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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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ピエタ(その2)


 ひいひい泣き言を繰り返すあんちゃんを引きずって、山道を上がる。話を聞いているうちに殴りたくなったが、リューカに先を越されたので何とか我慢する。

「お前、俺たちが来なかったらどうするつもりだったんだ」
 中川マサオと名乗った青年は、ひいひい言うだけではっきりした説明をしない。
「都が、お前の奥さん助けに降りたんだろう。それを見捨ててお前だけ逃げるつもりだったのか」
「でも」
 さっきから、でもとかだってとか言い訳しかしない。ああ、殴りたい。

「殿。面目ない」
 バンに積んであったポリタンクの水をかけると、どん兵衛は石から12,3ぐらいの男児の姿になった。
「しょうがない。あの鉄砲玉がその気になったら俺でも止められん」
「そうそう。都ちゃんがその気になったら、明石海峡大橋からでもバンジー・ジャンプしちゃうんだから」
 魅月が高さ(路面高)65メートルの吊り橋を挙げるので、俺はまたクラクラして来た。

「で、ドンちゃん、今、元気なのね?」
「お気遣い痛み入る。お陰様でこの通り」
 魅月はにっこりわらって両手を差し出した。
「じゃ、おんぶ」
 8歳の幼女が12歳ぐらいの男児におんぶされているのは、荷が重そうに見える。魅月にはどん兵衛はもっと大きく見えているのだろうか。とにかく遠慮がない。

 一方、きさ祖母さまの方はスタスタ石段を上がっている。外見は女子高生か女子大生だが肉体年齢80歳余なので気になってちらちら振り返るが、大丈夫かと聞くと年寄り扱いするなと殴られるに決まっているので言わないでおく。

「どん兵衛、お前、今、鏡祖母さまとつながってるんだろ。祖母さまと桐は、先に都のところに飛んでるのか?」 
「いえ。お2方は私たちの到着を待ちながら、高みから歪みの位置を調べているようです」
「歪み?」
「都が下りていくまで、”フリーズ”状態になってズレたまま止まっていた場所が、一気に崩れるかも、とおっしゃってます」
「フリーズ?」
「”よりによってこんな場所に”、とか、”よりによって都が”とか、おっしゃってますね」
 どん兵衛は、たいして重そうでもなく魅月を担いで、かなり険しい山道の石段をひょいひょい上がっていく。元気になったというのは本当らしい。それにしても、話の内容がわからない。俺が運転している間、ラインでお袋たちと相談していたリューカが要約して説明してくれる。

「つまり、このお兄さんは、爆弾持ってはる人をわざわざ爆風の破壊力が最高になる場所に連れて来はって、そこへ都ちゃんが行って起爆装置を起動させてしもた、いうとこですかね」
「爆弾って何だ」
「このお兄さんの赤さん。嵐だの地震だの呼べるそうやないですか」
「都も嵐だの地震だの呼べるぞ」

 魅月が鼻歌が混じり兼ねないほどの気楽な声で結論を述べた。
「要するに、自分も爆弾背負った処理班が、ガラス張りの高層ビルの天辺に別の爆弾片付けに行ってる感じね。ビルの中も外も人がいっぱいで、爆発したら地下まで爆風抜けてガラスが雨あられと降る、みたいな」
「しかも、そのビルが倒壊したらドミノ倒しみたいに周りのビルも次々崩壊する、みたいな感じですな。ここ、活断層の真上で、去年ズレた現場ですから現在、歪みMAXです」
 リューカがニコニコ付け加える。
「爆弾赤ちゃんを、爆弾背負った都ちゃんが泣かさずに起こせたらオッケー」
「赤ん坊は泣くものですからねえ」
 魅月を背負ったどん兵衛がため息をつく。

「うわあああああああ」
 リューカに引きずられていた中川が泣き出した。
「やっぱりダメだ。あの人達の言う通りなんだ。澪が世界を破滅させる。澪を引き渡せば良かった。そしたら世界を救えたのに」

 もうダメだ。もう我慢できない。俺のどこかで何かがブチッと音を立てて切れた。
「あーあ」
「あーあ」
 魅月とリューカが声をそろえる。俺は両膝ついて地面に倒れ込んで泣き始めた中川を引きずり起こして吊るした。
「おい」
「あああああ」
「おい。その、”あの人たち”って何や」
「ああああああああ」
「いいから、答えっ」
「白っ。白いっ。変な服来た人が来たんですっ。澪の病室にっ」
「白い服やとお?」
「白水竜神教会とか言って。すごく怖くて、怪しくて、それで僕、澪を連れて逃げたんですっ」
「白水竜神教会いいい?」
「怪しいでしょ。絶対信じないでしょっ。変な新興宗教ですよ。でも世界を救うとか言って。このままだと天災が来て、世界が破滅するとか言って」
 中川はパニック状態で泣き喚いている。
「でもあなた達も同じでしょ。同じこと言ってる。澪が雷とか地震を起こすんだ。僕には手に負えない。澪を渡せば良かった。このままじゃ日本が沈没だ」
 俺の中でいくつめかの回路が切れた。
「同じだと。俺たちをあんな変な宗教と一緒にするな」
「キジさん、神社って宗教じゃないの」
 魅月が指摘する。
「あんな誇大妄想と一緒にするな。うちは世界なんかどうでもいい。俺は、俺の家族さえ無事ならそれでいいんだ」
 俺はきっぱり言った。
「中川、お前、世界のためにカミさんも赤ん坊も見捨てんのか。世界を救うため、言われたら赤ん坊殺すんか。そんなん、悔しくないんか」
「悔しい?」
 中川がぽかんと口を開けた。
「迷惑だから死ね、言われたらお前死ぬんか? 雑草かて、害虫かて、生まれる権利あるやろ。生きてていいやろ」
 キレて大声出しているうちに自分でもわからなくなって来ていたが、ふいに納得した。

