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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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名残の花の

『このうちは何かとちょっと変わっているの』

 葵さんにそう説明された住吉神社での暮らしは、ちょっとどころでなく変わったことの連続だった。でもまあ、概ね神社での経験は楽しいことの方が多い。楽しい、というのとは違うか。悲しいこととかつらい事情も多いおうちなのだ。でも知れば知るほどイヤだな、と思うよりも私にできることをしたいと思う。風変わりだけど、魅力的な人ばかりだからだ。むしろ面倒なのは神社の外の世界だったりする。
予想通り、小学校ではいい感じに浮いてしまったし、ご近所でも陰口を叩かれる。よくわからない言いがかりをつけて来る人もいる。でも平気。イヤなことと割り引いてもお釣りが来るぐらい神社の人々が可愛がってくれるからだ。神社の参道沿いの商店街でも、イジメられている事情を知ってて味方になってくれる人も多い。とはいえ、面倒なことは面倒だ。

「瑠那ちゃん、今日は北側の石段を掃いてくれる?」
 ソメイヨシノがすっかり葉桜になり、ヤマザクラとヤエザクラもほとんど終りという土曜日の午後、咲(えみ)さんにそう頼まれた。住吉神社は、参道沿いの商店街へと降りていく西向きの石段が正面玄関だ。その他に南西向きに桂月庵の裏手に続く車道。北東側の二の蔵へ上がる車道。母屋の裏手にも細い道がある。高台にあるお社には他にもケモノ専用としか思えない藪道とか、飛び飛びに枕木や踏み石を敷いた遊歩道があったりする。北側に下りる石段は、一応ちゃんと手入れされた階段なのに狭くて両側からナラの木やシイの木が生い茂っていつも薄暗いせいか、利用する人が少ない。子供の怪談に出演頻度が最も高いルートである。
 神社には半分住み込みみたいな遠縁の山本さんの他に、互助会みたいに他の神社の禰宜さんなんかも働いていて、北側の石段はだいたい若くて屈強なお兄ちゃん神主が担当してくれている。

「え。北側?」
「そう。北側」

 うーむ。咲さんがわざわざ頼むんだから、ま、危険なことはないだろう。どうせセコムの鶏集団が護衛してくれるだろうし。北側は人通りが少ないせいか、猫利用率が多いし。神社の鶏と猫は不思議な距離を保ちつつ共存しているのだ。

 朱色の袴に白衣でぽてぽて石段を下りながら落ち葉を掃いて行く。照葉樹林なので落ち葉はあまり多くない。でもこちら側はけっこうヤマザクラが多いのだ。暗い緑色のナラのもこもこした木立ちに明るいサクラの花の群れが映える。ちょっともったいないな、と思いながら桜の花びらをさっさっと掃き落とす。私の三段上にずっとセコムが付いて来るし、怪談脇の石の柵には、十段おきぐらいに猫が昼寝している。

 一番下まで掃いて落としたら鳥居の片側に集めておいて、と咲さんに言われた。明日、お兄ちゃん神主ズが北側の麓の通路と溝をぐるりと掃除してくれるらしい。シルバーセンターの爺ちゃんズも草取り部隊でやって来る。爺ちゃんズに出すお茶とお菓子の準備は私の仕事だ。

 これで明日まで吹き散らされたりしないかな、と落ち葉と花びらの小さな山を作っていると、参道脇のおうちから声をかけられた。マサキの生垣で囲まれた木戸から、お婆さんがこちらをのぞいている。桜さんぐらいのお年かな。ちょっと若いぐらい? いやいや桜さんは非常識に若く見えるからな。正しい後期高齢者はこういう感じかも。

「あんた、神社に新しゅう来たお嬢さん?」
 好奇心という感じでもない。不信感という感じでもない。でも私はちょっと警戒した。
「はい。そうですけど」
「そう。あのな、大きい方のお嬢さんに伝えて欲しいんやけど」
「はい。なんでしょう」
 私はますます警戒した。

「あのな。神社の杜のあの辺りに桜、いっぱいあるですやろ」
 お婆さんは丘の斜面を指さした。パーマをかけた髪を短く整えた、頭の回転の早そうな人だ。老眼鏡が良く似合っている。でもちょっとイジワルそう?
「そうですね」
「あの花びらがうちの庭に降って来るんよ」
「はい」
「それでな、ずいぶん溜ったから、お嬢さんに取りに来てって言って欲しいんよ」

