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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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南のほの暗い森で(その3)


 那智勝浦の温泉旅館に到着した時には、はしゃぎ疲れた白黒コンビが後部座席でぐっすり寝ていた。しかしそれ以上にグロッキーなのはドンちゃんだった。高速を下りたところから熊野本宮の方へ山側に抜ける予定だったのだが、田辺辺りでとうとう石に戻ってしまった。急遽、海岸沿いを走るルートに変更して海を臨む宿に落ち着いた。

”殿。申し訳ない”
”いいさ。想像の範囲内だ。思ったより歪みが深刻みたいだな”
 宿の裏手でお社からポリタンで汲んで持って来た桂清水をきーちゃんにかけてもらって、ドンちゃんはようやく勾玉形の水色の石から出て来た。
”今日はもう寝てろ。お前がセンサーだからな。明日働いてもらうから、温泉にでも浸かっておけ”
”真朱(まそお)殿。かたじけない”

「こいつがこの調子だと、こいつの弟分もみんなダメージあるんだろうな」
 きーちゃんが地図を広げて周囲の地形を見ている。リューカはiPadで地質図と航空写真を呼び出して地図と見比べ始めた。
「ドンちゃんさんが、ここから北だとしんどい言うてはったでしょ。するとこの川の水源があかんのですか」
「あの子は十津川から連れて来たから」
 私が説明する。そうだ。ドンちゃんはこんなに遠い深い森ところから、空気の汚い私の街までついて来てくれていたのだ。はるばる帰って来たのに故郷が荒れて、川に浸かることもできないなんて。
「しかし変な話だな。去年は確かにここの北で大規模な土砂崩れ起こって、集落にも被害が出ただろ。今年はそんなニュース無い。新宮と十津川のお宮さんにも聞いてみたが、目立った異常は無いらしい。ちょっとした崩落とか濁水なんかは続いてるそうだが」
 きーちゃんには宮司さんネットワークがあるのだ。中にはけっこう見える人もいるし、こちらの事情をご存知の人もいる。
「あ、でも不動滝の坊さんが変なこと言ってたな」
「変って?」
「10日ぐらい前からずっと妙な山鳴りがしてたのに、3日前にぴたっと止まったらしい」
「だけど歪みが治ったってわけでもないわけよね、ドンちゃん見てると」
「そういうことだ」
 きーちゃんと2人して首をひねっていると、リューカが鏡ちゃんに声をかけた。
「しんどそうですな。ちょっと横にならはったらどないです」
 鏡ちゃんは布団をのべて桐花と魅月を寝かせていた。寝ていても2人は手をしっかり握ったままだ。車から抱いて下した時に離したはずだが、またいつの間にか手をつないでいる。魅月はこうして桐花に寄り添って守っているのだ。そんな2人の髪を、鏡ちゃんは優しくなでていた。
「ホントだ。ごめん、気づかなくて」
「オレ、そんなに顔色悪いか?」
「ううん。いつも通り綺麗よ。でも炎の色が」
 鏡ちゃんをいつも取り巻いている炎のようなオレンジの光。ゆらめきながら金色からオレンジに温かく色を変えて傍にいる人間を照らしてくれる光。その光が褪せていた。
「きさ祖母さまはいつも桐花を庇ってくれてるからな。桐花にダメージあるとしわ寄せ被るんだろ」
「祖母さまって呼ぶんじゃないよ。年取った気がするだろ」
「80越して何言ってんだ。年寄りの冷や水すんな。風呂入って寝てろ」
 きーちゃんをそんな会話をしていると、お社を守っている鏡ちゃんと言うより、きーちゃんのお祖母さんのきささんのようだ。鏡ちゃんときささんの人格ってどうなってるんだろう。2人の意識は完全に融合しているんだろうか? それとも交代制で二重人格のように表に出てくるのだろうか?

「大丈夫? 耳鳴りとか頭痛とかしない?」
「耳鳴り、というのとは違う」
 鏡ちゃんは偏頭痛に悩む人みたいにこめかみに手をやっている。
「静か過ぎるんだ。何も、聞こえない」
「何も聞こえない?」
「ここはヘンだ。時間が止まっている。水脈が麻痺してる」
 私ときーちゃんとリューカは顔を見合わせた。
「とりあえず、祖母さまはこいつらと寝ててくれよ」
「祖母さまって呼ぶんじゃないって言ったろ」
「いいから。ほら、布団敷いたから」
 きーちゃんはブツブツ文句言っている鏡ちゃんを布団に押し込んだ。
「ほしたら、自分はドンちゃんさんとお風呂いただいときます」
「うん。俺はお寺さんに挨拶してくるよ。都、一緒に来るだろ?」
「そうね。私もお話しうかがいたいし」
 というわけで三手に分かれた。

