迷惑おかけして」
 葵さんが工房の奥をちらとのぞいて謝った。
「いえいえ。他所からお預かりしている楽器が萎縮して鳴らなくなると厄介なものですから。うちのものならいいんですが。私の言うことを聞き分けますし、多少慣れてますし」
 不遇な平家琵琶や月琴、三味線なんかが運び込まれるそうだ。俺は吉川さんなら右近を引き受けてもらえるのでは、と考え始めていたが、商売に障るんじゃ仕方ない。

 やはりあそこに頼むか。

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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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