 花びらを? 掃除しに来いってこと? お腹の大きなサクヤさんに?
「ええと。私、箒もあるし、今お掃除しますよ」
 お婆さんは私の頭のてっぺんから足先までじろじろ見た。うーん。住吉に来てからこの視線にはすっかり慣れた。それでも気分いいものではない。
「あんた、まだ来たばかりやろ? 多分、あんたじゃまだ無理」
「できますよ、掃除ぐらい」
「ええから。お嬢さんに言うたらわかるから。ちゃんと伝えてや。明日、そうやな3時ぐらい。あんたも一緒に来てや。お嬢さんが心配なんやろ」
 最後のセリフはちょっと皮肉っぽかったような気がする。頭に来てしまった。そりゃ伝えるけど。でも住吉の山は大きいのだ。西側の大鳥居からこの北側までけっこうな距離がある。そりゃ誰かに車出してもらってもいいけど。というか、サクヤさんも運転できるけど。でも花びら掃除に来いって、ちょっとあんまりじゃない? 言いがかりにもほどがある。
 私はぷんすか頭から湯気出しながら、いつもならちょっと息が切れる急な石段を駆け上がった。社殿の横手の小屋に箒を片付けに行くと、ちょうど咲さんとサクヤさんがお供えのお酒を運んでいるところだった。
「お疲れ様。瑠那ちゃん、どうしたの。何かあった?」
 私のバカバカ。全部顔に出てしまうのだ。言いたくなかったけど、結局、お婆さんに言われたことを全部白状した。
「やっぱり。そろそろだと思って、瑠那ちゃんに行ってもらったの」
「草餅、多めに用意してちょうど良かった」
 あさぎ色の袴の2人はのんびりしゃべっている。私は何のことかわからない。
「わざわざ花びらを掃きに来いなんて! そんなイジワル、聞くことないですよ。サクヤさん、お腹大変なのに」
「大丈夫。いつものことなの」
「せっかく言うてもろたんやから、明日、瑠那ちゃんも一緒に行こな」
 サクヤさんはおっとりニコニコしている。お人好しにも程がある。花びらが庭に入ったからって、お菓子持ってお詫びに行くなんて。この神社を嫌う人も多いことは知ってたけど。理不尽で頭に来る。

 私は腹が立つと肝が据わるらしい。いつもは粗相しないか緊張してとっちらかるお茶出しもカンペキ。お兄ちゃん神主ズへのねぎらいも堂にいったもので、もう何年もここのお嬢さんみたい。だってサクヤさん、しょっちゅう胸が苦しくなったり熱出したりしながら、ちゃんと禰宜の仕事もこなして忙しい光さんを助けているんだもの。鷹史さんはあの通りでぱやぱやニコニコしてるだけで即戦力にならないし。葵さんはぱたぱた本抱えて走り回ってるし。のん太はへらへら要らんこと言うだけだし。イジワル婆さんに負けてたまるもんですか。私がしっかりサクヤさんを守ってあげるんだから。
 神社の外に出かける時はいつも装束を着替えるのに、今日は神主の格好のまま、鳥居をくぐった。普段の白衣にあさぎの袴だけじゃなくて、額当(ぬかあて)と桜色の表着をつけてさらに浅沓を履いている。サクヤさんのこんな姿は初めて見た。お祓いは権禰宜の光さんか禰宜の山本さんの仕事で、サクヤさんはいつもあさぎの袴で裏方のようなご奉仕をしているのだ。私はいつもの緋袴の上に白い千早。千早をつけるのは初めてで、正直ちょっとうれしかった。でも浮かれてはいけない。敵陣でサクヤさんを守るのだ。

 昨日の木戸から、今日は若い女の人が顔をのぞかせた。
「あ、いらっしゃいまし。ちょっと待ってくださいね。お義母さん、お義母さーん」
 母屋の方に声をかけると、縁側に昨日のお婆さんが出て来た。
「そないな大きな声出さんでも、聞こえます。ゆきさん、シンヤ呼んで来て。タクヤはお爺ちゃん連れて来てや」
 タクヤと呼ばれた9歳ぐらいの男の子が、黙ってうなづくと縁側から家の奥に入って行った。お嫁さんはまた何か呼びかけながら別棟にぱたぱた走った。
「ほんまに。せわしない」
 お婆さんはため息をつくと、木戸を開けた。