 咲さんから預かったお手製のもろみ味噌だの自慢の肉巻きだのがズッシリ入ったクーラーバッグを肩にかけたきーちゃんと、ぽくぽく歩く。私は気になってたことを聞いてみた。
「ねえ。今日平日よね。桐ちゃんとみっちゃん、学校お休みでいいの?」
「ああ。あの2人は自主停学だ」
「停学!」
 きーちゃんが言うには、桐花に何かと言って来る女子がいて、先週にパニックに近い興奮状態で何とバケツの水を桐花にぶっかけたらしい。魅月もとばっちりでびしょ濡れになった。廊下でみんなが見ている前でのできごとだったので、先生達も生徒も集まって衆人環視の中、水をぼたぼた垂らした2人が、その子に「寄らないで! あんた達、変! 気持ち悪い!」と怒鳴られた。
 保健室の先生からタオルを受け取ると、魅月がきっぱり宣言した。
「桐花はストレスで最近ずっと眠れないんです。私も食欲ありません。しばらく休んで療養させていただきます」
 先生方が止める間もあらばこそ、魅月はやや呆然としている桐花の腕を掴んでさっさと校庭を横切り、タクシーを停めて家に帰ってしまった。それが一昨日のこと。
「元々、都が帰って来て一緒にここに来る予定だったからな。風邪か何か理由つけて休むつもりだったのが、まあ、これ幸いと、と言うか堂々と、と言うか」
 きーちゃんはため息をつきつつ、時々ちょっと噴き出しながら話す。
「学校からじゃんじゃん電話かかってくるし、家庭訪問したいと言うし、大変だった。おふくろが応対に出て、”ひどくショックを受けていて”とか何とか説明して休みをもらった」
「で、でもこんなとこに遠出してていいの?」
「まあ、気分転換とでも何でも言い訳つくさ」
 きーちゃんは肩をすくめる。その気楽そうな顔に腹が立って来た。

「笑い事じゃないわ。みんなの前でバケツの水かけられるなんて。ひどい話じゃない」
 自分がいじめられてた頃を思い出して、私は泣きたくなって来た。
「そうだが、桐花はそれほどショックじゃないらしいんだ。要するにその子、見える子なんだよ。小学校の横手の井戸水が濁ってホタルの集団が助けを求めて桐花のところに殺到した。その子は中途半端に見えるもので、それがどす黒い渦か何かに見えたらしい」
「あああ」
「水、水、というホタルの声も感知したらしいんだな。反射的にバケツに水汲んでぶっかけてしまった。すると、今度はその子のところに殺到した」
「あああああ」

 その子も半狂乱である。魅月はその状況を利用したわけだ。
 きーちゃんが言うには、その子の母親はサクヤの2つ上で、中学校でサクヤにいろいろきつく当たっていたらしい。要するに母親も見える人だったわけだ。理由がわかっているので、サクヤも言い返したりせず黙って甘受していた。それでもそんな学校生活居心地いいわけがない。かばってくれる子もけっこういたが、余計に風当たり強くなってしまった。
「みんな、その子に騙されてるのよ! 今に祟られても知らないから!」という感じのことをしばしば言われていたらしい。父親の失踪についてまで責められたらサクヤもうなだれるしかない。

「要するに、その子、タカ兄のことが好きだったんだな。タカ兄がまた、空気を一切読まずにサクヤの送り迎えとかするもんだから」
「あああああ」
「新さんのことを知ってるだけに、真剣にタカ兄を神社から引き離したかったみたいだ」

 サクヤさんはしょっちゅう倒れながらも足りない出席日数をレポートなどで補って、どうにか高校を卒業した。高校卒業は新さんの遺言だったらしい。”明日にも結界た解けたらどうする。学歴なんか本当は大した意味はないけど、人生の選択肢は増える”。”ご先祖から引き継いだ使命があるとしても、自分の人生をあきらめることはない”。

「自分の人生」

 銀の髪、金の瞳の姫君の末裔に、自分の人生なんかあるだろうか。選択肢なんて限られる。結界を守ることが最優先課題なのだ。
 特に柱の姫は、結界の中心からほとんど動けない。いくつか大きな”節”を周囲の尾根などに調整して、限られた方向には数十キロ行ける場所もある。だが基本的には半径5キロの範囲で暮らしているのだ。それに結界の負担が重くて、中学も高校も体調のいい時に時々通うので精一杯。神社の敷地内で暮らしていけるように、咲さんはサクヤに和裁、茶道、華道を教えた。正式な免状は試験のようなものを受けに行かないといけないらしく、仮免状態らしい。それでも子供相手に教えたり、助手として咲さんの教室を手伝ったりしている。もちろん神社の仕事も忙しい。
「仕事してないと社会から引きこもっちゃうでしょ。かかわってないと、ますます偏見が強くなるかもしれないし。親がいつまでもいるわけでなし」と言うのが咲さんの弁。
 サクヤさんが自分で立って生きて行けるように。

