忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.06│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

ピアノ図書館(その2)


 俺とウルマスが初めて会ったのは、もう5,6年前になるか。とにかく葵さんと初めてイタリアに行った時、ウフィツィ美術館のキュレーターのリューカというやたら綺麗な男に紹介された。どうやら葵さんの姉さんの彼氏らしい。そしてチェコだかどこだったかで、リューカの叔父とか言うこのウルマスに引き合わされた。
リューカもウルマスも、とにかく年齢不詳性別不明の美形である。リューカがプラチナブロンドで、ウルマスが黒髪という違いはあるが。2人とも混血の究極のようなまったく何系かわからない顔をしている。ウルマスは黒髪にやや浅黒い肌のせいか少し東欧か中東風味が強い印象だ。もっともそれが"本来"の姿なのか確かめたことはない。
      ウルマスはヨーロッパのいくつかの大学に籍を置いて、あちこち巡業している人文学の教授で、うちの大学にも一年おきぐらいに集中講義に来ているはずだ。定員200人の講義室に立ち見が出来るほどの盛況になる。来る度に俺は助手扱いで、運転手やらされるし、あれ食べたい、これ買って来て、あそこ行きたい、と引っ張り回されてぐったりする羽目になる。それでも、ウルマスの知識と人脈と直感にどれだけ助けられたかわからない。つけ加えると、ウルマスはフツウの人間ではない。ということはリューカも何だかわかったものじゃない。正体はわからないが、だから何だ? 2人とも胡散臭いことこの上ないが、悔しいことにいいヤツで、飛び抜けて優秀なのである。

    ウルマスは昔、かなり長い間、日本に住んでいたことがあるそうだ。
「それ、いつ頃の話です?」と聞いてみたことがある。
「私たちが暮らすには深い森が必要だからね。ほら、キリスト教だと森は悪魔の棲みかで巨木は退治の対象だろう。すっかりユーラシアの西の方が住みにくくなって」
   ちょっと待て。布教のついでに森林が切り開かれて次々に放牧地や畑にされたのはいつ頃だっけ。
「あちこち流れて日本に来てみたら、森は敬われてるし、八百万の仲間がいるし、居心地良くてさ」
   だからいつの話だ。
「住吉の、その頃はまだ住吉じゃなかったけど、アトリの妹の一団が南に行く時ついて行ったんだよ」
   ちょっと待て。
「その頃私とメノウはちょっといい仲でね。頼まれたのさ。水銀を追って南の森に行った。そこの集落でしばらく明神などと呼ばれてたよ」
「それってもしや高野山の……丹生都比売の?」
「ん? まあ伝えられてるのとちょっと年代は前後してるけど。私はもう山里が出来てから入ったし。私の前にも何人かセキュリティーがいたし」
「白と黒の犬、連れてましたか?」
 ウルマスは5歳児みたいな顔でケタケタ笑った。
「バカだなあ。犬2匹で間に合うわけないじゃないか。私の統率するクラン5つ全部動員したに決まってるだろう」
 俺は追求するのをあきらめた。空海に会ったか聞いてみたくてウズウズしたが。あまり夢を壊されたかったからだ。密教関係は俺の専門分野じゃないし。

 メノウというのは住吉に伝わる守り神のひとりで、キジローに言わせると綺麗なお姉ちゃんらしいが俺はまだお目にかかったことがない。トンスケは赤い鳥だったり綺麗なシカかヤギみたいな時もあると言う。

「メノウが鏡に封じられただろう。どうにか解く方法がないか、あちこち探してユーラシアに戻った。けっこう苦労したよ。吸血鬼と呼ばれたり狼男と呼ばれたり」
 俺は追求するのをやめた。そっちも俺の領分じゃない。正体が何でもウルマスもリューカも面白いヤツだし、住吉を囲む小さな杜の守護天使をかって出てくれているからだ。葵さんに下心がないというならそれでいい。リューカは紫さんを大事にしているし、ウルマスはメノウを追っているならそれで安心だ。