「さあ、どうぞ。庭通って、縁側に。用意してますよって」
 小ぢんまりした庭は綺麗に手入れされていた。きちんと植木屋さんが世話してぱりっと刈り込んである。小さな池に杜若。こんもり丸く作ったツツジに白い花が咲き始めている。
 縁側に白い布をかけた白木のテーブルが出ていた。あれ。これって何かのお祓いみたい。花びらを掃除しろって話じゃなかったの? サクヤさんに言われて、持って来た三方にお米と塩とお水を並べる。あれれ。ホントにこれ、お祓いじゃない。

 男の子がお祖父さんの車椅子を押して来た。お祖父さんは目が真っ白でよく見えないみたいだけど、喜んでいるのがわかった。お嫁さんは作務衣姿の男の人と一緒に縁側に戻って来た。
 お祖父さんの横にお婆さんが正座してひざ掛けの上のお祖父さんの手をぎゅっと握った。男の子と男の人とお嫁さんは庭に下りて来て、サクヤさんの後ろに並んで立った。

 男の子はお婆さんとそっくりなしぐさで、私の頭のてっぺんから足の先までジロジロ見た。
「あんた。あ、そうか。まだ見えないのか」
 何だかよくわからないけど、ちょっとムッとした。私と1、2歳しか変わらないのに偉そうにして。でもお祓いとなると、あちらはお客さんなんだからちゃんとしてないといけない。

 縁側を背に、白木の台を神社の丘の方に向けて、一同、一礼。サクヤさんが新撰のお水のフタを取ると、辺りの空気が変わった。

 ざわざわ、というより明るくなった感じ? 男の子が私の横に立つと、きゅっと私の手を握った。あれ。何これ。ピンク。ピンクの蝶が飛んでる。次々集まって来て、水の白い器の周りに集まって来る。きゃらきゃら、はしゃいだような声を立ててる。え、蝶って鳴くんだっけ?
 サクヤさんが歌うように祝詞を奏上していたけど、毎度ながら何を言っているのかよくわからない。わからないけど、とにかく蝶がきゃらきゃら喜んでさらに集まって来る。囲まれて、時々サクヤさんの顔が見えない。蝶は舞いながら並んだ家族にも縁側のお祖父さんの周りにも飛んで行った。お祖父さんは蝶を見上げて、その飛ぶ先を目で追っている。蝶を捕まえようとするように腕を伸ばして、あ、あ、と笑った。お嫁さんは男の人と手をつないで、やっぱり2人とも蝶を見上げて明るい表情をしている。

 二礼ニ柏手。そして一礼。

 サクヤさんがお水のフタを閉じると、ピンクの蝶たちはきゃらきゃらはしゃぎながら、サクヤさんと私を囲んで、そして消えた。
 白木の台に一歩進んで深々と一礼。そうして直ると、サクヤさんの桜色の表着の裾には白く散らした桜の花びら。私の白い千早の裾には桜色の花びらの模様が散っていた。

「おかえりなさい」
 サクヤさんが微笑むと、お婆さんも微笑んだ。
「また次の春においで」

 後から咲さんに説明してもらったところ、この神社は”守りがしっかりしているから”一度外に出てしまうと、小さなものは自分で戻れないので、桂清水を持って迎えに行ってやらないといけないらしい。何のことだか理屈はわからないけど、ピンクの蝶たちを無事に連れて帰ってこれたみたいなので良かった。

 草餅は美味しかったし、お婆さんはちらし寿司を振舞ってくれたし、男の子は育てているカブトムシの幼虫を見せてくれた。このおうちには、藤の花やドングリも降って来るらしい。時々、男の子が石段を上がって桂清水を汲んで来ると、迷子を神社に届けたりするらしい。だからサクヤさんがこうして詠って迎えに来るのは、一年に一度のことなのだ。

 帰る時、それまで時々あ、あ、と声を出して曖昧な表情で笑っていたお祖父さんが、ニッコリ笑った。
「小さいお嬢さん。あんたもまた来年もおいで」
 びっくりした。びっくりして泣きそうになった。
「うん。あ、はい。また来ます。だから元気でね」
 死んじゃったりしたらダメよ。来年も再来年も、神社の桜を可愛がってやってね。
「来年まで待たなくていいよ。あんたはお嬢さんと違って暇やろ。いつでもおやつ食べに来たらええが。シンヤの仕事、見に来たらええ。あんた、そういうの、好きそうな顔しとる」
 お婆さんが私に言う。
「仕事?」
「漆の工房や。蒔絵やらわかるか?」
 何それ見たい。

 神社に帰らず、このおうちの子になった花びらもいるらしい。お嫁さんが出して来てくれた蒔絵のお盆には、貝殻で桜の花に舞う蝶が描いてあった。
 



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