「いろいろ大変だけど、でもきーちゃん、美人の奥さんと美少年と美少女の子供2人、うらやましがられたりすることもあるんじゃない?」
 私は励ますつもりで言ってみた。
「美少年美少女はともかく、サクヤは美人かなあ。あいつ、けっこう男顔だぜ?」
「えっ。サクヤさんの顔、好みじゃないの?」
 べた惚れだと思っていたので、少なからずびっくりした。
「好みだとか好みじゃないとか、そんなこと考える前から一緒にいたからなあ」
 それはそれで、すごい惚気なような気もする。
「ああ。でも匂いは好みかもな」
「匂い」
「うん。いつもいい匂いするだろ、サクヤ。スイセンとかヒイラギの花みたいな」
 ものすごい惚気である。
「美人で、いつも花の香りがする奥さん、かあ。それにいつも優しいし。怒ったことなんかないんじゃない? サクヤさんて」
「いや、あいつの腹パンは威力あるぞ」
「腹パン」
 次々に予想外の感想が出て来る。
「少食なのも、お姫様っぽいなと思ってたの」
「ええ? あいつ、食べられないものはそりゃあるけど、食べられるものに関してはかなり食い意地張ってるぞ」
「食い意地」
 これほどサクヤさんとそぐわない言葉があろうか。
「大根、セロリ、芋栗カボチャ。ソラマメにひよこ豆。ああ、アスパラもか。鯛にひらめ。酒はいくらでも飲むし」
 何だか私の中のサクヤさんのイメージががらがらと崩れてゆく。

 美人で優しくて控えめで病弱で。そんな女性だからタカちゃんに選ばれたんだって思ってた。私はひとつも当てはまらない。だから仕方ないんだってあきらめてた。

「都、おまえさ。おまえのイジケた卑屈さは面白いし、それはそれで可愛いからいいと思ってたんだけどさ。勝手なイメージで羨ましがるのは、サクヤに失礼じゃないか」
「え」
「サクヤが高校の時、理系だったって知ってたか?」
「ええ?」
「俺、あいつが新さんの遺言のことを言うんで、聞いたことあるんだ。あれ、まだサクヤが中2かそこらの時だ」
 その時、きーちゃんは小学校低学年。

 ”もし結界が解けて自由になったら何がしたい?”

 今だったらとても聞けない。残酷かもしれない質問だ。
「あいつ最初に海が見たいって。それから山に登ってみたいって」
 5歳で柱の姫になったサクヤさんには見果てぬ夢だ。
「そんで、大学で物理か工学やって、ロケット作りたかったんだってさ」
「ロケット!」
「今もよく、宇宙関係の本とか読んでるよ。宇宙開発の記事とかスクラップしてるし」
 まったく予想外だった。

「あいつにしたら、お前や瑠奈が羨ましいと思うよ。お前はあいつのあこがれなんだよ」
 頭がしびれるようなショックだった。

 大学に行って働く傍ら、日本中飛び回って結界の修理。それもこれも柱の姫様のため。勝手に自分が犠牲になっているような気持ちでいた。人の苦労も知らないで、みんなに守られていつも綺麗で優しくて、とひがんでた。
 羨ましい? あこがれ?

 私こそ、みんなに守られたかった。お姫様みたいに大事にされて、美しく微笑みたかった。タカちゃんに選ばれたかった。

「な。勝手に羨ましがられるって腹立つもんだろ?」
 きーちゃんはしれっと言う。口惜しい。さすが中学校の教師である。きっと生徒の話を丁寧に聞いて、自分の意見を押し付けない、いい先生に違いない。

「おまえはそれでいいんだよ。ひがんだりイジケたりしながら、お前はよくやってるよ」
 弓道でそれなりの成績を残した。記事もそれなりに好評みたいだ。
 私、やれてるのかな。なりたい自分になれてるのかな。

「あんまり自分を卑下してると、自分を認めてくれてる人に失礼やぞ」
 同じことを満叔父さんにも言われたことがある気がする。
「もっと自分に自信を持って、自分に誇りを持て」

 自信かあ。私に一番無いものだ。

「ま、その年で自信満々で自分大好きなのも気持ち悪いしな。要するにそのままでいいと思うぜ。満足したらそこで終わりだもんな。イジケながらそのままがんばれよ」
 きーちゃんがニヤニヤしながら言う。憎たらしい。しれっとカウンセリングされてしまった。

 いつも”私なんか”と思うくせがついている。今まで勝手にひがんで、サクヤさんとゆっくり話したことが無かった。帰ったらいろいろ話してみよう。

 まだタカちゃんの話はできないと思うけど。

 イジケながらでも、私にもできることがある。タカちゃんが残していったものを守るために。タカちゃんが私に残してくれたささやかな自信を守るためにも。そのうち、自分で自分を褒めてやれることが見つかるかもしれない。うん、イジケながらがんばって行こう。

 とりあえずここを修繕して、葵さんに起きてもらって、兄貴の話を聞かなくちゃ。
 兄貴の顔を見るのが楽しみだ。



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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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