 宮本先生の研究室で、煎茶を淹れて粟餅を食べ、紅茶のゼリーに取り掛かろうとしているところにリューカが入って来た。
「あれ。ええもん食べてはりますなあ」
「おまえはいつでも食べられるんだからいいだろう。それでエイミーはなんて?」
 エイミーというのは、俺の叔母の咲(えみ)さんのことらしい。
「ちょうど空いてる人がおらはって、借りて来ました。名前、つけていいそうです」
 リューカの隣を見たが、俺には何も見えなかった。住吉にいるとそんなことは慣れっこなのだが、会話に入れないと困るのでウルマスの方をちらっと見た。ウルマスはまた5歳児みたいな笑顔を見せるとソファーから乗り出して俺の左手をぐっと掴んだ。

 そこには10か11ぐらいのほっそりした少女が立っていた。赤みがかった細い金髪がこまかなウエーブを描いて膝の辺りまで届いている。ほとんど白目の見えない真っ黒の大きな瞳。一応、耳も尻尾もついていない。
 ウルマスは順番に唐牛先生と宮本先生とも握手した。ついでにリューカの肩もポンと叩いた。よくしくみはわからないが、これで全員、同じイメージを共有することになったらしい。

「この子、エストニアの方で葵さんが見つけて連れて帰って来た石におったんです。住吉の桂清水に浸けて5年で、ようやく戻らはって。でも向こうでえらい長生きしてはったそうです。な?」
「物心ついた頃に住んでた森がチュートン騎士団に焼き払われて」
 だからいつの時代だ。
「いいのかい? 私なんかについて?」
 ウルマスが聞くと、少女はマジメくさった表情で殊勝に答えた。
「あの杜の清水には恩がある。聞けば御身も杜に縁のある恩人とか。微力ながらお手伝いしよう」
「ありがとう。じゃあ、君は今日からアルマだ」
 少女はしばらく首をかしげていたが、可愛らしくにっこり笑った。
「うむ。いい名前だ。アルマか。その名前は好きだ」
「気に入ってくれて良かった」
 ウルマスは少女の手を取るとふんわり抱き上げて自分の膝に乗せた。まことに麗しい光景だが、かなりいかがわしく見えるような気もする。それでもウルマスは俺が見たことないような優しい表情をしていた。

「アルマって君、確か」
 唐牛先生が思わず、というふうに言葉をもらした。ウルマスは少女から目を上げると、微笑んだ。
「うん。娘の名だ。死んでしまった子供の名前で、イヤじゃないかい?」
 少女は問われて、またしばらく首をかしげながらじっとウルマスを見上げていた。
「どうして亡くなった。戦か。病か」
 いつでも流れるように言葉を紡ぎ出すウルマスが、言いよどむなんて初めて見た気がする。

 ふと気づいて、一同を見渡した。
「イヤな話だが、話しておいた方がいいかもしれないね。望の信頼を得るためにも。私が住吉に加担するモチベーションに関わる話だ。ボランティアで手伝おうとしているわけじゃない。私と君たちは共通の敵に対峙しているんだよ」
 座の空気が凍った。俺たちの敵。得体の知れない。正体も掴めない敵。俺にはそんなものが実在するのかどうかも確信が持てなかった。新さんや鷹史が消えたのは、天災に巻き込まれたようなものかもしれないと思い始めていた。
「ジェンティエーナを拐って、メノウの宝珠を盗んだ連中のことだ」
「ウルマス! 君、知ってたのか?」
    唐牛先生が立ち上がった。
「違う。わかったから今回日本に来ようと思ったのだ。私の娘を拐った一味とメノウやジェンティエーナを拐った連中は繋がっていた」
「彼らの目的は……?」
 新さんもそいつらに拐われたのか? 鷹史も?

「あいつは最初、私の娘のことも覚えていなかった。たくさんの材料のひとつに過ぎなかったのだ」
「材料?」
「あいつは思い出して笑って言ったよ」

”ごめん、もうとっくに使っちゃった。ホムンクルスだったかな、キメラの実験だったかもしれない。失敗しちゃったけど、少しは残ってるよ。ほら、こいつらのどこかに”