 そうや。おれの祖母さまもお袋も魔女やし、兄貴は宇宙人や。嫁は人柱で娘は魔法少女だ。ケッタイではた迷惑かもしらんが、だから何や。
 お袋は兄貴をあきらめなかった。希さんは都を守った。サクヤはトン介を守ってる。桐花も魅月も戦ってる。

「俺は俺の家族を守る。お前も腹をくくれ。父親なんやろ」

 俺に襟首離されて、再び地面に両膝をついた中川は、また泣き出した。その横にきさ祖母さまが自分も膝をついた。

「なあ。中川さん。私もな。その澪さんと同じ。赤ん坊産む直前まで、普通に黒い髪で普通のコォやったんです」
 中川は隣に座ったどうみても10代の女性を見上げてキョトンとした。
「昔の話です。長男は普通に生まれたんだけど、次男を産む時にね、陣痛始まったら見る見る髪がこうなって」

 難産で、きさ祖母さまは昏睡状態。新さんは生まれた時、髪が真っ白だったそうだ。白い髪は一週間ぐらいで抜けて黒い髪が生えて来た。泣いても地面が揺れなかったので、周囲は胸をなで下ろした。でも祖母さまは眠り続けた。年も取らず、こんこんと60年近く眠っていた。桐花が生まれたのと前後して、目を覚まし、住吉のご神宝の鏡に住む妖魔を身のうちに飼うようになった。どういう経緯でどういうメカニズムなのか、俺にはよくわからない。
 問題は、大叔父の道照が眠っているきさ祖母さまを欲しがったことである。

 中川と澪さんを追い詰めた白水竜神教会という団体は、道照が始めた宗教法人で、政財界のえらい人々を占ったり、ライバルを呪ったりして富を蓄えているらしい。名前を変えながら1000年以上前から活動している集団で、道照が亡くなった後は南部の叔父叔母従兄弟の誰かが引き継いでいる。とにかく広告塔になる霊能者が欲しいものだから、きさ祖母さまや鷹兄ィは絶好のターゲットだ。お袋が西に逃げて来て鷹兄ィを育てたのも、都が弓道の大きな大会や昇段試験をあきらめたのも、一重に奴らに目をつけられたくないからだ。親父と仁史兄ィはごく普通の人間なので、のらりくらり交わしてはこちらに情報を流してくれる。お袋が時々関東に戻ってはホタルを駆使して調べたところ、今のところ教会にはろくな能力者がいないらしい。だから安全とも言えるが、だからこそ狙われるとも言える。
 南部本家も、住吉の姫の伝説は把握しているので、神社には手を出して来ないのだ。寝た子を起こして日本が沈没でもすれば、富も権力も紙くず同然になる。

「義兄が眠っている私の身体をどういう風に使いたかったのかは、今となってはわかりませんけどね。催眠術か何かで都合のいいことをしゃべらせるとか、あるいは単に信者に見せて”生き神様”とか呼んで祀らせるとか。実際、戦前はそういう人がいたそうです」
「人柱ってのもある」
 俺はむすっと付け加えた。
「人柱!」
「昔の話じゃない。現代でもな、人間が何を信じて何を怖がるかなんて、理屈じゃないんだ。俺たちの血筋はな、”竜神に気に入られた”女子供が時々現れる。橋の下に埋めれば洪水が来ない、なんて言い出すバカな奴もいる」
「人柱……」
 中川の顔が真っ白になった。
「災害を防いでたくさんの人を救うためだ、と言われたらどうします?」
 祖母さまは、中川の顔をのぞき込んだ。
「都ちゃんもね、あなたの赤ちゃんと同じです。どう思います? 災害を防ぐために、生まれなかった方が良かった? それとも人柱に?」

「都はな、迷わずお前のとこに行ったぞ。ひとりで。お前のカミさんと赤ん坊を助けるつもりだ。お前はどうする?」

 中川は、ぐしゃぐしゃの顔のまま、立ち上がってふらふらと石段を上がり始めた。その行く手の尾根が眩く青く輝いている。


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織姫のお仕事
     4.0
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
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 正面左右背後
 出口1
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カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
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