    その時、そいつは背後に蠢く得体の知れないモノたちを100ほど従えていたそうだ。

「さすがに頭に血が上ってしまってね。気がついたら全部喰っていた」
  喰ったって。どうやってなのか、俺には具体的な映像が浮かばない。
「ヤツもかなりのダメージを受けたはずだ。それから数年大人しかったので、消えたと思っていた。それからだ。ジェンティエーナとメノウの宝珠が拐われたのは」
   ウルマスがちょっと眉根を寄せて整った唇を歪めて笑った。
「つまり、私にも責任の一端があるのだ。君たちの悲劇に」
   つまり、そいつは自分の軍団を再結成するために、新たな"材料"を集める必要があったわけだ。

   まさか。まさか鷹史も? そんなおぞましい実験に使われたのか? 新さんも? そんな話、さっちゃんにも葵さんにも聞かせられない。

   俺の蒼白な表情を読んで、ウルマスがすぐ付け加えた。
「ああ。それは心配ない。鷹史や新は"材料"にならない」
「どうしてそう言い切れる」
   襟首を掴まんばかりに詰め寄った、俺の肩をポンと叩いた。
「彼らが使うのは"魔力"だ。ちょっと耳や声が良くて波が扱えても、やつらには役に立たない」
  俺はへたっと座り込んだ。

「だが、君たちが邪魔なのは間違いないね。彼らは、君たちがこの千年ばかり必死に守って来たものを壊したいんだから」
「壊すって何をだね」
   唐牛先生が静かな声で聞いた。

「ノアの時代の大洪水もアトランティスも、ごくごく局所的な災害に過ぎない。でもそれを全部連動させれば?」
   ウルマスの声はさらに静かで心地よくさえあった。
「アトリが身を投げた奈落は、絶好の導火線だ」
「導火線というと。何を爆破させるための?」
   宮本先生の声は少し動揺していた気がする。いや。動揺しているのは俺か。

「世界。もしくは地球まるごと、かもしれないな。彼は何もかも壊して、ゼロからやり直したいのだ。だからメノウとジェンティエーナが必要だった」
「あのお2人は、どちらも死と再生の神様ですやろ」
   呆然としている俺に、リューカが説明を付け加えた。
「メノウさんは焼き尽くして灰から芽吹く。リンドウさんは雪に閉ざして春芽吹く」
   あ、そうか。ジェンティエーナはリンドウか。いや、問題はそこではない。

「そう。問題はだね」
   ウルマスはいったいどこまで俺の思考を読んでいるんだ? 読まれるのは鷹史で慣れっこだが、鷹史だから平気だったのであって。俺の視線を捕らえてウルマスは、5歳児のようににぱっと笑った。
「大丈夫。私はちょっとばかり勘が働くだけだ。もともと言語に頼らないコミュニケーションで一族率いて来たからね。言葉に出来るほど固まったごく表層の思考が、時々聴こえる程度だから心配しなくていい」
   いや。何が大丈夫なんだ。
「第一、望の顔は読みやすいし。そうだろう?」
「そうだな 」
「そうですね」
「そうですな」 
    一同顔を見合わせてうなづいている。
    ちょっと待て。何の話をしているんだ。問題はそこじゃないだろう。

「問題は君だよ。明日世界が終わるとしたら、望、君は後悔しないのかい?」
「そうだよ。時間は無限にあるわけじゃないんだよ」唐牛先生まで。
「やっぱりこういうことは言葉に出して伝えないとね」
   宮本先生、あんた、人のこと言えないだろう。
   ちょっと待て。だから何の話をしてるんだ。地球が壊れるかもしれないのに。俺の恋路を心配してる場合か。
「孝行したい時には、て言いますやろ。親も好いたお人も生きとるうちに大事にせな」

「私も、娘を失った時に後悔したものだ」
   ウルマスはアルマの髪を優しくなでながら言葉を継いだ。
「母親が無かったから厳しく鍛えることしかしなかった。ひとりでも生きて行けるように。だが、もっと愛していると伝えてやれば良かった。おまえは特別な存在だと、言ってやればよかった」
   頼むから、そんな方向に持って行かないでくれ。逆らうわけにいかなくなってしまうじゃないか。一同ますます切迫感を持って俺に圧力をかけて来る。

   リューカのまなざしも、ただ俺をからかうわけじゃない、何か深いものを湛えていた。聞いたことなかったが、こいつにも長いストーリーがあるに違いない。

「このままでええのん?」

    ええわけないやろ。



PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
05 2017/06 07
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター